AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 8, 2008, Vol.321


共輸送体の構造が解った(Symporter Structure Solved)

溶質ナトリウムの共輸送体(SSS)はナトリウムを細胞外に出しながら、同時に栄養素を細胞内に運び込むメカニズムを有する大きなタンパク質のファミリーの一つである。しかし、この共輸送の分子的メカニズムは良く解ってない。今回、Faham たち(p. 810, 7月3日のオンライン出版と、Karpowich とWangによる展望記事参照) は、腸炎ビブリオ菌 (vSGLT)から得られたナトリウムガラクトース共輸送体の構造を決定した。得られた構造はガラクトース結合を持ち、ゲート用の残基によって外に出ることをブロックするための構造を持った内向きの高次構造を有している。驚いたことに、この核の構造は、神経伝達物質のナトリウム共輸送体(NSS)ファミリーであるLeuTの核構造と類似しているが、SSSと類似したような有意な配列類似性を持ってない。LeuT構造に基づくと、外向きの高次構造は腸炎ビブリオ菌 (vSGLT)のためにモデル化され、生物物理学的データと一緒に考えると能動輸送のメカニズムに関する洞察を与えてくれる。(Ej,hE)
The Crystal Structure of a Sodium Galactose Transporter Reveals Mechanistic Insights into Na+/Sugar Symport
p. 810-814.
STRUCTURAL BIOLOGY: Symmetric Transporters for Asymmetric Transport
p. 781-782.

信頼に対する疑念(A Question of Trust)

境界性人格障害 (BPD)患者は社会的関係を維持することが困難である。King-Casas たち(p. 806;およびMeyer-Lindenbergによる展望記事参照)は、BPD患者が健康な参加者たちと一緒に経済的交換ゲーム(いわゆる信頼ゲーム)に参加した時の行動と神経活動を研究した。患者たちは、必要とされる信頼レベルを保持することが健康な人たちよりも困難で、受託者は健全な取引によって投資が3倍になった場合の支払いを少なめに支払うため、投資する人が負うリスク額より少なめに払い戻す。さらに、患者はこのようにして出来た信頼の亀裂を修復すること---このような場合、ゲームに協力的な場合にはいつもより余計に寛大な支払いを投資者に戻すことが必要であるが---が不得意である。これらの行動と関連して患者の脳の前側島領域の神経活動から、患者は、不信(低い投資)に対するよりも高い信頼のプロセス(高い投資)を行っているようには見えない。(Ej,hE)
The Rupture and Repair of Cooperation in Borderline Personality Disorder
p. 806-810.
PSYCHOLOGY: Trust Me on This
p. 778-780.

惑星系誕生のモデリング(Modeling the Birth of Planetary Systems)

多数の惑星系が他の恒星の周りに発見されている。これらの惑星系の多くでは母星のすぐ近くを巨大惑星が回っているが、異なる配置を示す惑星系もある。Thommes たち (p.814; Papaloizou による展望記事を参照のこと) は、原始恒星円盤からの惑星の最初の形成から、その後のそれらの進化の全過程を調べるための惑星系進化モデルを提出している。そのモデルでは、広範な分布が可能であることが確認されたが、最終の分布は、初期の原始恒星円盤の粘性率と密度に特に敏感であることが示唆されている。さらには、われわれの太陽系のような惑星系の幾何配置が生まれることは、珍しいことのように思われる。(Wt,nk)
Gas Disks to Gas Giants: Simulating the Birth of Planetary Systems
p. 814-817.
ASTRONOMY: Planetary System Formation
p. 777-778.

ナノスケールの標準(Nanoscale Standards)

ナノスケール材料を創る際の課題は、最終的な製品の均一性を確保できるよう全体のサイズを制御できるようになることである。Yinたち(p824)は、プログラミングにより一本鎖DNAモチーフからあらかじめ定められた外周を持つ単分散分子チューブを得る方法を報告している。ポートとノードの相補的な関係指定する簡単な(分子)プログラムを用意することで、DNA鎖が自己組織化により大きなチューブ構造を作り上げる方法を制御できる。このプログラムにより、固有の直径を有し軸方向に成長可能なチューブが原材料であるDNA鎖から得られた。(NK)
Programming DNA Tube Circumferences
p. 824-826.

スピン・状態を平坦にすること(Flattening the Spin Landscape)

量子情報処理と量子計算を構築するための基本構築ブロックとして、量子ドットは魅力的な候補である。しかしながら、その材料として選ばれたガリウム砒素では、ガリウム原子による変動する大きな磁気的バックグラウンド状態が問題となっている。個々の電子は百万個以上のバックグラウンド・スピンと結合しており、結果的にデコヒーレンスを生じさせ、スピン寿命が数ナノ秒以内となる。Reillyたち(p. 817、7月10日オンライン出版)は、一連の慎重に付される電圧パルスによりバックグランド.スピンの影響を軽減でき、それによってマイクロ秒以上のスピン寿命(位相緩和時間で測定される)を可能にすることを示している。寿命を伸ばせれば、量子ドットに数百万の演算を実行させる未来への道を提供するはずである(hk,KU,nk,hE)
Suppressing Spin Qubit Dephasing by Nuclear State Preparation
p. 817-821.

3つに割れる(Breaking in Three)

二分子反応は結構頻繁にあるが、3つの異なる分子が同時に合併することは稀にしか生じないことは、単に衝突の確率を考えただけでも容易に理解できる。では、この逆プロセスはどうだろうか?エネルギーが注入されたとき、3つの化合物に分解するにはどんな因子が働くだろう?Savee たち(p. 826) は、この疑問を量子力学レベルで、sym-トリアジン(sym-triazine)の解離について実験と理論的研究を組み合わせて探索した。HC と Nの部位が交互に存在する6方晶系の化合物は、3つのHCN生成物に分かれる。このとき、2つの競合する反応経路に分かれることが観察された--1つは結合が全部同時に切れる場合、他方は結合が順次切れる場合--が、これは初期の電子励起状態の分布の性質に基づく。(Ej,hE,KU)
The Role of Excited-State Topology in Three-Body Dissociation of sym-Triazine
p. 826-830.

火星の石(Mars Rocks)

構造中に水を含む粘土鉱物は火星の最も古い地域に観察されていた。火星探査衛星からの新しい分光学的な観測によると、これは1画素の解像力が18メートルの高解像であるが、いくつかの粘土鉱物の分布をマッピングすることが可能であり、その結果、火星の最も古い谷の流出域での一連の変質過程が明らかになった。Bishop たち(p. 830) によると、最も古い岩石は、鉄やマグネシウムに富む大量のスメクタイト(smectite)を含んでおり、層序学的には上部の岩石はもっとアルミニウムに富む粘土鉱物や水和シリカで、多量のカオリナイトやモンモリロナイトを含んでいる。これらの差がホストの岩石の異なる組成や、長年に渡る地下水の分布や化学的変化を反映していると思われる。(Ej, hE,tk)
Phyllosilicate Diversity and Past Aqueous Activity Revealed at Mawrth Vallis, Mars
p. 830-833.

性の遺伝学(Genetics of the Sexes)

性の決定は植物における基礎的な生物学的形質であって、交配系の進化や、また、多くの作物種における果実やハイブリッド種子の産生にも、直接的に結び付くものである。雄性生殖器と雌性生殖器の比率が変化することは、植物においてありふれたものであるが、その根底にある遺伝学は一般にあまりわかっていない。雄性両全同株性の植物というのは、雌雄同体の花と雄性の花の双方をもつものだが、植物のさまざまな多数の種で観察される。Boualemたちはこのたび、メロン(Cucumis melo)において、雄性両全同株性(a)座位が、アミノシクロプロパン-1-カルボン酸合成酵素遺伝子(ACS)をコードしていることを明らかにした(p. 836)。このCmACSタンパク質は、植物の生殖器官発生に影響を与えるエチレンの合成において重要なのである。(KF)
A Conserved Mutation in an Ethylene Biosynthesis Enzyme Leads to Andromonoecy in Melons
p. 836-838.

視野に入ってきた軸索の先導(Axonal Pathfinding in Sight)

およそ1000人に1人が、Duane退縮症候群(DRS)で苦しんでいる。これは複雑な先天性眼疾患で、眼を外向きあるいは内向きに移動させる能力が制限されるということで特徴付けられる疾患である。この条件は、頭蓋性運動ニューロンによる外眼性筋肉の神経支配の欠陥によって引き起こされると考えられているが、これはおそらく、胚形成の初期に起きているものである。Miyakeたちはこのたび、この仮説を強く支持する遺伝的証拠を提供している(p. 839、7月24日のオンライン出版)。DRSのある変異体を有する家族を調べて、著者たちは、この障害の原因となる変異が、以前マウスにおける皮質脊髄神経の軸索誘導に関与しているとされたRacGAPシグナル伝達タンパク質、α2-chimaerinをコードする2番染色体上のある遺伝子の内部にあることを発見した。ヒトの変異ではα2-chimaerinが過敏になり、ニワトリ胚モデルにおける変異タンパク質のケースでは、実際に動眼性の軸索発生が破壊された。(KF)
2-Chimaerin and Cause Duane's Retraction Syndrome
p. 839-843.

自己免疫のフェイルセーフ戦略(Autoimmune Fail-Safe Strategy)

免疫系は、身体に入ってくる外来性の抗原を検出し破壊すると同時に、生物体自身の抗原を破壊すること、すなわち自己免疫疾患を引き起こしうるプロセスを回避しなければならない。この目的のために、胸腺にある延髄性上皮細胞は、これら自己抗原の多くの発現を促進する自己免疫性制御装置(Aire)遺伝子を発現する。免疫細胞が胸腺内で成熟するにつれ、それら自己抗原を認識するものは除去されていく。Gardnerたちはこのたび、循環する免疫細胞が免疫寛容性を維持し続けられるようにする、リンパ節と脾臓にある補助的システムを記述している(p. 843; またKyewskyによる展望記事参照のこと)。この寛容性を達成するために、Aire遺伝子がトリガーとなって、末梢性リンパ器官の上皮に異なった配列の自己抗原を発現する。そこでは、Aire-発現細胞と自己反応性T細胞との間で抗原特異性の相互作用が生じ、おそらくは、胸腺中での除去から逃れたいかなる自己反応性T細胞も除去されるようにしている。(KF,KU)
Deletional Tolerance Mediated by Extrathymic Aire-Expressing Cells
p. 843-847.
IMMUNOLOGY: A Breath of Aire for the Periphery
p. 776-777.

気づくことは覚えること(Noticing Is Remembering)

ヒトの視覚の作業記憶についての支配的なモデルでは、同時に表現できるオブジェクトは3つか4つだけだということになっている。それぞれの視覚的オブジェクトは、シーンに存在する項目(モノ)の数の関数として、いったいいかなる精度で格納されているのだろうか? BaysとHusainは、複数の視覚的モノの位置と向きを、その刺激配列が短期間消された後でも覚えていられる能力を、ヒトを被験者にしてテストし、視覚の作業記憶が柔軟に資源を割り当てられていることを発見した(p.851)。あるオブジェクトへ向かって眼球運動を行うこと、すなわちそれに対する隠れた注意を向けることによって、記憶資源の大きな部分がそのオブジェクトに振り向けられることになり、、同一シーン中の他のオブジェクトよりもその存在の記憶に、より高い精度がもたらされることになるのである。(KF)
Dynamic Shifts of Limited Working Memory Resources in Human Vision
p. 851-854.

強誘電性高分子による冷却(Cooling with Ferroelectric Polymers)

磁気熱量効果は、磁場方向を乱雑にする印加(load disorder)により磁区(magnetic domains)が熱を吸収し、そして外部磁場(external field)により再度磁場方向を揃えるというサイクルを行うことで物質を冷却するために長く開発が続けられてきた。これと同様な方法にて、電場(強誘電体)によって分極(polarization)が大きく変化する幾つかの物質は、磁気熱量効果と類似した電熱効果を示す。しかし、室温に近い温度のセラミック物質では、そのエントロピーの等温変化(isothermal changes)は磁気熱量効果物質ほどには高くはない。Neeseたち(p.821)は、フッ化ビニリデン(vinylidene fluoride)とトリフロロエチレン(trifluoroethylene) の共重合体が、70℃において55J/K・kgという値の大きな等温エントロピー変化を示し、この値は強誘電体-常誘電体の相転移(ferroelectric-paraelectric transition)以上である事を報告している。分極の乱雑さ(disorder)を増すクロロフッ化エチレン(chlorofluoroethylene)のようなバルクなな単量体を加えた3 種類の単量体から成る3元重合体(terpolymer)はリラクサ強誘電体(relaxor ferroelectric)として振舞い、同じような効果が室温近くで達成された。(TO,KU)
Large Electrocaloric Effect in Ferroelectric Polymers Near Room Temperature
p. 821-823.

茶色の新しい炭素質物質(Brown: The New Black)

大気中のエアロゾルは、それがもたらす放射強制力(radiative forcing)によって、気候に有意な影響を与えている。炭素質粒子によってもたらされる放射強制力についての我々の理解とモデル化の多くは、そうしたエアロゾルを光反射性の有機物と光吸収性の煤(すす)、すなわち黒色炭素との2成分の混合物であるとみなす、単純な表現に基づいている。Alexanderたちはこのたび、実際の状況はもっと複雑であることを示した(p. 833)。東アジア-太平洋流出内の黄海上から収集された遍在するエアロゾル中の炭素球は、色が茶色で、黒くはなかった。このことによって、こうした型の汚染による放射強制力の評価が変わることになるだろう。(KF,Eh)
Brown Carbon Spheres in East Asian Outflow and Their Optical Properties
p. 833-836.

線条体シナプスの調節(Modulating Striatal Synapses)

線条体中のグルタミン酸性シナプスの可塑性におけるドーパミンの役割は、基底核の機能とドーパミン-依存的な報酬機構についての我々の理解において、中心的なものである。それらシナプスにおける長期増強(LTP)と長期抑圧(LTD)は、D1およびD2ドーパミン受容体それぞれに依存的であると考えられている。しかしながら、線条体におけるLTPとLTDの仕組みについては議論の余地がある。トランスジェニックマウスからの脳切片を用いて、ShenとSurmeierは、LTPとLTDがD1-およびD2-発現ニューロンの双方において生じうるが、それは違った分子機構によるものだ、ということを示している(p. 848)。可塑性のドーパミン作動性調節は、受容体あるいは細胞型によって特異的である。この知見は、双方向的な可塑性の制御が、以前断定されていたように一枚岩の仕組みを介して行われるのではなく、発現されたドーパミン受容体のサブタイプに依存した細胞型特異的機構によるものであることを示唆している。(KF)
Dichotomous Dopaminergic Control of Striatal Synaptic Plasticity
p. 848-851.

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