AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 9 2009, Vol.326


原始惑星 2 Pallas (Protoplanet 2 Pallas)

2 Pallas は、265 km (平均 544 kmという報告もある) の直径を有する主小惑星帯の中で最大の天体の一つである。Schmidt たち (p.275) はハッブル宇宙望遠鏡からの画像を用いて、その表面と形状の特徴を調べた。色の変化と地形が明らかになったが、それはおそらく、小惑星の熱的な進化と、この小惑星の熱的な進化とその軌道族、すなわち 2 Pallas と同じ軌道特性を有し衝突の破片と看做される小惑星のグループの形成に関連しているのであろう。特に、大きな衝撃に基づくクレーターが観測されており、これは、Pallas族ができた時の衝突の跡である可能性がある。2 Pallas は、主小惑星帯の中での三番目の無傷の原始惑星であり、1 Ceres と 4 Vesta の仲間となるものである。(Wt,KU,tk,nk)
The Shape and Surface Variation of 2 Pallas from the Hubble Space Telescope
p. 275-278.

洞穴中のモンスーンの記録(Monsoon Cave Recordings)

中国中央部にある洞穴内の岩石性の沈着物を形成する鉱物の酸素同位体の成分比の形でアジアモンスーンの長年の記録が保持されている。これらの沈着物を詳細に年代測定した結果、絶対的な経年変化を気候変動と関連付けて表すことが可能となった。Cheng たち(p. 248; およびSeveringhausによる展望記事参照)は、中国Sanbao洞穴から収集された洞穴生成物から酸素同位体のデータを示した。これは120,000年前から350,000年前の期間に生じた3つの氷河停止期間を含んでいる。このデータは、この期間のアジアモンスーンによる降雨量の変動を示している。この変化のタイミングと、掘削氷柱や海底堆積物の記録の比較から、日射量の変動がどの程度氷床の変動や氷期の終焉に影響を与えたかについて、そのメカニズムに関する洞察が得られた。すなわち、従来言われていたように、夏季の北半球の日射量が北半球の氷床の衰退のきっかけとなる。溶けた水や氷山が北大西洋に入り、海洋と大気の循環を変え、熱と炭素の流れに影響を与える結果、大気中のCO2が増加し、南極の温度を上昇させ、南半球の氷期を終わらせる。これがCO2を更に増加させ、夏の日射量を増加させ、北の氷床を小さくする結果、海表面レベルとCO2の正のフィードバックが生じたと思われる。(Ej,hE)
Ice Age Terminations
p. 248-252.

代謝産物の配列(Metabolite Arrays)

混合された試料中の複数の代謝経路を生化学的に分析するのに適した手法が不足している。Beloqui たち (p. 252)は、1枚のガラススライド上にリンクされた1500種以上の代謝産物配列を用いて、有機体や有機体混合物の包括的な代謝状態を標本化する手法について述べている。1つの酵素が代謝生成物の1つと反応すると、1つの蛍光染料を放出するので、酵素の活動を鋭敏に検出することができる。著者たちは、少数の細菌混合物のサンプルからDNAを取り出し、これを宿主細菌の中で増殖し、そのコード化された代謝活動を代謝産物の配列によって測定した。さらに、特別に設計したリンカーによって代謝産物の基質をナノ粒子上に被膜し、こうして固定化された代謝産物と反応する酵素を捕獲し、純化することに成功した。このような代謝産物の配列は、環境試料の特徴付けや、診断プロセスや、酵素の発見に有効であろう。(Ej,hE,nk)
Reactome Array: Forging a Link Between Metabolome and Genome
p. 252-257.

量子メモリーを延命する(Extending Quantum Memory)

量子情報処理や通信を実現するためには、情報を量子メモリー中に蓄積、取り出し、そして操作できることが必要である。しかし、これまでの実例では、蓄積された量子情報は脆弱で読出しの際に消滅してしまう。Jiangらは(p.267、9月10日号電子版)、ダイヤモンド中の窒素欠陥中心の電子スピンに対し量子論理演算を組み合わせ、電子スピンと近傍炭素ネットワークの核スピンとの相互作用を制御した。この系では、より安定な電子スピンからなる量子メモリーを達成することができた。寿命をのばし、量子メモリーの繰り返し読出しを可能にしたことは、量子情報処理にとって有用な技術といえる。(NK,nk)
Repetitive Readout of a Single Electronic Spin via Quantum Logic with Nuclear Spin Ancillae
p. 267-272.

耳!耳!(Ear, Ear)

他の動物と哺乳類を区別する一つの決定的な特徴は、顎から中耳が離れている点である。この特徴により、哺乳類は聴覚能力が向上している。Jiたちは(p.278;MartinとRufの展望記事を参照)、中生代の哺乳類の成体の化石について詳述している。この哺乳類は、現在の有袋類と有胎盤類に連なるものであり、中耳はまだ顎に固定されている。近年の発生学的研究によって、中耳の顎からの分離は、発生期における同義遺伝子(二対以上の、同義的に作用する遺伝子)とシグナルパスウェイ(細胞によって生化学的信号が伝達される経路)に深く関連していることが示されてきた。あわせてこれらのデータは、遺伝子によるパターニングが哺乳類の耳の初期進化にどのように繋がっていたのかを示している。(Uc)
Evolutionary Development of the Middle Ear in Mesozoic Therian Mammals
p. 278-281.

病原体応答ネットワークを覗き見る(Peeking at Pathogen Response Networks)

遺伝子発現を制御しているネットワークは細胞中で重要な決定をする役割をしているが、刺激に応答する動的で特異的な遺伝子発現を制御するネットワークはよく理解されていない。このことは免疫の樹状細胞(DC)で特に当てはまる。この細胞は巧妙に転写応答を仕掛けることで病原体に応答し、感染症、自己免疫やワクチンでは中心的に働くようになる。Amit たち(p.257, および、9月3日号電子版)は、樹状細胞の病原体の特別なクラスに対しての転写応答を調べた。異なる病原体に応答する哺乳類の樹状細胞の原因となっている転写サブネットワークが同定され、100個の制御因子の機能が明らかになった。(Ej,hE)
Unbiased Reconstruction of a Mammalian Transcriptional Network Mediating Pathogen Responses
p. 257-263.

実は静かだった時計(Quiet Clock)

多くの生理的プロセスは、脳の視交叉上核(SCN)にある生物時計によって営まれる概日周期(約24時間周期で変動する生理現象)を有している。このSCNの中では、いくつかの神経細胞が時計機能を有する分子構成成分をもっているが、その全てがもっているというわけではない。時計機構のメカニズムがどのように正確に神経細胞の活動に結びついているかは、未だきちんとは理解できていない。Belleたち(p.281)によるSCN神経細胞の電気生理学的特性の研究によって、従来予想されてきたような、日中に神経細胞が高頻度に速発火するのとは対照的に、電気的に興奮状態にあるにも関わらず時計機能を有する細胞は発火する傾向が少ないことが示された。神経チャネルの活動変化に関するモデリングと実験的評価によって、予想もしえなかったSCN細胞の電気生理学的特性が分かった。このことにより、どのように概日時計機構がSCN神経細胞活動を調整しているのかという点について、再評価が必要となっている。(Uc,Ej)
Daily Electrical Silencing in the Mammalian Circadian Clock
p. 281-284.

抗HIV抗体(Anti-HIV antibodies)

HIVワクチンに関する最重要課題の一つは、広範囲な中和抗体応答を誘発することであり、これが感染に対する最大の防御を提供するはずである。HIVの発見以来25年経過したが、極めてわずかな広範囲に作用する中和抗体が同定されただけであり、これら既存の中和抗体は20年前ほどに発見されていた。高処理の培養系を用いて、Walkerたち(p.285、9月3日号電子版)は、あるクレードのA HIV‐感染アフリカ人ドナーから単離した二つの付加的な広範囲に作用する中和抗体を同定した。これらの抗体は強い作用強度を示し、既存の中和抗体に比べ、多くの異なるクレードからの広範囲のウイルスを中和することができる。この抗体は3量体形成したウイルスの外被タンパク質のモチーフを認識するが、これは可変性のgp120サブユニットのループの保存領域中で見出されている。このモチーフの同定により、ワクチン開発における興味ある新たなターゲットが提供される。(KU)
【訳注】抗HIV抗体:抗体分子の抗原決定基に反応して作られる抗体
Broad and Potent Neutralizing Antibodies from an African Donor Reveal a New HIV-1 Vaccine Target
p. 285-289.

通常でも永久運動している(Normally Persistent)

超伝導体においては、電流が損失なしに永久に流れることになっている。量子力学では、このような永久電流が通常のメゾスコピックな金属リング中でも存在すべきことを予測している。しかしながら、この予測される電流が生成する信号(効果)は小さく、このことがこれらの電流の検知を難しくしていた。Bleszynski-Jayichたち(p. 272; Birgeによる展望参照)は、ナノメカニカル共振器に基づいた高感度の検知技術を開発した。共振器の端のアルミニウムリングのアレイが、共振器の周波数シフトを検知するために取り付けられた。共振器の周波数シフトは、そのリング中に電流を流し込んでそのリングに磁束量子を通すことによって検知された。十年以上前に提唱された理論的シナリオのとおり、その結果は非相互作用電子に基づいたモデルで説明することができた。(hk,Ej)
Persistent Currents in Normal Metal Rings
p. 272-275.

染色体のマップ化(Chromosomal Mapping)

核中でのゲノムの高次構造と、近位座位および遠位座位の双方の間の接触が、遺伝子発現に影響を与えている。ゲノムの接触をマップ化するために、Lieberman-Aidenたちは、真核生物の核中におけるゲノム座位間のすべての相互作用の検出と、それに引き続く深いレベルでの配列決定とを可能にする技術を開発した(p. 289, また表紙参照のこと)。この技術はヒトゲノムの組織化状況をマップ化するために、またメガ塩基規模の分解能における染色体座位の空間的近接状況を検討するために用いられた。この地図は、ゲノムが2つの空間的区画に分画されているということ、それら区画は局所的な染色質状態に関連していて、その再構築が染色質状態の変化に関連していることを、示唆するものである。(KF)
Comprehensive Mapping of Long-Range Interactions Reveals Folding Principles of the Human Genome
p. 289-293.

判断を分かつ(Making Split Decisions)

脊椎動物の脈管構造の発生は、たった2つの血管形成の仕組みを含むものだと考えられてきた。ゼブラフィッシュにおいて、Herbertたちは第3の仕組みを同定したが、それは2つの関係のない別々の血管が単一の前駆的血管に由来して出来上がると言うものである(p. 294; またBeneditoとAdamsによる展望記事参照のこと)。いくつかの血管内皮膚増殖因子と、エフリンやノッチのシグナル伝達などを含むシグナル経路とがうまく全体を調整することで、動脈になる、あるいは静脈になるよう運命付けられている前駆細胞の混合物の並べ替えや分離がなされ、動脈血管や静脈血管へと形成されていくのである。こうした知見は、いろいろな細胞の混じりあった集団がいかにして振る舞いを調整し、異なる血管を形成するようになるかを示す仕組みの枠組みを提供してくれる。(KF)
Arterial-Venous Segregation by Selective Cell Sprouting: An Alternative Mode of Blood Vessel Formation
p. 294-298.

神経の繁茂の封じ込め(Containing Neuronal Exuberance)

ラットとマウスでは、出生の頃に、中枢神経系のニューロンが成長モードから切り替わり、再生能力を失うようになる。ラットの網膜神経節細胞を調べることによって、Mooreたちは、その切り替えに寄与している遺伝子、Kruppel様因子-4(KLF4)を同定した(p. 298; またSubangとRichardsonによる展望記事参照のこと)。このKLF4遺伝子は、軸索伸長についての抑圧ないし増強の効果をもつ関連転写制御因子のファミリーに属している。出生前および出生後でのこの転写制御因子ファミリーの組み合わせの効果で、ニューロンが軸索を伸ばす能力が微調整されている可能性がある。(KF)
KLF Family Members Regulate Intrinsic Axon Regeneration Ability
p. 298-301.

光放出現象に位相を取り入れる(Phasing-in Emission)

量子力学に対応して、分子が光を吸収した際に起こる現象は光の周波数だけでなく、光の位相にも依存する。というのは、光と分子波動関数との干渉を通して位相が励起状態の軌跡に影響することが可能だからである。最近、レーザ励起パルスの位相を繰り返しながら適合させていく事で、タンパク質を含む複雑な光吸収物質に対して見事な水準の制御が達成された。しかしながら、用いられた最適のパルスは複雑すぎて、適用された系に関する直接的な洞察を明らかにすることが出来なかった。Kurodaたち(p.263,Batistaによる展望記事参照)は、巨大分子のドナー-アクセプター系に関する光電子放出効率が最大になるよう、位相を繰り返し操作した。その後で、統計的な解析により、制御メカニズムの根底となるかなり単純な位相関数を見出した。注意深い追実験の結果、励起状態の挙動に関する直感的な描像が得られた。(KU,Ej,nk)
Mapping Excited-State Dynamics by Coherent Control of a Dendrimer’s Photoemission Efficiency
p. 263-267.

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