AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 16 2009, Vol.326


一つ、二つ、三つと数える様子を脳内でマップ化(Seeing the Brain's One, Two, Three)

ヒトの頭蓋内の電極による脳の神経活動記録を取るという滅多にないチャンスを生かして、Sahinたち(p. 445; およびHagoort and and Leveltによる展望記事も参照)は、被験者がある一つの単語を思い浮かべ、次にその時制(それが動詞なら)や数量(それが名詞なら)を変化させ、最後にその単語を声を出さずにしゃべる時のブローカ中枢内の神経細胞の空間的・時間的な個数のパターン変化を記録した。これら3段階における 尾側から吻側方向へと動く活性が、それぞれ200, 320, 450ミリ秒の時点で観察された。これらのデータは、脳内での発話の開始に必要な約600ミリ秒にきっちりと当てはまり、単語、文法、発話の各々の演算処理が脳内で時間的空間的にどのように分布しているかをマップ化したが、これは言語生成における重要事項として約150年前から知られていることである。(Ej,nk)
Sequential Processing of Lexical, Grammatical, and Phonological Information Within Broca’s Area
p. 445-449.

閉じ込められたゲルマニウムの熱力学(Confined Germanium Thermodynamics)

材料をナノスケール空間に閉じ込めると、全体積に対する表面積の割合が非常に高くなり、特異な熱力学的性質を示すことが知られている。電子顕微鏡で熱力学特性をその場観察される例が多いが、この実験系の場合、材料の体積変化に制限はない。Holmbergらは(p405)成長核となる金粒子が付着し、また体積変化を抑え込むためにカーボンシェルで覆ったゲルマニウムナノワイヤーの熱力学特性を、加熱サイクル中試料の体積を一定に保ったまま、反応温度と液体組成を観測しながら調べた。ゲルマニウムが加熱されている間の相挙動だけでなく、被覆界面での固相拡散も観測できている。(NK,Ej,nk)
Phase Transitions, Melting Dynamics, and Solid-State Diffusion in a Nano Test Tube
p. 405-407.

窒素収支を均衡させる(Balancing the Nitrogen Budget)

地球規模で元素の収支を定めるのは難題である。例えば未知の発生源や吸収源を説明しなくてはいけない場合等である。未だ解明されていない海洋窒素収支の不均衡問題は、深海に更なる窒素固定源があるかもしれないことを示している。Dekasたちは(p.422;Fulweilerによる展望記事を参照)高解像度画像技術を用いて、深海堆積物の嫌気性メタン酸化古細菌による同位体標識されたN2(窒素分子)の直接同化を観察し、そしてそれに続く窒素硫酸還元細菌共生者への窒素移動反応についても観察を行った。このように古細菌による緩やかでエネルギー的にコストのかかる変換作用はメタンに依存しており、共生者である真性細菌に物理的が接していることが必要である。このような栄養共生生態系は、海洋において窒素発生源となりうる。そして地球規模の窒素収支の均衡に関与しているのかもしれない。(Uc,Ej,nk)
Deep-Sea Archaea Fix and Share Nitrogen in Methane-Consuming Microbial Consortia
p. 422-426.

糸につながれたビーズ(Like Beads on a String)

球の最適パッキングとか、それより低密度であるが粒状物質をコンパクトに詰める問題は良く研究された課題である。しかし、各球がポリマーのように互いに結合した場合(結合球モデル)については、それほど良く解っている訳ではない。Zou たち(p. 408;および、Reichhardt and Lopatinaによる展望記事参照)は、風呂の栓を繋いであるビーズや、窓のブラインドを上げ下げするビーズのような金属ビーズ鎖のパッキングモデルを研究した。鎖の長さとか、鎖が線状であるか、ループになっているかどうかによって、パッキングの割合に影響することが解った。鎖をまとめて詰め込むというこの問題は、ポリマー物質のガラス転移の物理に重大な手掛かりを与える。(Ej,nk)
The Packing of Granular Polymer Chains
p. 408-410.

磁気単極子(Magnetic Monopoles)

磁石はN極とS極がペアになって現れる。磁気単極子(N極、あるいは、S極単独のもの)は、その存在が予想されているのにもかかわらず、天文学や高エネルギー素粒子物理実験における探索では観測にかかってこなかった。凝縮系物質における理論的研究は、スピン-アイス構造は、そのようなとらえどころのない粒子が隠れ住むところとなりうると予測している(Gingras による展望記事を参照のこと)。Fennell たち (p.415, 9月3日にオンラインで発表された) と、Morris たち (p.411, 9月3日にオンラインで発表された) は、分極した中性子による散乱を用いて、Ho2Ti2O7 と Dy2Ti2O7 という二つのスピン-アイス化合物におけるスピン構造の形成を調べた。そして、両物質中に磁気単極子が存在することを支持する結果を与えている。(Wt,nk)
Magnetic Coulomb Phase in the Spin Ice Ho2Ti2O7
p. 415-417.
Dirac Strings and Magnetic Monopoles in the Spin Ice Dy2Ti2O7
p. 411-414.

一倍体のメダカの幹細胞(Haploid Medaka Stem Cell)

二倍体の胚性幹細胞は様々な手段で作られるが、一倍体の幹細胞を作ることも価値があるであろう。一倍体の幹細胞においては、必須遺伝子における劣性変異により、ヘテロ接合性の動物には見られないような表現型を示すであろう。Yiたち(p.430)はメダカのモデル系を用いて、安定な増殖と多能性を示す一倍体の幹細胞を作った。更に加えて、正常な卵に一倍体の胚性幹細胞の核を移入することで、繁殖性のあるメスのメダカが得られた。このメダカのモデル系は劣性遺伝子の解析、たとえば病気の表現型や多様な細胞系譜を培養実験で解析できる可能性を持っている。(KU)
Generation of Medaka Fish Haploid Embryonic Stem Cells
p. 430-433.

小柄な恐竜(Diddy Dinosaurs)

ティラノサウルス(Tyrannosaurus)は、白亜紀後期に地上を支配する大きな捕食恐竜であった。彼らは、際立った特殊な特徴をいくつか持っており、特大の頭蓋骨、巨大な後肢、そしてちっぽけな前肢などは彼らの大きなサイズと食肉性に適合するように進化したと考えられていた。Sereno たち(p.418,9月17日オンライン記事公開、Clarkによる展望記事参照)は、中国で見つかった初期の小柄なティラノサウルスについて論じているが、それらにも既に上のような特徴が備わっていた。すなわち、これらの特徴は、サイズが大きくなったことが原因ではなく、すべてのサイズにおいて効率よく食事ができるように求められていたからと思われる。(TO,nk)
Tyrannosaurid Skeletal Design First Evolved at Small Body Size
p. 418-422.

概日時計と代謝の関係(Coupling Clocks and Metabolism)

哺乳動物の概日時計は、数千の遺伝子のリズミカルな転写を促進することで行動と生理を日々の昼夜のサイクルとに整合させる。脳内のマスター時計は光によってセットされるが、しかしながら肝臓のような末梢組織における時計は日々の摂食によってセットされる。このような結びつきにより、組織は摂食量を「予測」し、代謝プロセスのタイミングの最適化が可能となるが、栄養状態を末梢組織の時計にどのようにして伝えているかは不明であった。細胞培養モデルとマウスをの研究から、Lamiaたち(p.437;Suter and Schiblerによる展望記事参照)は、栄養‐応答性のシグナル分子であるAMPK(AMP‐活性化タンパク質キナーゼ)がリン酸化をトリガーし、引き続いての時計要素(部分)のクリプトクロム‐1の分解により、代謝情報を概日時計に提供していることを示している。このように、本来、植物における青色光の光受容器であるクリプトクロムが哺乳動物において化学エネルギーのセンサーとして働いている。(KU,Ej)
AMPK Regulates the Circadian Clock by Cryptochrome Phosphorylation and Degradation
p. 437-440.

蚕の飼育(The Taming of the Silkworm)

蚕(Bombyx mori)は、10,000年以上昔から飼育されてきた数少ない飼育昆虫の一つである。Xiaたち(p.433,8月27日号電子版)は、29の家蚕と11の野生蚕系統のゲノム配列を調べ、人が飼育してから選択された可能性の大きい遺伝子を同定した。これらの遺伝子は絹の産生、繁殖力、及び成長性を強める遺伝子であった。更に、蚕の飼育は大きなある祖先集団から一度のみ行われたようで、他の家畜動物で観察されたような複数の場所と時から生じたものとは異なるものである。(KU)
Complete Resequencing of 40 Genomes Reveals Domestication Events and Genes in Silkworm (Bombyx)
p. 433-436.

教師を教育する(Teaching Teacher)

高等学校の科学の教師にとって、科学研究に参加できる機会は稀である。このような教師が先端研究を経験した場合にどのようなことが起こるか、コロンビア大学のプログラムによって考察されている。Silversteinたちは(p. 440)、教師が、専門研究機関と同レベルの先端研究を含む二年間に及ぶ夏期プログラムを経た後、その教師は生徒に対してより有効に教育を行えるようになったことを示している。この夏期プログラムでの研究経験を有する教師の生徒は、そうでない教師の生徒に比べて、厳しいニューヨーク州統一試験をより高い確率で合格していることが示されたのだ。(Uc)
Teachers’ Participation in Research Programs Improves Their Students’ Achievement in Science
p. 440-442.

心臓への治療(A Fix to the Heart)

血管再生医学は、重症心不全に対する治療適用にとって有望なアプローチである。臨床治験によって、細胞移植治療にいささかのメリットがあることは示唆されてきたが、丈夫な心筋形成がそれによってなされることはない。Domianたちは、正常な成熟心筋における発達過程を調べた(p. 426)。2色のマウスによるレポーター・システム(two-color murine reporter system)を用いて、関与している複数の心室前駆体が単離されたが、それらは次に、力を生み出す機能する心臓組織を作り上げるのに使われていた。組織工学と幹細胞生物学のそうした組み合わせによって、いつかは心臓の再生治療が可能になるかもしれない。(KF)
Generation of Functional Ventricular Heart Muscle from Mouse Ventricular Progenitor Cells
p. 426-429.

シュワッと爽やか(Gee Fizz)

炭酸飲料を次に楽しむ時には、その特有の風味を提供している分子機構についての理解を深めた上で、それを楽しめるようになるだろう。Chandrashekarたちは、マウスの味細胞のいろいろな集合を遺伝的に切除することによって、すっぱい風味を感じる味細胞を欠くマウスで二酸化炭素のもたらす感覚が失われるということを見出した(p. 443)。その細胞で特異的に発現する遺伝子をスクリーニングして、炭酸脱水酵素4をコードしている遺伝子が明らかにされたが、それは二酸化炭素の水和を触媒して、炭酸水素塩と自由水素イオンを作り出すものだった。炭酸脱水酵素4遺伝子を発現しないノックアウトマウスはまた、二酸化炭素を感じる程度が減少していた。その酵素によって生み出される水素イオンが、すっぱさ感受性細胞によって感知される実際の分子であるらしい。このプロセスが触覚とあいまって、人気のあるシュワッという感覚のもとになるらしい。(KF)
The Taste of Carbonation
p. 443-445.

皮質下のネットワークの制御(Subcortical Network Regulation)

皮質下の神経調節性中枢は、動機や情動の状態に依存した、皮質機能の制御を支配している。皮質性回路の制御は、非常に多くのニューロンの興奮に比較的無差別に影響を与える、ゆっくりした拡散性の神経調節を含んでいると考えられてきた。Vargaたちは、皮質性情報処理の皮質下での制御の一形態を記述しているが、そこでは、中脳のセロトニン作動性ニューロンからの強くて時空間的に正確な興奮性入力が、海馬の介在ニューロンの頑強な活性化を生み出している(p. 449)。この効果はセロトニンとグルタミン酸の双方のシナプス性遊離によって仲介され、ネットワークの活性パターンに強い効果をもたらしているのである。(KF)
Fast Synaptic Subcortical Control of Hippocampal Circuits
p. 449-453.

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