AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 28 2008, Vol.322


コンデンシンIIとトランスベクション(Condensin II and Transvection)

真核生物のゲノムの遠距離の領域同士でも互いに相互作用が可能であり、同一の染色体中のcis同士で、そして、同一のtrans同士で。例えば、トランスベクション(以下参照;http://www.escut.org/2008/07/polycomb-silencing-mechanisms-and-the-management-of-genomic-programmes.html)に於いては、相同染色体上の同一遺伝子の対立遺伝子は互いに交差制御することができる。Hartl たち(p. 1384)はショウジョウバエの多糸染色体中に見られるトランス会合(trans association)の極端なケースについて調べた。倍数体細胞では何千という染色分体(chromatid)が密接に関連して完全に整列した均一なDNA配列を成すが、多糸染色体の構造にその特徴がある。コンデンシン II サブユニットは、この多糸染色体の解体に関与しており、この同じサブユニットがショウジョウバエのトランスベクションの複数の場面で相互作用をすることから、コンデンシンII複合体は相同依存性染色体相互作用に拮抗しているのかも知れない。(Ej,hE)
Chromosome Alignment and Transvection Are Antagonized by Condensin II
p. 1384-1387.

太陽系外惑星の画像(Images of Extra-Solar Planets)

300個以上の太陽系外の惑星が発見されてきたが、それらの多くは主星への影響を通して間接的に発見されてきたものであった。二つのグループが、太陽に似た近傍の星のまわりを回る惑星の画像を撮ることができた(Marley の展望記事を参照のこと、11月13日にオンラインで出版)。Kalas たち(p.1345, 11月13日にオンラインで出版;表紙も参照のこと) は、地球から25光年にあるFomalhaut 星の周りの軌道を回る、木星の3倍以下の質量を有する惑星の光学的な画像を与えている。Marois たち (p.1348, 11月13日にオンラインで出版:表紙も参照のこと) は、地球から128光年の星の周りを回る3個の巨大惑星の近赤外線による画像を与えている。この惑星系は、われわれの太陽系の外周部分を思い起こさせるものである。(Wt,nk)
ASTRONOMY: Exoplanets--Seeing Is Believing
p. 1335-1337.
Optical Images of an Exosolar Planet 25 Light-Years from Earth
p. 1345-1348.
Direct Imaging of Multiple Planets Orbiting the Star HR 8799
p. 1348-1352.

動的不安定性を検証する(Dynamic Instability Revisited)

微小管はタンパク質チューブリンの重合体であり、すべての真核細胞の細胞内組織化、極性化や細胞分割に不可避である。微小管は、チューブリン重合と脱重合の間の相変化を交互に行う「動的不安定性」を示し、これはカタストロフとカタストロフ事象から復帰する回復事象(rescue event)に分けらる。この動きを説明する教科書的なモデルでは微小管の重合末端において、GTPの結合した小さな保護的キャップ構造が存在することが提案されており、このキャップが存在しないとき、カタストロフ遷移が生じることになる。しかし、このモデルはカタストロフと異なるもう一つの観察事象である回復事象の機構的な基礎を与えるものではなく、かつin vivoでは確認されてない。Dimitrov たち (p. 1353,10月16日電子出版も参照)は、GTP-結合した構造中のチューブリンを特異的に認識する立体構造の抗体をつくり、細胞微小管の末端にGTPキャップが存在することを確認した。さらに、意外にも重合体の内部にGTP微小管の残骸物が見つかったが、これは観察される回復事象の証拠かも知れない。(Ej,hE,KU)
Detection of GTP-Tubulin Conformation in Vivo Reveals a Role for GTP Remnants in Microtubule Rescues
p. 1353-1356.

陽イオンの捕獲(Cation Capture)

クラウンエーテル(crown ethers)やクリプタンド(cryptand)は籠状の分子であり、内部に複数の酸素や窒素原子を保持し荷電したゲストを受け入れるための環境を作っており、Mg2+やCa2+のようにハードな金属イオンを溶液中で隔離することができる。Rupar たち(p. 1360;およびLambertによる展望記事参照)は、クリプタンドがフリー状態のゲルマニウムの2価イオンまでもカプセル化できることを示した。より極性の高いこの元素は、時には半金属様のホウ素とかケイ素とか言われることもあるが、以前は+2の酸化状態を安定に保つためには、しっかりと結合したリガンドを必要としていた。X線結晶解析によってクリプタンド結合イオンを調べた結果、溶液環境において多くのソフトな陽イオンも同様に単離することができると思われる。(Ej,hE,nk)
A Cryptand-Encapsulated Germanium(II) Dication
p. 1360-1363.
CHEMISTRY: A Tamed Reactive Intermediate
p. 1333-1334.

無が電気回路に作用する("Nothing" Affects Electronic Circuits)

真空は何もない空っぽの状態と思われているが、常に生じては消える仮想粒子の逆巻く海と捉える事ができる。量子系が真空と相互作用する時、真空状態はその量子系になんらかの影響を及ぼす。原子系、たとえば水素原子が真空と相互作用する場合、水素原子の2つの異なる軌道角運動量エネルギー準位の変化、すなわちラム・シフト(Lamb shift)が生じることが知られている。今回Frangerたち(p.1357)は、ラム・シフトがより複雑で複数の構成要素から成る固体系、すなわち電子回路において生じることを発見した。超伝導2準位量子系(qubit)を共振器内に配置したとき、qubitのエネルギー準位の変化が観測され た。この結果は理論予測と一致しており、将来量子電子素子を設計する上で重要となるであろう。(NK、KU)
Resolving Vacuum Fluctuations in an Electrical Circuit by Measuring the Lamb Shift
p. 1357-1360.

マントル中の融解物(Melt in Mantle)

地球のマントルや地殻深部のいくつかの領域は異常に高い電気伝導率を持ち、それらはマントル珪酸塩鉱物が部分的に融解した物質、分布している水分、あるいは高い比率のグラファイトの存在を示唆していると解釈されてきた。Gaillardたち(p.1363; Evansによる展望記事参照)は、融解した炭酸塩鉱物の電気伝導性が非常に高く、珪酸塩相(silicate phases)の電気伝導率より数桁以上の大きさであることを示している。そのことから、これまでの異常な観測値は、マントル中に少量の炭酸塩融解物が存在することを示唆しているかもしれない。(TO)
Carbonatite Melts and Electrical Conductivity in the Asthenosphere
p. 1363-1365.
GEOCHEMISTRY: Carbon in Charge
p. 1338-1340.

核膜孔を被覆する(Coating the Nuclear Pore)

核膜孔複合体(Nuclear Pore Complex:NPC)は分子量40〜60メガダルトンのタンパク質の集合体であり、核膜を通しての巨大分子の交換を促進する。この構造の低解像度での画像とコンピュータモデリングにより、その組織化に関するおおまかな全体像は得られている。Brohawnたち(p.1369,10月30日のオンライン出版)は、NPCの外側の2つの環を構成しているNup84複合体のモジュールの一つ、Nup85・Seh1の結晶構造を提供することでこの複合体の画像をより鮮明にした。他のヌクレオポリンと共に、Nup85は細胞内の小胞コートタンパク質に構造的な類似性を有している。この類似性と変異体作製の実験から、Nup84複合体の組織化が明らかになり、NPCの構造骨格が格子様の被膜であることが示唆される。(KU,nk,so,Ej)
Structural Evidence for Common Ancestry of the Nuclear Pore Complex and Vesicle Coats
p. 1369-1373.

酸性のお風呂(Acid Baths)

海洋の酸性化によりサンゴ礁のようにカルシウムを主成分とする生物合成構造体の浸食が進むが、我々は淡水における高度にカルシウムに依存した生物体に関する酸性化の影響に関して殆ど証拠を持っていない。Jeziorskiたち(p.1374)は、カナダの楯状地(Canadian Shield:カナダ東部とアメリカ北東部のハドソン湾を囲む地域)の軟水(低pH)湖に生存しているカルシウム骨格の淡水甲殻類に関する堆積物の記録を調べた。1970年代に、これらの湖は工業に起因する酸性雨にひどく侵された。これら多くの湖のpHは回復しても、湖のカルシウムレベルは減り続けているので、小さな甲殻類である動物プランクトン、ミジンコ類の個体数は激減している。小さなミジンコ類は要となる餌食種であり、この種の減少はカナダ東部における淡水食物連鎖網への深刻な影響が予測され、似たような理由から、北半球のかなりの地域でも同じようなことがおそらく起こっているであろう。(KU,og,nk)
The Widespread Threat of Calcium Decline in Fresh Waters
p. 1374-1377.

根の制御に関する陰と陽(The Yin Yang of Root Regulation)

根の成長点は根端における幹細胞のグループの一つであり、分化した根の組織が生じる。根の成長点は増殖によって付与された新しい細胞と分化により取り除かれる娘細胞の間での或る種のバランスにより存在している。植物ホルモンであるオーキシンは成長点の細胞増殖を監視しており、一方植物ホルモンのサイトカイニンは分化を監視している。シロイヌナズナの変異体、及び発現と染色質の解析により、Dello Ioioたち(p.1380)は、二つのホルモンからのシグナル経路がSHY2遺伝子に集中していることを見出した。サイトカイニンはSHY2遺伝子を活性化し、その影響はオーキシンの再分布に向けられる。一方で、オーキシンはSHY2タンパク質の分解を指令し、結果としてオーキシンの再分布を安定化する。(KU)
A Genetic Framework for the Control of Cell Division and Differentiation in the Root Meristem
p. 1380-1384.

ハイブリッド異形成(Hybrid Dysgenesis)

キイロショウジョウバエにおいては、トランスポゾンのある特異型をゲノム中に有するハエの系統と、それをゲノム中にもたない系統の交配によって、その子孫が不妊症になることがある。これがハイブリッド異形成として知られる現象である。しかしながら、ハイブリッド異形成は、そのトランスポゾンをもったオスとトランスポゾンをもたないメスの間の交配にのみ見られ、逆の交配においては生じない(その子孫は繁殖できる)。これは、「保護的な」細胞質因子が母系の生殖系列を介して受け継がれていることを示唆している。生殖細胞内の移動性要素の制御は、その大部分が、トランスポゾン自身によって産生されるPiwi相互作用(pi)RNAによって仲介されている。Brenneckeたちはこのたび、piRNAがP-要素あるいはI-要素トランスポゾンによって仲介されるハイブリッド異形成の細胞質因子そのものであり、雌性の卵子を介して伝達され、新たに導入されたトランスポゾンの生殖系列中のトランスポゾン活性化に対する防護を提供している、ということを示している(p. 1387)。つまり、piRNAは、子孫に対して後成的情報を伝達するよう直接的に作用することができるのである。(KF)
An Epigenetic Role for Maternally Inherited piRNAs in Transposon Silencing
p. 1387-1392.

結核向けのプロドラッグの化学(TB Prodrug Chemistry)

結核(TB)の中でも薬剤に耐性を持った結核は、効果を失っていく現存の薬剤群を速やかに置き換える新たな候補がほとんどない状態のため、世界の健康に対する主要な脅威として出現してきた。期待できそうなものの中に、現在ヒトに対する臨床治験中の2つの候補分子(PA-824とOPC-67683)を含む二環式ニトロイミダゾールがある。Singhたちは、その薬剤を代謝する細胞の仕組みを再現している(p. 1392; またNathanによる展望記事参照のこと)。結果として作られる代謝産物の構造は、芳香族のニトロ化合物の正常な生物学的還元とは違って、deazaflavin-依存ニトロ還元酵素であるFnrが、ニトロ基ではなくイミダゾール環を還元しているということ、また結果として生じる還元されたニトロイミダゾールがその結果亜硝酸を除去しているということを示唆するものであった。亜硝酸は、細菌性細胞の生体内と酵素反応中の試験管内の双方で検出された。さらに加えて、結核菌(結核を引き起こす原因)を嫌気的に死滅させるさまざまな効果を有する一連の誘導体の中では、死滅させる程度は亜硝酸の遊離の程度に直接相関していた。つまり、この種の化合物は細胞内一酸化窒素ドナーとして作用することによって嫌気的に細胞を殺しているようである。(KF,nk,so,Ej)
PA-824 Kills Nonreplicating Mycobacterium tuberculosis by Intracellular NO Release
p. 1392-1395.
MICROBIOLOGY: An Antibiotic Mimics Immunity
p. 1337-1338.

非構造化領域を理解する(Making Sense of Unstructured Regions)

いくつかの事例では、タンパク質の構造がタンパク質の機能を支配しているが、多くのタンパク質、とりわけ細胞制御やシグナル伝達に関わっているタンパク質は、本質的に構造化されていない領域をもっている。そうした領域は、低親和性だが高い特異性を有する重要なタンパク質の相互作用を可能にする点で重要であると考えられている。Gsponerたちは出芽酵母のプロテオームを調べ、各タンパク質において予想される非構造化領域の量を計算した(p. 1365; またUverskyとDunkerによる展望記事参照のこと)。非構造化領域が高度に制御されているシグナル伝達タンパク質にとって重要であるというアイデアに沿うような形で、メッセンジャーRNAのクリアランスの増加や、タンパク質分解の増加、より低い翻訳比率などの結果、より構造化されていないと予想されたタンパク質は、より高度に構造化されたタンパク質よりも豊富であった。そうした非構造化タンパク質はまた、より高度にリン酸化され、そのゲノムは、より構造化されたタンパク質に比べて、ノイズの多い遺伝子発現に関わる配列を含むことが少ない傾向にあった。(KF)
Tight Regulation of Unstructured Proteins: From Transcript Synthesis to Protein Degradation
p. 1365-1368.
BIOCHEMISTRY: Controlled Chaos
p. 1340-1341.

白血病再発についてのゲノム的な見方(Genomic View of Leukemic Relapse)

急性リンパ性白血病(ALL)の子どもの80%以上は治癒しうるが、処置後に再発を経験した人の生存率は一般に芳しくない。再発の細胞的および遺伝的起源を探求するため、Mullighanたちは、61か所の小児科のALL患者の中から、対応する診断時のデータと再発時のデータについて、ゲノム全体にわたるDNAコピー数の解析を実施した(p. 1377)。再発した人たちの大半は新しい病変を示しただけでなく、診断時にすでにゲノム病変ないし損失を示していたが、これは、再発の原因となる細胞が当初の白血病を生み出した細胞を祖先とするものであることを示唆している。再発クローンに対応する細胞は、病気の初期に低レベルで検出可能であって、おそらく治療の最中に選択されていたのである。再発した患者におけるゲノムの病変は、細胞周期やB細胞発生などのいくつかのキーとなる生物学的経路に影響を与えることになるが、これは、それらの機能が再発条件下での新たな治療の適切な標的であることを示唆するものである。(KF)
Genomic Analysis of the Clonal Origins of Relapsed Acute Lymphoblastic Leukemia
p. 1377-1380.

ノックアウトの効果(It's a Knockout)

ステロイド受容体活性化補助因子2(SRC-2)タンパク質はプロゲステロン受容体のパートナーとして、転写活性化の機能をもつことで知られている。ChopraたちはSRC-2を欠くマウスについての解析を記述している(p. 1395)。それは、グルコース-6-ホスファターゼをコードする遺伝子の発現と糖代謝におけるその活性化補助因子の役割を明らかにするものである。ノックアウト・マウスは、グルコース-6-ホスファターゼの変異によって引き起こされるフォン・ギールケ病をもつ人間と同様の特徴を示す。このことからSRC-2はグルコース-6-ホスファターゼ遺伝子のプロモータに結合し、その発現を増強するレチノイド関連オーファン受容体α(プロゲステロン受容体に関連する核内ホルモン受容体)を助けるように機能している可能性がある。(KF,so,Ej)
Absence of the SRC-2 Coactivator Results in a Glycogenopathy Resembling Von Gierke's Disease
p. 1395-1399.

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