AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 12 2010, Vol.327


光制御によるリボン状の捻じれたナノ粒子(Nanoparticles, Lightly Twisted)

らせん状の構造を持つ巨大分子は自然界に広範に存在しているが、これは強い結合相互作用によるもので、物理的性質が特異な形状として表現されたものである。 Srivastava たち(p. 1355,および、2月11日号の電子版参照)は、CdTeのナノ粒子中でTeイオンをゆっくり酸化させ、数層の(CdS)/CdTe結晶層からなる、1〜4マイクロメートルの長さの滑らかなリボン状のナノ構造物質を構築した。このリボンに可視光を照射すると、右巻きと左巻きのらせん体の等しく分布したリボンの捩れが生じ、捩れのピッチ長(250〜1500ナノメートル)は光量に依存する。この捩れは、CdSの光酸化により引き起こされるリボン構造体における機械的せん断応力の解放に起因する。楕円形状やリボン塊状とかの中間的形状が観察された。この特性は、興味深い光学的性質を持つ物質の応用開発を約束するものである。(Ej,hE,KU)
Light-Controlled Self-Assembly of Semiconductor Nanoparticles into Twisted Ribbons
p. 1355-1359.

サリドマイド催奇性標的(Thalidomide Teratogenicity Target)

1950年代の終りから1960年代の初めにかけて、妊婦の早朝嘔吐の治療薬としてサリドマイドが処方されたが、しばらくしてこれが何千人もの乳児の手足の発育不良を伴う発生障害を引き起こすことが分かった。この使用は世界的に禁止されたが、サリドマイドは 炎症性障害やハンセン病、それに多様なガンの治療に有効であることが判ってきた。これに対していくつかの仮説が提案されたが、サリドマイドの作用のメカニズムは不明のままだった。ゼブラフィッシュと ニワトリを使った動物実験により Ito たち(p. 1345) は、サリドマイドがセレブロン(cereblon)タンパク質を標的にしていることを解明した。サリドマイドは、肢の発生に重要なセレブロンに結合し、それによって酵素活性を抑制することで、催奇性効果を発揮する。このメカニズムの発見によって、催奇活性の無いサリドマイド誘導体の探索が推進されるであろう。(Ej,hE)
Identification of a Primary Target of Thalidomide Teratogenicity
p. 1345-1350.

散乱と結合(Scattered and Coupled)

空洞量子電磁力学は物質と光の結合を、理想的には、1個の光子と1個の原子との結合を探索している。通常、この結合には、光子と原子の相互作用の確率を増すために両者は閉じ込められる必要がある。しかしながら、光の散乱は工学的な装置においては避けられない産物であり、普通この散乱は空洞から光子の損失を伴うという理由で有害であると考えられている。Sapienzaたち(p. 1352; Wiersmaによる展望記事参照)は、極端な光散乱を光-物質の結合作用を誘発するために利用できる局在モード光の自然放射源と看做した。このケースのように、散乱が有害とするよりむしろ有益な手段と考えるようなプロセスの研究は、ロバストな量子情報装置を実現するために有益であることが証明されるかもしれない。(hk,KU,nk)
Cavity Quantum Electrodynamics with Anderson-Localized Modes
p. 1352-1355.

わずかにひびが入る(Slightly Cracked)

物質中のひびが伝播する詳細な理論は複数存在するが、その理論はひびの先端近傍に関しては成り立たない。ひびの先端での伝播の観察は、移動速度が速いため非常に困難である。Livne たち(p. 1359)は、ひびの伝播が非常に遅く観察が可能なポリアクリルアミドゲルを使って研究した。成長するひびによってエネルギーが散逸する前に、線形や非線形の階層的なエネルギー輸送領域が存在することが観察された。ひび割れが進行中にひずみがどう分布しているかが、ひびによる破壊の結果が真直ぐに伸びるかギザギザになるかを決定する。(Ej,hE,nk)
The Near-Tip Fields of Fast Cracks
p. 1359-1363.

ママ、お話して(Speak to Me, Mama)

母性効果とは、例えばホルモンのように母親のその子供に対する効果である。その効果は遺伝的に受け継がれたものではなく、母親の表現型や環境に影響されている。普遍的に発生しているにも関わらず、母性効果の進化的な影響については殆ど分かっていない。Hinde(p.1373;表紙参照)たちは鳥類において母性効果のモデルを立て、雛の巣籠りや給餌アピールもまた、子供の生命力の情報を母鳥に提供すること、反対に、母性効果は胎内児に対しては母鳥の親としての資質に関する情報を与えることを示した。カナリアを使った実験的研究はこのモデルの理論的な予測を支持し、同時にこれらの研究によって、親子間対立、すなわち、雛の自己への速やかな餌等の資源の要求と、これから生まれてくる雛への資源を保存しようとする親の要求との対立、は雛が生まれる前と後での情報の相互交換によって解決されていることを示した。母性効果のホルモン信号は、親の給餌能力と親の給餌能力に適合しようとする孵化後の雛の振る舞いや発育との間の調和をもたらしている。(Uc,KU,kj)
Parent-Offspring Conflict and Coadaptation
p. 1373-1376.

恐竜の羽毛(Dinosaur Plumage)

動物の体色と外観は、行動生態と進化に関する重要な情報をもたらしてくれる。しかしながら、殆ど全ての場合において、陸生動物の化石の元々の色彩については知ることができない。獣脚類恐竜の外観について、Liたちは(p.1369,2月4日号電子版)保存性の良かった羽毛の特徴をマッピングし、現代の鳥類標本と比較することによって再構築をした。羽毛の色彩はメラニン小体の密度と形状の情報によってその一部を決められたが、この色彩情報は中国で最近発見された化石に保存されていたものである。この恐竜は白色の脚を持つ灰色の外観を有しており、赤い冠毛、斑模様の顔をしていた。(Uc,KU,kj)
Plumage Color Patterns of an Extinct Dinosaur
p. 1369-1372.

タイタンをコアまで貫いて(Titan Through to the Core)

周回する惑星探査機からの重力測定は、惑星やその月の内部に関する有用な情報を提供する可能性がある。Iess たち (p.1367; Sohl による展望記事を参照のこと) は、探査機カッシーニが土星の月であるタイタンを通過する4回のフライバイ(接近飛行)から得られた重力データを用いて、その月の重力場をモデル化し、それの深部の内部構造を探査した。彼らの解析はタイタンが、氷と岩石の混合物か、あるいは含水ケイ酸塩鉱物から構成されるコアを有する、部分的に分化した天体であることを示唆している。(Wt,tk)
Gravity Field, Shape, and Moment of Inertia of Titan
p. 1367-1369.

移動するシグナル(Moving Signals)

ヒト乳癌の多くのタイプは細胞表面受容体EphA2を過剰発現するが、このEphA2は隣接する細胞に存在するリガンドエフリン-A1によって活性化されるチロシンキナーゼである。Salaitaたち(p. 1380:Paszek and Weaverによる展望記事参照)は、力学的に刺激されたEphA2のシグナル伝達の制御を研究しているが、このシグナル伝達は生きているEphA2-発現ヒト乳癌細胞と側方に動くエフリン-A1を表示する基板に支持された膜の間の膜間シグナル伝達の誘発による。受容体がそのリガンドと結びつくと、両者がクラスターを形成し、細胞と膜の間の接合部へと放射状に移動する。この移動を物理的に阻害すると、エフリン-A1への細胞応答が変化した。異なる乳癌細胞株は受容体の移動において異なり、癌細胞の侵入ポテンシャルと相関があり、そして転移形成に関するその能力を示すものであろう。(KU)
Restriction of Receptor Movement Alters Cellular Response: Physical Force Sensing by EphA2
p. 1380-1385.

ジヘムの変換(Diheme Coversion)

メチル栄養性(methylotrophic)の細菌や無機栄養性(autotrophic)の細菌に見出される脱水素酵素(この酵素はメチルアミンをアンモニアとホルムアルデヒドに変換する)は、翻訳後に修飾されて共有結合的に結合した補助因子を作る必要がある。補助因子の合成はジヘム酵素、MauGにより完成するが、MauGは2個のトリプトファン残基を酸化的に結合してトリプトファントリプトフィルキノンを作る。Jensenたち(p. 1392;Bollinger and Matthewsによる展望記事参照)は、メチルアミン脱水素酵素の前駆物質に結合したMauGの触媒性の強い複合体の結晶構造に関して記述している。反応性のトリプトファンは中に埋め込まれ、二つのヘム鉄から十分に分離されている。新たに作られたトリプトフィルキノンの部位に最も近いヘムは異常なヒスチジン−チロシン軸と共に6配位している。その軸のチロシンは触媒作用に関与するビス-Fe(IV)状態を安定化しているらしい。2個の別のチロシン残基は長距離のタンパク内の電子やラジカルの転移に関与可能な位置にある。(KU)
In Crystallo Posttranslational Modification Within a MauG/Pre-Methylamine Dehydrogenase Complex
p. 1392-1394.

まずは毛から、次には皮膚へ(Hair Today, Skin Tomorrow)

哺乳類の表皮には、毛包や皮脂腺、それに毛包(濾胞)間表皮が含まれるが、そうした構造の発生と修復がどのように制御されているかは、はっきりしていなかった。Snippertたちは、毛包内の幹細胞クラスター、これは小腸および結腸中の幹細胞のマーカーであるLgr5に近い相同体であるLgr6を発現することで特徴づけられるが、それが、毛隆起のすぐ上にあって、皮膚の細胞系譜すべてを生じさせていることを示している(p. 1385)。成体マウスにおける皮膚の傷は、その損傷に隣接する毛包中のLgr6幹細胞によって修復される。毛の形態形成の後で、Lgr6幹細胞は上皮性および皮脂腺性の系列を産生し、新たな皮膚へとじゅうぶん分化させていくのである。(KF,kj)
Lgr6 Marks Stem Cells in the Hair Follicle That Generate All Cell Lineages of the Skin
p. 1385-1389.

変化にも安定な(Steady As She Blows)

多くの生物の制御ネットワークの基礎的特徴は、細胞の状態中の環境性変数の結果として変化しうる他のネットワーク成分の量的変動にも関わらず、或る特定成分の濃度を狭い範囲内で定常状態に維持できる能力にある。数学的解析によって、ShinarとFeinbergは、動揺に対して頑強なネットワークの必須要件を明らかにした(p. 1389)。この方法を使って、2つの細菌系、その1つは浸透圧調整において機能するもので、もう1つは代謝における炭素流動を制御するもの、の頑強さの源泉が説明されたのである。(KF)
Structural Sources of Robustness in Biochemical Reaction Networks
p. 1389-1391.

自己犠牲的意地悪と利他行動(Spite and Altruism)

多くの社会的動物は、利他行動、すなわち他者を助けるために自分自身の適応上の損をこうむる行為を示すことがある。そのもっとも極端な例の1つが、社会的昆虫(ミツバチやアリ)のそれで、コロニー内の個体のうち、数匹のみが子を産むというものである。非生殖性の個体は、若い非生殖性個体の生育に寄与し、その結果、集団としての適応度を上昇させているのである。一方、自己犠牲的意地悪(Spite)が生じるのは、ある個体が、自身の適応度を損なってでも相手に害をなす場合である。利他主義の逆に当たるこのネガティブな行動のタイプは、加害者にとって犠牲者が、集団の平均的メンバーよりも関係が薄い場合に生じる。WestとGardnerは、利他主義と自己犠牲的意地悪、さらにはそれに付随する緑髭(greenbeards)現象の起源とその維持についての最近の文献をレビューした(p. 1341)。緑髭とは、受け継がれた可視的な形質を使って親戚筋であることを知らせ、利他主義を促進するものである。緑髭遺伝子とは、出会った協力者と協調行動を取るようコードされた遺伝子の組み合わせをリンクする仕組みである。こうした形質は、行動の装飾あるいは型に過ぎないかもしれないが、結果としては利他的ないし自己犠牲的意地悪行動をもたらしている。(KF,nk,kj)
Altruism, Spite, and Greenbeards
p. 1341-1344.

太陽プラズマの子午線での流れ(Solar Meridional Flow)

太陽の表面はプラズマから構成され、観察可能な流れのパターンを示している。最も弱い流れのパターンは赤道から極に向かう子午線に沿って生じている。Hathaway and Rightmire(p. 1350)は、1996年と2009年の間に太陽観測衛星Solar and Heliospheric Observatoryに搭載されたマイケルソン・ドップラー画像装置で撮影された観測データを用いて、その子午線での流れを測定し、そしてその子午線での流れが太陽の黒点周期と共に変化していることを、例えば1996-1997年の黒点周期の最小期の期間よりも2004-2009年の最小期の間で流れがより速くなっていることを見出した。この知見は、最後の黒点の最小期が以前の周期と比べて独特のものであるという更なる証拠を与えるものである。(KU)
Variations in the Sun’s Meridional Flow over a Solar Cycle
p. 1350-1352.

電気化学的眺望(An Electrochemical Landscape)

電気化学的な検出は、微量化学分析、グルコースや神経伝達物質のモニタリング、DNAやタンパク質の検出、及び電気触媒反応等の広範囲な目的に用いられている分析方法である。走査型電気化学顕微法は連続的な方法で表面に沿っての局所的な電気化学的電流の変化をマップ化するが、この連続的検知は今調べているプロセスを遮断しかねない。Shanたち(p. 1363)は、金で被覆されたガラススライド上で電気化学的活性な化合物の濃度とその電流密度を測定するにあたって、より撹乱の少ない方法として表面プラズモン共鳴の光学的測定が利用可能であることを示している。この方法はDNAやタンパク質のマイクロアレイ、及び酵素-増殖バイオセンサーの分析から細胞の活性化の測定にいたるまで広範囲な応用に用いることが出来る。(KU,nk,kj)
Imaging Local Electrochemical Current via Surface Plasmon Resonance
p. 1363-1366.

理論的に速い木の構築(Theoretically Speedy Trees)

系統樹作成にはしばしば距離行列法が用いられるが、それは大きな系統樹をすばやく構築するのに有望なスケーラブルな方法である。一般に想定されているのは、距離行列から構築される系統樹は本質的には最尤法から推定されるものより正確さにおいて劣る、ということだが、後者は計算が遅くなるとされる。Rochは、この問題を理論的に検証し、距離法が最尤法と同等レベルの正確さを実現できることを明らかにした(p. 1376; またAllmanとRhodesによる展望記事参照のこと)。つまり、一般に想定されていた系統樹構築における正確さと速度のトレードオフは、克服できるということである。(KF)
Toward Extracting All Phylogenetic Information from Matrices of Evolutionary Distances
p. 1376-1379.

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