AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 25, 2008, Vol.320


私を曲げてください、そしてまた私を伸ばしてください(Bend Me, Stretch Me)

柔軟性を特徴とする電子回路部品は、導電性の有機材料を使って開発されているが、それらのパフォーマンスは無機材料に比べると大変劣っている。Kimたち(p. 507,3月27日にオンラインに出版)は、シリコンのナノリボンを薄いプラスチック基板あるいは弾性のある基板と結合する方法を開発し、電気的パフォーマンスを犠牲にすることなくロバストで柔軟性があり、そして曲げることが可能な電子回路部品を作り上げた。それらの設計上の鍵は、デバイス全体を大きく曲げてもその電子回路部品の層が殆んど応力がかからない中立屈曲平面にあるということである。(hk)
Stretchable and Foldable Silicon Integrated Circuits
p. 507-511.

Fish Canyonの凝灰岩の精密な年代決定(Dating Fish Canyon Tuff)

汎用的に利用されている Ar-Ar法による正確な年代決定には標準が必要であり、標準そのものの不確かさが約1%ある。つまり、1億年当たり百万年の誤差となる。この精度を改善する1つの方法は、地球軌道の周期的変動の影響が何種類も周期的パターンとして保存されている堆積物の層状系列から天文学的な年代決定をこのような石に与えることである。Kuiper たち(p. 500; およびKerrによるニュース記事参照) は、地質学的標準の一つであるコロラドのFish Canyonの凝灰岩について比較を行い、年代の不確定性を約0.1%に減少させた結果、標準として使えるもっと古い時代が明らかになってきた。この発見によって、いくつかの隕石とK-T境界の年代の見直しがされた。(Ej,hE,nk)
Synchronizing Rock Clocks of Earth History
p. 500-504.
GEOCHEMISTRY: Two Geologic Clocks Finally Keeping the Same Time
p. 434-435.

北極の雨(Arctic Rain)

地球温暖化は世界中の降雨パターンと降雨量を変えることが予想されているが、このような変化を検知することも難しいが、これを人為活動の所為にすることも難しい。降雨パターンが最も大きく変わることが予想されている地域は北極である。また、北大西洋の反転海洋循環への影響の大きさの観点からも、北極は特別の興味があり、気候に対する基本的な制御を与えている。Min たち(p. 518) は、22の関連気候モデル(coupled-climate models)からのシミュレーションと観測から、55度以上の高緯度北部地域では降雨量は過去50年間に大きく増加したことを結論付けた。人間活動の影響は、以前の報告でなされた北極の河川の流入量増加や、海面の淡水化の増加に整合しており、今回、人間活動が環境を変えていることを再確認した結果となった。(Ej,hE)
Human-Induced Arctic Moistening
p. 518-520.

宇宙のダストを調査する(Exploring Space Dust)

カルシウムとアルミニウムの酸化物(calcium and aluminum oxides, CAIs)の豊富な粒子は、私たちの太陽系星雲で最初に凝縮した物質の一部であると考えられている。最も古い隕石はこれらの粒子をおよそ 10% 含んでいる。Sunshine たち (p.514, 3月20日にオンラインで出版された; Burbine による展望記事を参照のこと) は、これらの粒子の実験室でのスペクトルといくつかの小惑星から得られたスペクトルと比較し、これらの小惑星は 30% のCAIを含んでいる可能性のあることを示している。CAI の高い存在量は、これらの天体が私たちの太陽系のごく初期に形成されたことを示しており、そして、もしそうであるならば、この時代を反映するような他の物質がそれらの小惑星に存在するかどうかをさらに調べることは価値のあることであろう。(Wt,nk)
Ancient Asteroids Enriched in Refractory Inclusions
p. 514-517.
PLANETARY SCIENCE: Identifying Ancient Asteroids
p. 457-458.

未来の紙(Beyond Carbon Paper)

コルクが圧縮されたり伸ばされたりするとき、横方向への変形はほとんど生じないが、これはコルクのポアソン比がほぼゼロであることによる。ほとんどの物質のポアソン比はプラスであるが、ポリマーでできた多孔質物のようなわずかな物質はマイナスであるため、この物質が引っ張られたときこれと直交する横方向に拡大する。Hall たち(p. 504) は、単壁・多壁カーボンナノチューブの混合物から、紙に似た物質を作ったことを報告した。多壁カーボンナノチューブの割合を変化させることで、紙面内方向のポアソン比をプラスからマイナスにまで変えられることを述べている。紙の成分に応じて曲げと伸張が調整可能となるこの現象は、単純なモデルで記述できるだろう。(Ej,hE)
Sign Change of Poisson's Ratio for Carbon Nanotube Sheets
p. 504-507.

固定すること (Location, Location)

合理的な薬剤設計には、往々にして病理学的経路中の特殊なステップに関する低分子阻害剤の生成が含まれる。Rajendranたち(p.520)は、アルツハイマー病の病理学の鍵となる事象に関する阻害剤の設計を記述しているが、この事象とはある特定の細胞内膜で生じるもので、即ちエンドソーム内のアミロイド前駆タンパク質のβ-分泌酵素介在による切断である。精製されたβ-分泌酵素を抑制する遷移状態の阻害剤は、細胞の前後関係においてβ-分泌酵素を抑制することができない。しかしながら、全く同じ阻害剤を膜へ固定すると、エンドソームへの阻害剤の輸送を促進し、そして培養された細胞とマウスとショウジョウバエの二つの動物モデル系の双方において、β-分泌酵素を効率的に抑制することができた。(KU)
Efficient Inhibition of the Alzheimer's Disease β-Secretase by Membrane Targeting
p. 520-523.

脊髄性筋萎縮症におけるプラスチンの防御(Plastin Protection in SMA)

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、患者の半数を超える幼児の早い死へと導く神経筋疾患である。この病気は生存する運動ニューロン遺伝子1(SMN1)のホモ接合型欠損により引き起こされるが、この病気の重症度は高度に相同性のSMN2遺伝子のコピー数によって影響される。しかしながら、稀なケースで、同一のSMN1の変異,同一のSMN2のコピー数、及び同一のハプロタイプを持つ兄弟姉妹が全く異なる表現型を示す:ある者は影響を受け、ある者は全く無症候である。この不一致は、SMAに対して防御する非依存性の変更因子の影響を示唆している。SMA不調和の6家族からのRNAを用いた発現差異分析から、Opreaたち(p.524)は、SMAに対する防御的修飾因子の候補としてプラスチン3を同定した。SMA表現型におけるプラスチン3の影響は発現の可変性に依るもので、これは、主に処理因子によってトリガーされる。(KU,hE)
Plastin 3 Is a Protective Modifier of Autosomal Recessive Spinal Muscular Atrophy
p. 524-527.

個体特有の臭い(Distinctive Individual Smells)

多くの動物において、フェロモンは社会的なコミュニケーションとして重要な役割を果たしている。動物の状態に関する多くの情報が尿のフェロモン複合体成分で表現されている。マウスにおいて、鋤鼻器官(VNO)によるこれら複合体の化学シグナルの検出により、内分泌の変化を嗅ぎつけ、そして型にはまった生得的な行動を誘発する点で重要な役割を果たしている。Heたち(p.535)は遺伝的にコードされた蛍光センサーを用いて、神経細胞受容体の動力学を調べるシステムを開発した。彼らは、VNOニューロンに関する異なった集団を観測し、これらの集団がメスとオスの尿シグナルに特異的に応答していた。マウスの系統認識や個々の認識はニューロン集団を横切る組み合わさった活性化により決定されていた。これらの組み合わさった活性化は特有のものであり、個々の動物が区別され、認識が可能となる。(KU)
Encoding Gender and Individual Information in the Mouse Vomeronasal Organ
p. 535-538.

表面ホスファチジルセリンの活用(Exploiting Surface Phosphatidylserine)

多くの動物は、原形質膜の外側の葉状器官(leaflet)上にあるリン脂質、ホスファチジルセリン(PS)の存在を利用して、アポトーシス細胞を認識し、食作用性の貪食によってそれを破壊している。この課題について、2つの論文が正常細胞において、またウイルス感染の際にPSによって演じられる別々の役割を説明している(FairnおよびGrinsteinによる展望記事参照のこと)。Darland-Ransomたちは、線虫における1つの酵素、アミノリン脂質転位酵素1(TAT-1)を同定したが、これは通常PSを原形質膜の内側に制限するものらしい(p. 528)。TAT-1を欠く動物は細胞表面上のPSを増加させ、またアポトーシス細胞の除去に関与するPS受容体の1つ、PSR-1に依存したプロセスで、動物からランダムに細胞が失われる。MercerとHeleniusは生細胞イメージングを用いて、ワクシニアウイルスの組織培養細胞への侵入を追跡した(p. 531)。ウイルスは最初、アクチン豊富な細胞表面突起である糸状仮足に結合し、それに沿ってウイルスが細胞体へと進行する。細胞体のところでは、この入ってくるウイルスはそれ自体の取り込みを刺激するが、これはウイルス膜上のPSの存在によって、アポトーシス細胞の死体の取り込みを模倣しているわけである。(KF)
CELL BIOLOGY: A One-Sided Signal
p. 458-460.
Role of C. elegans TAT-1 Protein in Maintaining Plasma Membrane Phosphatidylserine Asymmetry
p. 528-531.
Vaccinia Virus Uses Macropinocytosis and Apoptotic Mimicry to Enter Host Cells
p. 531-535.

統合失調症の遺伝学(Genetics of Schizophrenia)

統合失調症のような複雑な障害には遺伝的要素もあるが、関与するそうした遺伝的要素を同定することは非常に困難であった。Walshたちは、統合失調症の患者150人に、対照群に比較してずっと頻繁に生じている、個々には稀な複数の構造上の変異(ゲノムの微小欠失および微小重複)を発見した(p.539、3月27日オンライン出版)。この変異の濃度は、統合失調症一般のケースで3倍以上であり、18歳までに生じたケースでは4倍以上だった。統合失調症患者におけるこうした変異のゲノム限界点によって破壊される遺伝子はランダムではなく、神経細胞のシグナル伝達および脳発生を制御する経路のメンバーに不釣合いなほど偏っていたのである。(KF)
Rare Structural Variants Disrupt Multiple Genes in Neurodevelopmental Pathways in Schizophrenia
p. 539-543.

動物の自家不稔性能遺伝子(Animal Self-Sterility Genes)

自家不稔性は、 雌雄同体の植物や動物に広く見られるものである。植物における自家不和合性システムについては洞察が様々になされてきたが、動物におけるメカニズムについてはそれほど分かってはいない。Haradaたちはこのたび、雌雄同体の脊椎動物ユウレイボヤにおける自家不稔性が2つの遺伝的座位によって制御されていることを示している(p. 548、3月20日オンライン出版)。自己/非自己を識別する配偶子の相互作用は、卵外被上のフィブリノーゲン様のリガンドと、遺伝性ヒト疾患の原因である遺伝子の相同体である精子由来のポリシスチン1様の受容体とのアレル特異的な分子相互作用を基盤にして生じている。この受容体とリガンドの遺伝子は関連があり、また多形性であって、植物における自家不稔性遺伝子と似ている。(KF,hE)
Mechanism of Self-Sterility in a Hermaphroditic Chordate
p. 548-550.

近接場のゾーンプレートにおける集光(Spot-on for Near-Field Zone Plates)

光学において、ゾーンプレートは光の位相はずれの成分を除去して焦点をシャープにする。しかしながら、その焦点は通常、波長での制限があり、かつ回折限界がある。最近、パターン化された表面構造に基づく設計が提案されており、そこでは近接場の成分は光学軸の下側に焦点を結ぶであろう。Grbicたち(p.511)は、この提案に関する実験的な確証を与えており、1GHzの電波で、波長の1/20の大きさの焦点を結ばせたと報告している。これは、波長より細かい精度での画像化というかなりの潜在的応用が期待される分野における重要な進展である。(KU)
Near-Field Plates: Subdiffraction Focusing with Patterned Surfaces
p. 511-513.

機能的遺伝子クラスタリング(Functional Gene Clustering)

オキシドスクアレン(Oxidosqualene)環化酵素(OSC)遺伝子は、トリテルペン生合成において決定的な役割を果たしている。シロイヌナズナには13個のOSC遺伝子がある。これらのOSC遺伝子を囲む遺伝子を分析して、FieldとOsbournは、トリテルペン生合成に関与する酵素をコード化する遺伝子がクラスターになっている4つのケースを発見した(p. 543、3月20日オンライン出版)。変異体とメタボロミクスの組み合わせを用いてのクラスターの1つの研究によって、それが、アブラナ属に特異的なトリテルペンの1つであるthalianolの生合成に関与する酵素すべてをコードしていることが明らかにされた。さらに、このクラスターはカラスムギのそれのオルソロガスではなく、このことはそれが独立に始まったものだということを示唆するものである。(KF)
Metabolic Diversification—Independent Assembly of Operon-Like Gene Clusters in Different Plants
p. 543-547.

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