AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 20 2009, Vol.326


メタンを捕まえる方法(Methane's Path to Captivity)

水と油は互いに反発しあっていることはよく知られている。従って、北極地方や海底堆積物中に、膨大な量のメタンが圧力の元で氷のかご(cage)に閉じ込められた状態にあることには幾分当惑する。Walshたち(p.1095; 10月8日号電子版、DebenedettiとSarupriaによる展望記事参照)は広範囲なシミュレーションを実行し、通常は相容れないこれら2つの分子が分散するのではなく収斂への経路(paths)に沿って導くそのステップを調べた。計算された2マイクロ秒と5マイクロ秒の軌道は、氷結晶が核を作り、最終的にかごの網目構造の中に組みこむことで、メタンを捕捉するプロセスを辿っている。(TO,KU,og)
Microsecond Simulations of Spontaneous Methane Hydrate Nucleation and Growth
p. 1095-1098.

宇宙空間の加速(Cosmic Acceleration)

宇宙線は、超新星爆発によって引き起こされた衝撃波によって加速されると考えられており、それらが星間空間の粒子や輻射と相互作用すると、ガンマ線が発生する可能性がある。スターバースト銀河は、高い恒星の生成率や高い星の爆発率を示し、ガスと輻射の高密度な場が存在するため、ガンマ線輻射の有望な源泉と考えられる。High Energy Stereoscopic System (H.E.S.S) の望遠鏡アレイを用いて、Acero たち (p.1080, 9月24日号電子版) は、最も近隣のスターバースト銀河の一つである NGC 253 からのガンマ線を検出したと報告している。NGC 253 は渦状銀河であり、われわれの銀河に類似であるが、それの銀河核において激しい恒星生成が起きている点が異なっている。H.E.S.S. による発見は、宇宙線の加速がスターバースト銀河では確かに効果的に生じていることを確認したものであり、これにより宇宙線の加速を理解するうえで新しい道筋が開かれた。(Wt)
Detection of Gamma Rays from a Starburst Galaxy
p. 1080-1082.

酸性の海(Acidic Ocean)

地球温暖化に加えて、化石燃料の燃焼による歴史的に前例のない高レベルな大気中二酸化炭素がもたらす結果の一つが、海洋に溶解した二酸化炭素の高濃度化である。溶解した二酸化炭素は海洋をさらに酸性にし、従って相対的に海洋中の炭酸カルシウムの飽和度が下がる。このことは、炭酸カルシウム骨格を持つ生物に対して、生死を分ける重要な影響(ramifications)を与えるもので、これらの生物は生息している海水中の炭酸カルシウムのその飽和濃度状態に生存を依存している。Yamamoto-Kawaiたちは、2008年にカナダ海盆(Canada Basin) の表面海水が、アラゴナイト(霰石:Aragonite)に関して未飽和状態になっていることを報告しているが、このアラゴナイトは多くの種類の海洋プランクトンや無脊椎動物の殻や骨格に取り込まれる比較的可溶性の炭酸カルシウムである。炭酸カルシウム濃度のこの未飽和化はこれまで予期していたよりも更に早く起こり、そして北極生態系の構成に対して重要な意味を持っている。(TO,KU,nk)
Aragonite Undersaturation in the Arctic Ocean: Effects of Ocean Acidification and Sea Ice Melt
p. 1098-1100.

低速レーン上の光(Light in the Slow Lane)

光が物質を伝播するとき、その速度は真空中よりもわずかに遅くなることが知られている。ほとんどの透明物質では、屈折率が真空での値1に比べわずかに高いだけなので、減速の程度もわずかである。BoydとGauthierらは(p. 1074)、光の速度を歩行者の速度と同程度まで減速できる技術を総説し、低速の光と高速の光で実現できる応用についても説明している。(NK,nk)
Controlling the Velocity of Light Pulses
p. 1074-1077.

原初の鉱脈形成(Early Ore Formation)

鉱床は地球の金属資源、最も普通に使用される鉄のような金属から白金のように高価な金属に至るまで、その殆どを含んでいる。これらの古代の鉱床がどのように形成されたかを知ることによって、より効果的な金属抽出が可能になるかもしれない。また、原初の地球に関するヒントが与えられるかもしれない。Bekkerたちは(p. 1086)、カナダとオーストラリアで採取された27億年前の鉄-ニッケル硫化物鉱床に含まれる硫黄と鉄の同位体について調査した。金属を硫化物としてさらい採った硫黄の殆どが、元々大気由来であることを発見した。古代の無酸素大気中での光化学反応によって硫化物が産生され、やがて海底に移動・堆積し、新たに噴出した笹葉石性マグマ(komatiite magmas:太古代のコマチアイト マグマ)と混合した。このように、海中や大気内そして大陸上における地球表層の一連の作用は、鉱床形成のプロセスと地球化学的に関わりあっている。(Uc,KU,nk)
Atmospheric Sulfur in Archean Komatiite-Hosted Nickel Deposits
p. 1086-1089.

周辺質のレドックス制御(Periplasmic Redox Regulation)

細胞内と細胞外のタンパク質の酸化状態は、細胞のレドックス機構によって注意深く制御されている。Depuydtたち(p. 1109)は、単一システイン残基を細菌周辺質の酸化から保護する還元系を発見した。チオレドキシン-関連タンパク質DsbGは、その系におけるキープレーヤーであり、大腸菌の周辺質で同定された最初の還元酵素である。DsbCと共に、DsbGは周辺質の全体的なスルフェン酸含有量を制御している。スルフェン酸形成は周辺質における主要な翻訳後修飾であり、3つの同類のL,D-トランスペプチダーゼはDsbGの基質である。スルフェン酸形成は大腸菌に限定されず、いたるところで存在する。チオレドキシンスーパーファミリ由来のタンパク質は広範囲に存在しているので、同類のチオレドキシン関連タンパク質は、細胞のスルフェン酸をより広範に制御しているであろう。(hk,KU)
A Periplasmic Reducing System Protects Single Cysteine Residues from Oxidation
p. 1109-1111.

大型動物相の消滅(Demise of the Megafauna)

ほぼ1万年前の北米における更新世‐完新世の最終退氷期において、大型動物の消滅、植物群落の再編成、及び野火の増加等の広範な生物相と環境の変化が生じた。このような変化の順序や因果関係は定かではない。Gillたち(p.1100;Johnsonによる展望記事参照)は、インディアナ州のAppleman Lakeの堆積物からの花粉、木炭及び糞生菌類Sporomiellaの解析からこれらの関連を明らかにした。更新世における大型動物相の個体群密度の減少(糞生菌類胞子の存在量から推定された)は、最終氷期の植物群落の形成と増大する野火の移動の双方より先行して起こっていた(14,800年から13,700年前)。大型草食動物の減少は広葉樹の繁殖を促し、生態系の構造や機能の変化をもたらした。これらは、大量絶滅を説明するための生息地の変化(Younger Dryascooling)や、隕石の衝突(12,900年前)を採用した仮説と矛盾する。このデータは、大型動物相の集団的崩壊や機能的消滅が彼らの最終的な絶滅の数千年前に起こっていたことを示唆している。(KU,nk)
Pleistocene Megafaunal Collapse, Novel Plant Communities, and Enhanced Fire Regimes in North America
p. 1100-1103.

抗-HIV抗体の束縛(Anti-HIV Antibody Constraints)

多大な努力にもかかわらず、HIV-1ウイルスに対する効果的なワクチンは見出されていない。宿主細胞上でCD4受容体に結合するHIV-1 gp120外被糖タンパク質の部位は、抗体の攻撃に弱いが、この部位を広範に中和する抗体はごく稀である。Chenたち(p.1123)は、gp120との複合体における二つの弱い中和抗体の結晶構造を決定した。これらの抗体によって認識されるエピトープ(抗原決定基)は、CD4や広範に中和する抗体に結合したものと類似している。しかしながら、認識における小さな差異がgp123における立体構造の変化を誘発し、機能的なウイルススパイクの形成を不適合性にする。このように、HIVの抗体-脆弱部位が立体構造の束縛によって保護されている。(KU)
Structural Basis of Immune Evasion at the Site of CD4 Attachment on HIV-1 gp120
p. 1123-1127.

アメージング:トウモロコシの驚異のゲノム(A-Maize-ing)

トウモロコシは人類にとって最も古い、かつ最も重要な穀物の一つであり、9千年位前にメキシコ中央部で栽培された。Schnableたち(p.1112;表紙参照)は、B73 近交系トウモロコシ系統の配列決定の結果を報告している。その知見は、染色体に関する祖先の倍加後に、トウモロコシがどのようにして二倍体になったかを説明するものであり、そして転移因子の移動と活性化、及び組み換えを明らかにしている。Vielle-Calzadaたち(p. 1078)は、メキシコの高地のはぜトウモロコシであるPalomero Toluqueno(Palomero)在来種の配列を決定したが、B73系統との比較から、ヒトの栽培によって影響を受けた複数の座位が明らかになった。Swanson-Wagnerたち(p.1118)はこれらのゲノム領域を調べ、系統間で生じている発現の差を解析している。Goreたち(p. 1115)による系統中の一塩基多型とコピー数変動の同定から、トウモロコシのハプロタイプのマップが作られた。トウモロコシにおける染色体の多様性は高いものであるが、組換えがトウモロコシにおける異型接合性のレベルに影響を与える主要な力であるらしい。トウモロコシゲノムの利用により、将来の農業面での応用やバイオ燃料の応用面で役立つであろう(Feuillet and Eversoleによる展望記事参照)。(KU)
The B73 Maize Genome: Complexity, Diversity, and Dynamics
p. 1112-1115.
The Palomero Genome Suggests Metal Effects on Domestication
p. 1078.
Paternal Dominance of Trans-eQTL Influences Gene Expression Patterns in Maize Hybrids
p. 1118-1120.
A First-Generation Haplotype Map of Maize
p. 1115-1117.

アリとシロアリにとっての農園維持(Gardening for Ants and Termites)

社会性のある昆虫のうち、アリとシロアリはもっとも多様性があり、しかも生態学的に優性なものである。シロアリは、窒素固定細菌と相利共生であることが知られているが、Pinto-Tomasたちは、同様の関係が葉切りアリの仲間においても生じていて、葉切りアリのキノコ農園に特殊化した窒素固定細菌が維持されている、ということを明らかにした(p. 1120)。そうしたことから、こうした相利共生が陸生の生態系における窒素の主要な源になっているわけである。そのような相利共生の進化上の安定性はいかにして維持されているのだろうか? Aanenたちは、シロアリによって培養されているTermitomyces fungus(シロアリ菌類)が、同族性が高い状態にあるのは、同じクローンの菌糸同士が互いに融合し、それ以外のクローンを追い抜いて成長しているからである、ということを示している(p. 1103)。(KF,nk)
Symbiotic Nitrogen Fixation in the Fungus Gardens of Leaf-Cutter Ants
p. 1120-1123.
High Symbiont Relatedness Stabilizes Mutualistic Cooperation in Fungus-Growing Termites
p. 1103-1106.

シナプス恒常性におけるdysbindinの機能(Dysbindin Function in Synaptic Homeostasis)

恒常性シグナル伝達系は、かなり長い時間にわたって神経機能を安定化させると広く信じられてきた。しかしながら、神経系におけるその恒常性シグナル伝達の分子機構は大部分わかっておらず、恒常性シグナル伝達における欠陥とその病気の原因となる遺伝子との直接の関連は不明瞭なままである。DickmanとDavisは、シナプス恒常性を特異的に破壊する変異を求めて、電気生理学に基づく大規模な遺伝子スクリーンを実施した(p. 1127)。DTNBP1は、ヒトにおける統合失調症感受性にもっとも強く、かつ一貫して付随する2つの遺伝子のうちの1つである。そうしたDTNBP1のショウジョウバエにおける相同体であるdysbindinがスクリーニングにおいて同定され、シナプス発生やベースラインとなる神経伝達、シナプス恒常性の際に機能していることが見出された。dysbindinは小胞遊離のカルシウム依存を変化させ、シナプス恒常性の誘導と発現、双方のためにシナプス前ニューロンにおいて不可欠なものであった。(KF)
The Schizophrenia Susceptibility Gene dysbindin Controls Synaptic Homeostasis
p. 1127-1130.

毛を多角形状に並べる(Hairy Polygon Solution)

球面上に極性を持つ棒を詰め込んでいくと球面の反対側の二つの極のところで幾何学的な欠陥が生ずる。しかし、ドーナツ状表面になら棒をきれいに詰め込める。これは数学のトポロジーで「つむじの定理」として有名な問題であり、ネマティック液晶中に球形粒子を置いたときにその球状表面に付着する棒状の液晶分子の配列に関してこの問題が生じる。Lapointe たち(p. 1083)は、辺の長さが等しい多角形の小片をリソグラフィーの技術によって作り、これを一様なネマティック液晶中で自己凝集させた。この小片の表面に液晶分子がきれいに並んで生じた双極子の数、つまり欠陥数は、多角形の辺が奇数であるか偶数であるかに依存した。この欠陥は、小片が自己組織化するよう互いに引力を及ぼしているように見える。(Ej,nk)
Shape-Controlled Colloidal Interactions in Nematic Liquid Crystals
p. 1083-1086.

原初の大陸形成(Building Early Continents)

地球の大陸地殻の最も古く、安定的な部分であるクラトン(Cratons)は何十億年もの間、降着形成・火成活動・プレート移動を経て、存続し続けている。このように激しい変動を経てきたため、どのように、そしていつクラトンが形成されたかという点に関して、現存する証拠を見つけることは困難である。C.-W.Chenたちは(p.1089)、カナダのスレイブ・クラトン地下で得られた地球物理学的データを用いて、始生代の岩石圏プレート沈み込みが、クラトン形成に関与する主要プロセスであるかもしれないことを示している。地表から100km以上地下に存在する、地震波不連続面と電気伝導度不連続面とが空間的に向きが揃って並ぶ領域は、古代のクラストが沈み込み領域で溶融して生成した高温流体から形成された鉱物によって生じている。地球上のその他の古代のクラトンも同じような様相を示している。このことは、プレートテクトニクスは少なくとも35億年前に起こっていたことを示している。(Uc,nk)
Geophysical Detection of Relict Metasomatism from an Archean (~3.5 Ga) Subduction Zone
p. 1089-1091.

触媒反応のプラズモンによる検出(Plasmonic Probing of Catalysis)

工業的に利用されている表面触媒反応を理解するには、表面における反応物の濃度測定が必要となる場合が多い。これは通常酸化物の支持体上に分散された金属粒子の表面被覆率によって表現される。表面被覆率を光学的に測定することは簡便であるが、表面上の僅かな数の分子を検出するには感度が不足している。Larsson たち(p. 1091,および、10月22日号電子版参照)は、表面被覆率測定にプラズモン共鳴のピークシフトを利用した。ナノスケールの金のディスク表面を約10ナノメートルの厚さの金属触媒粒子で装飾した酸化物コーティングを成長させ、反応中の表面被覆率を光学的消光スペクトルのピークシフトによって推定した結果、単層の0.001以下の感度を持っていた。これらは白金上でのCOやH2の酸化、Pt/BaO上での NOxのN2への変化について実証された。(Ej,hE)
Nanoplasmonic Probes of Catalytic Reactions
p. 1091-1094.

絶滅の差異(Extinction Distinctions)

絶滅の影響を受けた生物の分布は、大量絶滅や背景絶滅の仕組みを明らかにする助けとなりうる。これはしばしば、たとえば、陸上と海洋との対比で、あるいは緯度の違いに基づく比較によって、その影響が調べられてきた。MillerとFooteはこのたび、3つの主要な大量絶滅を含むペルム紀から白亜紀にかけての期間に渡り、大陸周辺の浅い海と、開かれた海洋の海岸領域とを対比させて、絶滅のパターンを分析した(p. 1106)。それらの大量絶滅はすべて、浅い海よりは開かれた海岸環境における生物により強く影響したが、それ以外の背景絶滅が主要な時代にはパターンが逆になった。つまり、そうした環境下の生物は、互いに違った進化史をもつ可能性があるということだ。(KF,nk)
Epicontinental Seas Versus Open-Ocean Settings: The Kinetics of Mass Extinction and Origination
p. 1106-1109.

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