AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 27 2009, Vol.323


分子ワイヤーを引き上げる(Pulling on Molecular Wires)

分子導電性の実験は、分子の長さを固定した状態で行われている。Lafferentzらは(p.1193)走査型トンネル顕微鏡のプローブを用いて、導電性ポリマーを金表面から引き上げる際に生じる導電性の変化を測定した。彼らはポリフルオレンオリゴマーワイヤーを熱反応により金表面に合成し、20nm程度の長さまでワイヤーの鎖を連続的に変えながら金表面から引き上げた。指数関数的減衰と振動成分が合わさった電流変化が観測された。振動成分はモノマーユニットが次々に金表面から離れる際に発生している。(NK、KU)
Conductance of a Single Conjugated Polymer as a Continuous Function of Its Length
p. 1193-1197.

メンデルの法則から外れる(Escaping Mendel)

パラミューテーション(paramutation)とはゲノム中に後成的な変化によって引き起こされた形質の非メンデル的遺伝で、次世代へと引き継がれる。Erhardたち(p.1201)は、トウモロコシにおいて、パラミューテーションの維持と確立に必要なRMR6遺伝子がRNAポリメラーゼ(PolW)であり、この酵素は別の植物、シロイヌナズナにおいて後成的なサイレンシングに関与していることを明らかにした。意外なことに、PolWはRNAを合成することはなく、おそらく他のポリメラーゼとの競合により仲介されるゲノム全体へ影響をもたらしているらしい。(KU,Ej)
RNA Polymerase IV Functions in Paramutation in Zea mays
p. 1201-1205.

温室から製氷室へ(Hothouse to Icehouse)

始新世と漸新世の境界に当たる約3400万年前、地球の気候はダイナミックな変化を被っており、南極大陸において永久氷床を形成し始めていた。Liuたち(p.1187;Kumpによる展望記事参照)は、当時いくつかの地点で海面温度が変化したことを示す地球化学的な証拠を示している。高緯度地域における表面海洋水が20度から15度に寒冷化し、そして低緯度地域でも寒冷化していたが、その効果はさほどでもなかったことを明らかにした。これらの結果と酸素同位体データ(気温と同様に、氷の容積を推定するために用いられる)を組み合わせることで、大陸氷の容積変化はごくわずかしかなく、北半球の氷河は発生していなかったことを示している。(TO)
Global Cooling During the Eocene-Oligocene Climate Transition
p. 1187-1190.
ATMOSPHERIC SCIENCE: Tipping Pointedly Colder
p. 1175-1176.

アルツハイマー病におけるアストロサイト(Astrocytes in Alzheimer's)

最近、アルツハイマー病モデルマウスの生きた脳内におけるマルチフォトンカルシウム-イメージング法が技術的に可能となった。生きたマウスのアストロサイト(星状細胞)におけるカルシウムシグナリングの研究において、Kuchibhotlaたち(p.1211)は、アルツハイマー病(AD)におけるアストロサイトの役割を見出した。皮質プラーク(斑点)を発生したADモデルマウスにおいて、カルシウム波が構造的に相互結合したアストロサイトのネットワークを通して伝播するのが観測された。これらの波はプラークのないマウスでは見いだされていない。そのデータは、長期の、かつ協調的なシグナル伝達機構が病理発生中に生じており、皮質性機能障害や記憶喪失に寄与している可能性を示唆している。このように、プラークは局所的にニューロンに影響をもたらす一方、アストロサイトのネットワークにより大きな影響を与えており、治療介入への可能性をもたらす。(KU)
Synchronous Hyperactivity and Intercellular Calcium Waves in Astrocytes in Alzheimer Mice
p. 1211-1215.

ヒト祖先の足跡(Ancestral Footprints)

保存された足跡はヒト祖先の骨格や歩き方に関する重要な情報を提供するが、一般的にヒト祖先に関しては、化石記録は極めて断片的である。Bennettたち(p.1197;表紙及びCrompton and Patakyによる展望記事参照)は、ケニアのTurkana湖東岸のIleretにおいて、150万年以上昔の複数の原人(ホモ属)の足跡を保存している堆積層の発見について報告している。その足跡は、タンザニアのLaetoliで30年前に発見された375万年前の足跡とははっきり異なる特徴を示している。その足跡の表面がレーザスキャンと幾何学的な形状測定の統計処理を用いて解析された。その測定によると、土踏まずがあること、親指が他の指と離れていないこと、そして踵から親指の付け根のふくらみへ体重が移動してから、つま先でけり出すという点で、現在のヒトのそれと似ていることを見出した。(KU,bb,nk)
Early Hominin Foot Morphology Based on 1.5-Million-Year-Old Footprints from Ileret, Kenya
p. 1197-1201.
ANTHROPOLOGY: Stepping Out
p. 1174-1175.

磁気単極子を誘起する(Inducing a Magnetic Monopole)

磁気単極子の存在は、基礎物理の法則と矛盾がないにもかかわらず、どのように磁石を小さくしても、常に北極と南極とを伴って現れる。Qi たち (p.1184, 1月29日号電子版) は、磁気単極子が、強力なトポロジカルな絶縁体表面に、あるいは、強力な形態的絶縁体表面に一個の電荷を置くことで誘起可能なことを理論的に示している。これらの物質の新規な量子状態の周囲のマックスウェルの方程式を操作することで、どのようにして磁気単極子が磁気力顕微鏡を用いて測定可能かが明らかとなった。(Wt,KU,Ej)
Inducing a Magnetic Monopole with Topological Surface States
p. 1184-1187.

モデルからマーカーへ(From Model to Marker)

モデル生物における遺伝的ネットワーク構築からヒト癌の臨床的対応マーカーの同定まではかなりの飛躍がある。Liuたち(p.1218)は、転写制御因子のDNA結合部位マッピング、及び発現プロフィルデータを文献探索とタンパク質相互作用のデータと結びつけて、ショウジョウバエにおける古典的なペアルール遺伝子周辺のネットワークを構築し、胚形成中のそのセグメントを特定した。結果的に、Junキナーゼ経路を標的とするE3ユビキチンリガーゼアダプタであるSPOPをコードする遺伝子が同定された。この遺伝子はヒトに保存されており、その発現は最もありふれたタイプの腎臓癌と関係していた。(KU)
Analysis of Drosophila Segmentation Network Identifies a JNK Pathway Factor Overexpressed in Kidney Cancer
p. 1218-1222.

あと味の悪さについての議論(Distasteful Discussed)

もし、私が比喩的に「あと味の悪さが残る」と言ったとすれば、これは生物学的な根拠があるのであろうか?Chapmanたち(p. 1222; および、Rozin による展望記事参照) は根拠があると主張し、これを裏付ける行動学的、生理学的証拠を示した。 彼らによると、最後通牒ゲーム(ultimatum game)と称するゲームにおいて不公平な扱いを受けたり経済的損害を受けた場合、嫌悪感を表情に表すのと同じように、挙筋や下唇下制御筋(唇や小鼻を制御する筋肉)を活性化する味の悪い液体が出ることを見つけた。
【訳注】最後通牒ゲームとは、「ペアとなったパートナーと、金額を分配します。あなたとパートナーの利益は、あなたの提示した配分で決まります。あなたのパートナーがYesなら、あなたの提案通り配分され、Noと言ったら分配金はゼロです。」(より詳しくは、
http://www.econ.nagoya-cu.ac.jp/~yhamagu/ultimatum_inst.pdf)。(Ej,hE)
In Bad Taste: Evidence for the Oral Origins of Moral Disgust
p. 1222-1226.
PSYCHOLOGY: From Oral to Moral
p. 1179-1180.

赤と青の動機付け(Red and Blue Motivations)

具体的な、あるいは身体に根拠をもつ認知というものが、認知過程の基盤に関する最近の、しかも活気のある新たな枠組みであり、それは、認知された身体状態こそがそのシンボルの概念的取り扱いを支えていると提唱するものである。MehtaとZhuは、アナグラム(つづりの組み換え)の解答や単語リストの記憶、また[青い空」のイメージングなど、さまざまな認知課題の遂行における色彩(赤対青)の影響の説明に、この新たな枠組みがいかに役立つかを明らかにしている(p. 1226、2月5日号電子版)。 彼らは、赤はリスク回避の機構を活性化し、それと対照的に青は探求的行動を増強すると結論付けている。(KF,KU)
Blue or Red? Exploring the Effect of Color on Cognitive Task Performances
p. 1226-1229.

結核に取り組む(Tackling Tuberculosis)

最近出現しつつある広範に抵抗性のある結核菌の系統は、新たな薬剤の緊急な必要性を提起するものである。広く使われているペニシリンなどのβラクタム・クラスの抗生物質は、それがが結核菌のβラクタマーゼ(BlaC)によって加水分解されるために、結核菌に対してはほぼ無効である。Hugonnetたちは、βラクタム・メロペネムがBlaCの緩徐な基質であるので、共有結合性の中間体をトラップして結晶化することを明らかにした(p. 1215)。共有結合性のBlaC-メロペネム複合体の構造は、改良された結核菌-特異的なβラクタム設計の基盤を提供する。さらに、食品医薬品局(FDA)認可の薬剤、メロペネムとBlaC阻害剤のクラブラン酸は、「持続性状態」を模倣する実験室系統に対してだけでなく、広範に薬剤抵抗性のある系統に対しても、試験管内で活性を示すことが明らかにされたのである。(KF)
Meropenem-Clavulanate Is Effective Against Extensively Drug-Resistant Mycobacterium tuberculosis
p. 1215-1218.

「RNA世界」の再構築(Reconstructing the RNA World)

地球上の生命の起源についての「RNA世界」仮説というのは、RNAが、DNAと同様に情報貯蔵分子として、またタンパク質と同様にエフェクター分子として作用し、それ自体を複製することも可能だった段階を経由してDNAを基礎とする生命体へと至ったと仮定している。LincolnとJoyceは、いかなるタンパク質成分も含まないRNAベースの自己複製系を試験管内に創り出した(p. 1229、1月8日号電子版)。各リボザイムは2分され、交差-連結している。「2分されたもの」に含まれる配列の多様性は、この系では組換えがたくさん行われていることを示していた。結果的に、競合実験によれば、もっとも効率的な複製開始点の組み合わせが、選択を介して出現し、支配的になっていくことが可能だったのである。(KF)
Self-Sustained Replication of an RNA Enzyme
p. 1229-1232.

歯を発生させる(Putting Teeth into Development)

哺乳類における歯の発生の最初の形態学的徴候は、歯提(dental lamina)、すなわちそこからすべての歯が引き続き成長していくことになる経口上皮の肥厚した帯状組織の形成である。このたびZhangたちは、マウスの歯の形態形成の場もまた、発生中の歯の間充織における誘導シグナルの空間的制約によってパターン化されることを明らかにしている(p. 1232)。 2つの転写制御因子、Msx1とOsr2が拮抗的に作用して、必須の歯原性シグナルであるBmp4のレベルと空間分布とを制御している。これら因子のバランスを壊すと、歯がなくなったり、余分な歯が生じたりという結果になるのである。(KF)
Antagonistic Actions of Msx1 and Osr2 Pattern Mammalian Teeth into a Single Row
p. 1232-1234.

フェルミ面直下の欠陥によって直接フェルミ面を観測する(Buried Defects Reveal Fermi Surfaces)

フェルミ面は固体において、価電子帯と伝導電子帯の境界を形成している表面であり、これを観測するためには通常、角解像度を有する光電子放出分光法などを利用するが、これは逆格子空間に作用し、その空間解像度は限られている。Weismann たち (p. 1190; Heinrichによる展望記事参照)は、走査トンネル顕微鏡を利用して、フェルミ面直下に不純物がある場合には、フェルミ面が実空間で直接観測可能であることを見つけた。彼らは結晶化した基盤の上に銅をエピタキシャル成長させながらコバルトの不純物を浅く添加した。ホスト物質(この場合は銅)のフェルミ面上の臨界点が実空間における電子の伝播を特定方向に集中させ、その結果、表面での電荷密度振動に強い異方性が引き起こされる。この電荷密度の振動は、埋め込まれた欠陥のマッピング(地図化)にも利用された。(Ej,hE,nk)
Seeing the Fermi Surface in Real Space by Nanoscale Electron Focusing
p. 1190-1193.
APPLIED PHYSICS: Looking Below the Surface
p. 1178-1179.

筋萎縮性側索硬化症の新しい原因(A New Rule for Degeneration)

筋萎縮性側索硬化症 (ALS;または、ルー・ゲーリック病とも呼ばれている)は、成人になって発症する神経変性疾患であり、運動ニューロンに影響を与え、最終的には死に至る。この病気の発症確率は10万人当たり1〜2人であり、そのうち10%は家族性である。このALS に関連した遺伝子は既にいくつか同定されているが、その分子的メカニズムは不明であった。Vance たち(p. 1208) および Kwiatkowski たち(p. 1205) は、家族性ALSに付随するFUS(肉腫に融合した)中に変異を見つけた。FUSは、大部分がRNAに結合する核タンパク質であり、DNAやRNA代謝の多様な場面に関与している。FUS変異を伴うALS患者からの運動性ニューロン中における変異タンパク質は細胞質に誤配置されている。RNAとDNA結合タンパク質であるTDP43中の変異は、最近病気と関連付けられ、主にTDP43を構成するユビキチン化した 細胞質内封入体が、家族性だけでなく孤発症性ALSにおいても見つかった。この両方の事実から、この変異がRNA代謝における欠陥に関係し、ALSに寄与している。(Ej,hE)
Mutations in FUS, an RNA Processing Protein, Cause Familial Amyotrophic Lateral Sclerosis Type 6
p. 1208-1211.
Mutations in the FUS/TLS Gene on Chromosome 16 Cause Familial Amyotrophic Lateral Sclerosis
p. 1205-1208.

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