AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 24 2008, Vol.322


側根の制御(lateral Root Regulation)

細胞分裂パターンの制御は正常なる発生にとって必須なものである。De Smetたち(p.594)は、モデル植物、シロイヌナズナの生きた状態での組織における側根の初期段階の形成を調べた。側根を生じる細胞はキーとなる受容体様キナーゼACR4に応答したが、このキナーゼは根端の成長点で幹細胞の維持にも必要とされている。キナーゼを共有してはいるが、これらのプロセスは別々のプロセスであり、根端の成長点は永久的な器官である一方、側根は発生の間の必要な時のみ産生されるためである。(KU)
Receptor-Like Kinase ACR4 Restricts Formative Cell Divisions in the Arabidopsis Root
p. 594-597.

明るい星よ、鳴り響け(Ring Out, Bright Star)

日震学(helioseismology :太陽の地震学)とは、太陽の振動と表面の対流パターン、すなわち、粒状斑の研究に関するものである。これらの測定から、内部構造が推測できる。Michel たち (p.558; Montgomery による展望記事を参照のこと; 表紙を参照のこと) は、CoRoT 衛星による、太陽と同じクラスの別の3つの星から集めたデータを用いた。これらの星は、われわれの太陽より熱く、ずっと細かな粒状班を有していた。加えてそれらの星は本体の振動の振幅が理論的推定値よりは小さいが、太陽より 1.5 倍大きい。日震学は、われわれの太陽と同様に、より遠くの太陽のような星の構造と進化を知る上で有望な方法となる可能性がある。(Wt,Nk)
CoRoT Measures Solar-Like Oscillations and Granulation in Stars Hotter Than the Sun
p. 558-560.
ASTRONOMY: The Pulse of Distant Stars
p. 536-537.

塩素が基礎を固める(Chlorine Gets Grounded)

ハロゲン原子と水素の反応はきわめて高い精度で観測可能であるため、量子力学と化学反応の関連性を研究するテストケースとして位置づけられてきた。Wangらは(p.573)ガス相において水素分子と塩素原子のビームを高い精度で衝突させ、塩化水素と水素を発生させる反応において電子励起状態が重要な役割 を果たしていないことを見出した。この結果は、長年続いたBorn-Oppenheimer近似(原子核と電子の結合状態を分離して考える)の一般的適応性に関する議論は否定的な解答が得られた。(NK,Nk)
The Extent of Non–Born-Oppenheimer Coupling in the Reaction of Cl(2P) with para-H2
p. 573-576.

競争する(Mixing It Up)

結晶のような規則的な状態と、液体に見られるような不規則な状態間の転移は、容易に可視化され、かつ一般的な現象である。一方、乱れた状態同士の転移はそれほど一般的でない。同一物質の2つの液体が双方とも不規則状態であるのに、異なる内部構造をどうして持ち得るのかを理解するのは難しい。Greavesたち(p.566)は、イットリウム酸化物−アルミニウム酸化物の溶融体における一次の液体−液体転移を観測した。密度とエントロピーの変化を見積もり、そして原子レベルでの構造変化を観測することで、一方の液体状態ともう一方の液体状態の間の転移が成分の原子レベルでのパッキングと一致することが知られた。この方法は半導体からタンパク質の折りたたみにいたる広範囲な物質の相転移の研究に応用可能である。(KU,Nk)
Detection of First-Order Liquid/Liquid Phase Transitions in Yttrium Oxide-Aluminum Oxide Melts
p. 566-570.

チタニア表面のプロファイル(Titania's Face in Profile)

チタン酸化物(TiO2)の表面はバルクな状態と異なり、本質的な表面特有の再構築を行っている。その利用の多くで、チタニアはわずかに還元されており、カチオンがこの変化に適応している。様々な表面から得られた高分解能透過型電子顕微鏡画像を用いて、Shibataたち(p.570)は、格子間のチタン原子とそれを取り囲んでいる酸素原子の相対的な位置のシフトが、酸化物表面の複雑性に関する構造面での説明を与えることを示している。このアプローチは多くの複雑な表面構造の研究に応用可能である。(KU)
Direct Imaging of Reconstructed Atoms on TiO2 (110) Surfaces
p. 570-573.

中央体のモデリング(Modeling the Midbody)

細胞質分裂中に、中央体は原形質膜の切断前に2つの娘細胞間の最終的な繋ぎ止めを形成する。切断を開始するために、中央体のタンパク質、CEP55はESCRT−1複合体と関連タンパク質、ALIXを補充する。しかしながら、Leeたち(p.576)は、ALIXとESCRT-1がCEP55の同じ領域への結合に対して競争していることを見出した。この領域は、ALIX或いはESCRTにたいする単一の結合部位を作るその界面でバルクな帯電した残基を持つ未知のコイルドコイルを形成している。関連した結晶解析や電子顕微鏡解析とあわせて、このデータは中央体の組織化の構造に関する概念図が完成する。(KU)
Midbody Targeting of the ESCRT Machinery by a Noncanonical Coiled Coil in CEP55
p. 576-580.

熱帯林の種のダイナミクス(Tropical Forest Species Dynamics)

熱帯林に見られる並はずれた多様性レベルの維持は、長く生態学者の興味を引いてきた。Kraftたち (p. 580)は樹木の機能的な特徴、特に葉の構造と生理機能(physiology)とを、エクアドルのアマゾニアの高度に多様性のある25ヘクタール区画における150,000以上の木の空間的位置データと組み合わせた。その結果、目立たないが普遍的な形での、地域毎の生息種の固有化と樹木間の機能分化とが多様な種の共存に寄与していることを発見した。(TO,Nk)
Functional Traits and Niche-Based Tree Community Assembly in an Amazonian Forest
p. 580-582.

脂肪細胞の生まれるところ(Where Fat Cells Are Born)

密接に関連した肥満と糖尿病の症候群によって脂肪細胞がどのようにしてできたかに興味が集まっている。この脂肪細胞を生じる前駆細胞の正確な解剖学的部位とその起源は良く分かってない。細胞の系譜を追跡することが可能な、マウスに発現させたマーカー遺伝子を使ってTang たち(p. 583,および、9月18日オンライン出版、さらにKahnによる展望記事参照)は長い間探索されていた前駆細胞を特徴づけ、驚いたことに、これが脂肪組織を摂食する血管の壁内部に居た。マウスにおいては、これらの前駆細胞は出生前かもしくは出生直後の脂肪細胞系列に関連付けられているように見える。このように、脂肪脈管構造は前駆体ニッチとして機能し、脂肪細胞の発生シグナルを出しているようだ。このことから、血管増殖を抑制する薬剤が、何故にマウスの脂肪を消失させるかが説明できる。(Ej,hE)
White Fat Progenitor Cells Reside in the Adipose Vasculature
p. 583-586.
MEDICINE: Can We Nip Obesity in Its Vascular Bud?
p. 542-543.

血圧を制御するガスがもう一つ見つかる!(Blood Pressure Control: It's (Another) Gas!)

1980年代に、ガス状の一酸化窒素が血管の拡張と血流を制御するシグナル伝達分子であることが発見され、生物医学研究に革命が起き、その結果勃起不全のための有名な新薬であるバイアグラのような薬剤が誕生した。Yangたち(p. 587)は、血管の機能が硫化水素(H2S)によっても制御されている証拠を発見した。これは腐った卵の臭いを生じるガスであり、動物の冬眠に似た状態を誘発することが最近示された。遺伝的にシスタチオニンγ脱離酵素(cystathionine gamma -lyase)を欠乏しているマウスは年齢に関連する高血圧を生じ、血管の弛緩を促進する処置に対する応答障害が生じる。したがって、H2Sも一酸化窒素のように血圧を制御することから、血管障害の治療に新たな方向性を与える可能性がある。(Ej,hE)
H2S as a Physiologic Vasorelaxant: Hypertension in Mice with Deletion of Cystathionine γ-Lyase
p. 587-590.

作用中のRNAポリメラーゼが捕まった(RNA Polymerase Caught in the Act)

RNAポリメラーゼ(RNAP)は、プロモータに結合して開始複合体を形成した後で、ちゃんとした長さのRNA転写物を産生する伸長複合体(the elongation complex)を形成する前に、不稔合成(abortive synthesis)として知られるプロセスで短い転写物を合成する。T7ファージのRNAP系においては、そのプロモータが遊離され、開始から伸長に移っていく際に、大きな立体構造上の違いが生じるが、そうした変化がいかにしておきるかは不明なままである。Durniakたちはある中間状態の構造を記述しているが、T7のRNAPが、7つか8つのヌクレオチドRNA転写物を持つプロモータDNAに結合している状態である(p. 553)。この構造は、プロモータに結合したままでの不稔合成の際に、ポリメラーゼが成長する転写物に適応していくことを許す回転(rotation)の存在を明らかにしている。同様の再配置は、細菌や真核生物に見られる多サブユニットのRNAポリメラーゼにおける転写開始の際にも生じているらしい。(KF)
The Structure of a Transcribing T7 RNA Polymerase in Transition from Initiation to Elongation
p. 553-557.

塩素イオンチャネルの片がついた(Chloride Channel Clinched)

細胞の興奮や液体分泌において必要とされるカルシウム依存性の塩素イオンの流れの起源は、われわれを混乱させるものであった。普通ではないやり方で、Caputoたちは、膜貫通タンパク質TMEM16Aを主要成分として同定した(p. 590、9月4日のオンライン出版; またHartzellによる展望記事参照のこと)。この塩素イオンの流れは、気管支上皮細胞が、インターロイキン4(IL-4)によって処理された際に発現上昇する。気管支上皮細胞中にある特異的低分子干渉RNAを用いて、IL-4によって発現上昇した個々のメッセンジャーRNAを抑制することで、著者たちは、その塩素イオンの流れの原因である遺伝子を同定することができた。嚢胞性線維症の病理学の基礎には塩素イオン輸送の欠損があるので、この発見は新しい治療法を導く可能性がある。(KF)
TMEM16A, A Membrane Protein Associated with Calcium-Dependent Chloride Channel Activity
p. 590-594.
PHYSIOLOGY: CaCl-ing Channels Get the Last Laugh
p. 534-535.

端でのDNA修復(DNA Repair at the Edge)

細胞の核は、転写活性とDNA複製に基づいて、機能的な区画へと分割されることがある。Nagaiたちは、出芽酵母における核周辺と、DAN損傷および修復のプロセスとの間の物理的な結びつきを明らかにしている(p. 597)。損傷を受けたDNA、特に崩壊した複製点と二重鎖の持続性の破壊、は核膜孔へと移され、そこで核膜孔成分とその他のタンパク質が組換え性の修復を促進するのである。(KF)
Functional Targeting of DNA Damage to a Nuclear Pore-Associated SUMO-Dependent Ubiquitin Ligase
p. 597-602.

暖かな飲み物-温もりのある考え(Warm Drink--Warm Thoughts)

態度、信念、振る舞いに関するプライミング(呼び水)は、実証可能な広範囲の状況と無意識の認知プロセスの洞察の両方に対して、活発な研究領域になってきた。多くの場合、無意識の認知システムは、他の関連の無い特質(characteristics)の中で埋没した潜在意識下で導入された信念(例えば老いを感じる)と共に、意味的なステムワード完了タスク(semantic, stemword completion tasks)によって活性化する。Williams と Bargh (p. 606)は、一杯のホットコーヒーを手に持った被験者は、より前向きの社会的な選択(利己的とは反対に)を無意識に行うような、人間関係の温かみ(interpersonal warmth)について身体的刺激が人々の判断に影響する状況を論じている。 (TO,KU)
Experiencing Physical Warmth Promotes Interpersonal Warmth
p. 606-607.

太陽の精密形状(The Sun's in Fine Shape)

太陽の形状を正確に知ることは、相対性理論と重力の関係の計測には不可欠の要件である。太陽形状は内部のプロセスを反映しているし、同時に磁気や自転も反映しているが、その正確な形状は今日まで計測が困難であった。Fivian たち (p. 560,10月2日号オンライン出版、および、Chapmanによる展望記事参照)は、RHESSI衛星のデータを利用して、太陽が今まで期待されていたよりもっと扁平であることを発見した。このような太陽の過剰な変形は、強力になった磁力活動に起因しており、この効果がなければ太陽の自転速度に均衡した形状になっているであろう。(Ej)
A Large Excess in Apparent Solar Oblateness Due to Surface Magnetism
p. 560-562.
ASTRONOMY: Aspects of Our Sun
p. 535-536.

量子部品を特徴付ける(Characterizing Quantum Components )

量子情報処理システムを構築してテストするためには、その構成要素を特徴付ける必要もある。この特徴づけと言うのは、量子部品の全部に特徴づけし、これを評価する必要があるため簡単ではない。Lobino たち(p. 563,9月25日発行のオンライン出版も参照)は、レーザーを利用した新しい量子プロセスであるホモダイントモグラフィー法(http://annex.jsap.or.jp/OSJ/50th_cd/main/keyword/ryosi_003.htm)を開発したが、これは任意の精度で特徴付けることができる。この手法で、縮退真空中でテストプロセスを実験的に評価し、検証できることを実証した。このプロセスをスケールアップすれば、量子コンピュータと情報ネットワークへの応用が可能となる。(Ej)
Complete Characterization of Quantum-Optical Processes
p. 563-566.

干渉、プロセシング、転写(Interference, Processing, and Transcription)

RNA干渉(RNAi)は遺伝子発現を沈黙させ、分裂酵母においては、セントロメアクロマチン(動原体性異質染色質)の形成にとって必要とされる。Bayneたちは、セントロメアクロマチンにおけるRNAiによって仲介される遺伝子サイレンシングに関与する遺伝子を特徴付けた(p. 602)。すべてがメッセンジャーRNAスプライシング因子であって、また、低分子干渉RNAでのセントロメア転写物の処理と増殖に必要である。これら因子とRNA干渉機構およびセントロメアクロマチンの成分との会合は、セントロメアにおける転写やRNAプロセシング、更にはRNA干渉が結びついていることを示している。(KF,KU)
Splicing Factors Facilitate RNAi-Directed Silencing in Fission Yeast
p. 602-606.

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