AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 19 2008, Vol.321


抗生物質の開発に向けて(Toward Antibiotic Development)

新たな抗生物質や微生物-特異的な薬剤の同定は、微生物学研究の重要な到達点である(Payneによる展望記事参照)。微生物は呼吸に際してメナキノン(ビタミンK)を用いている。大腸菌は7つの酵素を用いて、コリスミ酸からメナキノンを合成している。幾つかの病原菌ではこのような酵素の相同分子種は見当たらないが、しかしこれらの細菌や或る種の古細菌はメナキノンを合成する。Hiratsukaたち(p.1670)はバイオインフォマティクと生化学を結びつけることで、非病原性の放射細菌、Streptomyces coelicolorにおいて別の経路を調べ、いまだ解析されていない遺伝子の機能を同定した。ヒトやある種の腸内共生細菌、特に乳酸桿菌ではこの別経路が欠如しており、抗生物質の開発における魅力的な標的である。細菌の細胞分裂を邪魔するような抗生物質が見つかっていない。Hydonたち(p.1673)は、細菌の細胞分裂タンパク質FtsZに結合して細胞分裂を抑制する低分子を合成している。この分子はチューブリン結合部位と同等の部位で細菌のタンパク質と結合しているらしい。致死量の黄色ブドウ球菌を投与されたマウスにこの分子を注射すると、有害な副作用も無くマウスの治癒に効果があった。(KU)
MICROBIOLOGY: Desperately Seeking New Antibiotics
p. 1644-1645.
An Alternative Menaquinone Biosynthetic Pathway Operating in Microorganisms
p. 1670-1673.
An Inhibitor of FtsZ with Potent and Selective Anti-Staphylococcal Activity
p. 1673-1675.

電子的相転移を追跡する(Tracking Electronic Phase Transitions)

固体の系では電子は相関しており、そのため全体として効果を発揮する結果、大規模な秩序状態を形成する。この状態形成がどのように動的に行われ、他のプロセスにどう影響をし、影響されるかは、現在の興味の的である。転移温度以下ではTbTe3は自発的に電荷密度の高い領域と低い領域の密度波を形成する。時間的・角度的な解像度を有する光電子放出の手法を利用してSchmitt たち(p.1649, および、8月14日発行の電子出版参照)は、レーザーパルスによって励起され、過渡的に融解されたときの電荷密度を追跡し、これが系の根底にある電子状態にどのように影響するかを示した。このような測定手段は、現代の物性物理において多体相関効果の研究に不可欠の貴重な手段となるであろう。(Ej,hE)
Transient Electronic Structure and Melting of a Charge Density Wave in TbTe3
p. 1649-1652.

微細点リソグラフィ印刷(Fine-Point Lithographic Printing)

分子インクを表面に形成させてパターンを形成する2種類の低コスト印刷の利点を統合した手法を、Huo たち(p. 1658, 8月14日のオンライン出版も参照)はポリマーペンリソグラフィーと呼び、これについて報告している。微細接触印刷と同様に、16-メルカプトヘキサデカン酸(16-mercaptohexadecanioc acid)のような分子によるインクでエラストマーのスタンプが形成され、金の表面上に転写される。漬けペンのように、インクは個々の柔らかいエラストマーのチップ配列上にナノスケールのドットが形成されるが、このとき個々のカンチレバー制御は行われない。この配列は表面に対して光学的に水平に保持され、形成される特徴パターンのサイズは、スタンプが表面に接触する力と時間を変化させることによって、90ナノメートルから数百マイクロメートルまで制御することができる。(Ej,hE,KU)
Polymer Pen Lithography
p. 1658-1660.

ナノ粒子の形状の変化(Nanoparticle Shape Shifting)

不均一系触媒は、しばしば金属のナノ粒子が酸化物に吸収された物質から出来ており、これらナノ粒子のサイズや形状は温度や酸化状態などの反応器中の条件に依存すると思われる。しかしこの種の実験の多くは真空を必要とするため、このような変化簡単に観察できるというものではない。Nolte たち(p. 1564) は、その場観察法(in situ)によるX線回折と透過電子顕微鏡を用いてMgO表面でのロジウムのナノ粒子の変化の観察を高解像度で調べることに成功した。高温(570 K)条件の下で、このピラミッド形のナノ粒子は酸素にさらされると表面酸化物が形成されて平坦化する。この粒子がCOに曝露されると表面が還元され、元の形状に戻る。(Ej,hE,KU,nk)
Shape Changes of Supported Rh Nanoparticles During Oxidation and Reduction Cycles
p. 1654-1658.

エキゾッチク超伝導磁性体(Exotic Superconducting Magnetism )

超伝導と磁気的秩序は、通常競合するプロセスであると考えられている互いに排他的事象であり、不均一材料の相図のごく限られた領域でのみ観測される。CeColn5 は良質の結晶が得られる極めてクリーンな材料である。エキゾチック超伝導体呼ばれている物質は、複雑な構造を持つ高温銅酸化物超伝導体と同じような特性を有している。Kenzelmannたち(p.1652、8月21日のオンライン出版参照)は中性子散乱を用いて、この物質の低温高磁場下での磁気秩序について調べ、磁気秩序が超伝導的振る舞いによって安定化され、また共存している証拠を発見した。(NK)
Coupled Superconducting and Magnetic Order in CeCoIn5
p. 1652-1654.

それらは、スターダスト...(They Are Stardust...)

スターダスト探査機は、彗星からの直接的な資料を初めて持ち帰った。これまで、彗星は太陽系の外側の領域において形成されたと考えられていた。初期段階の解析によると、太陽系の内側からのものらしい、いくつかの高温の粒子に関する証拠が存在している。Nakamura たち (p.1664) は、その彗星が、また、コンドルールに類似の物質を含んでいることを見出した。コンドルールは多くの原始的な隕石には豊富にあり、これらの隕石もまた太陽系の内側からのものであると考えられている。混合プロセスは原始太陽系の全体で広範に存在していたように思われ、コンドルール、あるいは、類似の物質は太陽系の内部で作られ太陽系全体にばらまかれた可能性がある。(Wt,nk,tk)
Chondrulelike Objects in Short-Period Comet 81P/Wild 2
p. 1664-1667.

政治的立場(Political Baggage)

政治的態度は経験と環境によってのみ形成されると考えられてきたが、この事象への我々の応答は、或る程度「生まれつき刷り込まれた(hard wired)」生来的なものではないかという研究が始まっている。Oxleyたち(p.1667)は、政治的に強い信念を持つ被験者に、急激な騒音や恐ろしい絵(例えば眼球の上をクモが動き回る絵といった)の刺激に明らかに鈍感で弱い反応を示すグループの人たちは、外国への援助やリベラルな移民政策、平和主義、銃の規制に対して、これを支持するような態度を示すのに対して、上記刺激に明らかに敏感で強い反応を示す人たちは、防衛費の増額や、死刑、愛国主義、イラク戦争賛成のような政治的立場を支持する傾向があった。(KU,Ej)
Political Attitudes Vary with Physiological Traits
p. 1667-1670.

側面的な支援(Collateral Help)

何年かにわたって、中国の農民は殺虫性の毒Btを発現する遺伝子組み換えの綿を植えていた。Wuたち(p.1676;表紙参照)は、他の作物と同じくBt-綿の栽培に関して1997年から2007年までのデータを解析し、そして害虫の発生に関する観測とデータを比較した。標的となる害虫、ワタノミノムシはこの同じ時期に明らかに減少していた。更に、期待されたように、害虫の減少により、この害虫が攻撃したであろう非-Bt-発現作物に対しても付随的なメリットを局所的にもたらしている。(KU)
Suppression of Cotton Bollworm in Multiple Crops in China in Areas with Bt Toxin–Containing Cotton
p. 1676-1678.

プラーク周辺の活性(Activity Around Plaques)

アミロイドの沈積した哺乳類の脳において、皮質機能障害の根底となる細胞メカニズムが同定できれば、アルツハイマー病の効果的な治療への道が期待される。Buscheたち(p.1686)は、in vivoでの皮質ネットワークに関する二光子イメージングを用いて、アルツハイマー病のマウスモデルで個々のレイヤー2/3皮質ニューロンのCa2+シグナル伝達をモニターした。病を持ったマウスにおいて、皮質ニューロンの15%が機能面での特質に障害を示した。「ハイパー活性(hyperactive)」なニューロンのクラスが同定されたが、この存在はin situでも、或いは機能的イメージングのデータにおいても以前予想されていなかったものである。ハイパー活性なニューロンは、主にプラーク(アミロイド斑点)周辺領域にあり、その存在は認知行動の障害と関係している。プラーク周辺領域のシナプス-促進ハイパー活性が、アルツハイマー病患者におけるてんかん発作の発生率増加の原因であろう。(KU)
Clusters of Hyperactive Neurons Near Amyloid Plaques in a Mouse Model of Alzheimer's Disease
p. 1686-1689.

漁業の経験知(Fish Lore)

食物の確保に関する関心の増加のただなかには、われわれの海洋漁業が崩壊の瀬戸際にあるのでは、という恐怖もある。Costelloたちは、もし漁師が、漁業シーズンの間、特定の魚場で好きな時に定められた量を漁獲する排他的かつ保証された権利をもてるようになれば、漁師たちは魚資源が持続的に残るよう管理する動機ができるので、資源の崩壊が防げるだろうと主張している(p. 1678; またStokstadによるニュース記事参照のこと)。このやり方を広めていくに当たっての問題は、データが欠けている状況下で、最近行われたやり方が成功であったことを測定することにあった。あらゆる既知の漁場における入手可能な漁獲データを照合することで、著者たちは、権利をベースにした漁業が経済的な崩壊を半減させる、そう勇気付けるような結論を得た。(KF,Ej)
Can Catch Shares Prevent Fisheries Collapse?
p. 1678-1681.

オスの子は高くつく(Expensive Sons)

鵜(shag)は、海辺の岩場に巣を作り、魚を食する大型の海鳥であるが、魚由来のアニサキス(anisakid線形動物寄生虫)に対して弱点をもっている。摂取された後で、その寄生虫は全身に遊走し、生理的に大きな犠牲を強いる炎症反応を引き起こし、最終的には鵜の腸にコロニーを形成し、そこでこの寄生虫は栄養を求めて宿主と競合するにいたる。Reedたちは、寄生虫が母鳥の子育ての能力を妨害していることを発見した(p. 1681、8月7日オンライン出版)。オスのヒナはメスよりも大きく早く成長するので、つまるところより多くの食料を必要とする。寄生虫を除去するためにイベルメクチンを処方されたメスの鵜は、長期間海で餌をあさることができたため、結果として処方されなかったメス鳥よりも多くの息子たちを育てることができた。似たような寄生の影響は、多くの季節的に育種する鳥たちにも作用しているだろう。(KF)
Parasite Treatment Affects Maternal Investment in Sons
p. 1681-1682.

フォースがあなたと共にありますように(May the Force Be with You)

プログラムされた細胞死であるアポトーシスは、不要な細胞を除去して胚発生を形作ったり、成体の恒常性を維持したりするだけでなく、胚形成の際の組織移動に寄与する力の源にもなっている。Toyamaたちは、創傷治癒や、発生の際の細胞シートの形態形成のモデル系となっているショウジョウバエの背側閉鎖において、その際に進行している細胞のアポトーシスと除去のプロセスによって提供される機械的な力を測定した(p. 1683; またDavidsonによる展望記事参照のこと)。アポトーシスを抑制すると背側閉鎖はゆっくりになり、一方アポトーシスを増強すると、背側閉鎖は野生型の胚に比較してスピードアップした。つまり、生物体は、発生や変態、創傷治癒に向けたアポトーシスの力を取り込むことができるのである。(KF)
Apoptotic Force and Tissue Dynamics During Drosophila Embryogenesis
p. 1683-1686.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: Apoptosis Turbocharges Epithelial Morphogenesis
p. 1641-1642.

ナノワイヤーの膨張(Nanowire Expansion)

物質が大きなバルク(塊)からナノスケールに縮むと、その電子は粒子サイズに閉じ込められるが、この効果は、量子ドットの径を変化させて光学的な可視光吸収と放出スペクトルを調整することに利用できる。Yang たち(p. 1660) は、酸化亜鉛のナノワイヤーの構造的光応答について光学特性以上の詳細について踏み込んだ。超高速の電子回折を利用して、電子的励起が、軸方向の急激なワイヤーの膨張を引き起こすことを見つけた。この膨張はバルクの結晶における熱膨張の数百倍である。この挙動は電子励起状態における反結合性相互作用に起因するものと思われる(Ej,hE)。
4D Electron Diffraction Reveals Correlated Unidirectional Behavior in Zinc Oxide Nanowires
p. 1660-1664.

ドーパミン作動性シナプスの可塑性(Dopaminergic Synapse Plasticity)

腹側被蓋野および黒質に始まり、前脳領域に広がっているドーパミン・ニューロンは、目標に向けた行動にとって必須である。ドーパミン・シグナル伝達は高度に可塑的であり、条件刺激とその報酬それ自体との間の関係を操作することで変更できるように見えるが、こうした刺激-報酬の学習の根底にある細胞機構は不明なままである。Stuberたちは、生体内での電気化学と試験管内での電気生理学の双方を用いて、中脳辺縁系のドーパミン系内における刺激-報酬の学習の背後にある仕組みを研究した(p. 1690)。彼らは、ドーパミン・ニューロンの長期増強が、条件刺激による動機付け的性質の獲得と結び付いていることを発見した。(KF)
Reward-Predictive Cues Enhance Excitatory Synaptic Strength onto Midbrain Dopamine Neurons
p. 1690-1692.

Xist遺伝子の相乗作用の存在(Xisting Synergy)

哺乳類のメスの胚の中で、2つのX染色体の一方は機能停止されて、X連鎖遺伝子発現がそれに相当するXY雄性胚を反映するようになる。X連鎖Xist遺伝子の発現は、それが一部をなしているX染色体の抑制を保証することになる。胚形成のもっとも初期段階では、初期に父性的に刷り込まれたX染色体不活性化が、それに付随するXist発現と一緒に内部細胞塊(これが胚を適切に形成する)の中で失われ、内部細胞塊が分化するにつれてランダムなX染色体不活性化が確立される前に、父系性のX染色体が再活性化することになる。胚性幹細胞を用いて、Navarroたちは、こうした発生の非常に早い段階での内部細胞塊の多能性の維持にとって決定的な遺伝子であるNanogとOct3/4、Sox2が、相乗的に作用して、細胞分化が引き起こされるまでXistを一過性に抑制し、それによって直接、Xist発現の制御を多能性に結び付けてもいることを示している(p. 1693)。(KF)
Molecular Coupling of Xist Regulation and Pluripotency
p. 1693-1695.

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