AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 4 2009, Vol.326


二酸化炭素と中新世の気候変動(CO2 and Miocene Climate Change)

大気中の二酸化炭素は強力な温室効果ガスであり、気候に関する最も重要な決定因子の一つであると見なされている。掘削アイスコアは、過去80万年に渡る二酸化炭素濃度の関する詳細な、かつ直接的な記録を与えるが、より旧い年代の情報を与えることはできない。Tripatiたち(p. 1394,10月8日号電子版)は、プランクトン有孔虫のB/Caの測定に関して報告しており、そのデータから彼らは過去2000万年の間の大気中二酸化炭素濃度を推定している。大気中の二酸化炭素の濃度は、過去1000万年の間で産業革命前の濃度と同じぐらいであったが、しかしながら1500万年と2000万年前の間の、温暖な下部中新統の期間二酸化炭素はより豊富に存在しており、そして二酸化炭素濃度が大きく減少したときに、より寒冷な状態への大規模な気候変動が起きた。(KU,Ej,TS,nk)
Coupling of CO2 and Ice Sheet Stability Over Major Climate Transitions of the Last 20 Million Years
p. 1394-1397.

人畜共通感染症に狙いを定めて(Zeroing in on Zoonoses)

インフルエンザや疫病、及びライム病は、人畜共通感染病の古典的な例であり、ヒトの間のみならず家畜や野生動物の間を循環する。病原体が複数の種類の宿主の間を移っていく時、循環し、感染し、そして激増するさいのその動的な挙動は複雑である。Lioyd-Smithたち(p. 1362)は、感染病のコントロール施策と研究課題の開発における解析的な数学的手法、特にモデリングの利用に関してレビューしている。数学的な分析においては、動物からヒトへの異種間感染により感染症一気に拡大する現象が注目されている。また、これまでの研究の傾向はより単純なライフサイクルの病原体やインフルエンザのような当面の全世界的な緊急事態のものにモデリングの焦点が置かれており、一方複雑なライフスタイルを持つ昆虫が媒介する病原体に関するモデリングが無視されている。(KU,Ej,TS,nk)
Epidemic Dynamics at the Human-Animal Interface
p. 1362-1367.

新生ポリペプチド鎖が明らかにされた(Nascent Chains Revealed)

タンパク質の翻訳や膜を横切るタンパク質の輸送に関する詳細な解析には、これらのプロセスに関与する中間体の同定と構造解析が必要である(Kampmann and Blobelによる展望記事参照)。Seideltたち(p. 1412,10月29日号電子版)は、5.8オングストロームの分解能でリボソームのトンネル中における新生ポリペプチド鎖の低温電子顕微鏡による画像を報告している。この分解能により、リボソームトンネル内での新生ポリペプチド鎖に関するその立体構造と様々な接触の解析が可能となり、翻訳停止がこの新生ペプチドによって誘導されるというメカニズムが示唆される。細胞膜を横切るタンパク質の輸送には、タンパク質‐輸送チャネルの成分の一つ、Sec61タンパク質が関与している。Sec61がタンパク質輸送中に単量体として、或いはオリゴマーとして作用しているかどうかが不明であった。Beckerたち(p. 1369,10月29日号電子版)は、活性な酵母、及び哺乳類のリボソーム‐Sec61の構造に関して記述しており、Sec61複合体がリボソームと新生分泌タンパク質のシグナル配列と相互作用していることを示している。この解析は、活性なタンパク質-輸送チャネルがその中央にポアを持つ単一のSec61のコピーであり、新生ポリペプチドに対する導管として役立っていることを明瞭に明らかにしている。(KU)
Structural Insight into Nascent Polypeptide Chain?Mediated Translational Stalling
p. 1412-1415.
Structure of Monomeric Yeast and Mammalian Sec61 Complexes Interacting with the Translating Ribosome
p. 1369-1373.

ABA受容体を詳細に構造把握する(ABA Receptor Up Close)

植物が直面する環境ストレスには乾燥、塩分、寒冷化など様々なものがある。このようなストレスに直面して、植物ホルモンのアブシジン酸(abscisic acid (ABA))は、順応性のある生理的応答を惹起する。Nishimura たち(p. 1373,および10月22日号電子版、および、Sussman とPhillipsによる展望記事参照)は、ABA受容体ファミリーの一つであるPYR1 (pyrabactin resistance 1)の結晶構造を決定した。ABA分子はPYR1の内部ポケット中で結合しており、そこで、この分子は立体構造の変化を誘発していると思われる。(Ej,hE)
Structural Mechanism of Abscisic Acid Binding and Signaling by Dimeric PYR1
p. 1373-1379.

楕円銀河の進化(Elliptical Galaxy Evolution)

われわれに最も近い楕円銀河である M32 は光度に比べて小型すぎる、まれな種類の楕円銀河を代表するものである。M32 に相当する光度と大きさをもつ楕円銀河は、ほんの少数しかこれまで見出されていない。このため、それらがどのように進化したかを理解することは困難であった。Chilingarian たち (p.1379, 10月1日号電子版) は、仮想天文台の道具類を用いて、Hubble Space Telescope Legacy Archive と他のデータベースの自動データマイニングにより集められた、21個のコンパクト楕円銀河のサンプルを与えている。その結果によると、大きかった母銀河が他の銀河と遭遇した際の潮汐力により外側を引き剥がされてコンパクト楕円銀河が生まれたらしい。(Wt,nk)
A Population of Compact Elliptical Galaxies Detected with the Virtual Observatory
p. 1379-1382.

地球のプルームの配管工事(Earth's Plume Plumbing)

ハワイ諸島を造り続けているような火山性ホットスポットは、2つのメカニズムのどちらかによって形成されると考えられている。1つはマントルプルームが地球内部の深い場所から地表へと高温の浮揚性物質を運ぶメカニズムであり、もう1つは歪のある、あるいは不均一な地殻において、プレートテクトニクスによる上部マントルの広範囲な隆起により局所的な火山活動を引き起こすというメカニズムである。Wolfe たち(p. 1388; Kerrによるカバー記事参照) は、海底と陸地に設置された広範囲な地震計のアレーを使い、ハワイの下にあるマントルの構造を明らかにした。高解像度の画像から、高温のプルームがマントル下部から生じていることを示している。(TO,KU,TS)
Mantle Shear-Wave Velocity Structure Beneath the Hawaiian Hot Spot
p. 1388-1390.

バイオ燃料のバックファイヤー(Biofuel Backfire)

経済的、地政学的、そして環境保全の観点から来る強い理由によって、バイオ燃料は将来の地球規模のエネルギー需要を満たす、化石燃料の魅力的な代替選択肢と考えられている。しかしながらMelilloたちは(p.1397,および10月22日号電子版)、土地利用に関連したいくつかの深刻な欠点を考慮する必要があると示唆している。生物地球化学と経済モデルを統合することによって、間接的土地利用(例えば、元来食料収穫のためにあった現在の農地で、バイオ燃料作物の生産量増加を補うために食料穀物用に森林で覆われた土地を整地してしまうこと)は、直接バイオ燃料作物を収穫するよりも、土壌の炭素損失を多く生み出してしまうことが予想される。更に、バイオ燃料生産のために化学肥料の使用が増えることによって、二酸化炭素よりも温室効果の高い分子である亜酸化窒素を大量に大気中に放出してしまうことになるだろう。このように、土地と作物の管理に関する政策の決定においては、バイオ燃料生産を増加させることによる長期的影響について十分考慮する必要がある。(Uc,KU)
Indirect Emissions from Biofuels: How Important?
p. 1397-1399.

窒素の高濃度化を軽減?(Mitigating Nitrogen Enrichment?)

窒素の高濃度化は、草本群生(herbaceous communities)中の植物の種多様性を減らす。対照的に、二酸化炭素が植物種の豊富さに影響するという報告は乏しく、窒素の堆積(N deposition)と二酸化炭素の上昇との相互作用はよくわかっていない。Reich(p. 1399; Collinsによる展望記事参照)は、北アメリカの多年性植物草の群生地(grassland assemblage)において10年に及ぶ野外調査を行った。窒素堆積が原因で起こる植物種の豊富さの減少は、周囲大気の二酸化炭素の濃度の場合(多様性が16%の減少)に比較して、炭素濃度の上昇の環境下では半分であった(多様性が8%の減少)。窒素と二酸化炭素は全世界的に上昇すると予測されており、これらの結果から、予期される生態系変化の型を、少なくとも比較的単純な植物群生においては、予測することができる。(TO,KU)
Elevated CO2 Reduces Losses of Plant Diversity Caused by Nitrogen Deposition
p. 1399-1402.

同定された変態受容体(Metamorphosis Receptor Identified)

多くの多細胞生物が直面する困難な課題の一つに、幼虫から成虫に変化する時期が何時起きるかという課題がある。昆虫における変態は、幼虫の体重がある特徴的な点に達すると、脳に由来する神経ペプチドである前胸腺刺激ホルモン(prothoracicotropic hormon:PTTH)によって活性化する。この脳ホルモンが発見されてほぼ100年になるが、Rewitz たち(p. 1403) はPTTH受容体とそのシグナルカスケードを同定した。このPTTH受容体はTorso (Ras/Raf/Erkを介して情報伝達する受容体チロシンキナーゼ)で、非常に遠い関係にあるPTTH因子のTrunkに応答して発生初期に胚の終端を形成する。(Ej,hE)
The Insect Neuropeptide PTTH Activates Receptor Tyrosine Kinase Torso to Initiate Metamorphosis
p. 1403-1405.

科学を愛するために(For the Love of Science)

表面的な理解と個人的な興味と、どちらが科学に対する学生の継続的な関与を的確に予測するのだろうか? HullemanとHarackiewiczは(p. 1410)、高校生たちを科学にうちこませるには何が必要かを見きわめるために、ある実験を検討した。高校一年生達に、その時丁度学んだことか、または学んだことが彼らの個人生活のある面にどう関わったのか、そのどちらかについて書くことを指示したのだ。学んだことを個人的な事柄と関連付けているかどうかの方が、良い成績評点よりも、科学のその先の授業や将来の科学に関係する職業への興味を予測するには有効であった。この費用が殆どかからない教育方法は、科学教育を受け始めたばかりの、自身の能力に対して殆ど自信が無い学生に対して最大の効果を発揮しているように見える。(Uc,nk)
Promoting Interest and Performance in High School Science Classes
p. 1410-1412.

DNAジャイレースを標的に(Targeting DNA Gyrase)

DNAジャイレース、すなわち二本鎖DNAを巻き戻す酵素は、細菌にとって必須だが、ヒトにはないものなので、つまるところ、抗菌の際の重要な標的となる。DNAジャイレースは、アミノクマリンおよびポリケチド・グループによって構成される二機能性の抗生物質によってだけでなく、よく知られたフルオロキノリン抗生物質およびアミノクマリン抗生物質によっても抑制される。驚いたことに、symocyclinoneは、アミノクマリン阻害剤とは違って、DNAジャイレースのGTPase活性を抑制することなく、代わりにDNAへの結合を抑制する。このたびEdwardsたちは、生化学研究および構造についての研究を用いて、抗菌物質のこの2つの機能グループが、ジャイレースの別々のポケットに結合することを示している(p. 1415)。それぞれのグループは比較的弱い阻害剤であり、一緒になって強力にDNA結合を抑制するものである。(KF)
A Crystal Structure of the Bifunctional Antibiotic Simocyclinone D8, Bound to DNA Gyrase
p. 1415-1418.

ニューロン集団の協調(Coordinating Neuronal Assemblies)

理論モデルでは、大きなニューロン・グループにおけるスパイク活性の同期に強い影響を与えている高度に結合された細胞、いわゆるハブ・ニューロンの存在を予言している。しかしながら、そうしたニューロンのハブの存在についての実験的事実は欠けていた。Bonifaziたちは、何百ものニューロンにおけるカルシウムのゆらぎを同時に測定するために高分解能の2光子カルシウム・イメージングを用い、それらゆらぎの相対的タイミングを決定した(p. 1419)。時間的相関測定に基づいて機能的結合マップを検証することで、GABA作動性ハブ・ニューロンの亜集団が、発生中の海馬ネットワークにおいてネットワークの同調を組織化する、著しく広範な軸索分岐を示していることが明らかにされた。発生中の海馬における自発性のネットワーク同期化は個々のニューロンにおける電位の巨大な脱分極の原因となり、潜在的ハブ細胞におけるスパイク活性を操作することはネットワーク活性に影響を与えたのである。(KF)
GABAergic Hub Neurons Orchestrate Synchrony in Developing Hippocampal Networks
p. 1419-1424.

更に高いベリリウムの振動状態(One More Vibration)

ベリリウムの二量体は過去1世紀の大半において化学者たちを悩ませてきたが、それは結合力が標準的な予測値に比べずっと大きいからである、とは言っても分子結合に比べれば弱いのではあるが。最近の分光学的な測定によってこの分子の特徴が詳細に解明されいるが、結合を切断する閾値のすぐ下に高エネルギー振動状態が存在するか否かは不明のままである。Patkowski たち(p. 1382)は、高エネルギー準位の理論計算に基づき、さらに、少しだけ実験データによって補正することで上位レベルの振動状態が存在する証拠を示した。測定スペクトルとあわせ、これらの結果から、この異常な分子に関する十分根拠のある基礎が得られた。(Ej,hE,nk)
On the Elusive Twelfth Vibrational State of Beryllium Dimer
p. 1382-1384.

ニッケルでの電気分解(Electrolysis at Nickel)

太陽光や風力による発電の弱点は、どちらも稼動できない時に(たとえば風のない夜)蓄積したエネルギーを放出できるような効率的にエネルギーを保存するシステムが必要なことである。水の電気分解から得られる水素は潜在的に有効な保存手段となりうるが、大規模に効率よく相互変換させるためには希少金属である白金を大量に使わなければならない。一つの代替手法としては天然の酵素反応を模倣する方法で、地球上に豊富にある金属、鉄とニッケルを包含したヒドロゲナーゼを利用した相互変換を実現することである。Le Goffらは(p1384;HambourgerとMooreの展望記事)、導電性カーボンナノチューブ支持体に付加できるように、ヒドロゲナーゼに取り込まれるニッケル錯体をわずかに修飾した。得られたハイブリッド材料は標準的な装置で高い効率で可逆的な水の電気分解を引き起こすことができるという。(NK,nk)
From Hydrogenases to Noble Metal?Free Catalytic Nanomaterials for H2 Production and Uptake
p. 1384-1387.

幸せな結婚(A Happy Marriage)

大気と海洋の間の二酸化炭素の流れは、巨大かつ変動するものであって、大気の二酸化炭素濃度がなぜ現在のような変化をしているかを理解することの成否は、その流れの詳細を正確に決定することに懸かっている。この二酸化炭素の交換を数量化する際の主要な障壁の1つは、時間的、地理的、どちらにおいても、利用できる測定結果があまりに少ないことである。Watsonたちは、科学と商業の幸福な結婚から得られた結果を報告している(p. 1391)。それは、北大西洋水域を往復している商用船に設置した機器から収集されたデータであって、これまでに集められた、海洋の二酸化炭素分圧に関するもっとも大きく包括的な測定結果を生み出している。そのデータは海洋の二酸化炭素シンクを前例のない正確さでモニターすることを可能にし、研究者が正確に各地域の年毎の大気-海洋間の流れをマップ化するのを助けることになる。(KF,nk)
Tracking the Variable North Atlantic Sink for Atmospheric CO2
p. 1391-1393.

ヘッジホッグ、プラナリア、再生(Hedgehog, Flatworms, and Regeneration)

ヘッジホッグ(Hh)シグナル経路は、胚発生や後胚期の組織維持、それに疾病の際に中心的役割を果たしている。その核に高度に保存された要素があるにも関わらず、このHh経路は、ハエと魚とヒトの間で、シグナル伝達機構に異常な違いを示している。プラナリア(非寄生扁形動物)を用いて、Rinkたちは、成体再生の際のHhシグナル経路の重要な役割を報告し、伝達機構の困惑させるほどの多様性が、繊毛とHhシグナル伝達の間にある祖先から伝わってきた関連が、動物-特異的に失われていることから生じている可能性があるという証拠を提示している(p. 1406、10月22日号電子版)。(KF)
Planarian Hh Signaling Regulates Regeneration Polarity and Links Hh Pathway Evolution to Cilia
p. 1406-1410.

髄芽腫とAtoh1(Medulloblastoma and Atoh1)

Atoh1転写制御因子は、脳の正常な発生に必要であり、脳のある種の癌にも関係しているとされる。後者の機能を研究するため、またAtoh1遺伝子の早期の破壊に続いて生じる出生時の死亡を回避するため、Floraたちは、マウス出生後にAtoh1遺伝子をノックアウトした(p. 1424)。遺伝子のノックアウトから数日後、小脳表面の細胞が正常なものより早く分化を始めた。その一方で、Atoh1の過剰発現は、過剰な細胞増殖と小脳表面における新生物発生前病変すら引き起こした。Atoh1がGli2遺伝子発現の制御と、それによって、通常は小脳の前駆細胞を未分化のままにしておくSonic Hedgehogシグナル伝達の制御とを行っていることが発見された。(KF)
Deletion of Atoh1 Disrupts Sonic Hedgehog Signaling in the Developing Cerebellum and Prevents Medulloblastoma
p. 1424-1427.

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