AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 17 2010, Vol.330


大きさに意味がある(Size Matters)

成長が生じる時期が異なったとしても、総ての器官が相互にほぼ比例するように、動物は自分の成長を制御している。しかしながら、このようなことが起こるメカニズムは不明である。NijhoutとGrunertは(p.1693,11月25日号電子版)、スズメガ属タバコスズメガの相対的な羽の成長の解析を行った。餌が不十分のため体の大きさが小さい個体は、成長速度が遅いために小さい羽であった。そして、餌を十分与えられた幼虫と比べて早くに成長を止めていた。昆虫のエクダイソンホルモンは、このような成体の羽と体の大きさの関係を規定づけるプロセスに関係していたのだ。(Uc,KU)
The Cellular and Physiological Mechanism of Wing-Body Scaling in Manduca sexta
p. 1693-1695.

珍しいタイプの惑星(Unlikely Planet)

ほとんどの既知の太陽系外の惑星は太陽に似た恒星の周りをまわっている。太陽に比べ水素とヘリウム以外の元素の量が極めて少ない金属の少ない恒星の周囲や、或いは進化の段階が後期に達しているような恒星の周囲に、惑星は今までほとんど発見されてない。Setiawan たち(p. 1642,および、11月18日号電子版を参照)は、或る金属元素の少ない恒星(この恒星は銀河系に随伴する銀河内の星団に属している)の周囲に中心に近い巨大惑星(close-in giant planet)を検出したことを報告した。この恒星は、その進化過程からは赤色巨星を過ぎたフェーズにあるが、太陽のような恒星は元の何倍にも膨張するから、中心に近い所に存在するこの惑星が、何故恒星に飲み込まれなかったか不思議である。もしかしたら銀河系外の起源かもしれない。(Ej,KU,nk)
A Giant Planet Around a Metal-Poor Star of Extragalactic Origin
p. 1642-1644.

スピンを制御する(Spin Control)

電子スピンを制御し操作できることはスピントロニクスを実用化するにあたって最も重要な要素である。研究者たちが直面している課題は、効果的にスピン流を作る手法、ジュール熱損失を最小化する手法、及び量子情報処理応用で特に重要な電子スピンの寿命をのばす手法を開発することである。Costache とValenzuela (p. 1645)は、流れを制御可能なスピン流を作ることができる超伝導を活用したシンプルで高効率な単電子トランジスターを設計・作製することで最初の課題に取り組んでいる。設計の鍵は、ラチェット効果(ダイオード的挙動)に導くような非対称性のトンネル効果を取り入れたことにあり、これによりアップスピンとダウンスピンを分離できる。Jonietzらは(p.1648)、スピントロニクスデバイスにおけるジュール熱を減らす為の方策として、これまでナノ構造体において用いられた電流よりもで5桁小さい電流を用いて、MnSiバルク材料の磁化を操作できる手法について報告している。このいわゆるスピントルク効果は、MnSiの特徴であるスピンのスカーミオン(Skyrmion)格子の回転を誘起しており、中性子散乱で検出される。最後に、McCameyらは(p.1652)、リンドーパントの短寿命の電子スピンを遥かに長寿命なリンの核スピン上に配置することで電子スピンの寿命を延ばすことに成功している。核スピンと電子スピンを重ね合わせることで、100秒以上の寿命を持つたスピンメモリーが実現でき、将来の実用化に対して活用できるであろう。(NK,KU)
Experimental Spin Ratchet
p. 1645-1648.
Spin Transfer Torques in MnSi at Ultralow Current Densities
p. 1648-1651.
Electronic Spin Storage in an Electrically Readable Nuclear Spin Memory with a Lifetime > 100 Seconds
p. 1652-1656.

波長を分離して鮮明に撮影(Better Imaging When Separated)

蛍光プローブは、吸収波長と放出波長が明瞭に分離していれば高性能を発揮するが、そうでない場合は自分が放出した光を再吸収しがちである。Ghosh たち(p. 1656,および、11月25日号の電子版参照)は、半導体の単壁カーボンナノチューブ(SWCNTs)を酸素ドーピングした材料が近赤外イメージングプローブとして、その特性が改善されることを発見した。SWCNTsをオゾンに晒した後可視光に晒すと、放出波長は吸収波長に比べ10〜15%長くなる。これらのプローブを使ってヒトの培養細胞を画像化したところ、未処理プローブと比較してコントラストが約20倍改善した。(Ej,hE,nk)
Oxygen Doping Modifies Near-Infrared Band Gaps in Fluorescent Single-Walled Carbon Nanotubes
p. 1656-1659.

修飾の無い代謝(Metabolism Without Modification)

肥満に付随する代謝疾患は、先進国における優先的公衆衛生の課題となって来ているが、これを予防するための戦略としては生活様式の変化と、薬理学的方法が取組まれている。Barnett たち(p. 1689,および、11月18日号の電子版参照)は、体脂肪量と食物摂取を増加させる循環ペプチドホルモンであるグレリン(ghrelin)の作用を抑制する薬を設計した。この薬剤は二基質類似体で、GO-CoA-Tatと呼ばれているが、グレリン O-アシル基転移酵素 (GOAT)の選択的拮抗薬であり、GOATはグレリン活性には必須の翻訳後修飾の触媒酵素である。高脂肪食を与えた野生型マウスにGO-CoA-Tatを注射すると糖耐性が改善され体重増加が減少したが、これは多分代謝活性の変化によるものだろう。GO-CoA-Tatは繰返し注射する必要があるペプチドをベースとする薬剤であるから、臨床的目的にはそぐわない。しかし、GOATは代謝疾患のための将来の薬剤開発にとっては潜在的に有用な標的となるであろう。(Ej,hE)
Glucose and Weight Control in Mice with a Designed Ghrelin O-Acyltransferase Inhibitor
p. 1689-1692.

燃やそうぜ、ベイビー(Burn, Baby, Burn)

大気中の微量ガスである一酸化炭素はメタンとオゾンに重要な影響を及ぼす。また、大気化学にとっても同様に重要であり、間接的に気候に重要な影響を及ぼす。しかし工業化以前の一酸化炭素の量や源、その収支に関する人為活動の重要性については殆ど分かっていない。Wangたちは(p.1663,12月2日にオンライン発行;Prenticeによる展望記事参照)過去の一酸化炭素の濃度変動とその原因を再構築するため、南極の氷床コアの試料を用いて、同位体組成の650年間に及ぶ記録を発表した。一酸化炭素の濃度は1300年代半ばから1600年代にかけて25%も減少していた。その後、1800年代後半にほぼ完全に回復していた。南半球におけるバイオマス燃焼に大きい変動があったことが、この観察された変化の主要な原因だと考えられる。(Uc,KU,nk,kj)
Large Variations in Southern Hemisphere Biomass Burning During the Last 650 Years
p. 1663-1666.

熱い双極子(A Hot Dipole)

強誘電性材料においては、局所的な電気双極子モーメントの整列が生じ、全体としての正味の電気分極が生じる。この状態は対称性の減少を伴うが、臨界温度以上に加熱することで対称性が回復する。対照的に、理論と実験の組み合わせからBoinたち(p. 1660)は、岩塩構造のテルル化鉛と硫化鉛は温度を上げると対称性の高い相から双極子モーメントを伴う対称性の低い相へと相転移することを示した。逆説的なことに、無ひずみの構造の方がより低い内部エネルギーを持っているにかかわらず、双極子は高温のときに無秩序な状態で安定である。(hk,KU,nk)
Entropically Stabilized Local Dipole Formation in Lead Chalcogenides
p. 1660-1663.

一酸化窒素還元酵素の解析(Dissecting Nitric Oxide Reductase)

土壌と海洋における窒素化合物の細菌による分解は、温室効果ガスである亜酸化窒素(N2O)の最大の放出源である。このプロセスのキーとなる酵素は一酸化窒素還元酵素(NOR)であり、この酵素は一酸化窒素(NO)のN2Oへの還元を触媒する。Hinoたち(p. 1666,11月25日号電子版;Moenne-Loccoz and Feeによる展望記事参照) は、緑膿菌からのNOR結晶構造に関して記述している。進化における近縁性を反映して、NORの金属中心に関する膜貫通領域の形態と配列は、好気性呼吸におけるキーとなる酵素、チトクロムオキシダーゼのそれと似ている。(KU,nk)
Structural Basis of Biological N2O Generation by Bacterial Nitric Oxide Reductase
p. 1666-1670.

少ないが強力である(Few But Powerful)

コリン作動性神経における様々なタイプのアセチルコリン受容体の薬剤による活性化は、しばしば逆の、或いは拮抗する効果をもたらす。トランスジェニックマウスにおいてオプトジェネテック技術を用いて、Wittenたち (p. 1677)は、コリン作動性神経のやや謎めいた亜集団である側座核の巨大な介在ニューロンの機能を調べた。奇妙なことに、この介在ニューロンの刺激により隣接する中型有棘ニューロン(medium spiny neuron)の発火が減少し、逆にそれらの抑制は中型有棘ニューロンの発火を増強した。更に、この巨大な介在ニューロンはコカインによって直接活性化され、そして自由に行動している動物において、コカイン暴露中に動物の薬剤誘導による活性化をサイレンシングすると、コカイン報酬が崩壊した。(KU,nk,kj)
Cholinergic Interneurons Control Local Circuit Activity and Cocaine Conditioning
p. 1677-1681.

生殖細胞を作る(Making a Germ Cell)

生殖系列を作り始めるときに、動物は二つのクラスに分類される:哺乳動物のように、生殖系列を特殊化するための誘導的相互作用を用いるものと、線形動物のように、胚の中で非対称に分離する生殖原形質(germ plasm)(特殊化された卵細胞質)を用いるもの。生殖原形質は原基、或いはP顆粒(RNA-タンパク質が凝集している)を含んでおり、このP顆粒に生殖系列の決定因子が含まれていると考えられていた。Galloたち(p. 1685,12月2日号電子版)は、この考えに挑戦するような線虫の変異体に関して記述している。生殖顆粒成分が誤って分離したときでさえ、この変異体の生殖系列が形成された。このように、生殖原形質を持った動物においてさえ、生殖顆粒は生殖細胞特殊化の原因ではなく、結果であるらしい。(KU)
Cytoplasmic Partitioning of P Granule Components Is Not Required to Specify the Germline in C. elegans
p. 1685-1689.

層をなすリンパ球(Lymphocytes Layer It On)

免疫系の細胞は、胎生の期間に造血幹細胞(HSC)から発生し始める。成体においては、HSCは死につつある細胞を補充したり、感染に応答するために免疫細胞を産生し続ける。マウスや鳥類では、免疫細胞の発生は「層をなす」やり方で起きていて、そこでは発生段階の異なった時点で生じるHSCの別々の集団が、それぞれ別の免疫細胞系列を生み出している。対照的に、ヒトの免疫細胞、とくにTリンパ球の発生は、直線的だと考えられている。Moldたちはこのたび、ヒトにおけるTリンパ球の発生もまた「層をなす」ように行なわれていて、しかも戦略的にそうなっているということを示している(p. 1695; またBetzによる展望記事参照のこと)。胎性HSCから生じるT細胞は、外来性抗原に速やかに応答する古典的T細胞においてではなく、免疫寛容を促進する調節性T細胞において豊かになる。胎生の間に調節性T細胞集団の発生を好むことによって、免疫系は母系性抗原への応答を、おそらくよりよくチェックし続けられるのである。古典的T細胞の大量の発生は、出生後、感染病原体がより切迫した脅威として立ち現れるまで、遅延されるのである。(KF)
Fetal and Adult Hematopoietic Stem Cells Give Rise to Distinct T Cell Lineages in Humans
p. 1695-1699.

Greatwall(長城)を超えて(Beyond the Greatwall)

タンパク質のリン酸化と脱リン酸化は、真核細胞の分裂周期と細胞の有糸分裂への移行を制御する中心的機構を提供している。プロテインホスファターゼ2A(PP2A)のある形態は、サイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)そのもののリン酸化依存的活性化を抑制し、また有糸分裂を促進する活動的CDK1の基質を脱リン酸化する、という重要な役割を果たしている。PP2Aの活性は、Greatwallとして知られる別のタンパク質リン酸化酵素が活性化されると抑制される(VirshupとKaldisによる展望記事参照のこと)。Mochidaたち(p. 1670)とGharbi-Ayachiたち(p. 1673)は、細胞周期調節機構に関与している可能性のあるGreatwallの基質を探索した。Greatwallによるリン酸化の際には、2つの小さな関連するタンパク質、Arpp19とα-endosulfineが、PP2Aの活性を抑制した。この効果は、ツメガエル卵抽出物とヒトの癌細胞における有糸分裂の制御にとって決定的であった。Greatwallそのものは、CDK1によってリン酸化され、そして活性化される。つまり、見たところ、有糸分裂へ切り替える細胞スイッチようになるフィードフォワード・ループに貢献しているのである。(KF,kj)
Greatwall Phosphorylates an Inhibitor of Protein Phosphatase 2Α That Is Essential for Mitosis
p. 1670-1673.
The Substrate of Greatwall Kinase, Arpp19, Controls Mitosis by Inhibiting Protein Phosphatase 2A
p. 1673-1677.

必須だが新しい(Essential and New)

遺伝子は、適応への寄与の程度に応じて、大きく2つのグループに分けることができる:生物体の生存にとって必須なものと、なくても構わないもの。しかしながら、進化的に「新しい」遺伝子、すなわち最近生じた遺伝子、の必須度は分からない。Chenたちは、12種のショウジョウバエ種における新しい遺伝子の進化を研究し、驚いたことに、350万年以内に生じた遺伝子の3分の1以上が必須の機能を表していて、それら機能が幼生の発生の際に大きな比率を占めていることを発見した(p. 1682)。より古い遺伝子においてもほぼ同じ比率が必須のものであり、なおその遺伝子の多くは発生のより後期段階に、豊かになっているらしかった。これら知見は、必須遺伝子は古くからのものであり、動物の分類群の中に保存されてきたとする通念に挑戦するものである。(KF)
New Genes in Drosophila Quickly Become Essential
p. 1682-1685.

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