AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 26 2010, Vol.330


恒星ジェット(Stellar Jets)

高エネルギー荷電粒子からなる超音速ジェットは、宇宙物理では普通の現象であり、放射源の質量は、褐色矮星から銀河中心の超巨大質量ブラックホールにまで、広い範囲に及んでいる。Carrasco-Gonzalez たち (p.1209; Ray の展望記事を参照のこと) は、 若い星状天体から放射されるジェットに関する観測結果を与えている。この観測によると、この天体のジェットは磁化しており、ずっと大きく、ずっと大質量のシステムで見出されたジェットと類似の特徴を有している。この結果は、すべての宇宙物理学的なジェットが、磁力線に沿っての物質の発射等、同じ基本メカニズムにより発射され、一直線になるという考えを支持している。(Wt,nk)
A Magnetized Jet from a Massive Protostar
p. 1209-1212.

巨大分子のメッセージ翻訳(Macromolecular Message Translation)

リボソームは巨大分子から出来ている翻訳機械であり、すべての生細胞中でメッセンジャーRNAの配列をタンパク質に翻訳する。原核生物のリボソームの構造解析の結果、このようなタンパク質合成の保存された特徴に関する洞察が得られていたが、真核生物の翻訳は更に複雑度の高いレベルであることが明らかになった。Ben-Shem たち(p. 1203)は、酵母 80S リボソームの結晶構造を4.15Åの解像度で決定した。このリボソームはラチェットの高次構造を持ち、メッセンジャーRNAと転移RNAの転位における中間の状態である。この結晶構造は現存する生化学的、かつ、遺伝的データの土台となるもので、機能的実験のデザインを示している。(Ej,KU)
Crystal Structure of the Eukaryotic Ribosome
p. 1203-1209.

ダイヤモンドの欠陥を着飾る(Dressing-Up Diamond Defects)

量子情報処理システムにおける情報伝達や記憶媒体としての可能性があることから、ダイヤモンド中の窒素空孔のスピン状態の研究が盛んに行われている。長寿命、高速応答性、隣接した電子・核スピンとの親和性といった特徴は、固体量子ネットワークを実現する際に不可欠なものである。しかしながら今日まで、スピン状態をフォトルミネッセンスにより読み出す場合、同時にそのスピン状態を崩壊させてしまっていた。Buckelyらは(p.1212、10月14日電子版、Milburnの展望記事参照)、スピンとレーザ光が相互作用してポラリトン状態を形成する光-物質ハイブリッド状態を創りだした。このハイブリッド状態は、窒素空孔中心のスピンを光学的に非破壊的に測定および操作できるという。(NK)
Spin-Light Coherence for Single-Spin Measurement and Control in Diamond
p. 1212-1215.

水素からのわずかな助けを借りて(A Little Help from Hydrogen)

バイオマスは近い将来石油を置き換え、化学工業の基本的原料となるであろう。今のところ、化学原料として植物由来の原料を使うための主な障害は、分子構造中に酸素が高い割合で存在することである。バイオマスを急速に熱し、ゼオライト触媒で高温処理をすれば、エチレンやベンゼンのような有用な材料がかなりの量で得られるが、その過程において多くの炭素が CO や CO2 ガスとして、あるいは、固体のコークスとして廃棄される。Vispute たち(p. 1222) は、ゼオライトによる処理の前に、加熱した材料に水素を触媒作用によって加える中間処理によって、コーキングへの変換を抑え、有用物質の収量を大きく改善できることを示した。(Ej,KU,nk)
Renewable Chemical Commodity Feedstocks from Integrated Catalytic Processing of Pyrolysis Oils
p. 1222-1227.

哺乳類のサイズがどのように大きくなったか(How Mammals Grew in Size)

哺乳類は白亜紀最終期の絶滅によって優勢な陸上動物(恐竜)の支配が除かれた後、多様化が大きく前進した。Smithたち(p. 1216)は、各大陸において放散(radiation)する期間、哺乳類の最大サイズがどのようにして増加したかを調べた。全体としてみれば、哺乳類のサイズは急速に増加し、その後、2500万年後に天井に達し安定化した。このようなパターンはほとんどの大陸で (南アメリカに関してはデータが少ないが) 成り立つことから、他の環境的、あるいは、生物学的限界に達する前に、哺乳類は大きくなり、利用可能なニッチを埋めてしまったと思われる。(Ej,KU,nk,kj)
The Evolution of Maximum Body Size of Terrestrial Mammals
p. 1216-1219.

ぴちゃぴちゃさせて水を飲む猫(Lap Cats)

我々はみんな、家の猫がミルクをぴちゃぴちゃさせて飲むことを知っている。しかしおそらくは、どうしてそうしているのかを考えたことがある者は少ないはずだ。Reisたちは (p.1231,11月11日号電子版;表紙参照)、舌の表面が水に触れる際に、猫が舌を丸めて近づけることを発見した。次に、舌を急速に持ち上げると、慣性により液体が柱状になって上に延びる。それが重力によって断ち切れる時に、猫は顎を閉じて液体を捕らえるのだ。その舌を巻く頻度は、飲み込む液量が最大になるように調節され、動物の質量に依存している。この関係はライオンに当てはまるのと同様に飼い猫にとっても成立する。(Uc,KU,Ej,nk,kj)
How Cats Lap: Water Uptake by Felis catus
p. 1231-1234.

ギャップを縮める作文(Writing to Close Gaps)

実験室内の制御された条件や限られた制約下で得られた知見が、一般の人々が実際の生活の問題で直面しているような、実際の世界における行動に関連して、妥当なものであるかどうか、という点について疑問が投げかけられている。近年の研究によって、大都市中心部の公立学校のアフリカ系アメリカ人7年生の学校の成績について、簡単な作文の練習による有意な長期間の効果があったことが示されている。三宅たちは(p.1234) この手法を更に応用して、同様の種類の作文練習によって、大学の物理クラスの女性学生の成績で見られた男女間ギャップを縮めることができることを示している。物理学科の成績やテストの点数だけではなく、標準テスト(訳注:物理と直接関連の無い教養テスト)においてもこの成績向上の効果が見られた。(Uc)
Reducing the Gender Achievement Gap in College Science: A Classroom Study of Values Affirmation
p. 1234-1237.

Lynx1タンパク質と視力回復(Lynx Vision)

発生の初期に、いわゆる「臨界期(critical period)」における正しい視覚的経験により、成人期における視覚機能の基礎が構築される。それ故に、片方の目が他方の目と一緒になって作用しないと、成人になって不完全な視覚のままとなる。臨界期に特徴的な可塑性は成人期において持続してはおらず、後になっての遅れた視覚機能の再調整は完全には成功しない。Morishitaたち (p. 1238,11月11日号電子版、Higley and Strittmatterによる展望記事参照) は、マウスにおいて Lynx1 と呼ばれる或る遺伝子を同定したが、この遺伝子は臨界期の後で発現増加を示す。この Lynx1 タンパク質はアセチルコリン受容体に結合し、そしてその受容体の感受性を減少させる。もし、マウスがコリン作動性シグナル伝達を強めるように処置されると、成体の視覚可塑性が改善され、そしてマウスがLynx1遺伝子をまったく欠如すると、マウスは成人期においてさえ視覚機能を回復することが出来た。(KU,nk)
Lynx1, a Cholinergic Brake, Limits Plasticity in Adult Visual Cortex
p. 1238-1240.

珍しいゼオライトの合成ルート(Routes to Rare Zeolites)

ゼオライトは、明瞭な構造を有すミクロな孔を持つ結晶性の固体である。自然界で生じているゼオライトの多くはラボでの合成で得られているが、合成できていないものも幾つかある。これらの一つであるボグサイト(boggsite)は触媒反応の点で関心をもたれており、結晶格子の内部で交差する10ないし12個の原子の環によって作られた大きな流路を持っているからである。Simancasたち (p. 1219) は、有機グループとしてフォスファゼン(phosphazene)(合成過程で環形成を行う)を用いてボグサイトの合成を報告している。これらの試薬は容易に修飾され、合成ルートにおけるより多くの柔軟性を可能とする特色を持っている。(KU)
Modular Organic Structure-Directing Agents for the Synthesis of Zeolites
p. 1219-1222.

頬髭による(By a Whisker)

総ての学生たちは、感覚野は感覚の処理に、運動野は運動の認知に用いられていると学んでいる。しかしながら、現実の世界で、このことは必ずしもそれほど適切に行われているわけではない。Matyasたち(p. 1240) は、感覚野と運動野が異なるタイプの運動に対して特殊化されており、例えばマウスにおいて運動野はマウスの頬髭の前進運動 (protraction:伸長) を制御し、感覚野は頬髭の後退運動(retraction:退縮) を制御していることを見出した。もし、頬髭が或る対象にあたると、次の合理的な最初の反応は退縮に関する運動命令であろう。同じように、運動野はより活発な探索の時にはヒゲをピンと伸ばすように刺激する。それ故に、感覚野は運動野でもあり、運動野は感覚野でもある。生態学的な前後関係において、これらの結合した反応は、複雑な環境内で食べ物や隠れ場所を探すマウスにとって有用なレパートリを提供する。(KU,nk)
Motor Control by Sensory Cortex
p. 1240-1243.

アポトーシスの促進(Promoting Apoptosis)

急性疾患の際に、骨髄性白血病(PML)タンパク質は、染色体転座の結果として、別のタンパク質に融合することになる。このタンパク質は、腫瘍形成を抑制し、アポトーシス細胞死を促進する特有の複合体を核中に形成するなど、複数の異なった機能を有しているらしい。Giorgiたちは、PMLがアポトーシスを促進する細胞シグナルに影響を与えている仕組みを提案した(p. 1247、10月28日号電子版; またCuljkovic-KraljacicとBordenの展望記事参照のこと)。このタンパク質は小胞体とミトコンドリアとの接触部位に局在化していて、そこでカルシウムチャネルやプロテインキナーゼ、及びプロテインホスファターゼと関わって、ミトコンドリアへのカルシウム動員を制御し、そのことが次に、細胞死の引き金を引いているのである。(KF)
PML Regulates Apoptosis at Endoplasmic Reticulum by Modulating Calcium Release
p. 1247-1251.

細胞の装置(Cellular Devices)

細胞の制御機構は、異常な細胞を感知する遺伝的装置を作り、そして或る制御シグナルを活性化して、その異常な細胞の生物学的状態を変えるように仕向けるような機会をもたらすであろう。Cullerたちは、合成遺伝子ネットワークに関する原理的な証拠を提示しているが、そのネットワークにおいて、細胞は遺伝子操作されて、炎症や癌などの病状態に伴う分子を検出するRNAに基づく装置を作る(p. 1251; LiuとArkinによる展望記事参照のこと)。検出に続いて、細胞死を引き起こす薬剤へのその細胞の感受性をより高める遺伝子の発現が引き起こされるのである。(KF,KU)
Reprogramming Cellular Behavior with RNA Controllers Responsive to Endogenous Proteins
p. 1251-1255.

結合の度合い(Connections by Degree)

ヒトの脳における結合性(connecticity)の問題を扱う巨大プロジェクトやデータの最近の爆発的増加も、神経回路の地図(connectome)を研究するための明確な戦略をもたらすには至っていない。DeFelipeは、この分野の知的歴史を、画期的な解剖学者 Ramon y Cajal による19世紀の研究から、ヒトの大脳皮質の組織化を理解しようと多くの研究室で試みられているつい最近のアプローチや無数の新技術まで、レビューしている(p. 1198)。(KF)
From the Connectome to the Synaptome: An Epic Love Story
p. 1198-1201.

変形するサファイア(Deformed Sapphire)

サファイアの構造は、酸素イオンとひだ状のアルミニウムイオンが交互に重なり合ったシートからなっている。この材料は、低温では脆いが、高温では構造上の転位によって変形可能である。Heuer たちは(p. 1227)、高分解能の透過型電子顕微鏡と負の球面収差を用いた画像処理技術を用いて、アルミニウムと酸素イオンのカラムを区別した。変形時、アルミニウムイオンは4面体と8面体の両方の配位位置に移動し、転位の核が広がる間、それらは荷電することも無く化学量論的にも維持される。その結果は他の非金属固体の変形の挙動にもつながるであろう。(Sk)
The Core Structure of Basal Dislocations in Deformed Sapphire (α-Al2O3)
p. 1227-1231.

自己防衛の仕組み(Self-Protection Mechanism)

カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は、AIDS関連の癌の原因となる。溶菌相(lytic phase)の間、ウイルスは非翻訳ポリアデニル化核内RNAを産生し、これが感染細胞内に高レベルで蓄積することになる。これが生じるのは、ウリジンの豊富な内部ループを含む、RNA内でENEと呼ばれるヘリックス・ループ・ヘリックス要素が、ポリAテールを隔離し、RNA分解の開始を防いでいるからである。Mitton-Fryたちは、そのRNAに結合するENEコアの2.5オングストロームでの構造を決定した(p. 1244)。予期されていたように、ウリジンが豊富なループに単に結合する代わりに、このポリAテールは、そのループやより低い基部と相互作用して、分解を防ぐ三重らせん体を形成している。同じような仕組みが、これ以外の非翻訳RNAを急速な代謝回転から保護している可能性がある。(KF)
Poly(A) Tail Recognition by a Viral RNA Element Through Assembly of a Triple Helix
p. 1244-1247.

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