AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 8 2010, Vol.327


多様性のゆりかご(Cradle of Diversity)

珊瑚礁に見られる生物の多様性は、どこか別の場所を発生起源とする生物種に好まれるせいなのだろうか?それとも、進化のゆりかごとして、特別重要な何かがあるのだろうか?このような疑問を考察するために、Kiesslingたちは(p.196;表紙参照)、カンブリア期まで遡って大規模な海底生物化石のデータベースを調査している。浅瀬に存在する他の海洋環境と比較しても、珊瑚礁は新しい生物種が生まれる上で、どこか別の場所に移住する種も含めて、実際に重要であると考えられる。(Uc)
Reefs as Cradles of Evolution and Sources of Biodiversity in the Phanerozoic
p. 196-198.

鉄超電導中のネマティックな電子的秩序(Nematic Electronic Order in Iron Superconductors)

多くの高温超電導では、ドープする元素の組成により、性質が大きく変わり、ドープ物質の不足または過剰の割合がある値に達すると電子秩序の異なる別の相が形成される。Chuang たち(p. 181; およびFradkin and Kivelsonによる展望記事参照)は走査型トンネル電子顕微鏡の技術を利用して、鉄超電導物質のファミリーであるCa(Fe1- xCox)2As2のドープが不足した状態での電子構造を調べた。観察された構造はちょうどネマティック液晶のように電子がFe-Fe結合に沿って周期的に整列しているナノ構造であった。(Ej,nk)
Nematic Electronic Structure in the "Parent" State of the Iron-Based Superconductor Ca(Fe1-xCox)2As2
p. 181-184.

隠された対称性が明らかに(Hidden Symmetry Revealed)

多体量子力学系を理論により正確に記述できる例はそう多くはない。しかし、規則性を分離できる磁界中の強磁性体鎖(Ising chain)の挙動は数少ない例外の1つである。その励起は20年前に予言されており、E8と呼ばれる対称群(数学の世界でもっとも興味深いもののひとつ)によって支配されていると考えられていた。Coldeaらは(p.177)、準一次元Ising強磁性体CoNb206における結果を実験的に確認したことを報告している。予測された8つの励起状態の内2つが観測された。さらに、2つの最低励起状態は理論によって予測されたいわゆる「黄金比」と定量的に良い一致を示すことが明らかとなった。(NK)
Quantum Criticality in an Ising Chain: Experimental Evidence for Emergent E8 Symmetry
p. 177-180.

星々よ、おとなしく進むのか、あるいは、爆発を伴うのか(Stars Going Quietly or with a Bang)

太陽の 7倍から10倍の質量の恒星は、その一生の最後に中心コアで炭素を燃焼させる可能性があるのだが、それらは、酸素-ネオンのコアの白色矮星で終わる場合と、中心核崩壊を起こした超新星として爆発する場合との可能性がある。これら二つの最終結果を切り分ける境界線は、よく判っていない。Gansicke たち (p.188; 11月12日号電子版)は、光球における酸素量対炭素量の比率が 1 を超えている二つの白色矮星を同定した。それらの低い炭素量と大量の酸素量とは、これらが水素の外被を失った酸素-ネオン型の白色矮星であることを示唆している。このようなわけで、この二つの白色矮星は、超新星として爆発する星と白色矮星を形成する星とを分ける境界線上の恒星から進化した可能性がある。(Wt,Ej)
Two White Dwarfs with Oxygen-Rich Atmospheres
p. 188-190.

表面が滑らかな砂利の塊りの小惑星(Smooth Space Pebble)

彗星67P/Churyumov-Gerasimenkoに出会うために飛行していた宇宙探査機ロゼッタは、2008年9月に小惑星Steinsのそばを通過した。この直径5.3キロの扁平なSteinsは、今まで宇宙探査機で観測されたことはない珍しいタイプの小惑星である。Keller たち (p. 190) は、画像を解析して小惑星の形を復元した。スタインは有効半径5.3キロメートルの平らな回転楕円体形状で、表面に小クレーターが存在しないのは、表面を再構成する何らかの作用が働きその際に消し去られたのであろう。実際、 Steinsの形状は、太陽入射光によるトルク、Yarkovsky-O’Keefe-Radzievskii-Paddack(YORP) 効果、によるスピン作用を受けて回転速度が上がり、遠心力が大きくなった結果、赤道方向に物質をスライドさせたと思われる小さな線状の断層が見られた。Steinsは剛体の天体ではなく、小さな岩屑の塊りで、そのためにダイヤモンド形状の特異な形状になったと思われる。(Ej,hE,tk,nk)
E-Type Asteroid (2867) Steins as Imaged by OSIRIS on Board Rosetta
p. 190-193.

CRISPRによる防御(CRISPR Defenses)

原核生物は寄生虫や病原体に感染するが、真核生物と同様に、自分自身を守るための防御系を進化させてきた。Horvath and Barrangou(p. 167)は、殆どの古細菌や多くの細菌種で見出されているCRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats:クラスター的な規則的、短い回文構造の繰り返し配列)によって特徴付けられる最近発見された原核生物の「免疫系」に関してレビューしている。CRISPRの座位にはウイルスや侵入した遺伝因子から捕獲された短い配列が潜んでいる。このような配列は転写され、そのRNAはCRISPR-associated(cas)タンパク質のファミリーの一つにより短いCRISPR RNA(crRNA)に切断される。これらのcrRNAは他のcasファミリーを相同性の核酸標的に向かわせて、標的の破壊を効果的にする。侵入した特異的な塩基配列の拡大を抑えるというこの能力により、CRISPR/Cas系は抗生物質耐性マーカーの拡がりを阻害するよう発展したのであろう。(KU)
CRISPR/Cas, the Immune System of Bacteria and Archaea
p. 167-170.

細胞分裂における成分の補充(Recruiting the Components for Cell Division)

細胞分裂中に、完全な染色体のセットが個々の娘細胞へ分配されなければならない。細胞が二つの娘細胞に分離する前に、数多くの分子機構が、染色体のペアや相同体が正確に整列し、そして微小管に付着しているかをチェックしている:これらの空間的な配列がゲノムの正しい継承を支えている。このような系の重要な成分の一つがタンパク質キナーゼBub1である。Kawashimaたち(p. 172,Javerzatによる展望記事参照;11月19日号電子版)は、分裂酵母においてBub1キナーゼの活性に関する主要な基質が染色質タンパク質ヒストンH2Aであることを示している。H2Aのリン酸化により、染色質へ、特にセントロメアへシュゴシン(shugoshin)タンパク質が補充されるが、そこでこのタンパク質は正確な染色体分配を保証すべく作用する。Bub1、ヒストンH2Aのリン酸化、及びシュゴシンの間のこのような関係は出芽酵母や哺乳類の細胞にも保存されている。(KU)
Phosphorylation of H2A by Bub1 Prevents Chromosomal Instability Through Localizing Shugoshin
p. 172-177.

ニッチな変態(Niche Metamorphosis)

腸の上皮は絶えず腸の幹細胞から作られる細胞によって更新されている。ショウジョウバエにおいて、成体の腸の細胞は変態前に存在していた細胞に由来している。Mathurたち(p. 210)は、幼生段階における初期の非対称な細胞分裂により未分化な幹細胞の増殖グループを取り囲むニッチな環境が作られていることを示している。変態時に、このニッチな環境が破壊され、その中の幹細胞がフリーになる。これらの幹細胞の殆どは成体の腸の前駆体に分化するが、少数の幹細胞はより自由な操作規則を用いて、新しい、成体の、幹細胞ニッチを確立する仕事を行う。(KU)
A Transient Niche Regulates the Specification of Drosophila Intestinal Stem Cells
p. 210-213.

抗ミクロRNAによる抗ウイルス(Anti-MicroRNA Antiviral)

ミクロRNA(miRNA)とは、真核生物やウイルスに見られる小さな非翻訳RNAである。それは広範な細胞プロセスにおける必須の制御因子である。高度に保存されたミクロRNAであるmiR-122は、ヒトにおける肝疾患を主導する原因となるC型肝炎ウイルス(HCV)による感染にとって必要である。現在のHCV治療内容は、重大な副作用をもたらしうるものだし、ほんの50%のケースでしか効果がない。HCV感染に対処するため、Lanfordたちは相補的なロックされた核酸(LNA)オリゴヌクレオチドを用いて、miR-122を標的にした(p. 198,12月3日号電子版)。 1HCVに感染したチンパンジーをLNA拮抗物質で処置した結果、病気の症状が長期的に減少し、それに伴っての抵抗性のあるウイルスが出現する、ということもなかったのである。(KF)
Therapeutic Silencing of MicroRNA-122 in Primates with Chronic Hepatitis C Virus Infection
p. 198-201.

TFIIBの仕組みを解き明かす(Dissecting TFIIB Mechanics)

真核生物のRNAポリメラーゼII(Pol II) は、プロモータ認識と転写の開始のために5つのタンパク質補助因子を必要とする。因子TFIIBは開始点選択と初期転写物の安定化に関与している。Pol IIとTFIIBの共結晶構造は、RNA出口チャネルにN-末端の「指」領域があることを示していてるが、TFIIBのコアであるC-末端領域は乱れていた。このたび、Liuたちは、同じ複合体が別の条件下で示す構造を提示している(p. 206、11月12日号電子版)。それは、C-末端構造はちゃんと局所化されているが、「指」が乱れているものである。その構造の中にDNAをドッキングさせることで、C-末端領域が初期のプロモータ融解を安定化していることが示唆された。いくつかの塩基の転写後、TFIIBはおそらく、C-末端領域が解放され、「指」領域が初期の転写物を安定化させるもう一方の高次構造に切り替わっているのである。(KF)
Structure of an RNA Polymerase II-TFIIB Complex and the Transcription Initiation Mechanism
p. 206-209.

明らかになったRNA構造の原理(RNA Structural Principles Revealed)

RNAの一次構造と二次構造を結び付ける熱力学的原理はよく理解されているが、三次構造へのその関連は不明である。洞察を得るために、Bailorたちは、ある重要なRNAモチーフ、二方向接合部の利用可能なすべての3次元構造を解析し、隣接するらせん体が可能ならせん内配向のうちほんの小さな割合しか実現していないことを発見した(p. 202)。彼らは、らせん体の相対的配向についての一連の一般的規則を、相互接続する接合部のサイズの関数として同定した。その結果はまた、リガンドがいかにして特定の高次構造を安定化しているかを合理的に説明するものであった。RNAのグローバルな高次構造と動的な適応を定義しているトポロジー的制約を理解することで、RNA構造の合理的操作の指導原理が得られるのである。(KF)
Topology Links RNA Secondary Structure with Global Conformation, Dynamics, and Adaptation
p. 202-206.

コカイン中毒とヒストンのメチル化(Cocaine Addiction and Histone Methylation)

慢性的なコカイン暴露による持続性の行動症候群は、全面的な転写機構の調節障害によるものかもしれない。度重なるコカインの自己投与による反応として、Mazeたちは(p.213)、側坐核中のヒストンリジンメチル化が、遺伝子発現制御を仲介する上で非常に重要な働きをしていることを発見した。コカイン常用は、この脳領域においてヒストンの3リジン9(H3K9)のジメチル化が全体的に減少していることと関係が深い。コカインの慢性的投与の後でH3K9のジメチル化の抑制は、報酬-関連行動の変化が容易になってしまう。著者たちは、メチル基転移酵素G9aが樹状突起棘の可塑性に関する不可欠な仲介因子であり、かつ、ニューロン制御因子であることを確認した。G9aの発現低下は転写因子ΔFosBと関連している。(Uc,KU)
Essential Role of the Histone Methyltransferase G9a in Cocaine-Induced Plasticity
p. 213-216.

シリコンのマイクロワイヤを利用した光電陰極(Silicon Microwires as Photocathodes)

太陽光水素生成には表面積の大きな光電陰極が必要であり、更に、耐久性や効率も要求される。シリコンのマイクロワイヤアレイは太陽光が浸透し易く、もし電荷移動度が高くて、太陽光で生じた電荷が再結合する前に表面反応がすばやく起きるならば上に述べた要求に答えられるであろう。Boettcher たち (p. 185)は、正にドープしたシリコンのマイクロワイヤアレイの電子的性質について述べている。これは銅触媒上で成長させ、かつ電解質として水溶性のメチルビオローゲン酸化還元系中で用いられた。通常の太陽光によるエネルギー変換率は2〜3%であるが、内部変換効率(量子収率)が高く、利用できる波長領域(赤外領域)が狭いことから、更に全体の効率は上昇することが期待される。(Ej,hE,KU,nk)
Energy-Conversion Properties of Vapor-Liquid-Solid-Grown Silicon Wire-Array Photocathodes
p. 185-187.

電子スピン遷移とマントル相(Spin Transitions and Mantle Phases)

超高温かつ超高圧の地球深部では、マントル鉱物の相転移が起こる。例えば、マントル低層部の高圧下で発生する電子スピン遷移は、様々な鉄鉱物相の分割を導くと考えられている。入船たち(p. 193,Hiroseによる展望記事参照;12月3日号電子版) は、マントル低層部と同じ組成を持つ人工鉱物に対しマルチアンビル高圧発生装置を用いて調べ、スピン遷移が低い圧力の下で発生することを示し、そして単純な組成の鉱物で行われた初期の研究が示す深さよりも浅い地下で発生することを証明した。マントル低層部の研究におけるその鉱物の適用性の検証として、圧力に関する密度プロファイルは、地震学的モデルから推定される結果とかなりよく一致している。(TO)
Iron Partitioning and Density Changes of Pyrolite in Earth’s Lower Mantle
p. 193-195.

糖尿病遺伝子を揺すり出す(Ratting Out a Diabetes Gene)

病気への感受性を受け継いでいる同系交配の動物は、病原性の仕組みについてとりわけ情報的価値が高い。というのも、それらはヒトに病気を引き起こすのと同じタイプの、自然に生じる遺伝的変異体を担っているからである。この原理はRosengrenたちによって例示されていて、そこでは、2型糖尿病を発生しやすい同系交配のラットの解析によって、ラットとヒトの双方における膵臓のインスリン分泌を、それ自身の過剰発現によって抑制している遺伝子の発見に至っている(p. 217、11月19日号電子版)。犯人であるこの遺伝子ADRA2Aは、alpha2Aアドレナリン受容体をコードしており、潜在的には、薬理学的な標的になることによって糖尿病治療を導きうる価値あるものである。(KF)
Overexpression of Alpha2A-Adrenergic Receptors Contributes to Type 2 Diabetes
p. 217-220.

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