AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 24 2009, Vol.324


食べるだけではない(Not Just Dinner on Legs)

数千年前に、人類は野生動物を飼育することには容易に肉を得られるという利点があることに気付いた。やがて他の可能性も明らかになり、そしてこの号の一連の論文で示されるように、初期の遊牧民は良質の羊毛、皮革、ミルク、及び筋力を求めて、交配に注意を払うようになった。二つの論文において、Gibbsたちはウシのゲノム配列に関して報告し(p.522;表紙、及びLewinに展望記事とRobertsによる政策フォーラム参照)、かつウシの多様性と遺伝的歴史に関して調べている(p.528)。一方、Chessaたち(p.532)は、ヒツジにおける内在性のレトロウイルスの出現を調べ、そのウイルスの分布をヨーロッパ全域での人為的なヒツジの選択と分散の歴史的な移動にマップ化した。最後に、Ludwigたち(p.485)は、ウマの毛色における変化の起源を調べ、優れた見栄えと輸送能力の必要性でヒトが選択したことを示唆している。(KU,nk)
The Genome Sequence of Taurine Cattle: A Window to Ruminant Biology and Evolution
p. 522-528.

燃え尽きる(Burn,Baby,Burn)

野火は景観とヒト組織における劇的な、かつ荒廃的な影響をもたらし、環境変質における重要な執行者である。生態系、生物多様性、炭素貯蔵、及び気候といった環境への非人為的側面に関するこれらの影響は、往々にして見過ごされている。Bowmanたち(p.481)は、地球系において火事の役割に関する包括的な理解を発展させる上での既に知られている事柄と今後必要となる事柄、特に火事の拡大の影響と気候変動により制御がますます困難となりうる事柄に関してレビューしている。(KU,Ej)
Fire in the Earth System
p. 481-484.

消滅する星(Disappearing Stars)

超新星として爆発した恒星を同定し、研究する一つの方法は、爆発前の画像の中で超新星と空間的に一致する恒星を探すことである。それらの同定の唯一の確かな方法は、超新星からの光が暗くなるのを待って、その恒星が天空から消滅したことを確かめることである。Maund と Smartt (p.486, 3月19日号電子版)はHubble 宇宙望遠鏡と Gemini 望遠鏡を用いて、SN 2003gd と SN 1993J の爆発前の画像に見えていた赤色超巨星が、超新星の位置の最近の画像にはもはや見えていないことを示した。それらがないことにより、それらが超新星の真の祖先であることが立証された。(Wt)
The Disappearance of the Progenitors of Supernovae 1993J and 2003gd
p. 486-488.

くもの糸の改良とは?(Improving on Spider Silk?)

通常の原子層成長法において、反応性の金属を持つ前駆体と水のような反応物を固体表面上に交互にパルスビームで薄膜形成をすると、もとの表面に極めて密に整合した皮膜を作ることが出来る。Leeたち(p.488)は、軟らかでポーラスなくもの糸にこのプロセスを適用した。くもの糸への皮膜形成に加えて、金属イオンが糸の中に浸透しタンパク質の構造と反応した。イオンをドープした糸を変形に要する力の測定をすると、強さの点で著しい増加が見られた。(KU,Ej)
Greatly Increased Toughness of Infiltrated Spider Silk
p. 488-492.

リソスフェアの境界問題(Boundary Issues of the Lithosphere)

地球の地質構造のプレート(tectonic plates)の深さは、リソスフェア-アセノスフェア境界(LAB:lithosphere- aesthenosphere boundary)によって定義されている。しかし、それを示す地震波の特徴は、地球内部の他のより深い境界に比べて曖昧である(Romanowiczによる展望記事参照)。海洋プレート下においては、LABは熔解を起こす高い温度を持った場所であると定義されている。これまで、古い海洋プレートでこの境界を検出することが困難であったが、これらのプレートがその経年やあるいは海嶺からの距離によってどのように厚くなるのかを理解したり、海洋性地殻を通る熱の流れを推定したりすることは重要である。川勝たち(p.499)は、詳細な地震計アレーを用いて、フィリピン海プレートや太平洋プレートの下の地震波速度の低下を検知した。そのデータは、5%あるいはそれ以下の熔解が水平なレイヤを形成し、そして海洋プレートの厚みは実際に経年と共に深くなる。Rychert とShearer (p. 495)は地震波データの15年間分を用いて、圧力波がせん断波(shearwave :シャープな速度低下と関連した波)に変わる場所を画像化することで特異点(anomaly)深度の地球上の分布を調査した。そのデータは、外洋の島(ocean islands)の下の深さ70キロメートルから、先カンブリアの盾状地(Precambrian shield)の下の深さ95キロメートルにおいて幅広いシグナルを示している。この境界が、リソスフェア-アセノスフェア境界であるのか、あるいは異なる水平構造(horizontal fabric)を持つレイヤであるのかは確かではない。(TO,Ej,nk)
Seismic Evidence for Sharp Lithosphere-Asthenosphere Boundaries of Oceanic Plates
p. 499-502.

湿地から発生するメタンガス(Methane from Wetlands)

約11600年前のYounger Dryasと呼ばれている間氷期最後の時期、地球の気温は完新世の温暖気候へと最終的に上昇し始め、大気中のメタン濃度が急激に、かつ、大幅に上昇した。このメタン増加の原因について多くの推測がなされているが、最も新しい証拠として、これが湿地から発生したことが指摘された。最も直接的な証拠とするためにはメタン中の放射性カーボンの測定が要求される。Petrenko たち(p. 506; および、Nisbet and Chappellazによる展望記事参照)は、グリーンランドの1000キログラムの氷塊試料を分析し、十分な量の14Cの濃度を測定した。その結果、Younger Dryasの最後の大気中のメタン増加の大半は、湿地が原因であることを示した。(Ej,hE)
14CH4 Measurements in Greenland Ice: Investigating Last Glacial Termination CH4 Sources
p. 506-508.

ホットで静かな地震(Hot Silent Quakes)

沈み込み帯は、最大で、潜在的に最も破壊的な地震を起こす可能性がある。最近の観測によれば、幾つかの沈み込み帯中に見られる変形は、静かな地震("silent" quake)によって生じているらしい。これら静かな地震の原因と、これに伴う地震被害はよく解ってない。Song たち(p. 502)は、南メキシコの下の沈み込み帯上に、特定の地震の信号を使って地震波速度の遅い薄い領域を地図化した。その領域は地震発生帯の下で、高温度領域に一致するようだ。これらの高温で静かな地震は、変成反応によって出来た液体の放出とトラップを反映しているらしい。(Ej,hE)
Subducting Slab Ultra-Slow Velocity Layer Coincident with Silent Earthquakes in Southern Mexico
p. 502-506.

同位体キラルアルコールを解明する(Resolving Isotopically Chiral)

自己の生成物によって促進される自己触媒反応により、原材料のキラル分布のわずかな不均衡を増幅することができる。この効果が顕著に見られるのが、ジイソプロピル亜鉛によるアルデヒドのアルキル化で、キラルアルコキシド生成物が未反応の亜鉛中心に配位することで立体選択性が高まるためである。Kawasakiらは(p.492,3月26日号電子版参照)炭素同位体12Cと13C原子という僅かな違いに由来するアルコール同位体のキラリティーによって、光学異性選択性が影響を受けることを発見した。同位体キラル配位子はキラル不純物が混入しない反応経路を用いて準備され、いずれの同位体の鏡像異性体も自己触媒反応により90%以上の過剰な鏡像体を作ることが明らかとなった(NK)
Protection of C. elegans from Anoxia by HYL-2 Ceramide Synthase
p. 381-384.

早起きと夜更かしの比較(Early Birds and Night Owls)

一日を通してみると、認識能力は日周プロセスと恒常的な睡眠欲求の混ざった影響下にある。朝が最高潮の人から夕方が最高潮の人まで様々なタイプの中から朝型と夜型の両極端の被験者を使い、Schmidt たち(p. 516) は、10時間以上覚醒状態に置いた場合、朝型の人は夜型の人に比べ注意に関連する脳領域の活性が落ちることを見出した。更に、朝型の人は、より眠気をもよおし、注意を要する課題の効率が遅くなる傾向がある。適当な時間にバランスよく眠ることが毎日の行動パターンを制御する上で重要であると思われる。(Ej,hE,nk)
Homeostatic Sleep Pressure and Responses to Sustained Attention in the Suprachiasmatic Area
p. 516-519.

PolyP重合酵素の謎(The Mystery of PolyP Polymerase)

無機ポリリン酸(polyP)はすべての生物に見出されるものである。細菌においては、それは複数の細胞プロセスに関与しているが、真核生物ではその機能はさほどはっきりしておらず、polyPを合成する酵素がいかなるものか手がかりもないため、研究も滞っている。従来の遺伝的スクリーニングにより、酵母の空胞性輸送体シャペロンが、polyP代謝において役割を果たしているかもしれないと示唆されていた。Hothornたちは構造研究および生化学的研究を用いて、このシャペロン複合体のある領域がアデノシン三リン酸(ATP)からpolyPを産生していることを示した(p.513)。この反応サイクルのさまざまな段階で得られた結晶構造は、その仕組みについての手がかりを与えてくれ、また、ある酵素トンネル中に結合したリン酸重合体をもつ構造を含んでいる。この重合酵素は幅広い生物体で発見され、世界的なリン酸の循環に寄与する深海の生物にとっても重要であるだけでなく、宿主とリン酸を交換する相利共生菌類においても、さらにはリーシュマニアなどのヒトの寄生原虫におけるリン酸貯蔵においても重要であるらしい。(KF)
Catalytic Core of a Membrane-Associated Eukaryotic Polyphosphate Polymerase
p. 513-516.

プロゲステロン応答のモデル化(Model Progesterone Response)

プロゲステロンというホルモンは、アフリカツメガエルの卵母細胞の成熟を、その受容体に結合することによって刺激する。そのホルモンの受容体の数と親和性は比較的一定だが、減数分裂性成熟に必要とされるホルモンの量は、そのカエルが曝されている環境刺激によってまちまちである。しかし、それがどのように制御されているかはほとんどわかっていない。Justmanたちは、実験結果の分析と数学的モデルを組み合わせて、脱感作におけるグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3bと、自然の感作共刺激物であるアミノ酸L-ロイシンの役割を探求した(p. 509;またSkotheimによる展望記事参照のこと)。その結果は、シグナル伝達ネットワークに見られる層をなす複雑さを説明する助けになるものであった。つまり、連結されたフィードバックループの要素に複数の刺激が作用すると、細胞は環境に合うように自らの感受性を動的に調整することができるということである。(KF)
Tuning the Activation Threshold of a Kinase Network by Nested Feedback Loops
p. 509-512.

いろいろゲームをする(Playing More Games)

戦略的意思決定や社会的選好の根底にある神経メカニズムは、実験的な「ゲーム」によって解き明かすことができる。2者によるゲームのうちの支配可解(dominance solvable;一歩一歩慎重なる推論により解いていく)ゲームでは、採用するのが最適な1つのやり方であるユニークな戦略が出現する。というのも、そのやり方は相手方が何をするかによって打ち負かされることがないのである。別のクラスのゲーム(coordination game;直感により解いていく)では、唯一の解というものはなく、最適な戦略はプレイヤー同士が互いに協調することを必要とする。それは、明示的情報交換がないという条件下で、「心を合わせること」が生じるということである。Kuoたちは、これら2つの種類のゲームを行っている被験者たちの神経画像化処理を主導し、従来慎重かつ努力の必要な推論に付随しているとされてきた脳領域が、支配可解ゲームの際に活性化し、一方、協調ゲームの際には、社会的プロセシングに結び付く別の脳領域が中心となって作用しているということを発見した(p. 519)。(KF,KU,Ej)
Intuition and Deliberation: Two Systems for Strategizing in the Brain
p. 519-522.

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