AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 10 2009, Vol.324


インフルエンザとの戦い(Fighting Flu)

現在のほとんどのインフルエンザのワクチンは、主要表面抗原の赤血球凝集素(HA=antigen hemagglutinin)上の超可変領域(hypervariable regions)を標的として抗体を誘発し、特定のインフルエンザ系統と宿主細胞の結合を妨害する。最近になって、もっと広範に有効な中和抗体が報告されたが、これによってもっと一般的な治療法が可能になるかも知れない。今回、Ekiert たち (p. 246, および、2月26日の電子版も参照)は、中和スペクトルの広いヒト抗体CR6261が2つの異なるHAと複合体を形成している抗原結合領域の結晶構造を決定した。2つのHAとは、1918インフルエンザウイルス、他の1つはH5N1トリインフルエンザウイルスである。結晶構造から、中和のメカニズムが明らかになった。このような結合エピトープ(抗原決定基)を分子レベルで理解することによって、ワクチンや薬剤の設計方針の助けになるであろう。(Ej,hE)
Antibody Recognition of a Highly Conserved Influenza Virus Epitope
p. 246-251.

翻訳を数え上げる(Tallying Translation)

マイクロアレイによるメッセンジャーRNA (mRNA) の定量的測定技術によって、あるいは、最近では、大規模配列決定によって、生物学は多様な分野に劇的な影響を及ぼしてきた。このような一般的なmRNA定量的測定技術が最も頻繁に利用されている用途は、細胞内でどのようなタンパク質が出来ているかを推測することである。しかし、細胞は多くの翻訳制御のメカニズムを利用しているため、mRNA測定はタンパク質合成測定について、不正確な測定値しか出せない。Ingolia たち(p. 218,および、2月12日付け電子版、および、Serviceによるニュース記事を参照)は、生きた細胞中のリボソーム(ribosome)によって占有されている mRNA 断片の大規模配列決定をすることで、翻訳を測定する技術を紹介している。リボソーム・プロファイリングと呼ばれるこの手法は高精度で翻訳を定量することが可能である。リボソーム・プロファイリング手法の戦略は単純で、包括的で、かつ、他の生物にも容易に応用することができる。(Ej,hE)
Genome-Wide Analysis in Vivo of Translation with Nucleotide Resolution Using Ribosome Profiling
p. 218-223.

空気中で屈曲した光(Bending Light in Air)

極端に強いレーザーパルスを誘電体に打ち込むと、そのレーザー光により伝播経路がイオン化されてプラズマが生成される。適切な条件下では、その光は自己集束し、"光の弾丸"を生み出す。空気中を伝わる場合は、この効果は雷制御に用いられてきた。今までは、用いられてきた引き金となるパルスは、おそらくは光というものから予想されるであろうように、直線状に伝播するプラズマのチャネルとフィラメントを生成するという結果になっていた。構造を有する光線(すなわち、Airy beam) を用いて、Polynkin たち (p. 229; Kasparian とWolf による展望記事を参照のこと) は、このような大強度領域における非線形光学効果により、プラズマチャネル本体から分裂したフィラメントが生成し、屈曲した光の弾丸を放つことを示している。この技術の応用可能なものとしては、リモートセンシングや強いレーザービームの研究がある。(Wt,KU,nk)
Curved Plasma Channel Generation Using Ultraintense Airy Beams
p. 229-232.
APPLIED PHYSICS: Laser Beams Take a Curve
p. 194-195.

ソロモン島の地震の影響(Solomon Island Quake)

2007年4月1日、南太平洋の複雑なプレートの境界を引き裂いてマグニチュード8の巨大な地震が発生した。その結果、この境界の動力学が、より一般的な意味では、衝突するプレート間でどのように歪みが溜まるのかが明らかにされた。乗り上げて来る太平洋プレートの下に、非常に若い海洋地殻を含む二つのプレートがそれぞれ別の方向に沈み込みつつある所でどのように地震が破裂したのかについて、Furlong たち(p. 226)は報告した。沈み込みつつある若い地殻は極めて大きな地震を引き起こす。さらに、地震に伴う隆起運動は地震の前のほとんどの歪みが貯められるのは、乗り上がるプレートの側であることを意味している。(Ej,hE,nk)
A Great Earthquake Rupture Across a Rapidly Evolving Three-Plate Boundary
p. 226-229.

ガリウム液滴をミクロに動かすもの(Gallium Droplet Micro-Movers)

揺れ動く花粉のブラウン運動のように、粒子の自然な動きは昔から魅力的、かつ関心の高い現象であった。GaAs表面からのAsの蒸発により、Ga液滴が形成され、移動する。Tersoffたち(p.236)は、数百層の表面層の蒸発中にGa液滴が前後に動く際の液滴の運動をモニターした。液滴の速度は温度増加とともに速くなると思われがちだが、そうではなく著者たちは液滴の運動が停止するような温度があり、その温度の前後で速度が増加することを観察した。この運動は表面蒸発の影響と液滴が覆っている領域の蒸発を妨げるような液滴の運動との間の相互作用に起因している。(KU)
Running Droplets of Gallium from Evaporation of Gallium Arsenide
p. 236-238.

4倍の酸化速度(Fourfold Oxidation)

生合成経路は、しばしば酵素に依存し、既に構築された複合体の分子骨格上の特異的な場所に水酸基やチオール基を付加し、それによってより前の反応ステージでのこれら反応基による妨害を抑えている。この酵素のやり方に触発されて、Kimたち(p.238;Millerによる展望記事参照)は、真菌の代謝産物である(+)-11,11'-dideoxyverticillin A(反応性の架橋ジスルフィドモチーフを持つアラニン-トリプトファンジペプチド二量体)の化学合成において類似の戦略を採用した。著者たちは、最初に二量体骨格を合成し、次にその立体化学を利用して、実験的に最適な酸化剤を用いて4っのOH基を同時に導入した。次のステップでは立体選択的に4っのOH総てをS(イオウ)に置換し、最終生成物に向けて容易に酸化されやすい中間体を作る。効率的な10-ステップの合成により、結晶解析に十分な純度の生成物が出来た。(KU)
Total Synthesis of (+)-11,11'-Dideoxyverticillin A
p. 238-241.
CHEMISTRY: Total Chemical Synthesis Peers into the Biosynthetic Black Box
p. 186-187.

制御された不規則なシグナルへの応答(Regulated Responses to Irregular Signals)

ホルモンやサイトカインの影響を調べる実験では、ホルモン等の活性化分子の有無で培養された細胞の応答を比較する。しかしながらin vivoでは、細胞は不規則で脈動性の刺激量の変動を受ける。Ashallたち(p.242)は、転写制御因子NF-κB(免疫機能における転写応答の主要メディエーター)のサイトカイン腫瘍壊死因子-α(TNFα)への短いパルス的な暴露に関するその応答を研究した。核の内外への転写制御因子の移動に関する周期性は、TNFαのパルス的な暴露への細胞応答に同期していた。更に、特定の遺伝子の転写が活性化されるかどうかは、刺激の頻度と、その結果としてのNF-κB転位置のタイミングに依存している。炎症組織の細胞はTNFαによる刺激で似たような変化を受け、かくしてその細胞の受けるシグナルのタイミングに依存して、別の仕方で応答する。(KU)
B-Dependent Transcription
p. 242-246.

飛行計画(Flight Plan)

正確に飛行するためには、飛行動物は進行方向を変えかつ維持する能力が必要なだけでなく、その後直ちに姿勢を維持する能力も必要である。しかし、この進路変更の一連のダイナミクスに関しては解明されていない。Hedrickらは(p252;Tobalkeの展望記事参照)飛行、動物のこれらの能力を予測するフレームワークを考案し、虫、蝙蝠、鳥といった様々な飛行動物の進路変更ダイナミクス予測に適用している。構造的に近い動物は、サイズに依らず羽ばたいている間に進路方向が行われる。ショウジョウバエやハチドリは進路変更を完了するまで間、左右の羽の羽ばたきの姿勢と回数を同じにしたまま(対称性を保つ)、という。羽ばたきの周期が高くなるにつれて、操作性と安定性は高まるという。これまでは、これら二つの性質は相反するものと考えられていた。(NK,KU,Ej)
Wingbeat Time and the Scaling of Passive Rotational Damping in Flapping Flight
p. 252-255.
EVOLUTION: Symmetry in Turns
p. 190-191.

同義ではあっても同じではない(Synonymous, Not the Same)

遺伝子のコードは重複しており--20個のアミノ酸の多くは、1個以上のコドンでコードされ、これは同義コドンとして知られている--これは異なるDNA配列が同じタンパク質配列をコードすることがあるということである。同義コドンを利用するかどうかは、リボソームによるタンパク質合成の効率または精度を上げるために重要な役割を果たしているイソ受容体転移RNA(iso-accepting tRNA)の量によって決定されると思われてきた。このアイデアをテストするため、Kudlaたち(p. 255) は緑色蛍光タンパク質遺伝子の154種の同義変異体を作った。同義コドンの利用が、翻訳の全体的効率で優勢な役割を果たしているというよりは、メッセンジャーRNAの2次的構造、特に 5'末端が最も重要な役割を担っている。このように、タンパク質合成に関しては、伸長ではなく、翻訳の開始が、遺伝子の発現を制限している。(Ej,hE)
Coding-Sequence Determinants of Gene Expression in Escherichia coli
p. 255-258.

蚊における免疫の媒介(Mosquito Immune Mediation)

蚊は、マラリアを初めとした人間や動物の多数の疾患を仲介するベクターである。蚊の自然な防御機構を増強ないし変化させるアプローチによって、病気のベクターとしての蚊の能力を減少ないし除去させることが可能であろう。ロイシンに富む反復配列(LRIM1とAPL1C)を含むタンパク質が、マラリア寄生虫であるネズミマラリア原虫に対するハマダラカの免疫応答を仲介することが知られている。Povelonesたちは、遺伝子サイレンシングを用いて、それらタンパク質が補体様タンパク質とともに免疫カスケードを産生し、寄生虫の表面に結合し、その破壊をしようとすることを示した(p. 258;3月5日号電子版)。LRIM1とAPL1Cは、蚊に特有のタンパク質を含むロイシンに富んだ反復配列を分泌する広範なファミリーのメンバーである。(KF)
Leucine-Rich Repeat Protein Complex Activates Mosquito Complement in Defense Against Plasmodium Parasites
p. 258-261.

脳腫瘍の酵素学(The Enzymology of Brain Cancer)

ヒトの神経膠腫(脳腫瘍の1タイプ)の多くは、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)をコードする2つの遺伝子の体細胞変異を宿している。構造モデル化と生化学的解析によって、Zhaoたちは、IDH1における腫瘍関連変異が、触媒的に不活性なヘテロ二量体の形成を介して、優性な様式における酵素活性の損失をもたらしていることを示している(p. 261; またPollardとRatcliffeによる展望記事参照のこと)。IDH1変異体の発現は酵素産物であるαケトグルタル酸の形成を減少させ、低酸素-誘導性因子-1α(HIF-1α)の発現を増強する。このHIF-1αは、酸素レベルが低い時に細胞が生き延び、成長することを助けている転写制御因子である。つまり、このIDH1遺伝子は、変異によって不活性化された際には、HIF-1経路に対する効果を介して腫瘍増殖を促進することになってしまう、腫瘍抑制因子として機能しているらしい。(KF)
Glioma-Derived Mutations in IDH1 Dominantly Inhibit IDH1 Catalytic Activity and Induce HIF-1
p. 261-265.
CANCER: Puzzling Patterns of Predisposition
p. 192-194.

マントルのモニタリング(Monitoring the Mantle)

せん断弾性率に関する強い異方性が地球のマントル底部に観察され、それは高圧変形に起因するとされている。しかし、いかなる鉱物が主な原因であるのかははっきりしていなかった。マントル中で主要な鉱物であるポストペロブスカイト(post-perovskite)に対する高圧、高温実験からは、それでは十分に異方性が説明できないことになっている。Marquardtたちは、フェロペリクレース(ferropericlase:[(Mg,Fe)O])について実験を行ない、深部マントルにおける圧力で誘発される鉄-スピン遷移全体にかけて、その異方性が劇的に増加することを示している(p. 224)。このデータはフェロペリクレースが深い部分での地震異方性の源であることを支持するものであり、深部マントルにおける流れのマップ化を助けるものである。(KF,nk)
Elastic Shear Anisotropy of Ferropericlase in Earth's Lower Mantle
p. 224-226.

フレキシブルなワイヤーと有機光起電力(Flexible Wires and Organic Photovoltaics)

有機の光起電力太陽電池は、低コストという観点で高効率の単結晶シリコン電池に対抗しているが、しかし電子とホールキャリアを作る電池の活性領域が、性能とコストを制限する唯一の部位ではない。フラットパネルデバイスにおいては、透明な酸化物電極がチャージキャリアの移動度を制限している。Leeたち(p.232,3月12日号電子版参照)は電極の新しいデザインを提示しているが、そこでは反応性の有機分子(導電性ポリマーとフラーレン誘導体で、それらは互いに嵌合を通して接触している)が、薄い金属ワイヤー電極(一次電極)と対電極(よい電気的接触を与えるように銀フィルムで皮膜されたより薄いワイヤー)の上に被覆され、その対電極は次に一次電極に巻きつけられ、全体を透明なポリマーで被覆している。対電極が活性領域を覆って太陽光をさえぎるが、この影響はポリマーファイバー光学により補償される;効率3%はフラットパネルを実装した場合の値に近い。(KU,nk)
Solar Power Wires Based on Organic Photovoltaic Materials
p. 232-235.

リーシュマニアにおける性(Sex in Leishmania)

貧しい人たちの集団において高い罹患率をもたらしているが無視されてきたリーシュマニア症は、キネトプラスト類のリーシュマニア寄生虫によって引き起こされる病気である。キネトプラスト類は悪名高いほどに多様であるが、その多くはクローンによるものだと考えられている。Akopyantsたちは、昆虫ベクター中に生じるリーシュマニア寄生虫間の遺伝的交換の直接的証拠を提示している(p. 265; またMilesたちによる展望記事参照のこと)。そうした遺伝的交換には、それぞれの親からの染色体のフルセットの遺伝や、maxicircle kDNA(ミトコンドリアDNAと等価)の片親からの遺伝も含まれていた。こうした知見は、リーシュマニアの種間および種内の広範な多様性の根底にある仕組みの理解に光を当て、その病原性や薬剤抵抗性などの重要な形質を制御する遺伝子を古典的な遺伝的アプローチによって同定することを可能にするものになっている。(KF)
Demonstration of Genetic Exchange During Cyclical Development of Leishmania in the Sand Fly Vector
p. 265-268.
GENETICS: Leishmania Exploit Sex
p. 187-189.

遍在性を薄れさせつつあるプランクトン(Vanishingly Ubiquitous Plankton)

Micromonas pusilla(プラシノ藻類の1種)は、地球全体に分布している光合成性picoeukaryote(2マイクロメートル以下の真核生物)であって、熱帯から極まで様々な生態系にはびこっている。Wordenたちは、単一の「種」と考えられているうちの2つの系統を比較し、予期していた以上のゲノムの可変性を、遺伝的補体においてだけでなく、もっとも基礎的なレベル、すなわちRNAプロセシングの能力などにおいて発見した(p. 268; またArchibaldによる展望記事参照のこと)。Micromonasは地球の炭素循環にとって、一次産生者としてだけでなく、地上の植物の前駆体への関連においても重要である。海洋の条件が変化するにつれ、Micromonasなどの遍在性海洋生物は生態学的遷移のレポーターとしての役目も果たすことが期待される。(KF)
Green Evolution and Dynamic Adaptations Revealed by Genomes of the Marine Picoeukaryotes Micromonas
p. 268-272.
GENOMICS: Green Evolution, Green Revolution
p. 191-192.

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