AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 22, 2008, Vol.321


ブラックホールの日の出(Black Hole Rising)

われわれの銀河の中心付近の恒星の楕円運動を注意深く観測することにより発見された。しかし、どのようにしてこれらの星がそこにあるようなったのか、そして、なぜ、それらの多くは大質量星であるかの疑問を引き起こさせる。ブラックホールは、通常このような星が形成される元となる分子雲を破壊し、食い尽くすであろう。さらに外側から物質を捕獲することはありそうにない。Bonnell と Rice (p.1060; Armitage による展望記事を参照のこと) は、分子雲は通常はブラックホールによって破壊されるであろうが、それにもかかわらず、十分な量のガスは残って引き裂けた形態の円盤を形成し、そこから星が生じるが、適当な条件のもとではそれらの星の多くは大質量星となることを示す一連のシミュレーション結果を与えている。これらの結果は、観測を説明し、星の運動がブラックホールの存在を示していることを確証し、大質量星が多数を占めるようなタイプの星形成の説明を与えている。(Wt,nk)
Star Formation Around Supermassive Black Holes
p. 1060-1062.
ASTRONOMY: Stars in the Making
p. 1047-1048.

チベットの上昇(Tibetan Uprising)

地球上で最も高い位置にある広大な地域であるチベット高原は、インドがアジアに衝突したことから広範囲に形成された。しかし、チベット高原の隆起の原因やタイミングは、きちんと解明することは難しいとされてきた。Roydenたち(p.1054;Kerによるニュース記事)は、チベットに焦点を当てて衝突の地質的な履歴を再検討し、そしてチベット高原の推移は太平洋の地殻変動と密接に関係しているという説を提案している。約2000万年前より以前に、太平洋とインドネシアの海溝(trench)はヒマラヤの衝突帯から離れるように移動し、それによって、衝突から生まれる過度な地殻変動を幾分か和らげていた(accommodation)。ひとたび海溝の移動が止まったり或いは速度が鈍ると、チベットの広範囲な隆起が始まった。(TO)
The Geological Evolution of the Tibetan Plateau
p. 1054-1058.

予想以上の循環流量(Circulating More)

地球大気は、低緯度においては高緯度よりも多くの太陽エネルギーを得ており、赤道近くでは極地方よりも暖められている。このような熱的勾配は流体の大気では保持できないから、極方向への大気循環流によって熱の不均衡が正される。従来の理解では、赤道地方ではいわゆるHadley Cellと呼ばれる構造の内部で大気上昇が支配的になり、高高度に至って極方向に動き始める。この見解は空気中に含まれる水蒸気からの寄与を無視したエントロピーの表式に基づいている。大気中の水分を考慮することでPauluis たち(p. 1075) は、中緯度地方では以前考えられていた以上の大気が上昇していることを示した。この大気循環による輸送量全体は、標準的な値の約2倍に達し、その半分は中緯度での上部対流圏への上昇流入で占められている。(Ej,hE,nk)
The Global Atmospheric Circulation on Moist Isentropes
p. 1075-1078.

セシウム分子の回転を止める (Cs2 Unspun)

これまで、原子であればボーズアインシュタイン凝縮(BEC)を達成することは可能であったが、分子の場合は回転および振動自由度のためにBECが発生するまで冷却することは難しかった。Danzlたち(p.1062, 7月10日オンライン出版参照)は、コヒーレントラマンポンピングスキームを用いて、原子BEC状態にある弱く結合したセシウム二量体から離散的にエネルギーを取り去り、電子基底状態の特定の回転振動状態にあり、並進運動に関しては冷え切った、強く結合したセシウム分子を作ることに成功した。実験によると、回転エネルギーは効果的に取り去ることができるという。振動エネルギーは完全には取り去れないが、2回目のポンピングサイクルでおそらく散逸させ得るであろう。この手法のカギは、周波数コムを用いて周波数の全く異なる2つのポンピングレーザ光の位相コヒーレンスを保つことにある。(NK,KU,nk)
Quantum Gas of Deeply Bound Ground State Molecules
p. 1062-1066.

微小なワイヤの込み入った制御(Fine Wire Finesse)

電子流は原子拡散を促すが、これはエレクトロマイグレーションとして知られている。これが非常に細い銅線中において空洞を形成したり、銅線を壊すこともあり、現代の電子産業では大きな問題となっている。電子顕微鏡によるその場観察法により、Chenたち(p. 1066) は、このエレクロトマイグレーションが特定の微小構造的特性の影響を受けることを見つけた。双晶粒子が粒界を介して結合しているときは原子拡散が顕著に減少する。このような結合場所では、移動が起きるためには結晶の新しいステップ(階段状の形態)ができるまで待つ必要がある。このように微小な銅線の寿命を改善するためには、銅線中の結晶粒を制御する方法もあるのだ。(Ej,hE)
Observation of Atomic Diffusion at Twin-Modified Grain Boundaries in Copper
p. 1066-1069.

信号を妨害する(Jam the Signal)

多くの病原性微生物は宿主のアドレナリン作動性分子を検出できるので、潜在的な宿主の中にいることを感知する。これらの微生物はその信号を拾い出し、それを病原性遺伝子座位にリレーするセンサーキナーゼを共有しており、それによって病原性を確かにする反応に入り込む。この経路は、幅広い抗菌剤の開発に対する良い標的となっており、病原菌の抑制には抗菌剤に対して特定の選択圧が無いほうが良いからである。Rasko たち(p. 1078) は、センサーキナーゼQseCの無毒の小分子阻害剤を使ってこの方法である程度の成功を達成した。この阻害剤は特異的、かつ、高感受性でシグナル伝達をブロックする。動物モデルにおいて、この阻害剤は腸管出血性大腸菌やネズミチフス菌などを有する胃腸感染症にはある程度有効であった。さらに、全身性病原体の野兎病菌(Francisella tularensis)に対してはLED209分子がもっと効率的であり、経口投与1回で、80%の感染マウスが死から免れた。(Ej,hE,KU)
Targeting QseC Signaling and Virulence for Antibiotic Development
p. 1078-1080.

固定されているが柔軟性もある(Fixed But Flexible)

生物系における表現型の可変性の原因である確率論的なノイズはどの程度あるのだろうか?Feinermanたち(p.1081)は、T細胞集団におけるシグナル伝達に必要とされる複数のタンパク質の発現レベルを抗原刺激への同一細胞の応答と共にコンピュータモデルと測定を結びつけた。抗原-誘発によるシグナル伝達経路の様々な成分の発現における確率論的な変化が、T細胞の応答能力にどのような異なる影響を持つかが明らかになった。或る任意の抗原に応答するT細胞のクローンに対して、この確率論的ノイズは、応答する細胞集団内での柔軟性を最適化し、一方信頼性のある抗原識別に必要な全体としての均一性を維持するのに役立っている。(KU)
Variability and Robustness in T Cell Activation from Regulated Heterogeneity in Protein Levels
p. 1081-1084.

セントロメアの作成(The Making of a Centromere)

セントロメアは、細胞分裂の際に、真核生物の染色体が娘細胞に均等に分配されることを保証するという決定的役割を果たしている。セントロメアがいかにして、また染色体のどこに形成するかは一種の謎として残されているが、それは進化の際に新しいセントロメアが根底にあるDNA配列とは独立に生じてくるらしくみえるためである。Ishiiたちは、分裂酵母において、3つの染色体のうちの1つから既存のセントロメアを切り取ることによって、意のままに新しいセントロメアを生み出すシステムを開発した(p. 1088)。この一般的には致命的なイベントを生き残るのは、中身を抜かれた染色体のサブテロメア領域の1つに新しいセントロメアを形成するか、変えられてしまったその染色体を別の染色体と融合するか、どちらかであることがわかった。新しいセントロメアの形成には、RNA干渉機構の要素が必要であった。(KF)
Heterochromatin Integrity Affects Chromosome Reorganization After Centromere Dysfunction
p. 1088-1091.

警告を感知する(Sensing Alarm)

1973年に、Hans Gruenebergはげっ歯類の鼻の先端に或る構造の存在を観察したが、彼は、これを終神経(Nervus terminalis)に属すると考えた。最近、遺伝子導入技術を用いて、いくつかのグループが、この構造の再発見を報告している。彼らは、その構造を、元の研究にちなんで、Grueneberg神経節と名付けた。しかしながら、それらの細胞の機能は論議の対象として残されている。典型的な嗅覚神経細胞の特色を欠いているにも拘らず、この神経節は、嗅覚のマーカータンパク質の発現および、脳の嗅球へのそれの神経接合に基づいて、何らかの嗅覚機能を担っていることが示唆された。Brechbuehlたちはこのたび、Grueneberg神経節細胞の1つの機能を同定した(p. 1092)。解剖学的、外科的、さらに行動についての技法の組み合わせを用いることで、 Grueneberg神経節は警告フェロモンの検出に関与していることが示唆された。(KF)
Grueneberg Ganglion Cells Mediate Alarm Pheromone Detection in Mice
p. 1092-1095.

治療用T細胞をつなぎ止める(Tethering Therapeutic T Cells)

細胞は分裂を止めて、非増殖性の状態(生物におけるほとんどの分化細胞のように)に留まることもあるが、ある種の条件下では、それら細胞は再び細胞分裂周期に入って、また増殖を始めることもある。Sangたちは、Split1のHairyおよびEnhancer(HES1)として知られる転写抑制因子が、細胞分裂を再開できるかどうかを決定する重要な役割をもっている、という証拠を提示している(p. 1095)。培地中でのヒト線維芽細胞の増殖が抑制されると、増殖の障害が除かれた後も、HES1活性の減少によって、細胞は分裂の再開を妨げられた。細胞周期への不適切な再参入は腫瘍細胞の特徴であり、骨格筋腫瘍細胞におけるHes1機能の抑制という処置もまた、増殖や分化の促進を抑制したのである。(KF)
Control of the Reversibility of Cellular Quiescence by the Transcriptional Repressor HES1
p. 1095-1100.

決まっていなかったものを決める(Deciding the Undecided)

我々の無意識なバイアスは、合理的な意思決定にいかに影響しているか、また我々の意思決定はそうしたバイアスにどのような影響を与えうるのか? Galdiたちは、投票者集団における投票意図の縦断的研究において、すでに心を決めていた投票者の意識された信念から、後日行われた質問対し彼らが行う選択を予想できることを示し、さらに、心を決めていなかった投票者の場合、自動連想から同様に後日の彼らの回答を予測できることを発見したが、これらは予想された通りであった。驚くべきことに、最初の質問の時には心を決めていた投票者の意識的信念は、彼らの自動連想あるいは暗黙に示唆される好みとは相関していなかったにも関わらず、後日行われた第2回目の質問の回答は実際彼らの暗黙の好みを当てられるほど強い相関を示したである。これは無意識な認知と意識的認知が双方向の相互作用をしているものであることを示唆するものである。(KF,nk)
Automatic Mental Associations Predict Future Choices of Undecided Decision-Makers
p. 1100-1102.
PSYCHOLOGY: The Unseen Mind
p. 1046-1047.

安定なSi(0)二量体(A Stable Si(0) Dimer)

鉄ペンタカルボニルといった多くの単離可能な遷移金属化合物は、中性の配位子により酸化されずに安定化される。このようなことは、より軽い陽性元素では極めて稀にしか起こらないが、これはH,N,O或いはハロゲン基への配位に対して電子を放出する傾向があるためである。Wangたち(p.1069、Dyker and Bertrandによる展望記事参照)は、バルクな中性のN-ヘテロサイクリックカルベンの配位子(L)を用いて、彼らは、二つのシリコンセンターに価電子を保持し、零価の酸化状態を維持した安定なSi2錯体を合成した。この化合物のZ形状をしたL-Si-Si-Lの構造がx-線解析で明らかにされ、そしてその結合が密度関数理論により解析された。(KU)
A Stable Silicon(0) Compound with a Si=Si Double Bond
p. 1069-1071.
CHEMISTRY: Soluble Allotropes of Main-Group Elements
p. 1050-1051.

酸素発生におけるコバルト触媒(Cobalt Catalyst for Oxygen Evolition)

燃料電池や太陽エネルギーの利用を含めて、多くの重要なエネルギー技術の広範なる実施には「酸素電極の問題」が課題である。白金電極はこの問題を克服し、低エネルギーで水を酸化して酸素を迅速に作ることが出来る。しかしながら、白金の資源不足とコスト高により代替触媒の研究が急務である。KananとNocera(p.1072、7月31日のオンライン出版)は、Co2+がリン酸カリウム緩衝液の存在下でインジウムスズ酸化物電極上で還元されると、in situでの効率的な水の酸化触媒が形成されることを報告している。Co:P:Kの比が2:1:1から3:1:1の範囲を有する沈殿物が得られ、そして中性のpHで水の酸化反応に活性である。電流発生のpH依存性の解析により、HPO42-がプロトンアクセプターとして作用していることが示された。(KU)
In Situ Formation of an Oxygen-Evolving Catalyst in Neutral Water Containing Phosphate and Co2+
p. 1072-1075.

アデノウイルスによる細胞周期制御(Cell Cycle Regulation by Adenovirus)

アデノウイルスsmall e1aは、網膜芽細胞腫(RB)タンパク質をE2F転写制御因子から転置して、細胞周期関連遺伝子を抑制解除し、p300/CBPヒストンアセチル化酵素を結合することによって、ヒト細胞をS期に至らしめる。p300/CBPとの相互作用がいかに細胞周期を促進しているかははっきりしていない。Horwitzたち(p. 1084)とFerrariたち(p. 1086)はこのたび、e1aとp300/CBPの相互作用が、ヒストンH3リジン18アセチル化(H3K18ac)全体の総体としての減少を引き起こしていることを示している。感染した際には、e1aはヒトのほとんどのプロモーター領域と時間的に順序付けられたやり方で結合し、RBタンパク質の再局在化を引き起こして、抗ウイルス性応答と分化を抑圧し、p300/CBPおよびH3K18acには細胞周期関連遺伝子の活性化をもたらすのである。こうしたデータは、細胞形質転換をもたらし、ヒトの癌に関連している可能性のある後成的再プログラミングの明確なプロセスを明らかにするものである。(KF)
Adenovirus Small e1a Alters Global Patterns of Histone Modification
p. 1084-1085.
Epigenetic Reprogramming by Adenovirus e1a
p. 1086-1088.

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