AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 22 2009, Vol.324


ウイルス性バッテリー(Viral Battery)

バッテリー材料開発においては、電荷容量、伝導性、化学安定性のトレードオフのために、これらを両立させることが困難である。たとえば、ナノ構造材料はある種の絶縁材料の伝導性を高めることができるが、同時に安定なナノメータースケールの構造を作ることが難しい。ウイルスの知見をナノ材料作製に利用して、Leeらは(p1051、4月2日号電子版)、フィラメント状バクテリオファージM13の2つの遺伝子を組み替え、フィラメントに沿ってアモルファスリン酸鉄を作り、更にその一方の末端にカーボンナノチューブと結合するウイルスを得ることに成功した。得られたアモルファスリン酸鉄部分がカソード材料として機能し、またカーボンナノチューブは浸透性のネットワークを形成し、伝導性を高めている。(NK,KU,Ej)
Fabricating Genetically Engineered High-Power Lithium-Ion Batteries Using Multiple Virus Genes
p. 1051-1055.

成長している細胞の燃料経済(Fuel Economy for Growing Cells)

細胞の成長を制御しているシグナル経路に関する21世紀の洗練された解析によって、ガン細胞がちょっと変わった方法でエネルギーを生産しており、ミトコンドリア呼吸から解糖へとスイッチを切り替えて生きていることが解ったが、実は1920年代にOtto Warburgが既に金字塔を打ち立てた研究を行っており、そのためこの現象をWarburg効果と呼んでいる。この代謝の切り替えは謎が多く、ミトコンドリア代謝がATP産生のためにはより効率的であるため、切り替えがもたらす利点は謎が多い。Vander Heiden たち(p. 1029) は、この議論を見直し、ガンのように急速に成長している細胞では、ATP以上の効率で、取り込んだ栄養分をバイオマス(ヌクレオチド、アミノ酸、脂質など)に変換し、新しい細胞を産生しているらしいことを報告した。このメカニズムの理解によってヒトのガン治療への道が開けることになるかも知れない。(Ej,hE)
Understanding the Warburg Effect: The Metabolic Requirements of Cell Proliferation
p. 1029-1033.

アフリカ人の祖先(African Origins)

現代人類はアフリカを発祥の地とし、その後全世界に拡がっていった。しかし、アフリカ大陸における様々な種族(populations)の間の遺伝的な関係は明らかではなかった。Tishkoffたち(p.1035; 4月30日号電子版、および、表紙記事参照)は、アフリカの個体群のほとんど主要なグループに関する詳細な遺伝的分析を示している。その分析結果により、アフリカ人の先祖となる種族は14群により代表されることを示唆している。一つの種族はいくつかの先祖(ancestry)を合わせ持つことが多く、それは過去の人口移動を証明するものである。以前に言語学研究に基づいて仮定された自己同一的民族グループ間の関係に関し、今回のデータは概ね支持を与えるが、いくつかの点に対しては疑問を呈している。著者たちは、アフリカ系アメリカ人の種族とケープタウンから混合した先祖を持つ個人(individuals)も調べ、そしてこれらのグループ内部における変異(variation)と混合(admixture)の起源を証明してる。 (TO,Ej,nk)
The Genetic Structure and History of Africans and African Americans
p. 1035-1044.

将来の燃料(Future Fuels)

より環境に優しい輸送方法を迅速に進展させるには、自動車の動力として何が最善かという問題を含めて、広範囲の疑問を解かなければならない。樹木、草、海草、農産廃棄物、林産廃棄物などの大量に存在する生物資源であるバイオマスは、電気自動車用の電気発生、あるいは燃料自動車用のエタノール生成のいずれにも重要なパワー資源である。Campbellたち(p.1055;5月7日号電子版;Ohlroggeたちによる政策フォーラム参照)は、一連のエネルギー資源、変換方法、及び自動車の形式に関するライフサイクル・アセスメント・モデルを用いて、各々のアプローチのバイオ燃料を作る穀物用の土地利用に関する需要を評価した。単位面積当たりに生みだされる正味の輸送力を比べると、ほとんど全ての場合において、バイオ電気(bioelectricity)の方がバイオエタノールよりも優れている。これは電気エンジンが高いエネルギー効率を持つからである。さらに、バイオ電気は結果的にCO2負荷をさらに小さくする。このようにして、バイオ電気は環境インパクトの少ないさらに進んだ輸送技術のために重要な橋渡しとなることを意味している。(hk,KU,nk)
Greater Transportation Energy and GHG Offsets from Bioelectricity Than Ethanol
p. 1055-1057.

火星のビクトリア・クレーターは「湖」だったのか?("Lake" Victoria?)

火星探査機ローバー・オポチュニティは、800メートルしか隔たっていないイーグルクレータとエンデュランスクレータの探査を終えた後、メリディアニ平原(Planum)を越えた南方向6キロメートルに位置する、さらに大きな衝撃クレータであるビクトリアクレータに2年間留まった。イーグルクレータやエンデュランスクレータで以前に分析された堆積岩は、太古の昔は豊富な液体の水を含んでいた局地的な環境条件を示している。今回、Squyresたち(p.1058)は、ビクトリアクレータの壁の岩石を分析した結果、イーグルクレータとエンデュランスクレータで生じていた水による変成プロセスが、またビクトリアクレータでも作用していたことを明らかにしている。さらにクレータ壁の層状になっている堆積物は、風により作られた大昔の砂丘の証拠を残している。(TO,KU,tk)
Exploration of Victoria Crater by the Mars Rover Opportunity
p. 1058-1061.

表面の下を深堀りする(Getting Below the Surface)

二次元電子系は、低次元輸送の研究にとって実りの多い領域であると判ってきた。何十年かの懸命な努力にもかかわらず、実際の電子励起の分散関係式 ― それらが2次元空間を移動するときに、どのようにそれらのエネルギーが運動量の関数として振舞うか ― は、実験によって捉えることができなかった。このつかまえどころのなさは、試料が薄く、覆い隠されているためである。Kukushkin たち (p.1044; 4月30日号電子版; Simon による展望記事を参照のこと) は、試料を通して放出された表面弾性波に基づくある技術を導入した。電子励起状態はこの表面弾性波にある意味で「乗って」おり、エネルギーと運動量それぞれの分布はレーザ光パルスで精密に測定される。この技術は、他の手が届きづらい電子系にもまた適用可能であろう。(Wt,nk)
Dispersion of the Excitations of Fractional Quantum Hall States
p. 1044-1047.

死は生を映している(Death Mirrors Life)

化石の集合体が古代の生態系コミュニティーの実際的な構成要素を示しているかどうかは、かなり曖昧である。生存していた集合体と死んだ集合体の間の忠実度を評価する一つの方法は、今日の生態系で、生存する生物と死んだ後に残されたものとを、リアルタイムで根気よく比較することである。WesternとBehrensmeyer(p.1061)は、40年間に渡ってのケニアのAmboseli特別地域における草食動物コミュニティーの構成要素を調べ、このデータとその動物たちが死んだ後に残された骨の集合体とを比較した。その結果は、種の構成要素とその相対的な存在量の双方で、生と死の集合体に関して高レベルの忠実度があることを示唆している。このように、より古い化石の集合体は、実際に過去のそして絶滅したコミュニティーに関する信頼に値する像を与えている。(KU,nk)
Bone Assemblages Track Animal Community Structure over 40 Years in an African Savanna Ecosystem
p. 1061-1064.

触媒反応における温度ジャンプ(A Jump on Catalyst Kinetics)

高速の反応速度を調べる一般的な方法は急激な開始点を作ることであり、そして酸化物担持体上の金属によって触媒される反応の場合、加熱を受ける触媒の部位を局所的に測定できれば、急激な温度ジャンプを誘発することが一つの選択肢としてある。Thibault-Starzykたち(p.1048)はフェムト秒のレーザパルスを用いて、窒素酸化物除去反応を行うために触媒を加熱し、フーリエ変換赤外分光法によりその反応を追跡した。これらの触媒は燃料効率のよい、低燃費エンジンにおいて、炭化水素化合物との反応ではなくCOとの反応によりNOを除去するように設計されている。シアン化物の反応中間体が同定されたが、この中間体は銀ナノ粒子からアルミナ表面へと移動している。(KU)
Real-Time Infrared Detection of Cyanide Flip on Silver-Alumina NOx Removal Catalyst
p. 1048-1051.

ウイルスと携帯電話(Viruses and Mobile Phone)

以前の携帯電話は比較的ウイルスに強かったが、プログラムとデータをお互いに共有しているスマートフォン(Palm,Blackberry,iPhone,そしてノキアブランドの携帯電話)は、潜在的にウイルス感染に脆弱である。では、何故に、我々は今までモバイルウイルスの激増に直面しなかったのであろうか?Wangたち(p.1071;4月2日号の電子版;Havlinによる展望記事参照)は、その答えは今日の携帯電話システムにおける伝播パターンに関係していると信じている。彼らは、携帯電話会社の名を伏せた請求書の記録を研究したが、その記録は電話を利用した620万人の携帯電話購買者の個々の時間における通話パターンと最も近い基地局の場所を示している。Bluetoothウイルスは、十分な時間が与えられれば、アンチウイルスソフトウェアを導入していない無抵抗のユーザー総てに入り込む可能性があるが、ヒトの移動により制限されて、ウイルスの広がりは比較的緩慢となる。対照的に、MMSウイルスは爆発的に拡がるパターンを有しているが、しかしながらお互いに知り合った、かつ同じ携帯を持っている個々人のグループのみにしか入り込まない。かくして、全体のスマートフォンマーケットのかなりの割合を一つのオペレーティングシステムが支配するまでは、大きなウイルスの激増は起こりそうもない。(KU)
Understanding the Spreading Patterns of Mobile Phone Viruses
p. 1071-1076.

遺伝子発現を調節するクロマチン修飾因子(Chromatin Modifier Modulates Gene Expression)

クロマチン構造の修飾は通常グルーバルと考えられており、遺伝子発現の調節には比較的非特異的な経路を取る。しかし、 Wellen たち(p. 1076; および、Rathmell and Newgardによる展望記事参照)は、このような制御によって代謝における成長因子ー刺激増加を遺伝子発現の適切な変化に結びつけていることを実証した。アデノシン三リン酸(ATP)-クエン酸塩脱離酵素(ACL)、これは哺乳類細胞のミトコンドリア内でグルコースの代謝中にクエン酸からアセチル-補酵素A(acetyl-coenzyme A (CoA))への変換を行う、の存在が核内に発見されたが、ここではアセチルCoAの入手量を制御することでヒストンアセチル転移酵素(HATs)の活性を制御しているらしい。実際、培養したヒト結腸癌腫細胞からACLを除くと、核内のヒストンアセチル化が特異的に減少したが、細胞内のタンパク質のアセチル化全体には影響してないように見えた。培養したマウス3T3-L1細胞中のACLを欠乏させると、ホルモン刺激でこれらの細胞が分化するに伴って増加するヒストンアセチル化の増加を抑え、特定遺伝子発現の増加を抑えた。これは、ちょうど Glut4 グルコース輸送体のコード化に見られる。このように、ACLは遺伝子発現を変化させるために細胞の代謝活性を関連付けするらしい。(Ej,hE)
ATP-Citrate Lyase Links Cellular Metabolism to Histone Acetylation
p. 1076-1080.

低下はするが停止はしない(Down But Not Out)

K-複合体は徐波睡眠を特徴づけ、健康なヒトの自発的脳波 (EEG) を構成する最大の成分であるが、ヒトの皮質における生理的特徴はほとんど解っていない。Cash たち(p. 1084)は、てんかん発作の手術中に、 K-複合体の皮質内起源の部分を調べた。硬膜下 EEG と皮質内多部位微小電極の同時記録から、K 複合体では神経における発火の減少を反映した皮質の活性低下が見られた。これらの活性低下は皮質手術において基本的な状態であり、動物においても詳しく研究されており、睡眠維持や記憶の固定に寄与する可能性がある。(Ej,hE)
The Human K-Complex Represents an Isolated Cortical Down-State
p. 1084-1087.

見破られたABA受容体?(ABA Receptor Rumbled?)

植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)は、植物の正常な発生にとって、またストレス性の環境条件に対する植物の応答を仲介するために、決定的に重要なものである。このたび、2本の論文が、ABA受容体の候補についての解析を提示している(Pennisiによるニュース記事参照のこと)。Maたち(p. 1064、4月30日号電子版)とParkたち(p. 1068、4月30日号電子版)は、それぞれ独立の戦略を用いて、ABA応答シグナル経路のABIファミリー脱リン酸化酵素成分と物理的に相互作用するタンパク質を探した。双方のグループは、同じタンパク質ファミリーの複数の異なったメンバーを同定したが、それらはABIタンパク質と相互作用して、ABA受容体として作用しうるヘテロ複合体を形成するものらしい。双方のファミリーの多様性から、ABA受容体は単一の実体ではなく、むしろ密接に関連した複合体のクラスであることが示唆され、それによって、それが何かをはっきりさせるためのこれまでの試みが難しかった理由も説明できるかもしれない。(KF)
Regulators of PP2C Phosphatase Activity Function as Abscisic Acid Sensors
p. 1064-1068.
Abscisic Acid Inhibits Type 2C Protein Phosphatases via the PYR/PYL Family of START Proteins
p. 1068-1071.

ドパミンのバーストに報いる (Rewarding Bursts of Dopamine)

ドパミン作動性ニューロンは、動機付けされた行動の認知的また快楽的な支えに関与していると考えられている。しかし、ドパミン作動性ニューロンの活性化だけで報酬に関わる行動を誘発するのにじゅうぶんか、その目的のためにどんな神経活動パターンが仕えているかは、未だはっきりしていない。Tsaiたちは、腹側被蓋野にあるドパミン作動性細胞の周期発火(tonic firing)と位相性発火とを直接比較し、また行動とドパミン遊離に対するそれらの効果も直接比較した(p. 1080、4月23日号電子版)。マウスに対する遺伝子導入システムとウイルス注入を利 用して、彼らはロドプシンによってドパミン作動性細胞を標的とした。次に、ドパミン作動性細胞を操るために、全条件にわたってのパルス数が等しくなるよう、周期的な低レベルのパルスか、高頻度のパルスのバーストか、どちらかによる光刺激を用いた。その結果、高頻度の位相性の発火のみが、条件付け場所嗜好性とドパミン遊離を誘発したのである。(KF)
Phasic Firing in Dopaminergic Neurons Is Sufficient for Behavioral Conditioning
p. 1080-1084.

核における輸入/輸出の受容体(Nuclear Import/Export Receptor)

核移行(nuclear transport)受容体は、定常的に、核膜孔複合体を通って核と細胞質の間で、積荷を行ったり来たりさせて運んでいる。核内ではRanGTPが、インポーチンからの積荷の解離を促進しているが、このインポーチンというのは、積荷を核に移入する役割のものである(RanGTPとはグアノシン5'三リン酸結合Ranのこと)。これとは逆に、核のRanGTPは、エクスポーチンへの積荷結合も促進していて、このエクスポーチンというのは、積荷を核から輸送する役割のものである。積荷は細胞質内でエクスポーチンから、RanGTPの加水分解によって遊離される。細胞質に構築されたRNAスプライシング成分は、移入アダプタであるsnurportin 1(SPN1: m3Gキャップ結合タンパク質)と共に核に入るが、それではどのようにその移入アダプタは積荷を遊離し、更なる積荷を求めて核を出るのだろう? この核のエクスポーチンCRM1は、SPN1やリボソーム、その他多くの調節タンパク質など幅広い基質を輸送している。Moneckeたちは、SPN1とRanGTPとに結合したCRM1の結晶構造を記述している(p. 1087)。この構造は、SPN1が移入積荷とエクスポーチンであるCRM1とを同時に結合できないことを示しており、これによって、積荷から自由になったSPN1だけが細胞質に戻るということが確かになった。三元複合体中では、RanとSPN1との間には直接の接触はなく、このことは、RanGTPが、CRM1の長時間かかる立体構造変化を介して積荷結合を促進しているということを示唆するものである。(KF)
Crystal Structure of the Nuclear Export Receptor CRM1 in Complex with Snurportin1 and RanGTP
p. 1087-1091.

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