AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 6 2009, Vol.323


甲虫の変態を起こすメカニズム(Beetle Drive)

ある動物種のオスは繁殖において代替え戦略を採用することがある。たとえば、種によっては2つのタイプのオスがおり、一方は体が大きく角があり、これでメスを守るが、別に体が小さく、角のないタイプがあり、これは相手をごまかして交尾する。このような助長型の代替性の表現型は単一の発生上の閾値によって制御されていると考えられている。しかし、Rowland and Emlem (p. 773)は、フンコロガシにおいていくつかの閾値機構を採用して、その各々は同一の形質の発現を制御しながら、利用される繁殖戦術に質的に異なる影響を与える可能性があることを示した。さらに、驚くほど多くの甲虫において、2つの閾値が単一の表現型(この場合は角)に影響を与えることから、極めて多様な甲虫種の中で条件依存性の三様変態が起きているらしい。(Ej,hE)
Two Thresholds, Three Male Forms Result in Facultative Male Trimorphism in Beetles
p. 773-776.

保護膜の生産?(Protective Film Production?)

核形成イベントによって制御される結晶化において、不純物と境界は系の自由エネルギーに影響し、特異的な形態あるいは結晶形へと結晶化を進展させる。ポリマーの結晶化はラメラの中に鎖を繰り返し折り畳むことで起こり、そこでは境界が鎖の動きを制限する。Wangたち(p. 757; Lemstraによる展望参照)は、複数の折り畳みプロセス”によって一連のポリマー膜を作ったが、そこでは2つの異なったポリマー(そのうちの一方だけが結晶化する)を交互に重ねた極めて薄い層が生成される。層の厚みが薄くなるにしたがって、結晶の配向が進展した。初期においては、折り畳み表面が界面層に平行になっている。しかしながら、極狭い層に対してはラメラが界面に平行に整列していた。これらの層における結晶は単結晶のように見え、そしてガス拡散に対してはより高い障壁とな ることを示した。このアプローチは、普通のポリマー材料から優れた保護膜を生成することができる可能性を持っているはずである。(hk,KU)
Confined Crystallization of Polyethylene Oxide in Nanolayer Assemblies
p. 757-760.
MATERIALS SCIENCE: Confined Polymers Crystallize
p. 725-726.

大量絶滅の痕跡(Legacy of Mass Extinctions)

大量絶滅によって生物相の分類学的構成がグローバルレベルで再構成される。しかし、絶滅がもたらしたその後の生物相への影響は、進化上の多様性の観点からあまり解明されていないのが現状である。Krugらは(p.767; Crameの展望記事参照)、白亜紀末期の大量絶滅(KT)がどのように時間的空間的に多様化の過程を変えたかについて研究を行った。海洋二枚貝は優れた化石記録を残すとともに、現在の生物地理学に関して貴重なデーターをもたらすことで知られている。今日の海洋に生息している二枚貝の仲間において、種発生の頻度の長期的変化が発見され、KT以後の多様化の明瞭かつ永続的な増加があったことが分かった。現在とKT大量絶滅との間の六千五百万年の間に起きた様々な気候、地殻、生物学上の出来事にもかかわらず、二枚貝においては事実上すべての生物学的地域でKT大量絶滅の影響が残っていることが明らかとなった。(NK,nk)
Signature of the End-Cretaceous Mass Extinction in the Modern Biota
p. 767-771.
EVOLUTION: Time's Stamp on Modern Biogeography
p. 720-721.

大きすぎるなんてことはない(No Size Too Large)

輻射圧は、太陽の20倍よりも大質量の星の形成を停止させると考えられているが、なに故かこのような星が存在することが知られている。これらの恒星によって放射される光で生み出される輻射圧は、恒星の重力よりも強く、恒星を生み出した分子雲からガスが降着するのを妨げている。Krumholz たち (p.754, 1月15日の電子版; Whitney による展望記事を参照のこと) は、大質量星の形成に関わる3次元の輻射−流体シミュレーション結果を与えている。これによると、重力と輻射のあいだの相互作用でもたらされる不安定性によって、降着過程が無制限に可能であることを示している。これらの不安定性は、また、分裂を発生させ、大質量星の間では、多数の星からなる連星系の割合が高いことに繋がっている。(Wt,nk)
The Formation of Massive Star Systems by Accretion
p. 754-757.
ASTRONOMY: Forming Massive Stars
p. 719-720.

ドープされたカーボンナノチューブにおける酸素の還元(Oxygen Reduction at Doped Carbon Nanotubes)

燃料電池は白金で酸素を還元するが、白金のコストと希少性のために、類似の特徴を有する別の触媒が求められている。その代替え物質の候補の一つが炭素を利用した触媒であり、Gong たち(p. 760)は、窒素原子でドープし、垂直に整列して成長したカーボンナノチューブが、高アルカリ溶液で酸素還元反応を触媒し、その活性は白金に近いことを報告している。この高い活性は、窒素センターの電子吸引性に起因し、周囲の炭素原子に正味の正電荷を与えることになる。(Ej,hE,nk)
Nitrogen-Doped Carbon Nanotube Arrays with High Electrocatalytic Activity for Oxygen Reduction
p. 760-764.

鉱石はすごい(Awesome Ores)

鉱石の鉱床は金属や他の鉱物が異常な高濃度に堆積したものを表しているが、この堆積物はしばしば溶液からの沈殿物である。鉱床の起源を理解するための主要な疑問の一つに、沈殿前の液体中の濃度がある。つい最近まで、ほとんどの鉱床鉱物内の小さな液体のインクルージョン(混在物)中の金属濃度を直接測定することは不可能であった。Wilkinson たち(p. 764;および、Bodnarによる展望記事参照) は、2つの鉛ー亜鉛の沈殿物中の濃度を直接測定した。ここの金属濃度は溶解度に関する議論や、付随鉱物から予測された値より数桁高かった。(Ej,hE,tk,nk)
Anomalously Metal-Rich Fluids Form Hydrothermal Ore Deposits
p. 764-767.
GEOLOGY: Heavy Metals or Punk Rocks?
p. 724-725.

グレートアペンディジ節足動物(Great-Appendage Arhropods)

節足動物の系統樹の根幹に近くに存在する「グレートアペンディジ」(great-appendage:巨大な付属器をもった)節足動物は、顔の正面に大きな鉤爪の肢によって特徴付けられ、そしてカンブリア中期のBurgess Shale-typeの堆積層においてのみ見出されていた。Kuehlたち(p.771)は、ドイツのブンデンバッハ近傍の有名なデボン後期の化石堆積層であるHunsrueck Slateで発掘された、カンブリア期の1億年程後の遥かに新しいグレートアペンディジ節足動物の発見に関して報告している。この節足動物はキメラ動物の一種で、放射状の口という原始的な特徴を保持しており、それがなければより進歩した節足動物の形態である。このように、グレートアペンディジ節足動物は、従来考えられた以上に遥かに長期にわたって生存したことになり、化石記録の欠如は保存に適した部位が無かったことによるものであろう。(KU)
A Great-Appendage Arthropod with a Radial Mouth from the Lower Devonian Hunsrück Slate, Germany
p. 771-773.

中心体を数える(Counting Centrosomes)

真核細胞の細胞分裂における染色体の正確な分配には、微小管紡錘が必要であり、動物においてこの紡錘の形成は中心体によって促進される。ゲノムの安定性を維持するために、中心体はゲノムDNAと共に細胞分裂周期ごとに一度複製される必要がある。Hemerlyたち(p.789)は、DNA複製に必須の複製開始点認識複合体(Origin Recognition Complex:ORC)成分の一つ、Orc1もまた、中心体のコピー数を制御するために中心体に作用していることを示している。Orc1は中心体のサイクリンE-依存性の再複製を抑制し、そして中心体へのその局在化がOrc1-結合パートナーサイクリンAによって行われている。(KU)
Orc1 Controls Centriole and Centrosome Copy Number in Human Cells
p. 789-793.

社会的ステータスの向上(Social Climbing)

多くの蟻のコロニーには、特殊な社会的な寄生虫が潜入しており、これらの寄生虫は攻撃を受けることなく潜入し、蟻の巣の中で濃縮された豊かな食料を食べる。Barberoたち(p.782)は、大きな青色蝶(Maculinea)の幼虫や繭が宿主の女王蟻の発する特有の音を模倣し、働き蟻から女王蟻と同様の厚遇を得ていることを示している。蟻の社会において、女王蟻は働き蟻とは異なる音を発信しており、働き蟻は女王の発信音を聞くと、より献身的な行動をする。かくして、寄生虫はより良い看護とより高い社会的なステータスを満喫する。(KU)
Queen Ants Make Distinctive Sounds That Are Mimicked by a Butterfly Social Parasite
p. 782-785.

小さな殺害者(Little Killers)

血小板はコラーゲンに曝されて活性化されると傷ついた血管をふさぎ、そして又、マラリア寄生虫に粘着して、マラリア寄生虫を細い末梢血管内への隔離を促進し、大脳病理学に寄与している。これらの一般的な粘着性の性質は、また血小板が病原体攻撃の初期段階に対する前線防御ラインへの価値ある支援部隊であることを意味している。McMorranたち(p.797)は、感染の後の段階での病理学的役割にもかかわらず、血小板がマラリアの初期段階に対する生得の宿主応答に重要であることを示している。アスピリンを含めた血小板凝集抑制剤により、in vitroでの熱帯熱マラリア原虫における血小板の致死的な効果が除去される。血小板の欠損を持つマウスは類似のマラリア原虫の感染により急激に衰えていく。二つのケースで、血小板は感染した赤血球にくっついて、寄生虫を殺す。(KU)
Platelets Kill Intraerythrocytic Malarial Parasites and Mediate Survival to Infection
p. 797-800.

作業記憶とドーパミン(Working Memory and Dopamine)

作業記憶とは、短時間情報を記憶する能力であるが、これは広範囲の認知機能に重要である。作業記憶において、ドーパミン作動性神経伝達は作業記憶における中心的役割を果たす。McNab たち(p. 800) は、認知訓練をすることで皮質性ドーパミンD1受容体の濃度と、皮質下ドーパミンD2受容体の濃度が変わるかどうかを調べた。志願者の集中訓練によって作業記憶の容量増加をもたらしたが、これはD1内の変化と関連していたが、D2受容体結合電位との関係は分からない。このように訓練による変化が存在することは、ヒトの皮質性ドーパミンD1系の予想外に高レベルな可塑性が示され、行動と根底にある脳の生化学の相互依存性が強調されることになる。(Ej,hE)
Changes in Cortical Dopamine D1 Receptor Binding Associated with Cognitive Training
p. 800-802.

線形動物における軸索の再生(Axonal Regeneration in Nematodes)

神経系の発生の際に、非常に多数の軸索が結合を求めて伸びていく。成人においては、しかしながら、そうした成長はずっと珍しい。成人の神経が損傷すると、ニューロンはときには新しい軸索を成長させることはあるが、しかしヒトの場合、この不完全なプロセスが末梢神経系の神経において生じがちである。Hammarlundたちはこのたび、線形動物Caenorhabditis elegans(線虫)における軸索再生を支え、そのプロセスを正常な発生とは異なったプロセスとしている分子機構について、いささか光を投げかけている(p.802、1月22日の電子版)。極めて脆い軸索を作り出してしまう遺伝的欠陥のある線虫、あるいはレーザーを用いて軸索を切断された線虫では、残された断端からの軸索の再生に鍵となるキナーゼ経路に依存していた。このキナーゼは、再生への道の早い段階で機能してはいるが、軸索のそもそも最初の発生の際には関与していないらしい。(KF)
Axon Regeneration Requires a Conserved MAP Kinase Pathway
p. 802-806.

サンザシ、リンゴ、ハエ、スズメバチ(Hawthorn, Apple, Fly, and Wasp)

およそ150年前の合衆国北東部で、Rhagoletis pomonellバエが宿主をサンザシからリンゴに切り替えた。しかしながら、この交替の、Rhagoletisバエと関わりがあった他の種への影響は知られていない。Forbesたちは、Rhagoletisバエの宿主交替がまた、そのハエを餌とする擬寄生虫スズメバチの宿主交替をもたらしていることを示している、これは最初の宿主交替と関わりのあるさらなる種分化イベントがありうることを示唆するものである(p. 776)。こうしたデータは、ハエの好みの交替がスズメバチによって対応されていたということを示し、それがプロセスの中で再現的に取り出されたことを示すものである。(KF)
Sequential Sympatric Speciation Across Trophic Levels
p. 776-779.

核の膜孔と種分化(Nuclear Pores and Speciation)

種分化が分子レベルでいかに作用しているかは、種分化の遺伝子が数えるほどしか同定されていないこともあって、一般には知られていない。TangとPresgravesは、全真核生物における核移行にとって必須な巨大分子構造である核膜孔複合体(NPC)のNup160が、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)とショウジョウバエ(Drosophila simulans)のハイブリッドにおける致死的相互作用に関与していることを明らかにした(p. 779)。興味深いことに、Nup160は、それら種の間のハイブリッドの死亡を引き起こすもう1つの核膜孔タンパク質、Nup96と直接相互作用している。さらに、これら遺伝子の急速な進化率は、ポジティブな自然選択が、Nup96やNup160の他に6つのタンパク質を含むNPCの部分複合体Nup107の複数のタンパク質成分の急激な進化を促進していることを示唆するものである。つまり、この巨大分子複合体に含まれる相互作用タンパク質間の順応性の共進化により、複数の不適合性のある遺伝子の相互作用が生じ、種ハイブリッドの死をもたらす。(KF,KU)
Evolution of the Drosophila Nuclear Pore Complex Results in Multiple Hybrid Incompatibilities
p. 779-782.

生物多様性保存の過去と未来(Past and Future Biodiversity Conservation)

ブラジルの大西洋森林は、世界における生物多様性の鍵となるホットスポットであり、またもっとも厳しく痛めつけられた場所の1つでもあり、人間活動の結果、元々の領域のおよそ10%にまで狭められてしまっている。Carnavalたちは、古気候情報を用いた生物多様性予測方法を使って、空間的に明示的な進化過程をモデル化したが、それはブラジルの大西洋森林固有の樹木-カエル種(tree-frogspecies)の分子的遺伝データによって検証された(p. 785)。更新世後にやっと動植物が移り住んできた所も、氷河の消長の時代を通じて気候的に安定していた所、すなわち生物の避難所、がどこであるかも同定された。つまり、歴史的なレフュジァは、新熱帯区のこの地域の最近の多様性の形成において実に重要であり、保存管理に有益な情報を与えてくれているのである。(KF,nk)
Stability Predicts Genetic Diversity in the Brazilian Atlantic Forest Hotspot
p. 785-789.

ミトコンドリアのStat3活性(Mitochondrial Stat3 Activity)

Statタンパク質(signal transducers and activators of transcription:シグナル・トランスデューサー及び転写の活性化因子)は、サイトカインに応答して活性化される転写制御因子である。まるでStat3にはまだまだ何かやる余裕があるとでもいうように、Wegrzynたちはこのたび、Stat3がミトコンドリアにおいて別の機能をもっているらしいことを発見した(p.793、1月8日の電子版; またMyersによる展望記事参照のこと)。Stat3は電子伝達系の複合体Iの成分と相互作用し、かつStatタンパク質を介してシグナルを送るインターフェロンは、ミトコンドリア機能を抑制するので、著者たちはミトコンドリアにおけるStat3の役割を探求した。Stat3は、実際に培養細胞あるいは組織から単離された細胞のミトコンドリア中に検出された。また、Stat3を欠く細胞は電子伝達系の機能が抑制された。ミトコンドリア機能は、ミトコンドリアを標的にしたStat3の発現によって回復され、Stat3の伝統的転写調節機能は必要ないようであった。転写活性化を損なった変異体は、それでもミトコンドリア機能を救えたのである。(KF,KU)
Function of Mitochondrial Stat3 in Cellular Respiration
p. 793-797.
CELL BIOLOGY: Moonlighting in Mitochondria
p. 723-724.

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