AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 19 2008, Vol.322


境界を超えるな!(Don't Cross the Border!)

動物の環境認識において、少なくとも3つの細胞タイプが動物の位置情報符号化に寄与していることが知られている:空間内の特定位置において活動する細胞、頭部が特定の方位を向いたときのみ発火する細胞、発火領域が自分の環境を超えたとき正常なパターンが描ける格子細胞、の計3個であるが、コンピュータモデルによると、動物には少なくとももう一つの細胞が存在する。これは、動物がある方位を取ったとき、幾何学的に特徴的な境界からの距離を符号化する「境界細胞」である。Solstad たち(p. 1865)は、内側嗅内皮質(medial entorhinal cortex)の空間表現回路を表す細胞型が存在する実験的証拠を提供し、これを境界細胞と称し、ぴったりと境界にフィットする。この境界細胞は近傍の特定形状の境界に沿って並んだ場所で発火し、これは境界の長さや、他の境界との連続性などとは無関係である。まとめると、境界細胞は環境の周囲長を定義することになり、したがって、この内部の参照フレームを提供することになるため、環境の位置検知細胞の型の活動を制御しているのであろう。(Ej,hE,nk)
Representation of Geometric Borders in the Entorhinal Cortex
p. 1865-1868.

細胞の再プログラミング(Cellular Reprogramming)

卵の受精の後、その娘細胞は胚性, 胎性,および 成体の各段階へと進行し、生物体の無数の分化された細胞型を特徴づける多様な経路をとる。これらの経路は一般的に一方向であり、非可逆的であると見られてきたが、最近の研究では、ある細胞型が別の細胞型に変化する"再プログラム"法についての報告があった。Gurdon と Melton (p. 1811) は研究の歴史をレビューし現在解っていることを整理し、体細胞核伝達、細胞融合、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)の作成、および、直接的な細胞再プログラミングについて見通した。(Ej,hE,so)
Nuclear Reprogramming in Cells
p. 1811-1815.

製作中のガラス(Glass in the Making)

ガラス状の固体を形成する物質を同定するという問題で難しいのは、融解状態にある物質中に、冷却過程で結晶化しないだろうと示唆する特性を見つけることである。Liたち(p. 1816)は、広範囲の成分での銅-ジルコニウム合金の薄膜において、結晶化中の密度変化を測定する方法について述べ、そして超急冷によりガラスを形成する際の臨界厚さのピーク値と密度変化の測定結果とを比較している。密度とガラス形成能力のピークは一致することが観測された。両者が一致する3組のピークの発見はガラス形成に関する現存のモデルと矛盾している。現存のモデルは、1セットのピーク整合性を説明しているに過ぎない。(hk,KU,nk)
Matching Glass-Forming Ability with the Density of the Amorphous Phase
p. 1816-1819.

クラスター生成前の前駆結晶(Pre-Crystal Clusters)

結晶成長において、十分な量の原子、分子、イオンからなる安定なクラスター形成によって核が形成される結晶の初期段階についての研究は極めて難しい。Gebauer たち(p. 1819; および、Meldrum and Searによる展望記事参照)は、炭酸カルシウムは、結晶化の前に安定な中性イオンのクラスターが作られるらしいというデータを示している。これらのクラスターはアモルファスの炭酸塩相の前に形成されるが、このアモルファス炭酸塩相を前駆物質として使って、生物体は大きく複雑な単結晶を成長させるのだと思われていた。今回の発見は炭酸カルシウムの結晶化の理解だけでなく、鱗、生物的沈殿物や堆積物の形成における質量移動をよりよく理解するための知見を与えてくれる。(Ej,hE,nk)
Stable Prenucleation Calcium Carbonate Clusters
p. 1819-1822.
MATERIALS SCIENCE: Now You See Them
p. 1802-1803.

父親の子育て(Paternal Parenting)

鳥類において、卵や孵化したての幼鳥に行う父親の世話は一般的な特性である。この養育システムは、鳥類の太古の祖先のものではなく、派生した特性であると考えられていた。しかし、Varricchioたち(p. 1826; Prumによる展望記事参照)は、この養育システムは、鳥とか飛翔だのが現れる以前に、鳥の祖先である獣脚竜(theropoddinosaur)において発生したという仮説を支持するデータを示す。化石から得られた鳥が抱えるヒナの数(clutch sizes)のデータや骨の組織学的なデータから、白亜紀の恐竜のいくつかのグループは、オスだけが世話をするシステムを用いる今日の鳥類と同じ特性を共有していることを示す。このことは、父親の子育ては脊椎動物における深い進化の歴史を持つことを示唆している。(TO,nk)
Avian Paternal Care Had Dinosaur Origin
p. 1826-1828.
EVOLUTION: Who's Your Daddy?
p. 1799-1800.

火星の鉱物(Martian Minerals)

火星の軌道上の人工衛星(orbital)や無人ローバー(rover)によるデータは、初期の火星はかなり酸性の環境であったことを示唆していた;炭酸塩(carbonate)鉱物の広いエリアが古い地形あるいは新しい地形(terrains:地質単位)にも見つかっていない。Ehlmannたち(p.1828)は、火星周回衛星(Mars Reconnaissance)に搭載された分光器を使い、炭酸塩鉱物を検出したことを報告している。炭酸塩鉱物は、検出された地域に豊富な粘土鉱物の近くで見つかっており、このことは、この場所の地殻が中性あるいはアルカリ性の水によって風化作用を受けたこと、そしてその後の酸性風化による変成は炭酸塩鉱物を溶かすには不十分であったことを意味している。(TO,tk,nk)
Orbital Identification of Carbonate-Bearing Rocks on Mars
p. 1828-1832.

リズムに従う(Slave to the Rhythm)

細菌からヒトにいたる生物の殆どは内在性の時計を持っており、ほぼ24時間周期で回っている。これらの時計は個々の細胞内で機能しており、転写プロセスや翻訳後のプロセスに関する調節性のフィードバックループから構成されている。植物では光感受性の、相互に絡み合った転写-翻訳フィードバックループから構成された概日時計を用いていると考えられている。実験では通常、寒天板の上で植物の成長を観察している--そこでは根が光に曝されている--ため、どのような概日時計が根で作用しているかが曖昧になる。暗闇で水耕法で根を成長させることで、Jamesたち(p.1832)は、根の概日時計がシュート(茎と葉)に作用する概日時計の単純化したバージョンを利用して、フィードバックループの一つにだけに作用し、そしてごく少数の遺伝子のみを制御している。根において、フィードバックループの二つが不活性化され、二つの時計成分(CCA1とLHY)はシュートにおいて作用するような遺伝子発現を制御しない。しかしながら、シュートと根の概日時計は正常な昼と夜の条件下では同調しており、おそらく循環性の代謝シグナルにより、根の時計をシュートの時計に従属させている。(KU,Ej)
The Circadian Clock in Arabidopsis Roots Is a Simplified Slave Version of the Clock in Shoots
p. 1832-1835.

葉の形状コントロール(Leaf-Shape Control)

植物の葉は単一の原基から出現するが、結果としての葉の形状は単純な長円形から複雑な細かく区画された形状--裂片状や鋸歯状の縁を持った小葉--にわたって様々である。Bleinたち(p.1835)は、葉の発生に導く分子コントロールを調べた。NAM/CUC境界遺伝子--この遺伝子は境界の決定に関与する転写制御因子である--が、様々な植物からクローン化され、それらの発現パターンが操作された。広範囲にわたる異なる植物を通して、小葉原基におけるこのNAM/CUC遺伝子の局在化した発現が細かく区画された葉の形状形成に必要であり、この境界遺伝子発現レベルの減少はより区画の少ない、融合した小葉を形成した。(KU)
A Conserved Molecular Framework for Compound Leaf Development
p. 1835-1839.

永遠に幼い?(Forever Young?)

(訳者補足:ヒト成体中のヘモグロビンは、2つのα-グロビン、2つのβ-グロビンとヘムから構成されている。)γ-グロビンは、胎児ヘモグロビンの1成分で、通常胎児発生の際に発現する。出生後、胎児ヘモグロビンの発現は、成体向けのその変異体であるβ-グロビンの発現の上昇につれて下方制御される。成体がβ-グロビンを信頼することは、地中海貧血症や鎌状赤血球貧血の場合のように、β-グロビンの機能が破壊される遺伝的欠損がない限り問題ない。そうした場合は、胎児向けの変異体であるγ-グロビンが、その遺伝子が普通グロビン遺伝子スイッチングのプロセスによってオフにされるという点を除けば、潜在的に代替物として機能するのである。Sankaranたちはこのたび、グロビン遺伝子の制御に関与する推定上の転写制御遺伝子をコードするBCL11A遺伝子が、γ-グロビン遺伝子発現のリプレッサーとして機能しているらしいということを示している(p. 1839;12月4日オンライン出版; またMichelsonによる展望記事参照のこと)。小さなRNAを用いて、培養された赤血球細胞中でのBCL11A発現をノックダウンすると、その結果γ-グロビン発現は増加した。つまり、BCL11Aは鎌状赤血球貧血やある種の地中海貧血症を処置するための仲介役としての標的であることになる。(KF,so)
Human Fetal Hemoglobin Expression Is Regulated by the Developmental Stage-Specific Repressor BCL11A
p. 1839-1842.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: From Genetic Association to Genetic Switch
p. 1803-1804.

脂質を見る(Looking at Lipids)

脂肪酸、薬剤や代謝産物を、生きた細胞や組織内で標識不要で見られる顕微法があれば、生物医学的な、また発生に関する、さらには細胞生物学的な、さまざまの研究にとって有用であろう。ラマン散乱の特性周波数(Raman scatteringfrequencies)は、さまざまな化学結合について、それが何かを教えてくれる手がかりを与えてくれる。しかしながら、ラマン散乱に基づくイメージング法は、その低感度と、大きな非共鳴性のバックグランドによって限界がある。Freudigerたちはこのたび、誘導ラマン散乱に基づく3次元画像処理技術を報告しており、比較的高感度でバックグランドの無い化学コントラストを達成している(p. 1857)。彼らは、この方法を生きた細胞と組織における脂質の画像化と表皮を通しての薬物送達をモニターするのに応用した。(KF,KU,nk)
Label-Free Biomedical Imaging with High Sensitivity by Stimulated Raman Scattering Microscopy
p. 1857-1861.

必ずしも健康的ではない競争(Unhealthy Competition)

造血前駆細胞(HPC)は、体に一生を通じて健康な血液細胞を供給することを保証するものであるが、このHPCはその生存、増殖、および、分化を制御している特定の骨髄中の微小環境中に、或いは「ニッチ」中に存在している。Colmone たち(p.1861) は、マウスの白血病モデルに対して実時間生体内観察を通じて正常なHPCに対する白血病の影響を探った。白血病細胞は悪性のニッチを作り出し、これによって正常なHPCのニッチを凌駕する。この競争によってHPCの数が減少するだけでなく、HPCの機能を破壊するが、これは細胞がサイトカインの刺激に対して末梢循環に動員されなかったという証拠によって明らかになった。これらの効果は部分的には、白血病細胞によって分泌された化学誘引物質である幹細胞因子(SCF)によって仲介された。このように、幹細胞因子を治療上抑制することは、白血病を持つ患者の造血の蓄えを増やすためには価値ある方法であろう。(Ej,hE,so)
Leukemic Cells Create Bone Marrow Niches That Disrupt the Behavior of Normal Hematopoietic Progenitor Cells
p. 1861-1865.

炭素にショックを与える(Shocking Carbon)

ダイアモンドは、炭素の通常の高圧の相であると考えられている。しかしながら、極端な高温高圧下で、炭素は溶けるか、あるいは、これまで提案されているより高圧の bc8 の相に変態する可能性がある。Knudson たち (p.1822) は、理論計算と磁場駆動による衝撃波実験を用いて、衝撃波を加えた条件下での炭素の相の振舞を精密に描いた。衝撃波発生用飛翔板の横巾が大きいため、このデータは、現在の実験データより一桁精度が向上した。その結果は炭素の相の境界を明らかにし、三重点が存在する可能性のあることを示唆している。この三重点では三つの相が共存する。高温高圧下の炭素は、海王星や天王星のような惑星の研究において、また、核融合における慣性閉じ込めのための炭素材料の活用の可能性に関して関心を持たれている。(Wt,nk)
Shock-Wave Exploration of the High-Pressure Phases of Carbon
p. 1822-1825.

CRISPRのRNAはDNAを標的にする(CRISPR RNA Targets DNA)

多くの細菌でみつかる、クラスターになった、規則的に間隔のあいている短い回文構造の反復(CRISPR)座位は、バクテリオファージによる感染に対して、CRISPR反復とファージ標的配列との同一性に頼る仕組みによって免疫を与えている。MarraffiniとSontheimerは、nickase遺伝子にマッチする表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)にあるCRISPR反復が、すべてのブドウ球菌の接合性プラスミドに存在していることを発見した(p. 1843)。その反復は、表皮ブドウ球菌中へのそれらプラスミドの伝達を、形質転換と接合の両方によってブロックしている。CRISPRは、表皮ブドウ球菌が受取り手として作用するのを妨げ、小さなCRISPR(cr)RNAは、メッセンジャーRNA標的配列に対して相補的というよりはむしろそれと同一性のものである。これは、crRNAの標的が、(RNAが標的である際の小さな干渉性のマイクロRNAではなく)DNAであることを示唆するものである。(KF)
CRISPR Interference Limits Horizontal Gene Transfer in Staphylococci by Targeting DNA
p. 1843-1845.

転写によって方向が変わる(Transcription Changes Direction)

RNAポリメラーゼII(RNAPII)は一般に、転写開始点(TSS)から単一方向に起動する転写物を伸長することによってメッセンジャーRNAを産生すると考えられている。 4つの独立したグループからの結果 (Buratowskiによる展望記事参照のこと)は、哺乳類のプロモータにおける転写活性がそんな考えよりもずっと複雑であることを示している。マウスとヒトの細胞の研究で、Seilaたちは、活動的なプロモータに隣接する短い双方向的に転写されるRNAを同定した(p. 1849)。それはTSSから50ヌクレオチド下流と250ヌクレオチド上流に、それぞれセンスRNAとアンチセンスRNAのピークをもつものであった。センスとアンチセンスのピークの双方は、転写開始の特徴部位と一致していた。Coreたちは、転写に関わるヒトの線維芽細胞中のRNAポリメラーゼの位置、存在量および配向を、ゲノム全体にわたってマップした(p. 1845)。プロモータの近くにある重合酵素は、ヒト遺伝子のおよそ30%で検出され、活動的プロモータのほとんどは、TSSの上流の場所から両方向に、短いアンチセンス転写物を産生したが、伸長は一方向でしか生じなかった。ヒトのHeLa細胞におけるRNA分解を制限する方法を用いて、Prekerたちは、活動的なプロモータにおいて双方向的な転写でTSSの上流0.5ないし2.5キロ塩基のところに産生される、短命な、もう1つ別の小さなRNAのクラスを表す可能性のあるものを同定した(p.1851)。最後に、Heたちは、すべての発現遺伝子に由来するセンス転写物あるいはアンチセンス転写物の数量化を行なう方法を開発した(p. 1855)。ヒト細胞の系統を5つ解析することにより、アンチセンス転写物は大量にあり、ゲノム全体に対してランダムではない分布をしていること、さらにそれが細胞型によって異なっていることなどが明らかになった。(KF,so)
TRANSCRIPTION: Gene Expression--Where to Start?
p. 1804-1805.
Divergent Transcription from Active Promoters
p. 1849-1851.
Nascent RNA Sequencing Reveals Widespread Pausing and Divergent Initiation at Human Promoters
p. 1845-1848.
RNA Exosome Depletion Reveals Transcription Upstream of Active Human Promoters
p. 1851-1854.
The Antisense Transcriptomes of Human Cells
p. 1855-1857.

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