AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 10 2010, Vol.330


生物多様性の低下を評価する(Assessing Biodiversity Declines)

生物多様性に対して人類が与える影響を理解するためには、定量的に根拠のある予測(projection)が重要である。Pereiraたち(p. 1496,10月26日号電子版)は、4つの主な関心領域、種の絶滅、種の存在数とコミュニティの構造、生育地の損失と劣化、そして種や生物群系(biomes)の分布のシフトに関して定量的なシナリオを再吟味している。生物多様性が減少することは、21世紀全体に渡ってすべてのシナリオで予測されているが、その減少の予測幅は広い。Hoffmannたち(p. 1503,10月26日オンライン公開)は、国際自然保護連合の種の保存委員会による50年間に相当するデータ収集の結果を作成した。25,780種(全脊椎動物の多様性の約半分)の分析に基づき、全世界の脊椎動物の保護管理状況を包括的にまとめあげた。全ての脊椎動物種の約20%は自然界で絶滅するリスクがあり、絶滅の危惧される鳥類の11%と絶滅の危惧される哺乳類の17%は時と共に絶滅に近づきつつある。このような傾向は存在するのだが、もし保護の取り組みが全く無かったなら多様性の低下はずっとひどかったであろう。(TO,nk)
Scenarios for Global Biodiversity in the 21st Century
p. 1496-1501.
The Impact of Conservation on the Status of the World’s Vertebrates
p. 1503-1509.

メタ物質を使ったダイポール発生器(Making a Point with Metamaterials)

もし、正負の電荷の位置がずれて存在すればダイポール(双極子)と呼ばれる電場モーメントが存在する。磁気の場合は、ドーナツの大円に沿った電流によって生じる、穴を通過する磁気ダイポールと、ドーナツの小円の表面に沿って流れる電流で出来るドーナツ内部を一周するトロイダルダイポールがあり、アナポールモーメントとも呼ばれる。電磁的励起のこの特異な一群は、より強力な電磁多重極の陰に隠れてしまい、直接観察することは出来なかった。Kaelberer たち(p. 1510,および11月4日号電子版を参照)は、分割リングを積み重ねた共鳴ループによるメタ物質構造(メタ分子と呼んだ)を開発した。励起したこの応答はトロイダルモーメントと一致した。メタ物質は入力電磁波によって生じる、電気的、磁気的ダイポールモーメントの両方とも抑制されるように設計されており、トロイダルダイポールの応答は分離され、検出可能なレベルまで共鳴増強されるようになっている。(Ej,nk)
Toroidal Dipolar Response in a Metamaterial
p. 1510-1512.

脆弱な酸化スズ電極(Fragile Tin Oxide Electrodes)

酸化スズは高いエネルギー密度を持ち、それゆえリチウムイオン電池の魅力的なアノード材料になると思われるが、リチウムが入り込むと大きな体積変化が生じる。その大きなひずみはひび割れや粉砕を引き起こし、導電性が失われてしまう。Huang たちは(p. 1515; Chiang による展望記事を参照)、インターカレーション中に生じる物理変化を同定するために、一本の酸化スズナノワイヤーに対してin situ 透過型電子顕微鏡法を用い、反応部位と非反応部位の境界で転位が集団となって移って行くのを観察した。電気化学的充電の完了時、ナノワイヤーは90%の伸長と35%の径の増加を示した。(Sk,nk)
In Situ Observation of the Electrochemical Lithiation of a Single SnO2 Nanowire Electrode
p. 1515-1520.

鉄の愛を求めて(For the Love of Iron)

Re, Os, Ir, Pt, Rh, Pd, Au のような鉄を好む元素(親鉄元素)は、地球や、火星、月のコアが形成された後にそれらの上層マントルに届けられたに違いない。なぜならば、コアが形成前だと、これらの元素はコアの金属鉄と結合しやすく、それらを惑星の上層から奪い取ってしまうからである。モンテカルロモデルを用いて、Bottke たち (p.1527) は、地球や火星、月の親鉄元素の相対量は、もし、それらの元素を届けた衝突微惑星の大部分は数千キロメートルにまで拡がったサイズを持つとすると、説明可能であることを示している。そのような状況では、親鉄元素を好む元素の大部分は、少数のランダムな衝突で到来したであろう。それらの最も大質量のものは、月ではなく地球に命中した。これらの衝突のあるものは、地球の傾斜を変更し、月の軌道傾斜を生み出し、そして、月のマントルに水を届けたであろう。(Wt,KU,nk,tk)
Stochastic Late Accretion to Earth, the Moon, and Mars
p. 1527-1530.

機械的透明性(Mechanical Transparency)

適切なエネルギー準位をもつた原子気体と他の固体状態の系において、制御パルスで光学特性を操作することができる。これにより吸収されるはずだった特別な波長の光を透過させることができる。今回Weisたち(p. 1520,11月11日号電子版)は、オプトメカニカルシステムにおいて電磁気的に誘導される透明度に関して報告しており、そこでは光パルスとキャビティの結合を用いて、キャビティを通る光の透過率を制御する。このアプローチは光蓄積や光チップの操作にかんする技術の助けになるかもしれない。(hk,KU)
Optomechanically Induced Transparency
p. 1520-1523.

雲と温暖化の正の関係(Positive Message)

気候の温暖化は雲の数と雲の特性の双方に影響を与え、これが次に温暖化それ自身に影響を及ぼす。雲-気候温暖化のフィードバック関係が生じ、大気中の二酸化炭素濃度の増加による温暖化の増加の予想を複雑にする。このフィードバックは一般的に正であると考えられているが、我々はその効果について定性的な考えしか持ってない。Dessler(p. 1523; および、Kerrによるニュース記事を参照)は、人工衛星による大気上層を通る照射量の10年間のデータを解析して、このフィードバックの強さを評価した。予想された通り、このフィードバックは正であり、大気CO2が2倍になるとどの程度温暖化になるのかという標準モデルによる推定値の範囲内、即ち2℃ から 4.5℃内である。(Ej,KU,nk)
A Determination of the Cloud Feedback from Climate Variations over the Past Decade
p. 1523-1527.

空想に過ぎないが(All in the Mind)

犬が餌の予測に基づいてよだれを流すと言うパブロフの実験は、我々自身の想像に関する経験に対応している:即ち、チョコレートをこれから食べるということを考えることが、チョコレートに対する我々の願望と、それを食べたいと言う動機付けを高める。しかしながら、数回噛んで食べた後で、我々の食欲は普通減退し、そして二つ目のチョコバーの提供は最初に比べ魅力が乏しくなる。Morewedge たち(p. 1530)は、最初のチョコバーを食べることを想像することでも、快楽的な応答の減少が誘発されることを示している。繰り返しキャンデーやチーズを食べることを想像するように求められた被験者たちの比較から、被験者たちがその直前に想像した食べ物を実際に食べるよう提供された時に、消費されるその量に一定の減少があることを著者たちは観察した。(KU,nk)
Thought for Food: Imagined Consumption Reduces Actual Consumption
p. 1530-1533.

性の三角形(Sex Triangle)

モデル生物である細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum は三つの性、或いは接合タイプを持つ社会性アメーバであり、今まで研究されてきた他のいずれの真核生物の性とも似ていない。任意の二つの性が二倍体の接合体を形成し、これがもう一つの一倍体細胞を補充して大きな胞嚢を作る。Bloomfieldたち(p. 1533;Kessinによる展望記事参照)は、このアメーバにおける性が第5番染色体の座位における幾つかの遺伝子によって決定され、個々の接合タイプが座位の異なるバージョンによって示されることを見出した。この遺伝子の総てが直接的に上首尾の接合に対して必須というわけでは無く、そして主要な制御因子は二つの小さな可溶性の細胞内タンパク質であり、このタンパク質が接合のタイプTとVを、そしてタイプUを制御しているこの二つのタンパク質の相同体の結合を制御している。(KU,nk)
Sex Determination in the Social Amoeba Dictyostelium discoideum
p. 1533-1536.

筋肉の形成(Muscle Building)

増殖因子によって誘発される筋肉の成熟と肥大にとって必要な、筋原線維形成のためのアクチン線維形成に関与しているシグナル伝達機構は、いまだに不明である。Takanoたちはこのたび、その機構がネブリンとN-WASP(神経性Wiskott-Aldrich症候群タンパク質)との相互作用を含んでいることを明らかにした(p. 1536; またGautelとEhlerによる展望記事参照のこと)。N-WASPはArp2/3複合体の賦活物質であり、非筋肉細胞中に分岐アクチン線維を誘発する。この、筋肉中に形成されるネブリンとN-WASPの複合体は、しかしながら、Arp2/3複合体なしに筋原線維内に分岐しないアクチン線維の核形成を引き起こす。ネブリンとN-WASPの複合体によって仲介される筋原線維のアクチン線維形成は、筋肥大にとって必要とされ、ネブリン遺伝子変異によって引き起こされる先天性の遺伝性神経筋障害、ネマリンミオパチー(nemaline myopathy)を説明できる可能性がある。(KF)
Nebulin and N-WASP Cooperate to Cause IGF-1-Induced Sarcomeric Actin Filament Formation
p. 1536-1540.

胴枯れ病からウドンコ病まで(From Blight to Powdery Mildew)

植物に対する微生物の病原性の影響は、広範な結果をもたらす。例えば、1800年代にジャガイモの胴枯れ病によって引き起こされた文化的大変動をその例に挙げよう。種々の病原性微生物が今日も作物を苦しめ続けていて、収量の損失と、制御の仕組みのためのコスト増加の双方をもたらしている。このたび、4つの報告が、微生物のゲノムを分析し、植物病原体がいかに機能しているかをよりよく理解できるようにしてくれている(Doddsによる展望記事参照のこと)。Raffaeleたちは、ジャガイモの胴枯れ病病原体のゲノムが、別の宿主への移動手段をいかにして得ているかを記述している(p. 1540)。Spanuたち(p. 1543)は、オオムギのウドンコ病において、絶対的寄生者になるには何が必要かを分析し、Baxterたち(p. 1549)は、シロイヌナズナの自然な病原体について同様の疑問を立てている。Schirawskiたちは、トウモロコシの複数の病原体のゲノムを比較して、病原性決定基を同定した(p. 1546)。ゲノム中の何が病原体を効果的かつ致死的にしているかについてのよりよい知識こそ、農作物の管理と育種の改善にとって有用になるのだろう。(KF,nk)
Genome Evolution Following Host Jumps in the Irish Potato Famine Pathogen Lineage
p. 1540-1543.
Genome Expansion and Gene Loss in Powdery Mildew Fungi Reveal Tradeoffs in Extreme Parasitism
p. 1543-1546.
Signatures of Adaptation to Obligate Biotrophy in the Hyaloperonospora arabidopsidis Genome
p. 1549-1551.
Pathogenicity Determinants in Smut Fungi Revealed by Genome Comparison
p. 1546-1548.

HIVを制御下に置く(Getting HIV Under Control)

HIV感染した300人中およそ1人が、薬物療法なしにそのウイルスを長期的に制御することができ、AIDSを発症しない、HIVの「コントローラー」である。この能力の遺伝的基礎を明らかにすることは、非常に大きな関心の的である。Pereyraたちはこのたび、国際HIVコントローラー調査に登録されている患者のゲノム全体での照合結果を提示している(p. 1551、11月4日号電子版; またMcMichaelとJonesによる展望記事参照のこと)。この分析は、HIV発症者を含むヨーロッパ系、アメリカ黒人、ヒスパニック系の家系中のHIVコントローラーを比較し、ゲノム全体で有意性のある、300以上もの変異体を発見したが、それらすべては、6番染色体の主要組織適合性(HLA)領域クラスT中に存在していた。古典的なHLAタンパク質内の個々のアミノ酸の効果を分析することで、6つの独立で重要な残基が明らかになり、そのうちの5つはペプチド-結合溝に整列していた。つまり、HLAによるウイルス性ペプチド抗原への結合の違いが、HIVコントローラーとHIV発症者との遺伝的差の根底にある可能性がある。(KF,KU)
The Major Genetic Determinants of HIV-1 Control Affect HLA Class I Peptide Presentation
p. 1551-1557.

回転する超固体(Supersolidity in a Spin)

4Heをねじれ振動内に凍結し、温度を下げながら振動周波数を観測した際に発見された固体中の超流動現象は、直感的には理解しがたい発見である:超流体の質量が振動子と通常の固体成分から分離されたときに生じる超固体転移点において共鳴周波数の減少が観測されるという。しかし、古典的効果もこの共鳴周波数の減少を引き起こすことが知られている。Choiらは(p1512、11月18日号電子版)、超固体形成の原因を確かめる為に、少し異なるアプローチで観測をおこなった。振動動作に回転を重ね合わせ、周期とせん断弾性係数を同時に測定した。これら2つの観測値は回転速度に対して全く異なる挙動をしめしており、超固体性(せん断弾性係数に影響を及ぼす古典的効果ではなく)が、観測された振動周期の変化に起因するものであることが明らかとなった。(NK,nk)
Evidence of Supersolidity in Rotating Solid Helium
p. 1512-1515.

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