AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 2 2010, Vol.328


テイラーメイドの腫瘍(Tailor-Made Tumor)

生体栄養性の黒穂病原体であるトウモロコシ黒穂病菌は、重要な穀物、トウモロコシに特異的に感染する。この病原体は、腫瘍経路中に原基を再度向けることで総ての気生のトウモロコシの器官に大きな腫瘍を誘発するが、トウモロコシに発生した変異体が腫瘍の増殖を破壊する。Skibbeたち (p. 89) は、宿主植物と黒穂病原体の双方並行してに遺伝子発現を調べ、そして器官-特異的な遺伝子発現パターンが腫瘍形成において両者に必要であることを見出した。このように、病原真菌は植物における様々な器官や組織において異なる影響を発揮しているようで、恐らく病気に罹った植物で産生される多様な病状を説明するものであろう。(KU,kj)
Maize Tumors Caused by Ustilago maydis Require Organ-Specific Genes in Host and Pathogen
p. 89-92.

磁性の起源(On the Origins of Magnetism)

銀河と銀河団の磁場は、原始の弱い磁場の増幅の結果であると考えられている。そして、その弱い磁場は、ある種の理論によると、銀河および銀河団の間の何もない空間の中に存在するはずある。Neronov と Vovk (p.73) は、Fermi Large Area Telescope からのデータの解析に基づいて、銀河間磁場の存在の証拠を与えるとともに、それらの強度の下限を導出している。その結果は、磁場生成モデルに制限を与えるものであり、磁場は銀河形成が起こる前の原始宇宙に起源を有することを示唆している。(Wt)
Evidence for Strong Extragalactic Magnetic Fields from Fermi Observations of TeV Blazars
p. 73-75.

サイトメガロウイルスの免疫回避戦略(Cytomegalovirus Immune Evasion Strategy)

サイトメガロウイルス(CMV)は、世界の人口の大きなパーセンテージに感染している。感染した人たちの大部分は無症候性である。しかしながらCMVは、免疫不全の人々や新生児にとって、公衆衛生上のかなりの課題である。CMVは重感染するという点で普通と違っている。それは、ウイルスにすでに感染している宿主に、たとえ強固な特異的な免疫応答が存在していても、再感染するのだ。Hansenたちはこのたび、ヒトのCMV重感染の良いモデルであるアカゲザルにおいて、CMVがCD8+T細胞によって仲介された免疫応答を逃れることによって重感染を確立することを発見した(p. 102; またHengelとKoszinowskiによる展望記事参照のこと)。CD8+T細胞への抗体提示を制御するUS2-11糖タンパク質の発現に欠陥のある一連のウイルス変異体は、初感染の確立は可能だけれども、重感染することができない、ということが明らかになった。サルからCD8+T細胞を枯渇させると、そうした変異体ウイルスによる感染も可能になった。こうした結果は、CMVそのものに対する効果的な保護ワクチンの開発の難しさに光を当てるだけでなく、CMVベースのベクターがHIVに対するものなどの他のワクチン開発に向けた努力にとって有益である可能性があることを示唆している。(KF,nk)
Evasion of CD8+ T Cells Is Critical for Superinfection by Cytomegalovirus
p. 102-106.

薄い摩擦(Thin Friction)

二つの面間の摩擦運動は、連続的な接触と面間の引力によって生じる摩擦力により常に妨害される。このような相互作用は数ナノメーターの距離の範囲でのみ生じるが、相互作用する物質そのものがその程度の厚みしかない場合、どのような事が起きるであろうか?Leeたちは (p. 76; Muser と Shakhvorostovによる展望記事を参照)、異なる電気特性を有する4種類の原子レベルの厚みの準2次元的物質との接触におけるシリコンチップの摩擦特性を調べた。その結果、どの材料でもそれが担体で支持された薄片状態であろうと、束縛なしに浮遊している薄片を形成した穴の上方にある領域であろうと、フィルムの厚みが減少するほど摩擦は増大することがわかった。しかし、雲母上に強固に付着させたグラフェン (炭素原子膜) では、この傾向が抑制された。このことから、これらの薄い、弱く接着されたフィルムでは面外の座屈現象が摩擦反応を支配しており、これがこの共通の性質に繋がっていると思われる。(Sk,KU,ok)
Frictional Characteristics of Atomically Thin Sheets
p. 76-80.

夜明け前の海(Oceans Before the Dawn)

化石記録によって、カンブリア紀初頭 (5.42億年前) の海洋において動物種が爆発的に多様化したことが分かっているが、この増加に対する進化的な圧力に関してはいまだ良く分かっていない。ありそうに思えるシナリオは、海盆における酸素分布が大きく変化したことが要因であるというものである。しかし、この時期、地球が氷河に覆われていたこと、岩石記録が殆ど存在していないことから、動物が誕生する前の地球環境の明確な描写をすることが妨げられていた。Liたちは (p. 80, 2月11日号電子版;Narbonneによる展望記事参照)、中国南部で得られた堆積岩の地球化学的構造の特徴を記述した。この堆積岩によれば、カンブリア紀に至るまでの数百万年間において、硫化物を豊富に含む貧酸素水の層と鉄を豊富に含む貧酸素水の層、すなわち硫酸塩に乏しい層が互層して存在していたことが示されている。このような環境条件はやがて、光合成生物の生産性を上げる場を整え、海洋の酸素を増加させ、急速な動物種の進化を促したのかもしれない。(Uc,kj)
A Stratified Redox Model for the Ediacaran Ocean
p. 80-83.

アンチマターの核を作る(Forming Antimatter Nuclei)

原子核はあらゆるところに存在するものであり、我々が見ることのできる宇宙にある全ての物質を形成している。彼らの対応物であるアンチ核またはアンチマターは、世の中に姿を現すことに関しては比較的恥ずかしがり屋である。Chenらは(p. 58, 3月4日号電子版;Cohenの展望記事参照)はRelativistic Heavy−Ion Collider(相対論的重イオン衝突器)を用いて、金イオン高エネルギービームを正面衝突させることにより、その存在を巧みに導いた。衝突の残骸の中の崩壊過程や粒子軌跡から、アンチマターからなる核の形成を示唆する証拠が見つかったと言う。これら神秘的な粒子を大量に作ることで、核物理、天体物理学、宇宙論の基礎的知見を得ることに大いに役立つであろう。(NK,KU)
Observation of an Antimatter Hypernucleus
p. 58-62.

男親のサイズ(The Size of the Father)

最近、進化論生物学者は、適応性の高い雄(male)が適応性の低い娘(daughters)を生み出す(sire) という興味深い現象を発見した。この性的対立(sexual conflict)は、「良い遺伝子」のための配偶者選択という利益を圧倒することになり、進化論の中心的な教義に対して挑戦しているという新たな認識が生まれた。CoxとCalsbeekは(p. 92, 3月4日号電子版) は、ブラウンアノールトカゲの雌は適応性の高い(大きな)雄と交わって、不釣合いに多くの雄の子を作って子孫の性を偏らせることにより遺伝的な利益を得ているという対照的な例(counterpoint)を示している。この性比率の偏りの有利な点は、彼らの自然環境における雄の子や雌の子の適応性を追跡することで確かめられ、自然界における性的対立の重要性を例証している。このように、雄親の身体が大きくなると生まれる子供の息子対娘比が息子側に傾くことで最大限の繁殖適応度が達成されるために、適応度の高い雄親を選んだ場合に適応度の低い娘が生まれるという適応度低下効果が乗り越えられるのである。(TO,KU,nk,kj)
Cryptic Sex-Ratio Bias Provides Indirect Genetic Benefits Despite Sexual Conflict
p. 92-94.

ヒストンの遺伝(Histone Inheritance)

真核生物のゲノムのパッケージング材料である染色質は、後成的な情報に対する潜在的な貯蔵庫である。染色質のコア構造はヌクレオソームであるが、これは、ヒストンタンパク質の八量体、ヒストンH2AとH2Bの二つの二量体、及びヒストン3と4から構成されている。ヒストン3と4は細胞分割を通して受け継がれると推定される一連の共有結合的修飾を担っている。タグ付けと同位体で標識付けされたヒストンの質量分析を用いて、Xuたち(p. 94;Ray-Gallet and Almouzniによる展望記事参照)は、有糸分裂を通してのヒストンそれ自身の継承を追跡した。H2AとH2Bの二量体は細胞分裂を通してランダムに受け継がれており、主要な共有結合性標識の欠如と相関している。対照的に、DNA複製で堆積した(replication-deposited)H3.1-H4二量体は細胞分裂をとおして分離することは無く、H3とH4のヒストン修飾が隣接する既存のヒストンからのコピーによって維持されている可能性を示唆している。興味深いことに、非複製的に堆積したH3.3-H4(これは活性な染色質を標識する)の1/4までが細胞分裂中に分離した。(KU,kj)
Partitioning of Histone H3-H4 Tetramers During DNA Replication-Dependent Chromatin Assembly
p. 94-98.

精子の生成系統のメンテナンス(Sperm Production-Line Maintenance)

平均的男性は心拍あたり1500を越える精子を作る。このような早わざを巧みに行うには頑強な幹細胞系が必要である。Nakagawaたち(p. 62,3月18日号電子版)はマウスを用いて、この頑強さに寄与するマウスの生殖系列幹細胞系の性質の幾つかを解明した。定常状態の精子形成期間に、幹細胞集団の大多数はA型精原細胞と呼ばれる細胞のサブセット内に存在している。しかしながら、再生期間において(例えば、薬服用後の幹細胞プールの回復中)、この幹細胞系は実際に、初期-分化中の細胞をハイジャックして幹細胞の区画内へと元に戻す。細胞系譜解析と生きた生殖系列幹細胞系のイメージングから、精子生成期間において幹細胞から分化への経路が一つ以上あることを示唆している。(KU)
Functional Hierarchy and Reversibility Within the Murine Spermatogenic Stem Cell Compartment
p. 62-67.

開けゴマ(Open Sesame)

プロテアソーム(proteasome)は、タンパク分解を触媒することを介して、細胞の恒常性において鍵となる役割を果たしている。それは樽型のナノマシンで、その活性は基質の侵入に対するゲート開閉を介して制御されている。Religaたちはこのたび、プロテアソームにおけるN末端のゲート開閉の残基(residue)が、秒レベルで高次構造の間(プロテアソームのantechamber(控えの間)の外か内のどちらかにゲート開閉の残基を配置した構造)で相互変換しておることを明らかにした(p. 98)。「内」状態を占める末端の数が増加すると、加水分解の比率は減少した。さらに、タンパク質分解の比率を増加させると知られているプロテアソーム活性化因子は、「外」状態にある末端の数の増加をもたらしたのである。(KF,KU)
Dynamic Regulation of Archaeal Proteasome Gate Opening As Studied by TROSY NMR
p. 98-102.

正確かつ効率的な、皮質の情報交換(Precise and Efficient Cortical Communication)

視床のニューロンは、標的となるニューロンまで接続されたシナプス結合がほとんどないのに、いかにして確かに情報を大脳皮質まで伝達しているのだろう? 視床からの相関した入力スパイクについては報告されてきたが、同期的な入力の数とその精度および信頼性は不明である。Wangたちは、生体内での視床と皮質の同期的記録という独特のデータを分析し、それを皮質ニューロン・モデルのシミュレーションと比較した(p. 106)。記録されたスパイク列をモデルへの入力に用い、測定された出力スパイク列でそのモデルを束縛することによって、外側膝状核からの同期的入力の収束度についての強い予測が可能になった。シナプス入力の強さや頻度ではなく、むしろ同期性こそがシグナル伝達の鍵であって、そのデータは、最適な同期的コード化の領域が存在している可能性があることを示唆するものであった。(KF)
Synchrony of Thalamocortical Inputs Maximizes Cortical Reliability
p. 106-109.

開けたり閉めたり(Open and Closed Case)

膜の両側の電位に従って電圧センサーの立体配置を変化させることで、イオンチャネルのゲートは制御される。Tao たち(p. 67;および、表紙を参照)は、変異原性(mutagenesis)、電気生理学(electrophysiology)、x-線結晶学の知識を動員し、電位で変化するカリウムチャネルの電位依存性を分子レベルで調べた。閉鎖された部位は、膜を横切る正電荷の移動を触媒させる場所であると同定された。この閉鎖チャネルは膜の過分極の度合いに依存した高次構造(コンフォメーション)の分布に付随しているように見え、一方開いたチャネルは特定の高次構造に付随しているように見える。このようにイオンチャネルの開閉は非常に小さな電位の変化に対応して生じている。(Ej,hE,KU)
A Gating Charge Transfer Center in Voltage Sensors
p. 67-73.

沈み行く海底(Sinking Sea Floors)

海洋底物質の中央海嶺における上昇と沈み込み帯における下降に対応して、海洋底の深さは定常的に緩やかな周期で振動している。形成年代が古い海底ほど冷却されており、深度が大きくなりやすいため、海底深度は形成年代に直接関係していると考えられてきた。しかしながら、AdamとVidalは(p.83;Tolstoyによる展望記事参照)本報告で、太平洋の深度は実際は海洋地殻の下部に存在するマントルに影響を受けて変化することを示している。この影響は海洋底深度を岩石圏の流動線に沿って計算された際に明らかになった。このことは、海洋地殻の挙動がマントルの対流によって影響を受けていることを示している。マントルの熱モデルによれば、古い海洋地殻を維持するために更なる熱供給を追加する必要は無い。従来のモデルによる予測では、海洋底は平らであるはずだが、実際にはそうなってはいないからである。(Uc)
Mantle Flow Drives the Subsidence of Oceanic Plates
p. 83-85.

花の力(Flower Power)

シロイヌナズナという植物における転写制御因子APETALA1 (AP1)は、栄養成長から花の生成への推移を制御している。このAP1を制御している少数の因子およびAP1が制御する少数の標的がこれまでに同定されている。Kaufmannたち(p. 85) は、ゲノム全体のマイクロアレイ解析を実施し、ゲノムの転写がAP1に制御されている1000以上の遺伝子を同定した。AP1の結合部位に近接する2000個を超える遺伝子がAP1の推定標的として関連付けされた。このネットワークの相互作用解析から、AP1機能は最初に発育部分を抑圧し、次に、花の原基の確立を助け、最後に花の部品を分化させ、花を形成させることが示された。(Ej,hE)
Orchestration of Floral Initiation by APETALA1
p. 85-89.

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