AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 26 2010, Vol.327


多様と言うよりは、まさに違っているのだ(Difference, Not Diversity)

海洋のプランクトンのように熱帯森林でも、何千もの種が同時に一つの栄養源に対して競争を繰り広げているのかもしれない。いったいどうやって共存関係が保たれているのか?それは生物多様性の研究において最も重要なパラドックスの一つである。ある理論では、共存関係にある種は環境を区分して存在していると主張している。しかし、このように区分された領域は明確には確認できない。米国南西部における共存関係にある森林の木々のデータを用いてClark(p.1129)は、各個体がそれぞれ特有の違いを有していることで、同一種の間では直接的な競争を回避していることを示している。すなわち、光・栄養・水分に対する必要性は、同一種の木同士でも大きく異なるのかもしれないが、それでも、同一種の木によって示される特徴は全体の分布範囲におさまっているのだ。(Uc, nk)
Individuals and the Variation Needed for High Species Diversity in Forest Trees
p. 1129-1132.

重要な媒介者(Critical Mediators)

ヘルパーT細胞は感染に対する免疫反応を制御する多様な機能を有し、免疫系において演技監督のような役割を担っている。感染の種類に応じて、CD4+ヘルパーT細胞は特有のパターンを持つサイトカインを分泌することによって応答し、それがトリガーとなって別の免疫細胞のサブセットを誘導する。サイトカインは他の免疫細胞亜群に対しても重要な情報をもたらすタンパク質である。はっきり区別できる別々のサイトカインプロファイル(産生されているサイトカイン種を示す特徴)をもつCD4+ヘルパーT細胞は、従来それぞれが独立した異なる系統と見られていた。しかしながら、これらの細胞は最終的に分化しているのではなく、実は可塑的であると思われる証拠が次々に見つかっている。O'SheaとPaulは(p.1098)、CD4+ヘルパーT細胞サブセットの分化に関する最新の知見と、細胞系列の決定に影響する基本的なメカニズムについて報告している。(Uc,KU, nk, kj)
Mechanisms Underlying Lineage Commitment and Plasticity of Helper CD4+ T Cells
p. 1098-1102.

断層:つんのめって裂けて(Slip, Tripped, and Faulted)

地震に伴う滑りの大きさや、再発期間を定量化出来れば、地震のリスクアセスメントは改善されるであろう。しかし、最近まで、高精度の地震計が無かったために、大地震を生き延びた人の断片的な話に基づく証拠に頼ったり、地形から手がかりを探すなどの方法しかなかった。Zielke たち(p. 1119, および、1月21日号の電子版、および、Scharerによる展望記事参照) は、南カリフォルニアのサンアンドレアス断層(San Andreas Fault)の高精度の画像を解析した。そのデータによると、1857年のFort Tejon地震のようにな地表の大きな割れ目でも、滑りの大きさはたった5メートル程度で、以前考えられていたよりずっと小さいことがわかった。この発見事実を支持する研究から、Grant Ludwig たち(p. 1117, および、1月21日号電子版、および、Scharerによる展望記事参照)は、地理形状特徴の解析から、ここ数世紀の間、少数の大地震ではなく、より小さな多数の地震が起きていたことが推察された。 Scharer (p. 1089)は、その展望記事の中で、このような古地震の研究から得られたデータが地震予知にとって如何に大切であるかを考察している。(Ej, nk)
Slip in the 1857 and Earlier Large Earthquakes Along the Carrizo Plain, San Andreas Fault
p. 1119-1122.
Climate-Modulated Channel Incision and Rupture History of the San Andreas Fault in the Carrizo Plain
p. 1117-1119.
Changing Views of the San Andreas Fault
p. 1089-1090.

乳酸燃料(Lactic Fuels)

石油化学に代わる持続可能な代替燃料を見つける研究の中で、セルロースから誘導された低分子の環状エステルであるγ-バレロラクトンは有望な原料である。Bondたち(p. 1110)は、高圧下で触媒によりこのラクトンから効率的に二酸化炭素を除去することで、ブタン系混合物が後に残る。第2段階の反応器の中で、このブタン系混合物が重合して自動車やジェット機の燃料に見出される物に似たより重い炭化水素を形成することを示している。この方法は燃料を作ると同時に、二酸化炭素の分離や更なる化学変換が容易な比較的純粋な高圧の二酸化炭素ガス流をも与えるものである。(KU, kj)
Integrated Catalytic Conversion of γ-Valerolactone to Liquid Alkenes for Transportation Fuels
p. 1110-1114.

岩脈中の陽イオン(Cations in the Veins)

気候変動からテクトニックの活動まで、地球の主要な歴史的事象は海洋の過去を再構築することで明らかになる。古代の海洋化学の手掛かりは、当時の沿岸付近の海からの微生物化石、海洋炭酸塩や塩の沈着物などの陽イオン含有量である。これらの代理物は試料と分析法の間に不一致の傾向があるが、Coggonたち(p. 1114,および、Elderfieldによる展望記事参照) は、海底の新鮮な玄武岩の内部に沈殿した脈状の耐食性の炭酸塩を化学分析し、過去の海水の成分を推定した。海洋のマグネシウム:カルシウム、ストロンチウム:カルシウムレベルの今日のレベルへの急激な増加は、約2400万年前に生じており、この現象は海底での熱水活動の減少と、河川からの供給の減少と一緒に考えることで説明できる。(Ej, nk)
Reconstructing Past Seawater Mg/Ca and Sr/Ca from Mid-Ocean Ridge Flank Calcium Carbonate Veins
p. 1114-1117.

スピンを制御に引きずり込む(Spin into Control)

電荷の代わりに亜原子粒子のスピンを用いてOn-Off状態をコントロールするスピントロニクスは、省電力エレクトロニクスを構築できる可能性を秘めている。電位バリアーを作って電子状態を変化させる場合に比べて、少ないエネルギーでスピン状態を反転させることができるからである。理論解析によると、強磁性体電極からのスピン分極電子は、強誘電性薄膜の分極を変えることで制御可能であることが示唆されている。Graciaらは(p.1106、1月14日号電子版)、ランタン・ストロンチウム・マンガン酸塩基板上に鉄-バリウムチタン酸塩のトンネル接合を作り、これがスピン検出器として動作することを示している。局所スピン分極制御が強誘電体層中で観測され、電力を入力することなく分極は保たれていた。(NK, KU)
Ferroelectric Control of Spin Polarization
p. 1106-1110.

組み換え型の感染性プリオン(Recombinant Infectious Prions)

プリオン病は人におけるクロイツフェルト・ヤコブ病や牛におけるウシ海綿状脳症を含む致死的な神経変性疾患の一グループである。プリオン仮説では、これらの病気の感染病原体が正常なプリオンタンパク質(PrPC)(このタンパク質は中枢神経系に濃縮されたグルコシルホスファチジルイノシトール-アンカー細胞表面タンパク質である)の異常な立体構造上のアイソフォームであるとしている。このプリオン仮説の最終的な証明は、細菌に発現した組み換え型のPrPを感染性のプリオンに転換することであるが、この実験を行うことが困難であった。Wangたち(p. 1132,1月28日号電子版;Supattaponeによる展望記事参照)は、細菌由来の精製した組み換え型PrPをマウスに注入し、プリオン病における感染病原体のもたらす総ての特徴を得た。組み換え型の物はプロテイナーゼ−Aへの抵抗性だけでなく、培養細胞中でも感染力を示し、そして野生型のマウスにおいて急速なる病状の悪化を引き起こし、行動面と神経病理学的な症状の双方を示している。(KU)
Generating a Prion with Bacterially Expressed Recombinant Prion Protein
p. 1132-1135.

3組の毒(Tripartite Toxin)

昆虫を攻撃する線虫の発光性の細菌共生生物は、以前から生物的制御におけるその可能性から関心を持たれていた。この細菌は少なくても3つのサブユニットからなる毒素のファミリーを産生しており、この毒素はヒト病原体によって作られる広範囲に渡って生じている細菌性毒素のグループにも似ている。Langたち(p. 1139)は、これら3組のタンパク質毒素の幾つかに関する作用様式と構造上の相互作用を解明し、そしてこれらの毒素が異常な反応を触媒することで細胞のアクチン骨格を壊すことを見出した。毒素の一つはアクチンのスレオニン-148においてアデノシン二リン酸(ADP)-リボシル化に介在してアクチンの重合を引き起こし、他の毒素の一つはRhoタンパク質のグルタミン-63をADP−リボシル化反応をもたらし、そして双方の毒素はアクチンのクラスター形成と細胞麻痺を協調して引き起こしている。(KU)
Photorhabdus luminescens Toxins ADP-Ribosylate Actin and RhoA to Force Actin Clustering
p. 1139-1142.

マメ科植物のシンビオソーム(根粒菌バクテロイドを含む細胞内器官)(Legume Symbiosome)

マメ科の植物(エンドウマメpeaやマメ類bean)は、その根の上にある根粒(nodule)と呼ばれる特殊化した構造の中に棲む窒素固定細菌との共生という長所のおかげで、世界的な窒素循環で主要な役割を果たしている。Van de Veldeたちは、宿主植物タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)が、根粒に特異的な、天然の植物防御ペプチドに類似したシステインに富むペプチド類を産生することを示している(p. 1122)。そのペプチド類がバクテリア細胞の中に入り、発達を促進して成熟した共生生物にしていくのである。これを補完する研究において、D. Wangたちは、これまたその植物によってコードされているシグナル・ペプチターゼを同定したが、これは先に触れた特殊化したペプチドを処理して、活性型に変えるために必要とされているのである(p. 1126)。(KF, kj)
Plant Peptides Govern Terminal Differentiation of Bacteria in Symbiosis
p. 1122-1126.
A Nodule-Specific Protein Secretory Pathway Required for Nitrogen-Fixing Symbiosis
p. 1126-1129.

たまにくる突発的ノイズ(Bursty, Infrequent Noise)

遺伝子制御ネットワークにおいては、ポジティブフィードバック・ループが遺伝子発現における双安定性とヒステリシスを生じさせ、それによってスイッチング機構と記憶効果を可能にしている。ToとMaheshriは、ポジティブフィードバック・ループにおいて定常状態の二峰性(bimodal)応答を達成するにはプロモータのS字型応答が必要である、という通説を意図的に避けている(p. 1142; またLevensとGuptaによる展望記事参照のこと)。その代わり、モデルと実験から得られたデータを用いて、彼らは二峰性応答の説明として、ノイズのある遺伝子発現と、複数の非協同的な転写制御因子の結合が働いているという説明を支持し、ノイズのある同様の系が生物においては広く利用されていることを予想しているのである。(KF)
Noise Can Induce Bimodality in Positive Transcriptional Feedback Loops Without Bistability
p. 1142-1145.

可塑性の生じる可塑的でないタイミング (Inflexible Timing for Flexibility)

生命初期の臨界期においては、知覚経験によって脳の回路が形作られる。視覚野においては、片目が霞んだり、塞がれたりすることによって、眼球優位性の可塑性として知られる、神経細胞応答の急激な再編成が引き起こされる。こうした可塑性の臨界期は、抑制性の神経伝達に依存している。Southwellたちは、抑制性ニューロンの胚性前駆物質をマウスに移植することによって、眼球優位性可塑性の期間が正常な臨界期の終了後でも誘発されることを示している(p. 1145)。こうした知見は、抑制性ニューロンの移植が、脳の修復のため、また神経障害の処置と脳の可塑性の時期を誘発するための、治療上の可能性をもっていることを示唆している。(KF, KU, kj)
Cortical Plasticity Induced by Inhibitory Neuron Transplantation
p. 1145-1148.

超新星残骸の観測(Supernova Remnant Observations)

地球に衝突する宇宙線の源はなぞのままであったが、つい最近は、恒星爆発の残骸による陽子の高エネルギー加速であるという解釈が浮かび上がっている。Fermi Large Area Telescope を用いて、Abdo たち (p.1103, 1月5日号電子版)は、超新星の残骸 W44 の画像を手に入れた。それは、W44に ギガ電子ボルトのオーダーのガンマ線放射が付随していることを示しており、局所的な陽子と原子核の加速が行われたとするモデルと整合している。(Wt)
Gamma-Ray Emission from the Shell of Supernova Remnant W44 Revealed by the Fermi LAT
p. 1103-1106.

炎症性シグナル伝達を制限する(Limiting Inflammatory Signaling)

転写因子 NF-κBの調節不全は、慢性炎症、自己免疫や悪性腫瘍を引き起こす。Zn-フィンガープロテイン, A20,はNF-κBシグナル伝達の制御には不可欠であり、そのため、A20の欠如したマウスは多臓器不全や悪液質によって若くして死亡する。クローン病,関節リウマチや、その他、ヒトの炎症性疾患においても同様な欠如が見られる。しかし、A20の働きについては良く解ってない。Shembade たち(p. 1135; および、Sriskantharajah and Leyによる展望記事参照)は、A20タンパク質は、正常なタンパク質の代謝回転に必要な細胞のユビキチンラベリングシステムを通して作用すること、そして、これが欠如するとNF-κBの再利用が阻害される結果、慢性炎症になることを発見した。ヒトのT細胞リンパ球向性ウイルスはウイルス自身のためにこの経路を破壊するオンコプロテインを保持しており、このタンパク質がA20とユビキチン経路との相互作用を阻害して、NF-κBシグナルを強め、細胞の不死化をもたらす。(Ej, hE, kj)
Inhibition of NF-κB Signaling by A20 Through Disruption of Ubiquitin Enzyme Complexes
p. 996-1000.

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