AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 2 2009, Vol.326


イヌの毛は遺伝子の秘密を隠している(Dog Coats Shed Genetic Secrets)

イヌの毛は非常に多様性に富んでいる。長い毛・短い毛・直毛・波打った毛・巻き毛・剛毛、或いは無毛などである。Cadieuたちは(p.150,8月27日号電子版)、80の異なるイヌ品種について全ゲノム関連解析を行なった。イヌの毛の表現型は、3つのシンプルな特徴:毛の長さ、毛の巻き具合、毛の発育パターンに分類することができる。それらは主要遺伝子:FGF5(繊維芽細胞成長因子-5)、KRT71(ケラチン-71)、RPSO2(R-spondinファミリー成長因子)にそれぞれ強く関係している。これら3種の遺伝子の影響が混じりあったイヌの毛のバリエーションだけで、米国の純粋血統種のイヌの毛の表現型の大多数が占められている。このように、少数のシンプルな遺伝的特徴が混じりあうことで、極めて多様な表現型が生み出されうるのだ。(Uc)
Coat Variation in the Domestic Dog Is Governed by Variants in Three Genes
p. 150-153.

究極のシミュレータ(Ultimate Simulator)

多体問題は解析的モデルとして扱うことが困難であり、そしてとても複雑であるため古典的なコンピュータ上でシミュレートすることができない。量子系は本質的に相関性を有しているため、他の複雑な問題をシミュレートできるだろうと提案されてきた。BulutaとNori (p. 108)は、量子シミュレータを実現に向ける進歩をレビューし、その手法のいくつか、および制御された量子系をシミュレータの道具として用いる将来の応用例について記述している。(TO,Ej,nk)
Quantum Simulators
p. 108-111.

静かにしてください(Quiet, Please)

量子コンピューターを作る一つの方法は、回路を流れる電荷対を制御できる周到に設計されたコンポーネントを備えた超伝導体を用いることである。しかし、単一電子レベルでは、量子ゆらぎによって発生する回避困難な量子ノイズやデバイス内に導入するオフセット電荷は、デリケートなキュービットの量子状態を操作する際に大きな問題となっている。Manucharyanらは(p.113)、量子ノイズ効果を抑え、かつかく乱の無い状態で量子回路を動作させることのできる巧みな量子回路技術を発表している。(NK)
Fluxonium: Single Cooper-Pair Circuit Free of Charge Offsets
p. 113-116.

ありがたくない支配(Unwelcome Dominance)

成層圏のオゾンは、さまざまな多くの化学物質によって破壊される。もっとも有名なものはクロロフルオロカーボン(CFCs)で、南極のオゾンホールをもたらす原因物質である。亜酸化窒素もまた、オゾン破壊物質であり、それは人類起源に加えて自然源の場合もある。そのうえ、CFCとは異なり、その使用と排出はモントリオール議定書で規制されていない。この議定書により、オゾンホールの成長率が逆転するという効果が達成されたのであるが。驚くべきことに、Ravishankara たち (p.123, 8月27日号電子版; Wuebbles による展望記事を参照のこと)は、亜酸化窒素が単一での最大のオゾン破壊物質であり、もし、その排出が規制されなければ、21世紀を通して最も支配的なオゾン破壊物質として残留するとの予想を示している。亜酸化窒素の排出を減らすことは、オゾンホールの回復を強化し、人為的な気候変動を減少させるであろう。(Wt,Ej,nk)
Nitrous Oxide (N2O): The Dominant Ozone-Depleting Substance Emitted in the 21st Century
p. 123-125.

固形酸化物燃料電池の洗浄(Cleaning Solid Oxide Fuel Cells)

固形の酸化物燃料電池は、500℃〜1000℃で働くが、セラミック物質内部を経由して酸素を輸送する。このような温度では、炭化水素の改質反応を触媒する金属は、同時にメタンのような通常の燃料までも電池のパワーアップのために取り込まれる。しかし、不純物中のイオウと炭素(coking)の蓄積による急速な非活性化という1つの問題が残る。Yang たち(p. 126;および、Selmanによる展望記事参照)は、バリウム-ジルコン酸塩セリウム化合物に希土類のイットリウム(Y)とイッテルビウム(Yb)を添加すると(BaZr0.1Ce0.7Y0.2-xYbxO3-δ)、750℃で水素イオンと酸素イオンの両方を輸送する物質を作ることができることを報告している。この物質と、燃料電池の陽極にニッケルとを組み合わせて用いると、微量の硫化水素が存在しても非活性化を防ぐことができる。これは明らかに表面反応中に水を供給したり除去したりする能力が高まったためであろう。(Ej,hE)
Enhanced Sulfur and Coking Tolerance of a Mixed Ion Conductor for SOFCs: BaZr0.1Ce0.7Y0.2-xYbxO3-δ
p. 126-129.

幹細胞の置換を食い止める(Stemming Stem Cell Displacement)

成体幹細胞のニッチは、多様な型の幹細胞を協調制御した形で含んでいるが、その相互作用の機構についてはほとんど解ってない。ショウジョウバエの精巣においては、ヤヌスキナーゼ-シグナルトランスデューサと転写活性化因子(JAK-STAT)のシグナル伝達が、常在性の生殖系列と体性幹細胞の維持に必要である。シグナル伝達阻害剤 SOCS36EはJAK-STATの標的として知られている。Issigonis たち(p. 153)は、SOCS36Eが生殖系列幹細胞を維持するためにJAK-STATシグナル伝達の抑制を介して機能することを示したが、その中でも特に体性幹細胞において機能する。これによって、体性幹細胞が隣接する生殖系列をインテグリン依存的に置換することを防止しており、両方の幹細胞の集団がそのニッチを占有することができる。(Ej,hE)
JAK-STAT Signal Inhibition Regulates Competition in the Drosophila Testis Stem Cell Niche
p. 153-156.

整えられたナノチューブ(Nanotubes to Order)

カーボンナノチューブをエレクトロニクス分野に全面的に適用するには、全てが半導体チューブかあるいは全てが金属チューブかのどちらかを分離したり、あるいは合成する必要がある。しかしながら、既存の合成法(バイアスの無い条件)では、2/3が半導体チューブで1/3が金属チューブの含んだ混合物を生成する。Harutyunyanたち(p. 116)は、キャリアガスと温度を変化させながら、合成プロセス中で酸化性化合物と還元性化合物を組み合わせることで、ナノチューブ合成中に触媒粒子を変化させ、これにより、金属性の単層カーボンナノチューブの選択的成長に導くことを示している。このように、触媒種の形状と形態(モルフォロジー)は特別なキラリティをもつカーボンナノチューブを成長させる。(hk,KU)
Preferential Growth of Single-Walled Carbon Nanotubes with Metallic Conductivity
p. 116-120.

藻類のリバウンド(Algal Rebound)

6550万年前の白亜紀‐古第三紀境界における絶滅は、突然劇的に起こった全世界的な生態系の崩壊と表される。しかし、Sepulvedaたち(p. 129)は、藻類(algae)が急速に回復し、それにより光合成やプランクトンのような一次生産者も回復したことを示している。著者たちは、一連の診断用バイオマーカーと同位体を用いて、デンマークにある厚い境界層内における藻類の生産性を示す痕跡をたどった。藻類の生産性は絶滅の期間中に急落したが、境界層内で、おそらく隕石衝突(impact)の50年以内に急速に回復した。(TO,nk)
Rapid Resurgence of Marine Productivity After the Cretaceous-Paleogene Mass Extinction
p. 129-132.

特別に古い琥珀(Extra Ancient Amber)

琥珀は樹脂、つまり典型的には傷ついた樹木が分泌する物質、が化石化したものである。琥珀のほとんどは、中生代あるいは新生代の年代である(2億5000万年前の年代) 。主として被子植物により生成される最も一般的な琥珀は、他とはっきり区別される複雑なポリテルペノイド物質から形成されている。BrayとAnderson (p. 132;Grimaldiによる展望記事参照)は、被子植物の進化よりはるか以前の、3億年以上前の石炭紀の琥珀が同様な化学組成を持っていることを発見した。したがって、複雑な琥珀(complex ambers)を生成するための生合成メカニズムは、顕花植物が現れるずっと以前に発達していた。(TO,KU,nk)
Identification of Carboniferous (320 Million Years Old) Class Ic Amber
p. 132-134.

蚊ベクターへの介入(Mosquito Vector Intervention)

蚊は、リンパ系を麻痺させ、象皮症や他のフィラリア病といった厳しい病状をもたらす線虫でもって、推定1億2千万人の人間への感染を引き起こす。Kambrisたち(p.134)は、ベクターの蚊に細菌(Wolbachia:ウオルバキア属)を感染させたが、この細菌はフィラリアベクターとして働く蚊の能力を阻害し、そして恐らく他の病原体の伝染にも影響をもたらすであろう。感染した蚊は、自分の免疫応答に関する慢性的な上方制御により線虫への感受性が減少する。免疫の活性化は蚊にとって生理学的な重荷であり、このことはウオルバキアに感染した蚊が短寿命(通常の半分)であるという以前の観察を説明するものであろう。(KU)
Immune Activation by Life-Shortening Wolbachia and Reduced Filarial Competence in Mosquitoes
p. 134-136.

広まる農民たち(Cultivating Farmers)

現代ヨーロッパ人の祖先は、隣接する文化から農業のやり方を吸収してきた狩猟採集民だったのか、それとも新石器時代初期に近東から移動してきた農民だったのだろうか? 紀元前13,400年から2300年までの骨から得られた古代の狩猟採集民のDNAを分析することによって、Bramantiたちは、ヨーロッパの氷河期の狩猟採集民と、ヨーロッパ最初の農民、そして現代ヨーロッパ人の遺伝的関連を調査した(p. 137,9月3日号電子版)。その結果は、狩猟採集民と初期の農民との間、また狩猟採集民と現代ヨーロッパ人の間の直接的な連続性を否定するものであった。ヨーロッパ中央部および北部の主要な部分では、7500年前に入り込んできた農民によってコロニーが形成された。彼らは、それまでそこに常在していた狩猟採集民の子孫ではなかった。つまり、文化の拡散ではなく、人の移動こそが、ヨーロッパの農業社会を駆動するものだったのである。(KF)
Genetic Discontinuity Between Local Hunter-Gatherers and Central Europe’s First Farmers
p. 137-140.

カロリー制限の効果を模倣する(Mimicking Caloric Restriction)

カロリー制限された動物に見られる長寿命化や加齢関連疾患への抵抗力増加という現象によって、私たちはこのような効果をもたらす生理学上の機能について非常に興味をそそられる。Selmanたちは(p.140; KaeberleinとKapahiによる展望記事を参照)、哺乳動物のリボソームタンパク質S6キナーゼ1(S6K1)の役割を考察した。この酵素は、タンパク質翻訳や細胞エネルギー代謝機構を制御している。S6K1を欠損させたメスのノックアウトマウスには、カロリー制限された動物の特徴、すなわち健康・耐久力の向上といった特徴が現れていた。この有益な効果によって、食料摂取量を増やした場合でも、体脂肪量を減らすことができた。このように、S6K1によって活性されたシグナル伝達経路が阻害されることが、加齢関連疾患を防ぐ効果に繋がっているのかもしれない。(Uc)
Ribosomal Protein S6 Kinase 1 Signaling Regulates Mammalian Life Span
p. 140-144.

In and Out

形質細胞膜とミトコンドリア内膜とを越えてCa2+/H+対向輸送が存在している、という報告が、40年以上にわたってなされてきたが、この交換の原因となっている分子は知られていなかった。Jiangたちは、ショウジョウバエのゲノム全体にわたってのRNA干渉スクリーニングを行って、核にコードされたミトコンドリアタンパク質、Letm1(すなわちleucine zipper EF hand-containing transmembrane protein 1)を、ミトコンドリアのCa2+取り込みにとって必須のCa2+/H+ 対向輸送体として同定した(p. 144; またDemaurexとPoburkoによる展望記事参照のこと)。さらに、その遺伝子の哺乳類ホモログは、精神遅滞や小頭症、発作、筋緊張低下、さらに口唇裂や口蓋裂によって特徴付けられるウォルフ・ヒルシュホーン症候群では失われている。(KF)
Genome-Wide RNAi Screen Identifies Letm1 as a Mitochondrial Ca2+/H+ Antiporter
p. 144-147.

触媒の構築(Catalytic Assembly)

有機化学で用いられる不斉触媒の多くは、1個或いはより多くの金属イオンへのキラル配位子の結合により作られる。Uraguchi たち(p.120,8月27日号電子版)は金属の無い場合に、高度に選択的な触媒が3種の低分子の自己組織化による水素結合によって形成されることを示している。固体状態で、この触媒は2個のフェノール分子に結合した中心性キラリティーなホスホニウムカチオンから構成され、次いで電荷補償の1個のフェノオキサイドイオンに結合する。溶液中で、オキサゾロン誘導体がフェノオキサイドの場所に結合可能で、広範囲なエステル化合物への立体選択的な付加反応を促進する。(KU)
Chiral Organic Ion Pair Catalysts Assembled Through a Hydrogen-Bonding Network
p. 120-123.

可変性の防御(Variable Defenses)

ヒトにとってのマラリア寄生虫である熱帯性マラリア原虫に対する保護をもたらすハマダラカの抵抗性遺伝子座の最近のマッピングによって、主要なマラリア原虫レジスタンス島(PRI)が明らかになった。それはロイシンに富んだ反復配列を含んだ2つのタンパク質、LRIM1とAPL1からなる対立形質のバージョンで構成され、補体C3様のタンパク質TEP1と複合体を形成するものである。TEP1遺伝子のヘテロ接合性の対立形質バージョンのRNA干渉不活性化を用いて、Blandinたちは、TEP1不均一性が、げっ歯類のマラリア寄生虫であるネズミマラリア原虫に寄生された複数の蚊の系統における表現型多様性を反映している、ことを明らかにした(p. 147)。観察された差異が、異なった仕組みによる異なった選択によるものか、あるいはその複合体が別の前後関係の中で使われているせいなのかは、いまだにはっきりしていない。(KF)
Dissecting the Genetic Basis of Resistance to Malaria Parasites in Anopheles gambiae
p. 147-150.

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