AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 13 2009, Vol.323


植物の生き残り作戦(Plant Survival Strategies)

植物は動物のように、環境が極端に変化した場合逃げ出す訳にいかないから、その場所で予測される変化に対応できるだけの適応力を持っている必要がある。Wilczek たち(p. 930, 1月15日発行の電子版参照)は、シロイヌナズナにおいて、このような環境にどのように応答しているかについて、ヨーロッパに自生する多数のシロイヌナズナを取得し、開花時期の異なる変異体を育成して、これが遺伝子とどのように結び付いているかについて研究した。アクセス番号(遺伝子登録識別名)Columbiaは、研究室に於いて急速に開花したが、野生ではたった1例しか見つからなかった。さらに、環境に応答した開花時期に影響を及ぼす変異は、感受性を有する生活史の範囲内にとどまり、それ以上の影響はほとんど見られなかった。自然の季節性の気候環境での開花時期の変動のほとんどを説明できるモデルが開発でき、これによって模擬環境条件下で開花時期を正しく予測することができた。(Ej,hE)
Effects of Genetic Perturbation on Seasonal Life History Plasticity
p. 930-934.

社会的ネットワーク(Social Networks)

いくつかの学問分野では、ネットワークに関する研究がますます広がっている。(友人間のネットワークを通しての行動の広がりから技術革新を刺激するようなその種の組織化に至るまで)社会科学における洞察は、かなり強い影響を与えている。Borgattiたち(p. 892)は社会科学におけるネットワーク研究の歴史をレビューし、いくつかの歴史的批判と当面している今日的な挑戦課題を明らかにしている。(hk,KU)
Network Analysis in the Social Sciences
p. 892-895.

鉄同位体の特異性(Iron Isotope Idiosyncrasy)

地球の岩石は火星や他の隕石とは異なった特性を持っていることが、鉄同位体の研究により明らかとなっている。地球の岩石はより重い鉄同位体に富んでいる。しかし、その差異の原因については知られていない。Polyakovらは(p912、Poitrassonの展望記事参照)最近のマントル深部鉱物の振動データをもとに、鉄同位体比が通常の鉄とどのように分化しているかを圧力と温度の関数として調べた。驚くべきことに、超高圧下では、高温にもかかわらず鉄は軽い鉄同位体と親和性があることが示唆された。この結果から、惑星による違いは核が形成される際、地球の核は火星や他の小天体のよりも高圧で形成されたことによって説明できるという。(NK,KU,Ej,og,tk)
Equilibrium Iron Isotope Fractionation at Core-Mantle Boundary Conditions
p. 912-914.
GEOCHEMISTRY: Probes of the Ancient and the Inaccessible
p. 882-883.

月の裏側(The Farside of the Moon)

月は一定の面を地球に向けているため、裏側よりも表側のほうが遥かに情報が豊富である。探査機が地球から隠され、それゆえ、追跡が困難であるため、裏側の正確な重力と地形データを得ることは困難であった。月の裏側の地質は、表側とは異なっている。日本の「かぐや」(SELENE) 月探査機からの結果は、月の進化に対する我々の理解を、とりわけ、裏側の理解を強化するものである(Neumann による展望記事を参照のこと)。SELENE では、裏側の主衛星の正確な追跡データを得るために、もう一つ別のリレー衛星を用いている。この組み合わせを用いて、Namiki(並木) たち (p.900) は、改良した月の重力マップを提供している。このデータは、月の表側と裏側との間では著しい相違があることを示している。Araki(荒木) たち (p.897) による高解像度の月の地形地図と組み合わせてみると、そのデータは、月は固い地殻を、特に、裏側に有していることを示している。Haruyama(春山) たち(p.905, 11月6日の電子版) による火山の噴出物とクレーターの詳細な画像は、火山活動が表側よりも裏側の方で、長期間にわたり継続していたらしいことを明瞭に示している。Ono(小野) たち (p.909) は、どのようにして SELENE からのレーダー信号が表側のある溶岩流を透過し、割れ目をマッピングしている可能性があるかを記している。以上あわせて、これらのデータは、月の火山活動の歴史を明確にするうえで有用なものである。SELENE は、現在軌道を周回中の、あるいは、今年に月へ達するよう予定されているいくつかの探査機の最初のものであり、これらの結果は、月の進化に対する新たな焦点に向けての道を切り開くものである。(Wt,Ej,tk)
PLANETARY SCIENCE: Seeing the Missing Half
p. 885-887.
Farside Gravity Field of the Moon from Four-Way Doppler Measurements of SELENE (Kaguya)
p. 900-905.
Lunar Global Shape and Polar Topography Derived from Kaguya-LALT Laser Altimetry
p. 897-900.
Long-Lived Volcanism on the Lunar Farside Revealed by SELENE Terrain Camera
p. 905-908.
Lunar Radar Sounder Observations of Subsurface Layers Under the Nearside Maria of the Moon
p. 909-912.

スピンの結晶とテクスチャーを解明する(Unveiling Spin Crystals and Textures)

相関電子系内の複雑な相互作用は電子の電荷とスピンのテクスチャーについて、安定な立体配置を与えることが期待されている。しかし、この状態を決定することは実験的にきわめて困難であった(Zaanenによる展望記事参照)。すなわち、光速に近い速度で動いている電子は特殊相対論を考慮する必要があり、電子スピンの方位がその軌跡に依存する。これはスピンー軌道相互作用と呼ばれ、1960年代には完全に解明されたと思われていたが、この相互作用が位相幾何(トポロジー)で解釈される電子の組織化の新しい形態とどう関係しているかについて議論が再燃している。Muehlbauer たち(p. 915)は、skyrmionsと呼ばれているキラルなMnSi磁石のスピンの格子構造について、状態図中の小さな孤立状態について中性子散乱による探索を実施した。さらに、渦状のスピン状態が格子を形成する理論的根拠が示され、他の変わった電子・スピン結晶構造を探索する処方箋も提供している。最近の凝縮系物理の発展によって、量子的物性状態が電子的フェルミ輪郭に依存している物質表面において、位相幾何学的絶縁体の存在が明らかになった。Hsieh たち(p. 919)は、位相幾何学的絶縁体であるビスマス-アンチモン合金に対して、偏光スピンによる角解像光電子放出分光法を適用して運動量空間でのスピンのテクスチャーを解明した。このスピンテクスチャーを解明することで、新規な位相幾何学的量子スピンのHall絶縁体の位相クラスの存在が明らかになり、位相幾何学的量子数を画像化することが可能になった。(Ej)
PHYSICS: Fast Electrons Tie Quantum Knots
p. 888-890.
Skyrmion Lattice in a Chiral Magnet
p. 915-919.
Observation of Unconventional Quantum Spin Textures in Topological Insulators
p. 919-922.

寄生虫の粒子を追求する(Pnning Down Parasitic Particles)

寄生スズメバチは出所不明なウイルス様粒子を持っているが、この粒子がスズメバチ由来なのか或いはウイルス由来の物のどちらかであろうと推定されてきた。Bezierたち(p.926;Stoltz and Whitfieldによる展望記事参照)は、この粒子がスズメバチのゲノム中に組み込まれたヌディウイルス(nudivirus;バキュロウイルスの仲間)ゲノムの一部に由来するpolydnavirusesの系列から生じていることを示している。このウイルスの遺伝子はヌディウイルスの構造タンパク質に類似のタンパク質をコードしており、そしてスズメバチの遺伝子をウイルス様粒子の中に包み込むのに用いられる。これらの粒子はスズメバチの卵と共に鱗翅目の宿主幼虫に注入され、スズメバチの遺伝子が発現し、宿主の防御応答を抑制する。スズメバチの卵は成長し、幼虫に寄生する。KU)
Polydnaviruses of Braconid Wasps Derive from an Ancestral Nudivirus
p. 926-930.
VIROLOGY: Making Nice with Viruses
p. 884-885.

σ-1受容体--もはや孤独ではない(The Sigma-1Reseptor--Orphan No More)

σ-1受容体は長い間かなり謎めいた存在で、元々オピオイド剤(opioid;アヘン様作用剤)に結合する分子として同定され、幾つかの神経病やコカイン中毒において重要な分子であると考えられてきた。しかしながら、長年にわたって既知の内在性リガンドの欠如した「孤独な受容体」であった。Fontanillaたち(p.934)は、ノックアウト動物における受容体結合、光親和性分子の標識付けと置換、電気生理学、行動テストを用いて、自然界に存在する幻覚剤、N,N-dimethyltryptamineがσ-1受容体にたいする内在性のリガンドであることを実証した。(KU)
The Hallucinogen N,N-Dimethyltryptamine (DMT) Is an Endogenous Sigma-1 Receptor Regulator
p. 934-937.

GPR3とアルツハイマー病(GPR and Alzheimer's Desease)

アミロイド-βペプチド(Aβ)の蓄積が、アルツハイマー病の病変形成における中心課題であると考えられている。このペプチド生成の原因である二つのタンパク質以外に、アルツハイマー病の治療における付加的な創薬ターゲットは生まれていない。Thathiahたち(p.946)は、Aβ産生の修飾因子を同定すべく広範囲な高スループットスクリーンに関して記述している。このゲノム機能解析の努力により、Gタンパク質-結合受容体、GPR3がAβ産生の修飾因子として同定された。GPR3がアルツハイマー病のリスク増加と関係した染色体の座位にマップ化された;アルツハイマー病の進行と強く関係する脳領域の海馬と皮質に高度に発現している。この結果は魅力的な薬剤開発のターゲットを与えるものである。(KU)
The Orphan G Protein–Coupled Receptor 3 Modulates Amyloid-Beta Peptide Generation in Neurons
p. 946-951.

社会的な比較と良くない情動(Social Comparison and Negative Emotions)

妬むこと、あるいは他人の不幸を喜ぶことは、根深いほどに社会的な情動であって、おそらくは人間だけのものである。そうした情緒の仕組みとそれを支える脳領域ははっきりしていない。Takahashiたちは脳イメージングを用いて、認知的な矛盾を処理する部位である背側前帯状皮質が、妬みの処理において中心的な役割を果たしていることを発見した(p. 937; またLiebermanとEisenbergerによる展望記事参照のこと)。背側前帯状回の活性化は、妬みを買う人物がより優秀で、より自分に関連した特徴をもっているときにこそ強まった。対照的に、報酬を処理するための中心的ノードである腹側線条体が、他人の不幸を喜ぶことに付随していた。腹側線条体の活性化は、不幸が中立的な人物よりも、妬みの対象になっている人物を襲ったときにこそ激烈だった。背側前帯状回の活性化が、妬みの対象の個人に対してより強く生じれば生じるほど、不幸がその人を襲った時の腹側線条体活性化は強まったのである。(KF)
When Your Gain Is My Pain and Your Pain Is My Gain: Neural Correlates of Envy and Schadenfreude
p. 937-939.
NEUROSCIENCE: Pains and Pleasures of Social Life
p. 890-891.

普通ではない誘惑(Unconventional Attraction)

酵母においては、脂質ファルネシルによって修飾された分泌ペプチドを用いて、結びつく相手の細胞を引き付ける。このフェロモンは、古典的な分泌経路によって分泌されるのではなく、Mdrファミリーの輸送体によって細胞から直接搬出されている。RicardoとLehmannは、ショウジョウバエの胚も脂質修飾とMdr搬出経路を用いて、生殖細胞を体細胞の生殖腺へと引き付けている(おそらく、ゲラニル化(geranylated)ペプチド誘引剤の遊離を介して)ことを実証した(p. 943; またHlaとImによる展望記事参照のこと)。この普通ではない搬出経路は高度に保存されていて、類似の脂質修飾された化学誘引物質が酵母から人間まで幅広く作用していることを示唆している。(KF,KU)
An ABC Transporter Controls Export of a Drosophila Germ Cell Attractant
p. 943-946.
CELL BIOLOGY: The ABCs of Lipophile Transport
p. 883-884.

身振り獲得と言語獲得(Gesture and Language Acquisition)

子どもの語彙は、その子どもが学校でどれくらい成功するかに影響を与える。社会経済的に低い集団に属する子どもたちは、社会経済的に高い集団の子どもたちに比べて、語彙が少ない傾向があるが、それは、両親がその子にどのように話しているかに関わる効果である。このたび、RoweとGoldin-Meadowは、両親の子どもに対する身振り・しぐさもまた、子どもの語彙に影響しているということを示している(p.951)。身振りは発話の発達に先立つものだが、発話できるようになった後も、コミュニケーションのプロセスを豊かにするのに役立っている。幼い子どもと両親のコミュニケーションにおいて、身振りがどう使われているか、社会経済的レベルと14ヶ月目での子どもの語彙を分析して比較することで、語彙の差異に先立つ身振り使用の差異が見出されたのである。(KF,Ej)
Differences in Early Gesture Explain SES Disparities in Child Vocabulary Size at School Entry
p. 951-953.

渦からの散乱(Scattering from Vortices)

フーリエ変換走査トンネル顕微鏡と高温超伝導体に関する準粒子の干渉測定から、物質内部の局所的な電子の相互作用と励起状態が調べられた。零磁場において、散乱プロセスに寄与する多くの因子があるが、その相対的な寄与は未知である。Hanaguriたち(p.923,1月22日の電子版)は磁場を用いて、物質中に渦を誘発させた。この渦は量子化された磁場の単位とそれと関係する位相を持つ量子的存在であり、著者たちは渦が散乱プロセスを比較する基準を与えるんものであると主張している。分光法に関する幾つかの複雑な解析を用いて、散乱プロセスに関する運動量-依存性のコヒーレンス因子が抽出された。このようなデータは銅塩超伝導体の対形成に関する洞察を与えるものであろう。(KU)
Coherence Factors in a High-Tc Cuprate Probed by Quasi-Particle Scattering Off Vortices
p. 923-926.

一瞬の間に(In the Flick of an Eye)

固視微動(マイクロサッカード、Microsaccade)とは、凝視している間に生じる不随意性の非常に小さな(通常、12分角以下)眼球運動である。この神経的メカニズムは十分理解されている訳ではない。Hafed たち(p. 940)は、この眼球の動きを制御する吻側上丘(rostral superior colliculus)と呼ばれる脳領域の役割を調べた。この電気生理学的記録から、吻側上丘細胞がマイクロサッカードに同調(チューニング)していることが分かった。このチューニングは、マイクロサッカードにおいて、丘の他の観察事項と極めて類似していた。麻薬やムシモール(テングタケなどに含まれる副交感神経興奮化学物質)服用後にはマイクロサッカード生成が顕著に不活性化する。このように、マイクロサッカードは上丘部の随意サッカードと同じ神経メカニズムを共用している。(Ej,hE)
A Neural Mechanism for Microsaccade Generation in the Primate Superior Colliculus
p. 940-943.

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