AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 3 2010, Vol.329


HIVに対する膣内ゲルの効果(vaginal Gel Versus HIV)

女性に対するHIV予防方法は急務であり、特にサハラ砂漠以南のアフリカ諸国において若い女性たちがHIVの拡がりに最大の苦しみを負っている。Abdool Karimたち(p. 1168;7月19日号電子版) は、CAPRISA(The Centre for the AIDS Program of Research in South Africa)004のランダムな対照試行実験(抗ウイルス薬と偽薬を用いた)の結果を報告している。都市と田舎に住む南アフリカの女性に行われたほぼ3年間の長期的な試行実験により、HIV感染の予防における抗レトロウイルス薬剤であるテノフォビルを含有する膣内ゲルの有効性がテストされた。その投薬戦略には性交前と後での双方でゲルの適用が必要であり、そしてこのような方法を用いて、HIV感染は全体的にほぼ39%減少し、この実験に高度に忠実にゲルを用いた女性においては54%減少し、そして全体として有害な事象の発生する割合は増加しなかった。(KU,nk,kj)
Effectiveness and Safety of Tenofovir Gel, an Antiretroviral Microbicide, for the Prevention of HIV Infection in Women
p. 1168-1174.

抗マラリア薬剤の候補(Antimalarial Drug Candidate)

スピロインドロン (spiroindolone) は、高効率なスクリーニングによって今まで軽視されてきた一連の感染症にも適用可能な抗マラリア薬剤の候補として発見された。Rottmannたち (p. 1175;Wellsによる展望記事参照)は、最適化されたスピロインドロン薬剤候補NITD609に関する前臨床特性を報告している。彼らは、P-型ATP分解酵素にアミノ酸変異を持つマラリア寄生虫 Plasmodium falciparum の系統に薬剤感受性の低下に関する証拠を得、作用と/或いは耐性に関する可能なメカニズムを示している。(KU,kj)
Spiroindolones, a Potent Compound Class for the Treatment of Malaria
p. 1175-1180.

氷の吸着(Icy Adsorption)

表面に吸着した液体水が高い移動度をもつために、特に吸着第一層について、原子間力顕微鏡による構造研究が、難しいがやりがいがあるものにしてきた。さらに走査プローブ法では、プローブ先端と水分子の間の強い相互作用により妨げられることになる。雲母の上にグラフェンの薄片が付着した場合について、Xu たちは(p. 1188;Katsnelson による展望記事参照)、取り込まれた水の第1および第2層を撮像するために、原子間力顕微鏡法が使用できることを見出した。彼らは一貫して島状構造を観察したが、低湿下の実験ではその厚さは氷の単層に相当する 0.34 ナノメータであった。高湿条件下では、より液体の性質を持つより厚い層が観察された。(Sk,ok,nk)
Graphene Visualizes the First Water Adlayers on Mica at Ambient Conditions
p. 1188-1191.

自由落下する渦 (Free Falling Vortices)

超流動流体が入っている容器を回転させても、流体は容器内面に粘性付着して同時に回転することは無い。その代わりに、量子化された渦が発成する。渦は一連の超流動現象において観測されてきた。例えば、ヘリウムや原子気体のボース・アインシュタイン凝縮、そして磁界中の第2種超伝導体などである。Freilichたちは(p. 1182)、最も調整可能な超流動系である原子気体のボース・アインシュタイン凝縮における実時間での渦の挙動を可視化した。凝縮体の一部分がトラップから移され、重力場中で落下していく様子が画像化された。この方法は、他の複雑な動的現象の系、例えば渦の再結合や量子乱流における渦の役割などを検討する際に適用できる。(Uc,KU,nk)
【訳注】量子化された渦:渦強度である循環がとびとびの値をとる渦
Real-Time Dynamics of Single Vortex Lines and Vortex Dipoles in a Bose-Einstein Condensate
p. 1182-1185.

クラブに入ろう(Join the Club)

政策策定者にとって重要な問題は、市民に対し情報 (例えば公衆衛生的介入について) を伝え、行動の変化を促す最も効果的な方法は何かということである。市民の間である行動様式が広まっていく際に社会的ネットワークの構造が大きく影響することがある。Centola(p.1194)は、ある健康フォーラムへの登録を選択する人の数が、人為的に構築された、このフォーラムに既に登録した隣人のネットワークによって影響されるかどうかを検討した。結びつきの強いグループ同士をつないでいくタイプのネットワーク (clustered network) は、ランダムに構成され、グループ構成が貧弱なネットワークと比べて行動様式がより迅速に広がった。このように、既にその行動様式を受け入れている他の人々とより多く接する機会がある場合、ある行動様式は容易に広がるのだ。例えば、貴方を含めて友人がお互い良く知り合っているような状況である。(Uc,KU,nk)
The Spread of Behavior in an Online Social Network Experiment
p. 1194-1197.

単純から複雑へ(From Simplicity to Complexity)

孤立電子に関する比較的単純な特性も、電子-電子相互作用が十分に強く相関系を形成する場合、複雑性の富んだものとなる。比較的シンプルなサブユニットから発生する複雑な挙動は、凝縮物理において活発に研究されており、超伝導体や磁性体研究にも応用されている。SiとSteglich(p.1161)は重フェルミオン金属間化合物の物理について詳細に調べている。金属間化合物は、新規な量子相や従来とは異なる量子臨界挙動を示す金属性や磁性、及び超伝導性の挙動を示す故に研究における理想的な材料である。(NK,KU)
Heavy Fermions and Quantum Phase Transitions
p. 1161-1166.

プラスチックの海(Sea of Plastic)

プラスチックはとても分解されにくく、廃棄された後も自然環境の中でそのまま長く残り続ける。悪いことに、プラスチックは、海洋環流(ocean gyres)の内側で蓄積され、そこでは海面循環のパターンがプラスチックを特定の領域に集めている。北大西洋環流(North Atlantic Gyre:北大西洋の西部)の真ん中には、プラスチックが蓄積されたある場所がある。Law たち(p. 1185; 8月19日号電子版)は、北大西洋における22年間にわたるプランクトン採取用曳航装置による結果を調べて次のことを報告する。プラスチックの蓄積のパターンは海洋循環のセオリーどおりに推定できるが、プラスチック生産やその廃棄が徐々に増大しているにもかかわらず、プラスチックゴミの集積は増えてきてはいない。(TO,kj)
Plastic Accumulation in the North Atlantic Subtropical Gyre
p. 1185-1188.

皮膚の反応(Skin Reaction)

皮膚の中のリンパ球はγδT細胞として知られているが、感染症や障害に対して重要な障壁を形成する。古典的なαβT細胞と異なり、γδTの活性に関する分子的要件はそれほど知られてない。今回2件の論文が、接合部接着分子様タンパク質(JAML)は、マウスT細胞に対して共刺激性分子であることを実証している。Witherden たち(p. 1205;および、Shaw and Huangによる展望記事参照) は、JAMLはリガンドであるコクサッキーウイルス・アデノウイルス受容体(CAR)に結合し、増殖を起こし、同時に、T細胞によるサイトカインや成長因子の産生をもたらす。in vivo の実験ではマウスにおいてJAML-CAR相互作用が創傷治癒に寄与した。Verdino たち(p. 1210;および、Shaw and Huangによる展望記事参照) はCAR/JAMLの結晶構造を示し、ホスホイノシチド3キナーゼを通してシグナル伝達するαβT細胞の共刺激性受容体として知られているモチーフに類似した細胞内シグナル伝達モチーフを明らかにした。(Ej,hE,kj)
The Junctional Adhesion Molecule JAML Is a Costimulatory Receptor for Epithelial γδT Cell Activation
p. 1205-1210.
The Molecular Interaction of CAR and JAML Recruits the Central Cell Signal Transducer PI3K
p. 1210-1214.

宇宙のフラーレン(Cosmic Fullerenes)

ラボでの実験において、バックミンスターフラーレン C60が発見されて以来、酸素に較べ炭素が過剰な進化した星のなかで、フラーレンが大量に形成され、そして、それらは安定であるため、星間物質中の過酷な放射場の中で気相種のひとつとして生き残るであろうと考えられてきた。Cami たち (p.1180; 7月22日号電子版; Ehrenfreund と Foing による展望記事を参照のこと) は、極端に水素の枯渇したダスト形成領域を有する、特異な惑星状星雲中に大量のフラーレンを検出した。予想とは異なり、フラーレンは気相ではなかった。それらは、冷たく、中性の電荷状態にあり、そして、利用可能な炭素のおよそ 1.5%に相当している。(Wt,nk)
Detection of C60 and C70 in a Young Planetary Nebula
p. 1180-1182.

将来へのガイドではない(No Guide to the Future)

化石は進化の様子を垣間見せてくれるが、地理的や階層的に異なる分類群(taxa)における共通性の根拠(basis)に基づく予測の正確さは、未知である。Alroy (p. 1191; Marshallによる展望記事参照) は全世界の海洋化石記録を調べ、動物の主要な分類群グループは、特有の多様化パターンと大量絶滅に対する予測不能な反応を持つことを明らかにした。現在進行中の絶滅事象を外挿すると、生物種の数は地質学的なタイムスケールでは急速に回復すると予測された。ただし、海洋生物圏の将来の分類学的な構成を予測することはできなかった。(TO,KU,nk)
The Shifting Balance of Diversity Among Major Marine Animal Groups
p. 1191-1194.

前へ進め、NEDD8 (Gee-Up, NEDD8)

類鼻疸菌や腸管病原性大腸菌といった多様な病原性微生物は、エフェクタータンパク質を真核生物の宿主細胞に注入して宿主細胞の生物相を破壊する。Cuiたち (p. 1215;8月5日号電子版) は、幾つかの細菌性エフェクタータンパク質がユビキチン及びユビチキン関連タンパク質であるNEDD8のグルタミン脱アミド化を促進することを示している。ユビキチンの修飾により、ポリユビキチン鎖の形成が抑制され、一方、予想外なことにNEDDにおける同じ化学変化が細胞周期を妨げる。このことは、細菌感染に関する細胞変性効果のみならず、ウイルス感染中に、及びガン進行中に作用するメカニズムに関する洞察をも与えるものである。(KU,Ej)
Glutamine Deamidation and Dysfunction of Ubiquitin/NEDD8 Induced by a Bacterial Effector Family
p. 1215-1218.

エネルギー恒常性の制御(Regulation of Energy Homeostasis)

哺乳類のAMPキナーゼ(AMPK)は、細胞のエネルギー恒常性を制御するセリン/スレオニンキナーゼ複合体である。しかしながら、AMPKが代謝のゆらぎに対して転写応答を仲介する仕組みは、これまで不明であった。Bungardたちは、AMPKが、セリン-36におけるヒストンH2Bのリン酸化と一緒になって、直接、染色質に対して転写を活性化していることを発見した(p. 1201;8月17日号電子版; またHardieによる展望記事参照のこと)。双方の信号は、その経路において制御されている遺伝子上に共存していて、その酵素とリン酸化の双方とも、ストレス応答性遺伝子の直接転写に必要なのであった。(KF)
Signaling Kinase AMPK Activates Stress-Promoted Transcription via Histone H2B Phosphorylation
p. 1201-1205.

上皮細胞の感染症への抵抗(Here to Stay)

全身感染症では病原性微生物が粘膜性上皮関門を破る必要がある。我々の体は粘膜を保護するための、上皮細胞の迅速な代謝のような多様な戦略を発達させてきた。Muenzner たち(p. 1197; および、表紙も参照)は、浸潤性細菌がどのように粘膜による宿主防御を克服したかを、淋菌泌尿生殖器感染に感受性を有するヒト化マウスモデルで示した。細菌は癌胎児抗原(CEA)と呼ばれる宿主細胞の表面タンパク質に結合し、これが標的の上皮の細胞接着の性質をカスケード的に変化させて行き、結果として細胞の剥離を防ぐ。(Ej,hE,kj)
Human-Restricted Bacterial Pathogens Block Shedding of Epithelial Cells by Stimulating Integrin Activation
p. 1197-1201.

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