AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 9 2009, Vol.323


ねじの回転(Turn of the Screw)

キラル超構造を作るためには、通常キラル材料を基本構成材料として用いる、あるいは一定方向に攪拌するといったドライビングフォースを用いて、そのらせん構造へ特定の掌性を誘起する方法が一般的である。Pokrovらは(p.237)、やわらかい高分子ピラー(柱状構造)の凝集を利用した新しい手法を提案している。ピラーは有機溶媒の液滴で覆われており、溶媒が蒸発する際に表面張力によりピラー同士が凝集する。この過程は大面積にわたってらせん構造に偏りが発生するように制御することが可能であり、そして乾燥プロセスを利用してピラー構造体のウェブ(クモの巣状)内に粒子を捕捉することもできる。(NK,KU,nk)
Self-Organization of a Mesoscale Bristle into Ordered, Hierarchical Helical Assemblies
p. 237-240.

非線形量子流体(Nonlinear Quantum Fluids)

多体電子効果の量子レベルでの記述は、一般的には、粒子間の相互作用の1次式による近似のみが含まれた単純なものであった。しかしながら、最近の計測では、この線形化は単純化しすぎており、低温で起こる可能性のある複雑な粒子間の効果を記述できないことが明らかになってきている。Imambekov と Glazman (p. 228, 11月27日の電子版;Cheianov の展望記事を参照のこと) は、一次元量子系の相関効果における、非線形理論表現を導出している。非線形的記述は量子凝縮物質系における多体現象の一般的な記述となるであろう。(Wt,nk)
Universal Theory of Nonlinear Luttinger Liquids
p. 228-231.
PHYSICS: When Infinity Does Not Count
p. 213-214.

ポリマー鎖の動きを追う(Follow the Moving Polymer Chains)

物質が変形すると、その内部は分子や原子のレベルに至るまですべてが変化する。ゴム様ポリマーが引き千切られ始めるとき、Eyringによって予測された古典的モデルでは分子鎖はより動き易くなるというものだった。Lee たち(p. 231,および、Weitzによる展望記事、11月27日の電子版も参照のこと)は、ゴム様ポリマー(ポリメタクリル酸メチル)中の鎖の移動度を光学的光退色法で測定した。彼らによると、応力が小さいときにはEyringモデルが有効であるが、この物質が流動を始めると、移動度は1000倍にも急上昇し、緩和時間の分布幅は著しく狭くなることから、局所的環境は均一化しているようだ。もっと大きな応力を加えると移動度は減少し歪みは硬化する。この結果から、塑性流動に関するより一般的な理論的扱いが可能となろう。(Ej,hE)
Direct Measurement of Molecular Mobility in Actively Deformed Polymer Glasses
p. 231-234.
MATERIALS SCIENCE: Unjamming a Polymer Glass
p. 214-215.

我々は何を収穫するであろう(What We Will Reap)

地球温暖化は生育季節(growing seasons)を長期化させているが、しかし生育季節において気温がさらに高まることや、それに伴って予想される猛烈な熱波の発生が農業に深刻なダメージを全世界的に与えるかもしれない。Battisti とNaylor (p.240; Holdenによるニュース記事参照)は、23の気象モデルの出力結果を使って21世紀末まで気温がどのくらい変化するのかを予測し、そして熱波が農作物の生産にどの程度影響を与えていたのかを示す過去の事例を使い警告を示している。それらの結果、適切に適応できない場合には、農作物に対する熱ストレスは農業や食品安全保障に対して地球規模で深刻な悪い影響を引き起こすことを示唆している。(TO)
Historical Warnings of Future Food Insecurity with Unprecedented Seasonal Heat
p. 240-244.
CLIMATE CHANGE: Higher Temperatures Seen Reducing Global Harvests
p. 193.

ダーウィンの思考の進化( Evolution of Darwin's Thinking)

Bowler(0.223)は、生命の進化は不規則に枝分れする木で表現されるというダーウィンの認識に焦点を当てて、自然淘汰による進化論の理論化におけるダーウィンの独創性の重要な出所を調査した。著者は、このアイデアとその時代に手に入れることができた他のモデルとを比較し、そして生物学におけるダーウィンの業績の中の彼のアイデアの出所を明らかにしている。ダーウィンの思考の中にある人為淘汰の役割と、”生存闘争”(struggle for existence)というメタファーを彼が必要としたことについても分析している。(TO,nk)
Darwin's Originality
p. 223-226.

クロマチンと幹細胞化(Chromatin and Stemness)

多様な組織の中の幹細胞は、自己複製を促進するクロマチン(染色質)の立体形状を必要としているが、多様なタイプの幹細胞を制御しているクロマチンタンパク質はほとんど知られてない。ヒストンの一つのH2Bのユビキチン化は、他のヒストンのメチル化などの修飾結果を保持している。このような相互作用のカスケードによって、ヒストンに結合している遺伝子の一般的な活性を制御している。Buszczak たち(p. 248, 11月27日の電子出版記事、およびSmith and Shilatifardによる展望記事参照)は、ショウジョウバエにおいてユビキチンプロテアーゼのscrawnyが遺伝子サイレンシングに寄与していることを明らかにした。このscrawnyの機能は、生殖系列、上皮や腸の中の幹細胞にとって特に重要と思われる。幹細胞の多様なタイプにおいて、幹細胞でいるか、分化するかのバランスは、共通のクロマチンの修飾経路によって采配されているのかも知れない。(Ej,hE)
Drosophila Stem Cells Share a Common Requirement for the Histone H2B Ubiquitin Protease Scrawny
p. 248-251.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: Histone Cross-Talk in Stem Cells
p. 221-222.

網膜の保護(Retinal Protection)

光受容細胞を失うと目が見えなくなるため、この細胞のアポトーシス或いは細胞死を制御しているメカニズムは重要である。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)4は核と細胞質の間をシャトル運動し、骨や筋肉の発生を制御する核内コリプレッサーとして作用している。Chen and Cepko(p.256)は、HDAC4がマウスの網膜に作用して、網膜神経の生存を支えていることを報告している。HDAC4の欠如により細胞死が増加する。一方、HDAC4の過剰発現は網膜細胞の生存を支えている。HDACはDNAに結合したヒストンを修飾することで--これにより転写が変わる--幾つかの影響をもたらす。しかしながら、この網膜のケースにおいて、HDAC4は主に細胞質で見出され、そして核からの排除を促進するHDAC4の変異は網膜細胞の保護効果を妨げたりしない。細胞質のHDAC4は転写制御因子である低酸素ー誘発性因子1(hypoxia-inducible factor:HIF1)との相互作用によって機能している:HIF1の脱アセチル化は核におけるHDAC4の安定化と蓄積を促進している。(KU)
HDAC4 Regulates Neuronal Survival in Normal and Diseased Retinas
p. 256-259.

トウモロコシのふさじょう花序の争い(Tassel Tussle)

トウモロコシの穂(オシベのみを持っている)の性発現は、メシベの器官発生の停止に由来するが、このプロセスの遺伝的制御は不明である。Acostaたち(p.262)は、Tasselseed1(ts1)遺伝子の機能をマッピングし同定することでオシベの特異性を調べた。驚くことに、この遺伝子は標準的な転写制御因子ではなく、むしろ色素体を局在化させ、ジャスモン酸(植物の成長阻害物質)経路に関与しているらしい。ts1の変異体はジャスモン酸のレベルを下げ、その花はオシベの穂ではなくメシベとオシベの両方を含んでいた。外来性のジャスモン酸の注入により、このような変異表現型を救うことができる。このように、ジャスモン酸(或いはその代謝産物)は、トウモロコシにおいてオシベの花の中でのメシベの発生を抑制するのに必要である。(KU)
tasselseed1 Is a Lipoxygenase Affecting Jasmonic Acid Signaling in Sex Determination of Maize
p. 262-265.

ホールインツー(Hole in Two)

グラム陰性菌はW型分泌系(TWSS)を用いて、毒素やエフェクター分子を宿主細胞に注入したり、或いは抗生物質耐性遺伝子を持つプラスミドを細菌間で伝達する。Fronzesたち(p.266)は、TWSSのコアの複合体に関する低温電子顕微鏡構造を報告している。二重壁構造が細菌の内と外の膜に広がっており、そして細胞質側で開いており、細胞の外側で狭くくびれている。このような詳細な構造により、分泌がどのように制御されているかに関しての洞察が得られる。(KU)
Structure of a Type IV Secretion System Core Complex
p. 266-268.

逆説的な生産者(Paradoxical Producers)

全体の利益となる協調行動への参加者より、利益だけを受け取る不参加者の方が得になる時に、何故ある種の協調的行動が持続するのかは不明である。合成細菌系(生産系と非生産系の二つの大腸菌系統)の研究から、Chuangたち(p.272)は、集団中の構造的不均一により生産者が局所的に不利益をこうむる可能性があるが、全集団を通して見れば生産者は選択優位性を持つということを主張している。この研究は、自然母集団のパラメーターがどのようにもつれ合っているのか、そして何ゆえに統計的な結果が曖昧となったり、誤解を導くのかを示している。(KU,nk)
Simpson's Paradox in a Synthetic Microbial System
p. 272-275.

黒人と白人の反応(Black and White Reaction?)

研究者たちは、人間が、感情面で挑戦的な状況において自分がどう感じるか、それを予測するのがとてつもなく苦手であるということを実証してきた。我々の生得的な素質にとって当たり前であって、かつ幸福なことでもあるのだが、どれだけひどく感じるだろうかという見積もりは、実際に体験する感情に比べれば、ずっとひどいものになる。Kawakamiたちは、偏見のある態度や行動(白人と黒人の関係に関する文脈で評価されたもの)が、偏見のある行為に向けて公的に表明される反応が圧倒的にそれに対して批判的であるにも関わらず、なぜ持続するのかという疑問に対してこの洞察を適用した(p. 276; またSmithとMackieによる展望記事参照のこと)。一連の研究を通じて、彼らは、黒人に向けて白人によってなされた人種差別主義者としての発言を目撃した人たちは、実際に感じるよりもずっとひどく感じるだろう、また実際にする以上に白人を避けるようになるだろうと一貫して予測することになる、ということを明らかにしている。(KF)
Mispredicting Affective and Behavioral Responses to Racism
p. 276-278.
BEHAVIOR: Surprising Emotions
p. 215-216.

窒素問題の解決(Fixing Nitrogen)

硝酸塩は海の藻類にとって必須な多量養素であり、利用可能な硝酸塩の量は、海における光合成の生産性へのその影響を介して、大気中の二酸化炭素の濃度の氷河期-間氷河期での変化を説明できるかもしれない。海洋における硝酸塩の最大の源は細菌による窒素固定によってもたらされる。Renたちは、カリブ海の海底質から得られたプランクトンforaminiferaの窒素同位体組成の測定結果を報告しているが、それは、大西洋において最終氷期にはそれ以降よりも窒素固定が少なかったことを示すものである(p. 244、12月18日の電子版)。それらデータは、長期間にわたって疑問視され、僅かしかドキュメントに残っていなかった事、即ち地球上の海洋全体にわたって脱窒と窒素固定の間のフィードバックの存在を支持するものである。(KF,KU,nk)
Foraminiferal Isotope Evidence of Reduced Nitrogen Fixation in the Ice Age Atlantic Ocean
p. 244-248.

金属性カーボンナノチューブの混合比を少なくする(Minimizing Metallic Carbon Nanotubes)

単壁カーボンナノチューブ(SWNT)は、金属性チューブと半導体性チューブの混合物として生成されるが、応用の観点から両者を分離する努力が続けられている。たとえば、薄膜トランジスター用のゲート物質としては半導体の性質をもったSWNTが望ましいが、この中に金属性SWNTが混在していると、このデバイスの電流制御に問題となる。Kanungo たち(p. 234)は、合成したままのSWNTの側壁にフッ化オレフィンの環化付加を行うことによって、半導体性SWNTの導電性をそれほど損なうこともなく、金属性SWNTの導電性を減少させることができることを示した。2つの形体の分離は不必要であり、このプロセスによって基板上に高濃度のインクをスピンコートによって再現性良く実現できる。彼らは、薄膜トランジスターの移動度、100平方センチメートル/ボルト・秒と共にそのオン・オフ比が105に達することを観察した。(Ej,hE,KU)
【訳註】先週の1月2日号にDeshpandeたち(p. 106)が、金属性カーボンナノチューブは見掛け上であり、実際はすべて半導体性であるとの報告があります。
Suppression of Metallic Conductivity of Single-Walled Carbon Nanotubes by Cycloaddition Reactions
p. 234-237.

CD30-ARNT 相互作用(CD30-ARNT Interaction)

CD30はある種のリンパ球系細胞ガンに付随する腫瘍壊死因子受容体ファミリーの一つである。CD30と相互作用するタンパク質をスクリーニングする中で WrightとDuckett (p. 251)は、ARNTと呼ばれるアリール炭化水素受容体の核輸送体(あるいは、低酸素誘導因子1α;hypoxia-inducible factor 1αとも呼ばれる)を同定した。これは毒ダイオキシンへの応答、あるいは、低酸素への細胞応答を仲介する役目をもった転写制御因子として良く知られている。ヒトの細胞系列の中でARNTは内部移行したCD30に付随している。CD30は転写制御因子NF-κBを通じて部分的に遺伝子発現を制御しており、ARNT増強化NF-κB依存性転写が除去されると標的プロモータとNF-κBサブユニットの仲介を変化させる。このように、ARNTに作用しているシグナルが、共有するARNTのシグナル伝達成分を調節することで、間接的にCD30によるシグナル伝達を変化させているのかも知れない。(Ej,hE)
B–Dependent Transcription
p. 251-255.

コードの拡張(Expanding the Code)

遺伝暗号というものに関する教義の中心は、三つ組みのコドンと特定のアミノ酸の間に1対1の対応が存在するというものである。ゲノム中のコドンは、別のアミノ酸を指定するものとして再コードされることもありうるのだが、同時に両方を指定することはない、と考えられてきた。Turanovたちは、1つのコドンに2つのアミノ酸を挿入することは、同じタンパク質の別の場所であれば実際に明白に生じうることを示している(p. 259)。繊毛性のEuplotes crassusでは、システイン(Cys)がコドンUGU、UGC、UGAによってコードされている。UGAはまた、Sec挿入配列(SECIS)要素の存在下で、セレノシステイン(Sec)をコードすることもある。E.crassusタンパク質であるチオレドキシン還元酵素1には、フレーム内に7個のUGAコドンがあり、またその3′非翻訳領域中にSECIS要素も含まれているのだが、7個のうち最初の6個のUGAコドンはCysを表し、最後のUGAコドンがSecを表している。つまり、UGAコドンは明白に2つの違ったアミノ酸をコードしており、これは遺伝暗号はコドンのサブセットを再コードすることで拡張可能だということを示唆するものである。(KF)
Genetic Code Supports Targeted Insertion of Two Amino Acids by One Codon
p. 259-261.

中毒をもたらすAMPylation(Intoxicating AMPylation)

腸炎ビブリオ菌は3つの並行的な仕組みを用いて、数時間のうちに感染した宿主細胞を殺す。その3つとは、自己貪食と細胞roundingと細胞溶解である。Yarbroughたちはこのたび、この病原体が細胞roundingを誘発するために用いている分子機構を記述している(p. 269.11月27日の電子版)。 このエフェクター、VosPはGTP分解酵素(GTPase)のRhoファミリーによるシグナル伝達を、GTPase中のスレオニン残基をAMP(アデノシン一リン酸)で修飾することによって破壊している。この修飾、AMPylationは、GTP分解酵素が、アクチン組立を仲介するのに必要な下流のエフェクターと相互作用するのを妨げているる。(KF)
AMPylation of Rho GTPases by Vibrio VopS Disrupts Effector Binding and Downstream Signaling
p. 269-272.

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