AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 17 2009, Vol.324


過去の前奏(Past as Prelude)

アフリカ西部のサヘル地域(Sahel)は、1970年代から1990年代にかけて過酷な干魃に見舞われた。干魃は社会、経済、環境に甚大な被害を与えることから、将来そのような干魃がどれほどよく起こるのかを予測することは大変重要であり、また過去にどれほど頻繁に発生したのかという疑問もわいてくる。Shanahanたち(p.377)は、アフリカ西部の2つの湖から得た、その地域の降雨量に敏感に反応する湖の水量と地球化学的特性に関する3000年間の記録を示している。アフリカ西部では過去数千年間に、数十年から数百年間の長期間継続した厳しい干魃が繰返し発生していた。これらの結果は、温暖化気候において発生が予期される将来の乾期がもたらす影響に対して、適応したり和らげたりするためのより良い計画を策定する強い動機付けを与える。(TO,Ej)
Atlantic Forcing of Persistent Drought in West Africa
p. 377-380.

脳深部刺激療法の作用の仕方は?(How Does Deep Brain Stimulation Work?)

L-DOPAを用いた伝統的な神経伝達物質の補充がうまくいかないときに、脳深部刺激療法がパーキンソン病の治療に用いられる。しかしながら、我々は脳深部刺激療法がどのように作用しているのかを理解していない。Gradinaruたち(p.354,3月19日号電子版参照)は、移植可能な光学的刺激装置と一緒に細胞型-特異的なプロモータによって促進される光感受性の神経細胞修飾因子を用いて、パーキンソン病のげっ歯動物の脳内で様々な回路要素を刺激したり抑制をした。驚くことに、視床下核の興奮性ニューロンにおける活性の増減はそれ自身、運動症状にさほど影響を及ぼしていない。その代わり、視床下核に伸びている求心性軸索の直接的な選択的高頻度の刺激により、頑強で一貫した、かつ可逆的な治療結果が得られた。(KU)
Optical Deconstruction of Parkinsonian Neural Circuitry
p. 354-359.

四肢動物と魚(Four-Legged and Fishy)

四肢動物の出現と脊椎動物の陸上でのコロニー形成は進化における重要な出来事である。デボン紀後期の四肢動物であるイクチオステガ(Ichthyostega)とアカントステガ(Acanthostega)の化石により、これら初期陸棲動物の歩行パターンに関する洞察が明瞭になる。Callierたち(p.364;Friedmanによる展望記事参照)は、成長段階の異なるこれらの属由来の2系列の上腕骨を比較検討した。アカントステガの上腕骨の成長は、生きている間で大きな機能的変化の徴候は見られないが、一方イクチオステガの上腕骨は幼生と成体の間で顕著な差が見られた。このことは、イクチオステガの方が成体の時よりも幼生時により明白な水生の生活様式を持っていたことを示唆している。この結果は初期の四肢動物に関する形質解析と相違しており、その形質解析では、完全な骨格から知られる最も初期の水生四肢動物はアカントステガであることを示していた。かくして、イクチオステガは進化の系統樹においてより水生の、多分より魚に似たアカントステガよりもより古い位置を占めるであろう。(KU)
Contrasting Developmental Trajectories in the Earliest Known Tetrapod Forelimbs
p. 364-367.
PALEONTOLOGY: Emerging onto a Tangled Bank
p. 341-342.

制御可能なドメインパターニング(Controllable Domain Patterning)

半導体デバイスの多くは、シリコン酸化物の薄い層で被膜されたシリコンのプラットフォーム上に形成される。実際には、酸化物被覆層をなくすことは困難である。なぜならば、シリコンはすぐ酸化し、またシリコンはベア・シリコン上に堆積されるいかなる酸化物層からも酸素を盗むからである。分子ビームエピタキシーを用いて、Warusawithanaたち(p. 367)はシリコン基板上にチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)を成長させた。膜の厚さが増すにつれて、SrTiO3は下地のシリコンとほぼ完全に整合した構造から十分に緩和された構造へと遷移した。より薄い歪み膜は強誘電性の振舞いを示し、どちらか一方の極性のドメインにパターニングすることができた。(hk)
A Ferroelectric Oxide Made Directly on Silicon
p. 367-370.

自分自身を刻む時計(The Clock Strikes Itself)

電子や特定の原子はフェルミ粒子と呼ばれ、同じ空間内に2個以上存在する場合、同じ量子力学的状態をとることができない。この特性を利用して、フェルミオン集団からなる原子時計が考案された。同一の量子状態を持つフェルミオン粒子群を用いることで、衝突による周波数ブロードニングを発生させることなく信号強度を高めることできるという。しかし、Campbellらは(p.360)、ストロンチウム同位体を使った極低温フェルミオン原子群を測定する際、衝突に由来する密度依存周波数シフトが発生してしまうことを示している。この現象は、測定用レーザーパルスと原子群との相互作用に僅かな不均一性が存在するためである。この不均一性により隣りあう原子の量子状態の間に微小な差異が生じ、その結果原子同士が相互作用(衝突)を起こすようになるのである。(NK,nk)
Probing Interactions Between Ultracold Fermions
p. 360-363.

小惑星の異常を評価する(Assessing Asteroid Anomalies)

太陽系の原始時代に起因する物質の同位体量の測定値を地球の同位体組成と比較したとき、幾つかの元素の安定な同位体組成に偏差があることが明らかになっている。これらの同位体異常は、太陽系を形成する分子雲の崩壊に引き続く前太陽系物質の混合が不完全であった徴であると、説明されてきた。Trinquier たち(p.374)は、さまざまな隕石および隕石より内側の天体のチタン同位体組成の精密な測定について報告している。それによると、内部太陽系の惑星と小惑星が、異なる恒星内部の核形成プロセスによって生成される二つのチタン同位体異常に相関を有することを示している。このように、原始太陽系の分子雲は、実際のところ、最も古くまでさかのぼることのできる太陽系の固体が形成される時までに均一化されていた。他の同位体異常は、太陽系内部でもう一つ別のプロセスで生み出された。(Wt,KU,nk)
Origin of Nucleosynthetic Isotope Heterogeneity in the Solar Protoplanetary Disk
p. 374-376.

免疫細胞の起源(Immune Cell Origins)

免疫系において、樹状細胞、単球及びマクロファージは病原体への炎症応答にとって重要である。これらの細胞は共通の造血前駆物質に由来するが、機能的に多様であり、かつこれらサブセット間の発生上の関連と何処で発生しているのかという点は、in vivoでは十分に解明されていない。Liuたち(p.392,3月12日号電子版;及び表紙参照)は、マウスの通常の樹状細胞、形質細胞様樹状細胞及び単球の間の前駆物質の前後関係を解明した。通常の樹状細胞は骨髄中で生まれ、末梢性リンパ器官に移動し、そこで更なる分化と拡大が生じている。(KU)
In Vivo Analysis of Dendritic Cell Development and Homeostasis
p. 392-397.

窒息死する線虫(Suffocating Worms)

酸素の欠如により、殆どの動物は急速に消滅する。Menuzたち(p.381;Crowderによる展望記事参照)は、無酸素の影響に特に敏感な線虫の変異体に関するスクリーンを行った。セラミド合成酵素をコードしている遺伝子Hyl-2は、酵母の寿命に影響する遺伝子ファミリーのメンバーである。線虫は又、関連するセラミド合成酵素をコードしている別の遺伝子、hyl-1をも持っており、この遺伝子の変異体は、逆に正常の線虫よりも無酸素に対しより抵抗性を持っている。二つのセラミド合成酵素は脂肪族アシル鎖に対して異なる特異性を持ち、HYL-2はより短い脂肪族アシル鎖を持つセラミド分子を優先的に産生する。このように、特定のセラミド分子の存在量が細胞の生存メカニズムに影響している。(KU)
Protection of C. elegans from Anoxia by HYL-2 Ceramide Synthase
p. 381-384.
CELL BIOLOGY: Ceramides--Friend or Foe in Hypoxia?
p. 343-344.

赤錆びた氷河(Rusty Glacier)

南極氷河の突端にあるBlood Fallは、氷河下にある鉄分が豊富な水塊(waterpocket)からの流出を示している。Mikuckiたち(p.397)は、その水塊が進行中のTaylor氷河の下に150万年前から400万年前に捉えられた大昔の海水であることを示している。その海水は無酸素であり、極低温で凝縮された鉄(II)が加わり、そして硫化物の形跡はない。硫酸塩の中の酸素の同位体構成により、硫酸塩から亜硫酸塩への還元が微生物の関与した硫黄と鉄のサイクル(microbially coupled sulfur and iron cycles)によって生じ、この反応がアデノシン5’−ホスホ硫酸還元酵素によって促進されていること、そしておそらく硫黄の生物的な供給源で生じていることを示している。この系は光合成無しで、あるいは外部の供給源から得られる栄養無しで、微生物系がどのように長期間生き延びることができるかという明白な例を表している。(TO,KU,nk)
A Contemporary Microbially Maintained Subglacial Ferrous "Ocean"
p. 397-400.

前向きに考えろ(Think Positive)

ポジティブフィードバックサイクル(Positive feedback cycle)は、行動に関する無限に継続可能なパターンを生み出す。しかし、その結果が望ましくない場合、このサイクルは本人にとって否定的な思考の繰返しに陥ることから逃れ難くする。Cohenたち(p.400)は、7年生の生徒3つの群に対して複数年のフィールド実験を行い、その中で彼等に対して表面的に穏やかな介入(interventions)となる、自分自身の価値について短く書くという宿題を、7年生時と8年生時を通して数回にわたって与えた。自己肯定(self-affirmation)して書くことを課された成績の低いアフリカ系アメリカ人の生徒たちは、他人の価値について書いた生徒たちより成績の低下がかなり小さいことが示された。一方、この介入は、成績の良いアフリカ系アメリカ人やヨーロッパ系アメリカ人の生徒たちの成績の傾向に対しては何の効果もなかった。この介入は成績の低いグループが負のサイクルに陥ることを防ぐことに役立つようであった。(TO,KU)
Recursive Processes in Self-Affirmation: Intervening to Close the Minority Achievement Gap
p. 400-403.

手の届きそうな理解(Understanding Within Reach)

ミラー(鏡)ニューロンは、おそらく観察した行為を内的にシミュレートすることによって、他者の行為の理解を可能にすると考えられてきた。このたびCaggianoたちは、サルではミラー・ニューロンがより広範な認知的役割を果たしているかもしれないと報告している(p. 403)。サルから手の届く範囲内(peripersonal空間)あるいはサルの手が届かない距離(extrapersonal空間)で、実験者が運動行為を行っている際のサルのミラー・ニューロンの視覚的応答が記録された。記録されたミラー・ニューロンのおよそ半分が空間的選択性を示し、観察した行為がサルの手が届く範囲で行われていたときに限り、あるいは逆に手の届かない距離で行われた場合にのみ解放された。観察した行為の「理解」にとってまったく重要ではないにも関わらず、観察者と観察された行為の間の相対的距離が、それに続く行動応答の選択において基本的な役割を果たしている。つまり、ミラー・ニューロンの役割は、行為の理解に限定されるのではなく、観察した運動行為をサル自身にとって可能である行動という条件からコードすることでもあるのだ。(KF)
Mirror Neurons Differentially Encode the Peripersonal and Extrapersonal Space of Monkeys
p. 403-406.

強度と延性の両立(Strength and Ductility)

金属と合金の強度を増すための多くのルートは、内部欠陥と境界の生成を含んでいるが、これにより材料が破断する前の塑性変形である延性を失なうことになる。Lu たち(p. 349)は、延性を維持しながら材料の強度を増すことが示されているナノスケールでの双晶境界の形成に関する進歩の経緯をレビューしている。双晶境界は周囲のマトリクス材料となじみがよく、外部応力によって欠陥が発生し、そしてまたナノスケールにおいて優れた熱力学的安定性を示す。これらは、延性を維持しながら強度を増すために必要とされる二つの付加特性である。(hk,KU)
Strengthening Materials by Engineering Coherent Internal Boundaries at the Nanoscale
p. 349-352.

走化性の基本(Nuts and Bolts of Chemotaxis)

走化性(chemotaxis)の際には、小さなGTPase Racが局所的に活性化されて、遊走の方向に向けて膜の突出を進展させる。この局所的なRac活性化は、少なくとも部分的には、Rac GEF(グアニンヌクレオチド交換因子)を細胞の先端(leadingedge)に焦点化することによって達成されるのだが、Rac GEFの細胞内局在を制御するその仕組みは、不十分にしか分かっていない。DOCK2というのは、好中球走化性の際に運動性および極性を制御しているRac GEFである。Nishikimiたちは、細胞内DOCK2のダイナミクスが2つの違ったリン脂質によって経時的に制御されている証拠を提示している(p. 384、3月26日号電子版; また、CoteとVuoriによる展望記事参照のこと)。化学誘引物質への応答によって、DOCK2は急速に走化性好中球の原形質膜に転位置する。この初期の転位置はホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(PIP3)によって仲介され、一方、それに続く細胞先端でのDOCK2の蓄積には、ホスファチジン酸(PA)の新規合成が必要である。PAは、DOCK2のC末端多塩基クラスターに直接結合することを介して、DOCK2の局所化に焦点化し、アクチン重合の局所的誘導をもたらしている。この相互作用がブロックされると、好中球は適切に先端を形成することに失敗し、走化性における欠陥が示される。つまり、PAは走化性の際の先端形成と安定化にとって決定的なものなのである。(KF)
Sequential Regulation of DOCK2 Dynamics by Two Phospholipids During Neutrophil Chemotaxis
p. 384-387.
CELL BIOLOGY: Two Lipids That Give Direction
p. 346-347.

古い堆積物の沈着(Old Sediment Settlement)

24億年以上昔の堆積物は、質量非依存性の分別作用によるらしい、高度に異常なイオウ同位体比を示す傾向にある。この現象は、紫外線などによる光分解反応だけによって生み出されたと考えられてきたが、それは、地球大気にちゃんとしたオゾン層が存在していなかった、この時以前には、酸素レベルが低かったことを示唆するものである。Watanabeたちはこのたび、有機物と硫酸塩との間の温和な温度での反応もまた、異常なイオウ同位体分画を生み出すことがあることを示している(p. 370; またKerrによるニュース記事参照のこと)。そのような反応がなぜ24億年前のイオウ同位体シグナルにおける急激な変化を引き起こしたかは明らかではないにせよ、そうした実験は先カンブリア時代のシグナルの解釈を複雑にすることになるかもしれない。(KF,Ej,nk)
Anomalous Fractionations of Sulfur Isotopes During Thermochemical Sulfate Reduction
p. 370-373.

再度配列決定を試みれば見つかるであろう(Resequence and You Shall Find)

ゲノム・ワイドアソシエーション研究(GWAS)により、生活習慣病に対する個人の感受性に寄与している小さな染色体領域を同定することができるが、そうした研究は、その病気の原因の役割を担う特定の遺伝子および配列をピンポイントで明らかにする手前までしかいかないことが多い。このたび、1型糖尿病の患者480人と対照群480人のDNAを用いて、Nejentsevたちは、その病気の候補遺伝子10種を配列決定した(p. 387、3月5日号電子版参照)。それらは、以前GWASによってその病気に結び付けられた染色体領域にマップされるものであった。このアプローチによって1型糖尿病のリスクを低める4つの特異的配列変異体の発見がもたらされた。これら変異体は、集団ではまれなものだが、RNAウイルスによる感染に対する宿主応答に関与する遺伝子、IFIH1内に含まれるものである。(KF)
Rare Variants of IFIH1, a Gene Implicated in Antiviral Responses, Protect Against Type 1 Diabetes
p. 387-389.

DNA進化の余分な次元(An Extra Dimension of DNA Evolution)

ゲノムの非翻訳領域の保存された配列が存在していることは、そうした領域が機能がないように見えるものもあり、既知の機能的要素がしばしば明らかに非保存領域に存在しているにもかかわらず、機能的には重要であるに違いないと示唆するものである。Parkerたちは、そうした知見と、ヌクレオチド配列ではなくヒドロキシラジカル切断パターンによって決定されるというDNA構造における類似性の発見とを結びつけると、機能の進化的保存が予言できる、と説明している(p. 389、3月12日号電子版)。統計学的また機能的アッセイは、彼らのアルゴリズムChaiが機能的役割を有する非翻訳領域を同定できるということ示唆し、なぜ多くの非翻訳領域が一次(配列としての)制約下になく、むしろ二次的(構造上の)進化の制約の下にあるのかを示している。(KF)
Local DNA Topography Correlates with Functional Noncoding Regions of the Human Genome
p. 389-392.

非翻訳DNAが支配する(Noncoding DNA Rules)

遺伝子は、特定のDNA配列に結合する制御因子によって、オンまたはオフされる。そうした因子がいかに強く遺伝子を活性化するかは、典型的には、DNAに対するその親和性が支配していると考えられてきた。このたびMeijsingたちは、そうしたDNA配列におけるバリエーションが、ある特定の制御因子、グルココルチコイド受容体の構造と活性を調節していることを示し、DNA配列が単純にドッキング部位であるだけでなく、遺伝子発現に影響するシグナルであることを示している(p. 407)。(KF)
DNA Binding Site Sequence Directs Glucocorticoid Receptor Structure and Activity
p. 407-410.

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