AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 13 2010, Vol.329


抗HIVの設計(Designer Anti-HIV)

HIVを防ぐワクチンの開発は地球規模での健康に関する最重要課題のひとつである。潜在的なワクチンの候補を同定する戦略の一つは、感染したヒトからの広範囲に中和する抗体を単離し、次にワクチン接種により同じ抗体応答を誘発させることである(Burton and Weissによる展望記事参照)。Wuたち(p. 856,7月8日号電子版)は、HIV-1感染者から単離した広範囲に中和する3つの抗体の同定に関して報告しているが、これらは広範囲の、かつ作用強度の高い中和反応を示し、そしてウイルスエンベロープスパイクの一部である糖タンパク質120(gp120)の共同受容体CD4-結合部位に対して特異的であった。Zhouたち(p. 811,7月8日号電子版)は、これらの抗体の一つ、VRCO1をHIV-1gp120との複合体の状態でその結晶構造を解析した。VRCO1は最初のCD4接触部位である構造的に不変な領域での結合に的を絞っており、これにより抗体は多くのCD4結合部位抗体の中和の作用強度を弱めるようなグリカン(多糖類)や構造的なマスキングを克服することが可能となる。これらの抗体によって認識される抗原決定基(エピトープ)はワクチン設計の情報を与えるような潜在的免疫原を示唆している。(KU,Ej)
Rational Design of Envelope Identifies Broadly Neutralizing Human Monoclonal Antibodies to HIV-1
p. 856-861.
Structural Basis for Broad and Potent Neutralization of HIV-1 by Antibody VRC01
p. 811-817.

膜における分泌タンパク室の品質管理(Peripheral Quality Control)

タンパク質のミスフォーディング病は、小胞体(ER)内部の重要なタンパク質の分泌停止や分解に導くことが多い。小胞体品質管理の厳密性を減少させて、これらのタンパク質を分泌経路を通して細胞表面の目的地に到達させる戦略が有望であることが判ってきた。Okiyonedaたち(p. 805,7月1日号電子版;Hutt and Balchによる展望記事参照)は、タンパク質が目的地に到達したとしても、どのようにして第2段階の品質管理を受け、そして原形質膜から除去されるかを理解しようとしている。一般的な嚢胞性線維症変異F508CFTRを発現している細胞における機能的低分子干渉RNAスクリーンを用いて、著者たちは原形質膜から欠陥タンパク質の除去を促進する一対のシャペロンを同定した。膜におけるこの品質管理ステップはタンパク質のミスフォールディング病に打ち勝つための戦略の有効性を高めるために克服される必要がある。(KU,nk,kj)
Peripheral Protein Quality Control Removes Unfolded CFTR from the Plasma Membrane
p. 805-810.

ガンマ線源としての新星(A Nova Source of Gamma Rays)

新星は、連星系の伴星から物質が白色矮星表面に引き落とされるとき、その表面において発生する熱核反応による爆発である。それらは、その爆発によって白色矮星が完全に破壊されることはないため、超新星とは異なるものである。新星は、多くの人にはこれまで高エネルギーガンマ線源とは考えられていなかった。Fermi Large Area Telescope を用いて、Abdo たち (p.817) は、新星爆発によるガンマ線放射を検知したことを報告している。この観測は、新星爆発に続く衝撃波のなかで、粒子を相対論的エネルギーまで加速している証拠を与えている。(Wt,nk)
Gamma-Ray Emission Concurrent with the Nova in the Symbiotic Binary V407 Cygni
p. 817-821.

超伝導体を非双晶化する(De-Twinning a Superconductor)

固体の電気伝導メカニズムへの洞察は、しばしば異なる空間方向に沿った抵抗を測定することによって得られる。しかしながら、鉄系超伝導体はいろいろな双晶境界を形成し、そこでは結晶の二つの異なる配向が交差している。それ故、ある面内方向に沿って測定される抵抗値はこれらの様々な配向により平均化されてしまう。Chuたち(p. 824)は、化合物 Ba(Fe1-xCox)2As2 を非双晶化することができ、それにより面内の格子軸に沿った正常な状態での抵抗率測定を確かなものにしている。二軸に沿った抵抗値に差異があることが観測された。このことは格子と電子のサブシステムの対称性の崩れが同時に起きていることを示している。(hk,nk)
In-Plane Resistivity Anisotropy in an Underdoped Iron Arsenide Superconductor
p. 824-826.

岩石の変化(Changes in the Rocks)

海水位変化や大陸同士の衝突等の大規模な地殻現象によって、いくつかの岩石種が形成される堆積環境の変化により、地層の層序関係が変わってしまうことがある。例えば、石灰層が形成されやすい深海環境は、比較的短期間に砂岩が形成されやすい沿岸環境に変化することがある。これは、相対海水位が何メートルか下がってしまうことによる。しかしながらPetersenたちは(p.827;Mullerの展望記事参照)同様に、小規模のマントル対流によっても堆積層の層序に明らかな変化が生じる場合があることを示している。モデルによるアプローチによって、彼らは様々な時間スケールおいて、小規模の空間的スケール(すなわち数百km程度)でこのようなことが起こる可能性があることを発見した。このように、地域的規模及び地球規模での堆積シーケンスが同時発生することにより、堆積岩を過去の海洋環境の識別指標として用いることができる一方、同様に地表層の運動の局所的な変化が、それ自体、岩石の記録の中に残されていることも心に留めておくべきである。(Uc,nk)
Small-Scale Mantle Convection Produces Stratigraphic Sequences in Sedimentary Basins
p. 827-830.

細胞電位のナノプローブ(Nanoprobes of Cell Potential)

細胞電位の直接的な電気測定は、通常、設計上の妥協に直面する。微小電極は細胞のサイトゾル(細胞質基質)内部を探るが、有用な信号を得るために最小限の大きさ(幅数百ナノメータ)を有する。ナノスケールの電界効果トランジスタ(FETs)は、わずか数十ナノメータの大きさの能動型のプローブにできるが、一般に細胞外側の電位しか測定できない。Tian たち(p.830)は、製作用基板から突き出した鋭利なプローブ先端を形成させるためにねじれを持たせられるナノワイヤを製作した。その先端をリン脂質二重層でコーティングすることにより拍動する心細胞の膜を通してプローブを挿入することが可能になり、細胞電位の時間変化を追うために用いることができるようになった。(Sk,Ej)
Three-Dimensional, Flexible Nanoscale Field-Effect Transistors as Localized Bioprobes
p. 830-834.

炭素循環と気候変動(Carbon Cycle and Climate Change)

気候変動が加速していく中、気候変動の炭素循環へ与え得る衝撃を知ることは重要である(Reichによる展望記事参照)。総一次生産量(GPP)とは、光合成によって大気から除去された一年あたりの二酸化炭素量のことである。Beerたちは(p.834,6月5日号電子版)観察結果と計算手法を統合することで、地球上の植物によるGPPの総量は一年あたり約1220億トンであることを見積もった。一方、化石燃料の燃焼によって一年あたり約70億トンの二酸化炭素が排出される。この吸収量の32%は熱帯雨林において発生している。そして植生地の40%以上で降雨が炭素吸収量を支配している。生態系呼吸活動の温度依存性 (Q10:温度が10度変化した際の増加量) は、気候と炭素循環の間の相互作用の重要な決定要素である。Mahechaたちは (p.838,7月5日号電子版) 今回、生態系呼吸活動に対するQ10の値が、年平均気温に対して変わらないこと、そして解析された生態系の型には依存せず、全地球的に1.6の値となることを示している。この程度の温度依存性では、炭素循環の気候から受ける影響は最近の気候モデルで仮定されるより大きくない。(Uc,nk,kj)
Terrestrial Gross Carbon Dioxide Uptake: Global Distribution and Covariation with Climate
p. 834-838.
Global Convergence in the Temperature Sensitivity of Respiration at Ecosystem Level
p. 838-840.

腸のフィーリング(A Gut Feeling)

人間が体内に抱えている共生微生物や食物抗原に免疫系が反応しないよう、腸内に特殊な免疫調節系が必要である。樹状細胞(DCs)は腸の免疫寛容性を維持するのに重要であるが、これはDCsがT細胞を無応答状態にするのを助けるためである。しかし、他の環境においては、DCsはT細胞を活性化する。では、DCsがT細胞の寛容性、或いは活性化を誘発するかどうかを、どのような信号が決定するのであろうか?Manicassamy たち(p. 849; および、Mellman and Clausenによる展望記事参照)は、マウスにおいてDCs仲介の腸の寛容性を維持するにはβカテニンに依存するシグナル伝達が必要であることを明らかにした。Wntリガンドが腸の中で発現し、そして脾臓中ではなく、大腸と小腸におけるDCsにβカテニンのシグナル伝達が活性化された。マウスのDCsからβカテニンを特異的に除去すると、調節T細胞と抗炎症性サイトカインの頻度は減少するが、一方炎症促進性Tヘルパー1とTヘルパー17細胞、および、付随するサイトカインの頻度は増加した。DCs中にβカテニンの欠乏したマウスは、大腸炎のマウスモデルにおいて感受性が強化する。(Ej,hE,KU)
Activation of β-Catenin in Dendritic Cells Regulates Immunity Versus Tolerance in the Intestine
p. 849-853.

アフリカ由来(Out of Africa)

腎疾患は、ヨーロッパ系のアメリカ人よりもアメリカ黒人においてよくみられる病気で、遺伝がそのことに寄与している主要な要因であるらしい。Genoveseたちはこのたび、アポリポ蛋白L-1(APOL1)をコードしている22番染色体上の遺伝子に特異的な配列変異体をもつアメリカ黒人が、高血圧に起因する末期腎疾患や巣状分節性糸球体硬化症を発症する危険が高いことを示している(p. 841、7月15日号電子版)。この変異体はヨーロッパ由来の染色体には存在しない。APOL1に帰着する機能の中には、トリパノソーマ類を溶解し殺すという能力がある。興味深いことに、野生型の対立遺伝子ではなく、リスク対立遺伝子由来のAPOL1はアフリカ睡眠病の原因となるローデシアトリパノソーマを殺すのである。(KF)
Association of Trypanolytic ApoL1 Variants with Kidney Disease in African Americans
p. 841-845.

解き明かされたリボスイッチ(Riboswitch Revealed)

短い調節領域、すなわちリボスイッチは、多くの細菌や植物、菌類のメッセンジャーRNAに見出される。それは小分子代謝産物に結合し、交代性のRNA二次構造の間のスイッチングを介して、リンクされたRNAの発現を制御している。Leeたちは、細菌クロストリジウム・ディフィシル中で、グループT自己スプライシング・リボザイムのスプライシングを制御しているc-di-GMP(環状ジグアノシル5'一リン酸)結合リボスイッチを同定した(p. 845)。c-di-GMPのそのリボスイッチへの結合は、(このクラスのリボザイムで典型的であるごとく)グアノシン三リン酸の存在下でのスプライシングを促進するリボザイムの高次構造を好んでいる。同時に、スプライシングは、リボソーム結合部位の形成を促進し、それによって、下流の病変形成関連遺伝子によるタンパク質産生を刺激することになる。この調節領域は、つまるところ、GTPとc-di-GMPの双方の濃度を読んで作用する2-インプットの遺伝子制御系を構成しているのである。つまり、すべてのグループT自己スプライシング・リボザイムが利己的な遺伝因子を表現しているわけではないのである。(KF)
An Allosteric Self-Splicing Ribozyme Triggered by a Bacterial Second Messenger
p. 845-848.

トポロジカル絶縁体中のキャリア移動度(Carrier Mobility in Topological Insulators)

近年発見された3次元トポロジカル絶縁体であるBi2Te3とBi2Se2の電子状態は、全てのバンド絶縁体の特徴であるエネルギーギャップに加えて、ディラック分散を有する表面準位を持つことが知られている。この表面状態は高いキャリア移動度を伴うであろうと予測されている。しかし、表面準位の伝送特性はバルク特性に埋もれてしまい観測するのが困難であった。Quらは(p.821, 7月29日電子版)フェルミエネルギーがバルクギャップ中に存在するBi2Te3結晶を作製し、量子振動を観測した。その磁場依存性から、2次元フェルミ表面に由来するものであることが明らかとなった。表面準位に起因する特異なホール伝導効果も観測された。これら2つの測定結果は、高移動度キャリアが存在していることをそれぞれ独立に示している。(NK,nk)
Quantum Oscillations and Hall Anomaly of Surface States in the Topological Insulator Bi2Te3
p. 821-824.

ネットワークを構築する(Building a Network)

生態学的ネットワークの構築とコミュニティーの安定性との関係は複雑なコミュニティーの集合体を考える上で重要である。モデルによる方法と生態系ネットワークの大規模な集合体のメタ分析を結びつけることで、ThebaultとFontaine (p. 853;および、Bascompteによる展望記事参照) は、草食系の関与する栄養性ネットワークと受粉の関与する相利共生 (mutualistic) ネットワークの間では、ネットワークの構築と安定性が基本的に異なることが分かった。これらの発見は、コミュニティーの構造と進化や、揺らぎに対する応答を理解する上で意味がある。(Ej,hE,KU)
Stability of Ecological Communities and the Architecture of Mutualistic and Trophic Networks
p. 853-856.

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