AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 16 2010, Vol.328


精子の戦い(Battle of the Sperm)

昆虫類では、複数のオスとの交尾によって得られた精子はメスの中で蓄積され、保持される。そして、メスの生殖器内で卵子を巡り、精子による競争が行われる、と考えられている。Manierたちは (p.354,3月18日号電子版)、遺伝子導入によって緑と赤の蛍光タンパク質でタグ付けされたミバエの精子の、メスのミバエの生殖器内部での挙動を可視化した。精子はメスの貯蔵器官内部で予想されていたよりも活発な動きを示していた。特に、最も間近に交尾したオスの精子が、その前に交尾したオスの精子を排除しようとする挙動が活発であった。しかしながら、精子の生存能力は長期間の保存に耐えうる安定性を維持している。それぞれのオスの精子はメスの卵子を受精させるために同じような競争能力を有している。(Uc)
Resolving Mechanisms of Competitive Fertilization Success in Drosophila melanogaster
p. 354-357.

腹八分目が長生きの秘訣(Eat Less, Live Long)

モデル生物によるいくつかの従来研究では、栄養不良にならない程度の食事制限や、突然変異もしくは薬剤による栄養シグナル伝達経路 (nutrient-sensing pathways) の操作によって寿命を延ばし、加齢性疾患の影響を減らすことができることが示されてきた。Fontanaたちは (p.321)、栄養シグナル伝達経路が老化の支配要因となっている筋道について報告している。酵母、寄生虫、げっ歯類、そして霊長類に関する研究によって、栄養シグナル伝達経路は進化を通じて維持されてきたことが示されている。霊長類の食事制限効果に関するデータは非常に限られているが、人間について言えば、食事制限が癌・心臓血管疾患・糖尿病を防ぐ効果があるとしても、その良否は長期の食事制限から起こり得るマイナスの効果をも考慮して判断されるべきである。人間の場合も食事制限と薬剤による老化防止経路の調節が寿命を延ばし、病気を減少させることができるのか、更なる研究が望まれる。(Uc,KU,nk,kj)
Extending Healthy Life Span-From Yeast to Humans
p. 321-326.

DNAの致死性分割(Deadly Diced DNA)

哺乳類細胞は、アポトーシスと呼ばれるプログラム細胞死を経験するが、このために、DFF40という名前で知られているDNA分解酵素によってDNAが破壊される。寄生虫である線虫 (Caenorhabditis elegans) の細胞も細胞死を経験するが、その場合 DFF40 酵素を用いない。Nakagawa たち (p. 327; および、Liu and Parooによる展望記事、さらに、表紙も参照) は、RNA干渉を用いてヌクレアーゼを系統的に枯渇させ、寄生虫のアポトーシスに関与している他のヌクレアーゼを探した。その結果、彼らは、リボヌクレアーゼのダイサー(Dicer:遺伝子発現を配列特異的にサイレンスさせることで知られる)が、タンパク質分解酵素 (proease) によって切断され、その触媒活性が変化させられることを発見した。残りのC末端断片は、リボヌクレアーゼ(RNA分解酵素)からDNA分解酵素に変化する。このようにして、カスパーゼの活性化が寄生虫でも同様にDNA分解を生じさせている。(Ej,hE,KU,kj)
Caspase-Dependent Conversion of Dicer Ribonuclease into a Death-Promoting Deoxyribonuclease
p. 327-334.

水の酸化を加速すること(Bulking Up Water Oxidation)

光合成と同種なプロセスで、水の酸化によって太陽エネルギーを蓄積するアプローチは、再生可能なエネルギーのインフラ構築において有望である。残念ながら、このプロセスにおける活性な合成触媒の多くは、発生した酸素によって分解してしまう。Yinたち (p. 342,3月11日号電子出版;Hurstによる展望記事参照) は嵩高いポリオキソメタレート配位子を用いて、触媒反応のコバルト中心をこの分解してしまう性質から保護した。安価なタングステン、コバルト、及びリン酸塩を沸騰水中で最適な比率で混合することによって、錯体が簡単に作られた。わずかに塩基性の水溶液中で触媒を単離し、再溶解後に、急速な酸素の発生していることがルテニウム系酸化剤を用いて観測された。(hk,KU)
A Fast Soluble Carbon-Free Molecular Water Oxidation Catalyst Based on Abundant Metals
p. 342-345.

おとめ座の中のクラスター(Cluster Within Virgo)

球状星団は、銀河の内部に重力的に拘束された系であり、数十万個の星を含んでいる。Lee たち (p.334, 3月11日号電子版) は、Sloan Digital Sky Survey からのおとめ座銀河団を構成する数千個の銀河のデータを用いて、およそ60年前の予言を実現した。すなわち、銀河の外部にある球状星団を見出した。おとめ座においては、球状星団は、そのおとめ座銀河団の中心からずっと離れたところに見つかっており、銀河よりずっと大きないくつかの構造に集中している。この構造は銀河団より下位のものである。おそらく、それらは質量の小さな矮小銀河から剥ぎ取られたものであり、おとめ座銀河団の内部のダークマターの分布を追跡できる可能性がある。(Wt)
Detection of a Large-Scale Structure of Intracluster Globular Clusters in the Virgo Cluster
p. 334-336.

芳香族性の鉛(Aromatic Lead)

ベンゼン等の環状の炭素分子で見られる結合の安定性、或いは芳香族性は環の周りの電子の非局在化による。より重い元素における電子分布はこの非局在性の電子配置を複雑にするが、Saitoたち (p. 339) は、炭素と同族の最も重い金属の一つである鉛においても異なる炭素ベースの芳香族性ネットワークに組み込まれ得る。よく研究されているシクロペンタジエニル陰イオンの類似体において、炭素原子の一つを鉛で置換し、かつその骨格は他の4個の炭素にフェニル基を付加することで安定化された。結晶解析から平面構造であることが明らかにされ、更に分光学データと理論計算からこの化合物の芳香族性が確認された。(KU,kj)
Dilithioplumbole: A Lead-Bearing Aromatic Cyclopentadienyl Analog
p. 339-342.

ホウ素と酸素の三重結合(One B, One O)

ホウ素は複数の異なる原子と電子を共有する性質があり、それ故に豊富なクラスター化学を形成するが、これは他の殆どの軽元素の化合物で良く知られているより古典的な二センター、二電子結合とは異なる。Braunschweigたち(p. 345)はホウ素をより限局した環境内に配置し、そして三重結合したBO陰イオンとして一酸化炭素のホウ素類似体を合成したが、この陰イオンは白金センターへの配位により安定化された。この化合物は室温溶液中で酸素にシリル基を、ホウ素には臭化物を付けた前駆体から容易に作られ、熱や光分解に対して驚くべき安定性を示した。BO陰イオンは基本的な二成分系の基本材料であり、CO、CN-及びNO+ (これらは50年以上前から有機金属化学と錯体化学において鍵となる二成分配位子である) と同じ等電子構造を有している。(KU,kj)
Oxoboryl Complexes: Boron?Oxygen Triple Bonds Stabilized in the Coordination Sphere of Platinum
p. 345-347.

少し若返った火星の隕石(Less Old Martian Meteorite)

最も古い火星の隕石として知られるALH84001は、マグマの大洋が固化する間に形成された原始火星地殻の遺物と考えられていた。Lapenたち(p.347)は同位体データを使い、この隕石の結晶化年代を、45.1億年前から40.9億年前に修正した。従って、この岩石は、42.5億年前から41.0億年前の間に発生した激しい衝突爆撃期間を生き延びた原始地殻の断片ではありえないことを意味している。修正された年代は、火星のマグマ活動は火星の歴史の中の大部分で進行していたこと、そして本当は、ALH84001 はこの激しい爆撃期間中に形成されたことを示しており、その時期はちょうど火星のコアのダイナモが停止して惑星磁場を失う以前である。(TO,KU,Ej,tk)
A Younger Age for ALH84001 and Its Geochemical Link to Shergottite Sources in Mars
p. 347-351.

ボルボックス属を明らかにする(Revealing Volvox)

緑藻類、ボルボックス属の雄性と雌性の配偶子はサイズにおいて大いに異なる。およそ2億年前にボルボックス属から分かれた系列由来の別の緑藻類であるクラミドモナスのそれは同じ大きさである。我々が知っているクラミドモナスの性は、MTと呼ばれる性決定座位によって支配されている。ボルボックス属とクラミドモナスのMT座位の詳細な比較から、Ferrisたち(p. 351)は、MTが遺伝子配列順においてかなりの類似性を保持しているが、その組成は両者の間で大きく変化していることを見出した。ボルボックス属において、いくつかの新しい遺伝子がこの配座に加わり、性-特異的な発現を示している。(KU,Ej,kj)
Evolution of an Expanded Sex-Determining Locus in Volvox
p. 351-354.

中和された豚インフルエンザ(Swine Flu Neutralized)

2009年の H1N1型インフルエンザウイルスは、高齢者では感染率が有意に低かった。最近、1918年のインフルエンザ大流行の生存者から単離された抗体が、2009年の H1N1型ウイルスを交差中和することが明らかになった。Xuたちは(P.357,3月25日号電子版)、両方の大流行ウイルスと交差反応する中和抗体と複合させた2009年の H1N1型のウイルス外膜タンパク質、ヘマグルチニン(HA)と1918年の H1型のHAの結晶構造を報告している。これらの研究は、あるエピトープ (抗原決定基) が両方の大流行ウイルスには保存されているが、1930年代から現在までの他の有名なH1型のHA では異なっていることを明らかにした。この抗原の類似性が2009年の H1N1型インフルエンザに対しての年齢に関係した免疫性を説明している。(Sk,kj)
Structural Basis of Preexisting Immunity to the 2009 H1N1 Pandemic Influenza Virus
p. 357-360.

タンパク質領域のスワップで表現型が変化する(Domain Swaps to Phenotype Shifts)

自然選択が生じるためには表現型の多様性を創造するメカニズムがあるに違いない。これには生体内での比較的単純な分子の変化が係わっていると思われる。Peisajovich たち(p. 368) は、酵母において接合を制御している生化学的シグナル経路の成分の内で、タンパク質領域の系統的なスワップ(交換)が、どの程度の表現型の変化をもたらすかをテストした。このような変化は酵母の接合フェロモンへの応答性を増加させたり減少させたりしたが、その内のあるものは接合効率の変化へと (タンパク質)翻訳された。著者たちは、進化上の表現型の多様性はモジュラータンパク質領域のシャッフル(入れ替え)が原因として重要であり、生命系を操作するための有用な戦略にもなるであろうと提案している。(Ej,hE,kj)
Rapid Diversification of Cell Signaling Phenotypes by Modular Domain Recombination
p. 368-372.

T細胞シグナル伝達の陰と陽(Yin-Yang T Cell Signaling)

免疫応答は、CD4+エフェクターT細胞(Teff)のような自分以外の免疫細胞を抑制するCD4+調節性T細胞(Treg)によってチェックをかけられている。Treg細胞とTeff細胞は、シグナル伝達成分の多くが共通だが、それぞれのT細胞受容体(TCR)を介してトリガーされると、まったく違った結果がもたらされる。Zanin-Zhorovたちは、Treg細胞とTeff細胞におけるTCRによるトリガーの後での、免疫学的シナプスへのシグナル分子の補充を比較した(p. 372,3月25日号電子版)。Treg細胞はシナプスを形成するのだが、Teff活性化を促進するプロテインキナーゼ C-θ(PKC-θ)などのシグナル分子は補充されなかった。Treg細胞におけるPKC-θの枯渇ないし抑制はTeff細胞に対する抑制性の活性をもたらす一方、双方の細胞が刺激されると、PKC-θ補充が促進されTeff cells抑制が低下した。まとめると、これは、PKC-θがTreg細胞およびTeff細胞双方で炎症性であることを示唆する。しかしながら、それをシナプスから除外することによって、Treg細胞はTCRシグナル伝達に際して抑制を維持できるのである。(KF,kj)
Protein Kinase C-θ Mediates Negative Feedback on Regulatory T Cell Function
p. 372-376.

カーペットの下に隠す(Hidden Under the Carpet)

変換光学 (transformation optics) は、複雑な屈折率プロファイルを持つ構造体加工技術と組み合わせることで、例えば対象物体とそれを包むマント自体を見えなくしてしまうような、夢のような光学特性を有する素材を創出できる。これまで、そのようなマントは 2次元の平面的なものでしか達成できておらず、実用には制限があった。空孔をポリマーで満たされたフォトニッククリスタルを用いて、Erginらは(p. 337、3月18日号電子版) 3 次元形状の見えないマントを設計・加工し、可視光領域で実演して見せた。(NK)
Three-Dimensional Invisibility Cloak at Optical Wavelengths
p. 337-339.

2つの目標に同時に仕える(Simultaneously Serving Two Goals)

二重作業の履行の成績の根底にある神経細胞機構は何であろうか? Charron と Koechlin は、機能的磁気共鳴画像法を用いて、2つの課題に対するさまざまなインセンティブの条件下で、この疑問を研究した(p. 360)。被験者は複数の文字照合作業を順々に、あるいは同時に行った。2つの課題のそれぞれの成績に対する報酬の値は、直交性を満たすように操作されていた。単一(シーケンシャル)作業では、彼らは、脳の両側の、背側前帯状回と運動前野皮質において、現行作業の評価に比例する活性を観察した。しかしながら、二重作業条件下では、左側のそうした領域での活性が主要作業の報酬の成績に対応している一方、右側では、活性は二次的作業の成績に対応していた。二重作業条件下では、報酬と刺激-応答の表現の双方が、このように半球に分離されていたのである。(KF,kj)
Divided Representation of Concurrent Goals in the Human Frontal Lobes
p. 360-363.

もうオーファン(孤児)ではない(Orphan No More)

グルタミン酸受容体δ2(GluD2)は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体のもう1つのメンバーであるが、内在性リガンドに既知のものがなかったため、長いことオーファン受容体だと考えられてきた。にもかかわらず、GluD2 は小脳回路の正常発生には必須のものである。免疫細胞化学やバインディングアセイ(結合性検定法)、電気生理学さらにはフリーズフラクチャー電子顕微鏡を用いて、Matsudaたちは、小脳顆粒細胞か ら分泌される可溶性タンパク質 Cbln1 が、プルキンエ細胞上で GluD2 の細胞外N末端に結合することを見出した(p. 363)。その結合は、2つの独立な結果をもたらす。第一に、それはシナプス前分化をもたらし、第二にそれは、いくつかの重要なシナプス特異的分子のシナプス後クラスター形成の原因となる。双方のイベントは、顆粒細胞とプルキンエ細胞の間でのシナプス形成に必須なのである。(KF,kj)
Cbln1 Is a Ligand for an Orphan Glutamate Receptor δ2, a Bidirectional Synapse Organizer
p. 363-368.

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