AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 22 2010, Vol.330


蚊の種分化のきっかけ(Signals of Mosquito Speciation)

アフリカのマラリアは、蚊のガンビアハマダラカの近縁種群によって媒介される。Neafseyたちは(p.514)、この種のメンバー間の遺伝的分岐をマップ化するため、高分解能の一塩基多型解析を行った。個体群間の分化が観察され、個体群内での選択的スウィープ (訳注:害にならない遺伝的変異の相対的な頻度が高くなる現象) に関する証拠が得られた。分岐の殆どは中心体付近の逆位領域内と、発生・フェロモンシグナリングやX染色体に関連のある遺伝子の内部で発生していた。この解析によってまた、アフリカの別地域から採取された蚊の、同じような染色体領域内で生じている同所性の種分化 (訳注:地理的な隔離が起きていない状況で、他の現象が原因となって生殖隔離が起こり種分岐する現象) のきっかけについて明らかにされた。Lawniczakたちは(p.512)、特有の振る舞いを示すフェノタイプを持ち、そして種の分化を起こしているように見える、ガンビアハマダラカのゲノムの二つの分子式 (MとSとして知られている) の配列を解析した。この努力によって、リファレンスゲノムの明確なキメラ特性に起因する問題を解決し、観察されたゲノム-ワイド分岐について確認された。この種の解析は蚊を制御する制御プログラムに寄与する可能性を有し、このプログラムは制御尺度それ自体の選択的効果に由来する蚊の行動における集団的シフトに採用される。(Uc,KU,nk)
SNP Genotyping Defines Complex Gene-Flow Boundaries Among African Malaria Vector Mosquitoes
p. 514-517.
Widespread Divergence Between Incipient Anopheles gambiae Species Revealed by Whole Genome Sequences
p. 512-514.

月に水をやる(Watering the Moon)

一年ほど前、Atlasロケットの使用済みとなった上位段の部分を、意図的に月の南極にあるクレーターに衝突させ、岩屑やダスト、蒸気の上昇雲を噴出させた。The Lunar Crater Observation and Sensing Satellite (LCROSS) 実験と呼ばれるこの衝突の目的は、月の最も寒冷な場所のひとつで、土壌中の水と他の揮発性物質を探すことであった。この寒冷な場所としては、Cabeus クレーター内の永久に影となる領域が選ばれている。随伴する宇宙船からの紫外域、可視域、近赤外域の分光データを用いて、Colaprete たち (p.463; Kerr によるニュース解説を参照のこと; 表紙を参照のこと) は、雲状の噴出物中に水分と他の揮発性物質が存在する証拠を見出した。Schultz たち (p.468) は、衝突とその結果発生する上昇雲とのさまざまな段階を監視した。Gladstone たち (p.472) は、the Lunar Reconnaissance Orbiter (LRO) に搭載された紫外分光計を用いて、衝突による上昇雲中に H2 や CO, Ca, Hg, Mg を検出した。 Hayne たち (p.477) は、衝突の熱的な特徴を計測し、その衝突により 30 から 200 m2 の領域が 40ケルビンから少なくとも 950ケルビンまで加熱されたことを見出した。Paige たち (p. 479) は、揮発性物質が捕捉されていることが予測される低温領域を地図にした。Mitrofanov たち (p.483) はLRO の計器を用いて、南極領域の表面温度は、日が当たっている時でさえ低温のまま持続することを確認している。その衝突を通して、全部でおよそ 155kg の水蒸気が放出された。一方、LRO は、月の周りを回り続け、月の複雑な表面構造の進化の理解を助ける一連のデータを送り返している。(Wt,tk,nk)
Detection of Water in the LCROSS Ejecta Plume
p. 463-468.
The LCROSS Cratering Experiment
p. 468-472.
LRO-LAMP Observations of the LCROSS Impact Plume
p. 472-476.
Diviner Lunar Radiometer Observations of the LCROSS Impact
p. 477-479.
Hydrogen Mapping of the Lunar South Pole Using the LRO Neutron Detector Experiment LEND
p. 483-486.

混合カオス(Mixing Chaos)

無秩序な(chaotic)流体の未来の動きをモデル化することは、天候や海流予測の基礎となる。通常の方法では、流体を粒々に分けて各粒の動きを追跡し、混合とカオスに関するパラメータは、結果の信頼性と共に、幾何学的及び統計的な解析法の中に取りこまれる。Meziたち(p. 486,9月2日電子出版;Thiffeaultによる展望参照)はこのアプローチを採用し、予測の精度を上げるために異なる混合と広がりの体系を考察した。テストとして、彼らはシミュレーションを実行し、メキシコ湾をモデルとした米ルイジアナ州沖の石油掘削施設”Deepwater Horizon"のオイル流出による海洋汚染の広がりをうまく予測した。(hk,KU,nk)
A New Mixing Diagnostic and Gulf Oil Spill Movement
p. 486-489.

PIAS1の抑圧(PIAS1 Repression)

制御性T細胞(Tregs)は免疫寛容を促進し、自己免疫を保護する。Tregsは胸腺に発生し、これが抑制性機能を分化させ獲得するには転写制御因子Foxp3の発現が必要である。このFoxp3の遺伝子発現のスイッチを入れる因子としてはいくつかの転写制御因子が知られているが、非TregsにおいてFoxp3がスイッチをオフにしている機構は未知である。Liu たち(p. 521) は、サイトカイン シグナル伝達の制御因子であるPIAS1が染色質の修飾によってFoxp3の発現を抑圧することを実証した。PIAS1はFoxp3プロモータのメチル化をメチル基転移酵素の漸加によって促進し、発現を抑制する。PIAS欠損マウスは、コントロール群に比べ、より多くのTreg 細胞を持っており、多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎の発生から保護されているらしい。(Ej,hE,kj)
The Ligase PIAS1 Restricts Natural Regulatory T Cell Differentiation by Epigenetic Repression
p. 521-525.

ナノワイヤーを育てる(Growing Nanowires)

ナノワイヤーの気相−液相−固相(VLS)成長において、液相は気相の材料を集めて固相に成長させる運び屋として活躍している。Ohらは(p.489)、高分解能透過型電子顕微鏡下でサファイア単結晶を加熱しながら、アルミニウム液滴を経由して成長するサファイア(α-Al2O3)ナノワイヤーの成長過程を観測した。液体アルミニウムは酸素を取り込み、ワイヤー端にて成長と溶解をくりかえしながらワイヤーを成長させているという。この繰返しにより自己触媒的に最適な原子配列を持つ表面を形成し、また界面にて気相−液相−固相の変化を繰り返しながらナノワイヤーが成長していることが明らかとなった。(NK,nk)
Oscillatory Mass Transport in Vapor-Liquid-Solid Growth of Sapphire Nanowires
p. 489-493.

自家和合性は適合しない(Incompatible Self-Compatibility)

種ごとの多様化速度の違いを生じさせる大進化(Macroevolutionary)プロセスは、我々が自然界で見るその変動を明白にするために重要である。しかし、このプロセスの広がりや、単一種の中の形質(traits)がどのくらい多く多様化速度の変化を生じさせるのかは不明である。Goldbergたち(p.493; WrightとBarrettによる展望記事参照)は、ナス科(Solanaceae)植物を系統学的に分析し、種が死滅(extinction)する割合は、異系交配する種よりも自己授粉する種の方が多いことを発見した。近親交配の有害な影響による種レベルの淘汰は、なぜ自家受精が、短期的な進化では有利にもかかわらず、顕花植物でもっと広まらなかったのかということを説明できる。(TO)
Species Selection Maintains Self-Incompatibility
p. 493-495.

クローニングの将来(Cloning Futures)

体細胞核の移植による哺乳類のクローニングは、再生医療や農業、及び薬剤において多くの潜在的な応用を持った技術である:しかしながら、異常なゲノムの再プログラムの発生により非効率となっている。Inoueたち(p. 496,9月15日号電子版)は、Xistの遺伝子産物 (これは通常、メスの二つのX染色体の一つを不活性化する) が、予想外にクローンマウスを使った実験で活性なX染色体から異所的に発現していることを見出した。Xistをクローンマウスから除去すると、遺伝子発現は正常に戻り、そして体細胞核移植の効率は9倍程増加し、将来の核移植技術に希望を抱かせるものである。(KU,kj)
Impeding Xist Expression from the Active X Chromosome Improves Mouse Somatic Cell Nuclear Transfer
p. 496-499.

光-嫌悪のターゲット(Light-Hating Target)

ショウジョバエの若い幼虫は暗闇に隠れようとする。蛹に近い年長の幼虫はさほど光を怖がらない。Gongたち(p. 499;Vogt and Desplanによる展望記事参照) は、光知覚と行動を結びつける神経回路の一部を同定した。著者たちは、幼虫の中枢神経系におけるニューロンを選択的に無能にする破傷風毒素のターゲット発現を用いた。その結果、光を好んだり、或いは光嫌悪を制御している神経回路が同定された。この回路 (左右相称のニューロンペアから成る) は、幼虫の視覚回路からのインプットを受け取り、そしてその活性化が光回避行動を強めている。この結果は、脳がどのようにして知覚入力を解釈するかに関するかすかな光を投げかけるものである。(KU)
Two Pairs of Neurons in the Central Brain Control Drosophila Innate Light Preference
p. 499-502.

3つが秘訣(Three's the Charm)

細胞からの分泌の際に膜融合を仲介する分子機構には、4つの並行したα-らせん体からなる束がコイル状になった、いわゆるSNAREタンパク質という複合体が必要である。Mohrmannたちは、生きているクロム親和性細胞において、個々の分泌小胞の分泌を促進するのにどれだけの数のSNARE複合体が必要かを、発現されるSNAREタンパク質の野生型と変異体との比率を滴定することによって明らかにする、エレガントなアプローチを開発した(p. 502、9月16日号電子版)。速い同調的な遊離には、小胞あたり最低3つのSNARE複合体が必要だった。SNARE複合体の数を減らすと、遊離が遅くなる結果となった。(KF,nk)
Fast Vesicle Fusion in Living Cells Requires at Least Three SNARE Complexes
p. 502-505.

表に出たM2タンパク質(M2 Out of the Envelope)

A型インフルエンザウイルスのM2タンパク質は、ウイルス外被中で酸によって活性化される四量体水素イオンチャネルを形成し、ウイルス複製にとって必須なものである。2つの論考が、このチャネルの機能的仕組みに光を投げかけている。Sharmaたちは、脂質二重層中のコンダクタンス領域の構造を決定し、隣り合ったヒスチジン対の間の水素結合の形成と解離において、各単量体からのヒスチジンとトリプトファンが、チャネルを通して水素イオンを導くクラスターを形成しているという提案をしている(p. 509; またFiorinたちによる展望記事参照のこと)。Huたちは、高pHおよび低pHにおける水素イオン選択的なヒスチジンの構造と動力学に焦点を絞り、水素イオン伝導にはヒスチジンの脱プロトンと再プロトン化が関わっているという提案をしている(p. 505; また Fiorin たちによる展望記事参照のこと)。(KF,kj)
Insight into the Mechanism of the Influenza A Proton Channel from a Structure in a Lipid Bilayer
p. 509-512.
Mechanisms of Proton Conduction and Gating in Influenza M2 Proton Channels from Solid-State NMR
p. 505-508.

ストレスとDNA損傷とATM(Stress, DNA Damage, and ATM)

タンパク質リン酸化酵素、ATM(血管拡張性失調症変異)は、細胞をDNA損傷から守るシグナル経路の主要構成要素である。ATMは、DNA中の二重鎖の破壊された部位にあるタンパク質複合体内で活性化状態になる。ATMはまた、活性酸素種(ROS)の産生の増加に応答して活性化される。そうした活性化はROSによって引き起こされたDNA損傷を反映していると考えられてきたが、Guoたちは、ATMが実際には直接ROSによって活性化させられていたことを明らかにしている(p. 517)。ATMのシステイン残基はin vitroの実験で、ROSにさらすと活性化したATMのジスルフィド連結二量体の形成に寄与している。この酵素の変異型を用いた実験では、2つの別々の機構がATM活性を制御しているということが示唆された。(KF,kj)
ATM Activation by Oxidative Stress
p. 517-521.

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