AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 20 2009, Vol.323


シロイヌナズナに見つかった長い三塩基反復配列(Variation Comes in Threes)

三塩基反復配列の伸長は、多くのヒトの遺伝的障害や、微生物における多様な表現型の基となっているが、実験的にこれを研究するための天然のモデルが、今まで存在しなかった。Sureshkumar たち(p.1060, 1月15日発行の電子版参照) は、アイルランドで収集されたシロイヌナズナに GREENWORMS 遺伝子のイントロン中に三塩基反復配列に関連した遺伝的欠陥を見つけた。これは高温に於いて発現が減少し、その結果発育障害が生じる。すなわち、この反復配列が伸長するすることで環境に依存したIIL1の活性が抑えられ、発育障害を生じるが、伸長した反復配列が短くなると、有害な表現型を回復する。このIIL1の欠陥は、三塩基反復配列の伸長や野生集団中の変動に関する遺伝的に扱いやすいモデルとなり得る。(Ej,hE)
A Genetic Defect Caused by a Triplet Repeat Expansion in Arabidopsis thaliana
p. 1060-1063.

酸化物エレクトロニクスを描く(Etch-A-Sketch Oxide Electronics)

2つの遷移金属酸化物の界面では、絶縁性や金属伝導性、及び超伝導現象すら生じることが知られている。どの種類の現象が生じるかは酸化物の単原子層レベルの膜厚の違いによって支配されている。これまで、金属酸化物デバイスの作製は複雑なリソグラフィー技術によて行われてきた。Cenらは(p.1026、Reinerらの展望記事参照)、導電性プローブ原子間力顕微鏡を用いたよりシンプルな手法により、トンネル接合や電界効果型トランジスタを作製した。より複雑な酸化物電子回路作製法の新しい道を開く技術である。(NK,Ej)
Oxide Nanoelectronics on Demand
p. 1026-1030.
MATERIALS SCIENCE: Atomically Engineered Oxide Interfaces
p. 1018-1019.

火星のメタンを測定する(Measuring Martian Methane)

火星の大気は、強い酸化性であるため、何らかのメタンの存在は活発な地質学的過程を、あるいは、生物的過程の可能性さえも示唆するものである。メタンのかすかな兆候は、宇宙と地上に設置された分光計の両方で検出されている。Mumma たち (p.1041, 1月15日号電子版) は、粘土鉱物が豊富な岩石から発する、一時的な火星のメタンのプルームを検出した。放出されたメタンの量は、地球上で見られる多量の炭化水素のシープ(湧出)に匹敵するものである。(Wt,tk,og)
Strong Release of Methane on Mars in Northern Summer 2003
p. 1041-1045.

分解を抑える(Damping Decomposition)

触媒は、反応物を生成物に転化する障壁を低くするだけではなく、生成物の分解をも触媒作用する。一般に、この逆反応は迅速な生成物除去(rapid product removal)により最小化でき、あるいは不均一系触媒の場合、生成物の再吸着作用を抑制することにより最小化することができる。H2O2は消毒や漂白等に重要な化合物であるが、現在は間接的な合成法で作られている。逆反応(分解)の小さい直接的合成にふさわしい触媒がなかった。Edwardsたち(p.1037)は、炭素担体に担持された金-パラジウムナノ粒子触媒においてH2とO2からのH2O2の直接的な合成過程において生じるH2O2の分解速度を、炭素担体の酸による前処理(acid pretreatment)により低下できることを見出した。この処理により、より小さなナノ粒子の触媒が形成され、H2O2分解が更に抑えられる。(TO,KU)
Switching Off Hydrogen Peroxide Hydrogenation in the Direct Synthesis Process
p. 1037-1041.

太古の微生物の代謝(Ancient Microbial Metabolism)

代謝経路が異なると、同位体分画(isotope fractionations)が異なる。従って、岩石中の安定同位体の計測により、微生物が行う代謝について初期の進化の手がかりを得ることができる。Garvinたち(p.1045)は、西オーストラリアにある25億年前のMcRae頁岩から窒素と炭素の同位体を調査し、地球に酸素が増大した頃の微生物の窒素処理プロセス(nitrogen-processing)を追跡した。そのデータは、25億年前のその時点で窒素の生化学的代謝サイクルが発達していたこと、そして今日存在する窒素処理する微生物の3つグループ中の少なくとも1つが既に進化していたことを示している。(TO,KU,Ej,og)
Isotopic Evidence for an Aerobic Nitrogen Cycle in the Latest Archean
p. 1045-1048.

中部大西洋の海嶺地殻の冷却(Mid-Atlantic Ridge Crust Cooling)

プレートテクトニクスでは中央海嶺によって地殻が形成され、沈み込み帯でマントルに再び吸収されるモデルとなっている。このとき地磁気が残す地殻中の磁気方位模様によって、地殻形成年代は大まかに知ることができるが、詳細なメカニズムを知ることは不可能であった。最近、大洋地殻中のジルコン(zircon)の分析によって、 Lissenberg たち(p.1048, 1月29日発行の電子版、および、Michael and Cheadleによる展望記事参照)は、大西洋中央海嶺においてマグマが形成された詳細な時期を明らかにした。マグマ貫入時期の広がりから、地殻の冷却速度が推定できるし、海嶺中央部から時間と共に系統的に離れて行くことから、少なくとも試料採集地点においては、ゆっくりと均一な拡散が起きたらしい。(Ej)
Zircon Dating of Oceanic Crustal Accretion
p. 1048-1050.
GEOCHEMISTRY: Making a Crust
p. 1017-1018.

融ける前に硬化する(Stiffening Before Melting)

毎日の一般的経験からいえば、何かに熱をかけるとその物質は柔らかくなるが、これはエネルギーを注入された物質を凝集させている結合力を弱めることによる。しかし、励起会合体(exciplexe)と呼ばれているある種の過渡期の分子は、基底状態よりも電子的励起状態にある方が強い結合状態を示す。理論的予測によれば、金属性金が高い励起状態にあるとき、このような強固な結合状態になり、続いて、注入されたエネルギーが格子全体に平衡化して溶融する。ピコ秒以下の時間解像度を有する電子回折法によって、レーザーパルスで高エネルギーを注入された金を測定し、Ernstorfer たち(p. 1033,1月22日号電子版を参照)は、溶融開始に遅れが生じ、金の励起会合体が形成されていると結論付けた。(Ej)
The Formation of Warm Dense Matter: Experimental Evidence for Electronic Bond Hardening in Gold
p. 1033-1037.

指と発生(Digits and Developmennt)

胚発生中、細胞集団は正確なアイデンティティを達成し、制御された増殖によって大きくなり、そして機能的な組織や器官を作る。多くの関連したシグナル伝達経路が知られているが、脊椎動物において器官や組織の形態形成中にそれらがどのように相互作用しているかはよく分かっていない。Benazetたち(p.1050)は、三っのシグナル伝達経路を相互に結び付けているフィードバックループを発見したが、このループは骨形成タンパク質の拮抗物質であるGremlin1(骨形成の主要な節目に出現する)に特異的に作用する。この自己制御性のシグナル伝達系は発生中の指の数やアイデンティティの安定化に寄与しているのだろう。(KU)
A Self-Regulatory System of Interlinked Signaling Feedback Loops Controls Mouse Limb Patterning
p. 1050-1053.

部位ごとに異なる加齢プロセス(Differential Aging)

高等植物において加齢プロセスは、葉のような部位では部位ごとに異なるスピードで進行する。Kim たち (p. 1053)は、シロイヌナズナの葉の加齢を支配している分子シグナルを分析し、ほんの一部の遺伝子の変異によって葉の老化速度が低下することを見つけた。以前、生理食塩水条件に応答することで知られていた転写制御因子をコードする1つの遺伝子が存在する。この遺伝子の転写物はマイクロRNA: miR164の標的である。加齢に従ってこの遺伝子の量が減少していくと(今回のスクリーニングで見つかった、更に別の遺伝子のよって、この減少が制御されている)、この転写制御因子をコードする遺伝子が細胞死のプロセスを活性化し、結局、葉全体を枯死させる。(Ej,hE)
Trifurcate Feed-Forward Regulation of Age-Dependent Cell Death Involving miR164 in Arabidopsis
p. 1053-1057.

海洋中の薄い層(Marine Millefeuille)

海洋における水流の規模とエネルギーを考えると、多くのプランクトン微生物が凝集して、数時間のうちに、海面下に厚さ1ミリメートルから数メートルの、しかも何キロメートルにも伸びたシートを形成するのは驚くべきことであろう。Durhamたちは、微生物の動きを混乱させ、方向の定まらない動きに駆り立てる水流の不連続さあるいは剪断によって、光合成藻類の上向きの泳ぎが遮られたときに、薄い層がどのように形成されるかを説明している(p. 1067; またGruenbaumによる展望記事参照のこと)。この水流は微生物の動きを止め、流れの界面にそれらを蓄積させるのである。優勢な種に依存して、プランクトンのこの薄い層は、食事や捕食、性行為、そして死の場所となるのである。(KF)
Disruption of Vertical Motility by Shear Triggers Formation of Thin Phytoplankton Layers
p. 1067-1070.
ECOLOGY: Peter Principle Packs a Peck of Phytoplankton
p. 1022-1023.

カスパーゼ動員ドメインを組み立てる(RIGing the CARDs)

RIG-1は多領域の細胞質タンパク質で、ウイルスRNAの二本鎖(ds)領域や5'三リン酸を認識して、免疫応答をトリガーする。RIG-1は、下流のシグナル制御に関与する二つのカスパーゼ活性化と補充ドメイン(CARD:カスパーゼ動員領域))からなる;今日までその機能が不明なATP分解酵素ドメインと、及びウイルスの非存在下で活性化を抑制する制御ドメイン。Myongたち(p.1070,1月1日の電子版)は単一分子蛍光分析を用いて、ATPによりdsRNA上へのRIG-1の転位置が活性化されるが、しかしながらこの活性化は、このRNAが5'三リン酸を持っていない時にはCARDドメインによって抑制される。転位置の活性化により二つのウイルスRNA成分の特有の分子パターンが統合され、次に下流の活性化因子に曝されたCARDドメインと一緒に構造変化がもたらされ、自然免疫応答へとカスケード反応する。(KU)
Cytosolic Viral Sensor RIG-I Is a 5'-Triphosphate–Dependent Translocase on Double-Stranded RNA
p. 1070-1074.

古い脳から新しく(Old Brains for New)

成体の脳では、成熟神経細胞の一過性の回路活性が、成体の神経発生に対して持続的な効果を発揮することがあり、新しいニューロンがある特定の領域に絶えず産生されることになる。Maたちは、成熟神経細胞中のGadd45bと呼ばれる活性-誘導性遺伝子が、神経栄養性因子や増殖性因子などの拡散性因子の発現を増強し、成体の神経発生を促進していることを発見した(p.1074、1月1日号の電子版)。Gadd45bは後成的DNA修飾を介して作用し、持続的な細胞変化を誘発しているらしい。つまり、一過性だが行動的に意味のある神経活動が、新しいニューロ ンの局所的な産生と組み合わさって、脳の長期にわたる可塑性を刺激しているのかもしれない。(KF)
Neuronal Activity–Induced Gadd45b Promotes Epigenetic DNA Demethylation and Adult Neurogenesis
p. 1074-1077.

交配の音楽(Mating Music)

蚊は、マラリアやデング熱など、多様な病気の災いをもたらすありふれたベクター(媒介者)である。Catorたちは、交配のデゥエットに参加するオスとメスが、自分のパートナーの高調波にマッチさせるように羽拍動の周波数を変化させるということを発見した(p. 1077、1月8日号の電子版)。ネッタイシマカの場合には、これはおよそ1300ヘルツで生じるが、これはオスの聴覚範囲と従来思われていたものを超える値である(メスには聴覚がないと広く信じられてきた)。この発見は、ベクターを介して広まる病の制御にとって、 遺伝子導入や生殖不能の虫を使うアプローチを補完する価値ある助けとなるかもしれない。(KF)
Harmonic Convergence in the Love Songs of the Dengue Vector Mosquito
p. 1077-1079.

サファイアウェハーによる微細なブロックコポリマーの形成(Sapphire Wafer Yield Block Copolymers)

ブロックコポリマーはリソグラフィーの鋳型として用いられるが、二つの化学的に異なるポリマー成分が相分離してパターン構造を形成する。欠陥を無くすことが挑戦課題であるが、そのために下地の基板の対称性を壊すのに用いられるプレパターニング法に時間を要したり、或いは化学的に複雑となる。Parkたち(p.1030)は、容易に入手可能なサファイアウェハーを用いているが、その表面全体には多様なブロックコポリマーの自己組織化に導くような鋸歯のような形状を持っている。これによりウエハー全体に規則的なナノサイズのミクロドメインが保持される。1平方インチ当たり10テラビットという驚くべき容量の記録媒体が可能となる。(KU)
Macroscopic 10-Terabit–per–Square-Inch Arrays from Block Copolymers with Lateral Order
p. 1030-1033.

DNAは殺す(DNA Kills)

哺乳類細胞の細胞質中のDNAは、感染症あるいはひどいDNA損傷の存在を感じ取り、それを検出した際には、細胞は感染の伝播を防ぐために自殺的に応答する。Robertsたちは、マクロファージ中の細胞死酵素カスパーゼ1と3の活性化が、二本鎖DNA結合タンパク質のあるファミリーのメンバーによって制御されていることを発見した(p. 1057、1月8日号の電子版)。それらの1つ、p202はカスパーゼ応答を低下させるが、別の1つ、AIM2はinflammasome依存のカスパーゼ活性化を増大させる。こうしたp202とAIM2のバランスが、つまり、細胞におけるDNA依存的なカスパーゼ活性化の制御機構を提供し、生と死を切り替えているのである。(KF)
HIN-200 Proteins Regulate Caspase Activation in Response to Foreign Cytoplasmic DNA
p. 1057-1060.

カロリー摂取とストレスからの解放は?(Caloric Intake and Stress Relief?)

生物におけるカロリー摂取を、ストレス時の細胞タンパク質の保護を助ける仕組みに結び付けるのは、いかなる生化学的機構なのだろうか? ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド-依存的脱アセチル化酵素SIRT1が、遺伝子転写を変化させることによって、低いカロリー摂取による延命効果に貢献しているのである。転写制御因子である熱ショック因子1(HSF1)もまたこのプロセスにおいて役割を果たしていて、タンパク質-保護的なシャペロンタンパク質をコードする遺伝子の転写を増強するよう作用している。Westerheideたちは、SIRT1がHSF1を直接アセチル化することで、標的遺伝子の転写の活性化を増強している可能性があることを示した(p. 1063; またSaundersとVerdinによる展望記事参照のこと)。さらに、培養細胞中でのSIRT1の過剰発現は、熱ストレスに曝された際に細胞が生き延びるのを助けたのである。(KF)
Stress-Inducible Regulation of Heat Shock Factor 1 by the Deacetylase SIRT1
p. 1063-1066.
CELL BIOLOGY: Stress Response and Aging
p. 1021-1022.

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