AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 21, 2008, Vol.319


古代の大腿骨の秘密(Secrets of an Ancient Thigh Bone)

現代の人類に直接つながる中では最も早期の化石である、オロリン・トゥゲネンシス(Orrorin tugenensis)の600万年前の大腿骨は、ケニアで2000年に発見されて以来、その機能的、系統発生的な意義について議論が戦わされてきた。Richmond and Jungers (p. 1662;Gibbonsによるニュース記事も参照)は、現代人や、現生の類人猿の大腿骨とヒト科の化石大腿骨を形態計測による比較解析を行い、オロリンの大腿骨は2足歩行に適応していたことを確認・明らかにした。このオロリンの大腿骨は、2〜3百万年前のアウステラロピテクス(Australopithecus)とパラントロプス(Paranthropus)の大腿骨に良く似ており、オロリンはアウストラロピテクスよりはホモサピエンスに近いとする仮説とは矛盾する。オロリンの大腿骨の形状からは、アウステラロピテクス的な股関節の生体力学的パターンはヒト進化の過程においてきわめて早い時期に進化し、400万年もの長期間、安定な歩行運動の様式としてヒト進化の大部分の期間、持続していたことを強く示唆している。(Ej,hE,nk)
Orrorin tugenensis Femoral Morphology and the Evolution of Hominin Bipedalism
p. 1662-1665.
ANTHROPOLOGY: Millennium Ancestor Gets Its Walking Papers
p. 1599-1601.

小さな鉱物だが大きな意義(Small Minerals, Big Implications)

多くの地質学的プロセスには鉱物同士の反応や、鉱物と表面水や地下水、或いは空気との反応が関与している。また、サイズが1マイクロメートル以下の鉱物(ナノ鉱物)が重要な反応に寄与していることが理解され始めた。今回2つのレビュー記事は、結晶のサイズがいかに鉱物の性質に影響を与えるかについて議論している。Hochella たち(p. 1631) は、これらナノ鉱物に対する知見やその生成、及びその地質学的プロセスへ潜在的意味合いをまとめた。Navrotsky たち(p. 1635) は、その中でも最も重要で普遍的に見られる酸化鉄の熱力学と安定性に焦点を当てている。(Ej.hE)
Nanominerals, Mineral Nanoparticles, and Earth Systems
p. 1631-1635.
Size-Driven Structural and Thermodynamic Complexity in Iron Oxides
p. 1635-1638.

拡散の暴走(Diffusion in Overdrive)

結晶中の不純物原子は熱的な駆動を受けるが、完全結晶の場合はこのプロセスはかなり遅い。しかし、転位や粒界の存在によって拡散が加速される例は数多い。Legrosたち (p. 1646) は、アルミニウムの薄膜内部にあるケイ素微粒子の動きを測定し、直接パイプ拡散(pipe diffusion)を観察した。その中で、アルミニウム中の転位はケイ素が高速に移動できる通路の役目をしていた。バルクの拡散に比べ、拡散は3桁も加速され、パイプ拡散の理論を裏付けた。(Ej,hE,nk)
Observation of Giant Diffusivity Along Dislocation Cores
p. 1646-1649.

タイタンの回り方(How Titan Turns)

タイタンは土星の最大の衛星であり、氷の地殻と高密度な大気で覆わ れている。Lorenz たち (p.1649; Sotin と Tobie による展望記事を参照のこと) は、数年にわたるカッシーニ探査機のレーダー観測を用いて、タイタンの回転周期が その軌道周期と異なることを示している。これは、惑星とその大気との間での季節的な角運動量交換があることを意味している。この角運動量交換をモデル化するには、木星の衛星であるエウロパのように、液体の大洋で分離された地殻とコアを含んだタイタンの内部モデルが必要となる。(Wt,tk)
Titan's Rotation Reveals an Internal Ocean and Changing Zonal Winds
p. 1649-1651.
PLANETARY SCIENCE: Titan's Hidden Ocean
p. 1629-1630.

ガラス中の古代の火山性ガス(Ancient Volcanic Gas in Glass)

白亜紀末期に起こったデカントラップ(the Deccan traps)のように、洪水玄武岩(flood basalt)を形成するような、大規模な火山噴火による気候への影響を評価することは困難であった。 というのも、大部分のマグマのガス含有量に関するデータ不足が一因となっており、それは噴出した玄武岩のほとんどは結晶形成やあるいは後の変成作用の際に、ガスが抜き去られているからである。Selfたち(p. 1654; Scailletによる展望記事参照)は、デカン玄武岩の多くの標本を選別し、デカンマグマの原始の硫黄と塩素の含有物の情報を保持している、結晶中のガラス包有物(glass inclusion)、あるいはガラス状の縁(glassy rims)を保存しているいくつかの標本を見つけた。この結果は、デカン玄武岩からは、最近人為的に全世界で放出された硫黄放出率より一桁上かそれ以上の割合で数十年か数世紀間にわたり、膨大な量の硫黄を放出したことを示している。(TO,nk)
Sulfur and Chlorine in Late Cretaceous Deccan Magmas and Eruptive Gas Release
p. 1654-1657.
GEOCHEMISTRY: Are Volcanic Gases Serial Killers?
p. 1628-1629.

低磁場でのマルチフェロイック(Low-Field Multiferroics)

固体の磁気特性を電気的の操作できれば、デバイスの機能向上に大きな可能性がもたらされる。特に興味ある材料とは、電気双極子モーメントと磁気双極子モーメントを結ぶ電磁気(ME)応答が結晶対称性の固有の特性であるような材料である。しかしながら、今までこのような材料のME効果は大きな磁場と低温においてのみ知られていた。Ishikawaたち(p.1643)は、キラルなスピン構造を有するヘキサフェライトBa2Mg2Fe12O12に関する結果を報告しており、非常に低い30ミリテスラの磁場で電気分極を操作できることを示している。(KU)
Low-Magnetic-Field Control of Electric Polarization Vector in a Helimagnet
p. 1643-1646.
   

初期の多細胞生物を探る( Insights into Early Multicellular Life)

多細胞生物は先カンブリア時代後期に初めて現れたが、多くの化石の類縁関係(affinity)や体質(habits)は依然として不可解である。DroserとGehling (p.1660;Xiaoによるブックレビュー参照)は、これまで多くの化石が見つかっているオーストラリア南部のフリンダース・レーンジズ(Flinders Ranges)のエディアカラ(Ediacara)で、特に豊富にある管状生物(tubular organism)について新たに論じている。その管状生物の化石は全長30センチメートルで直径は12ミリメートルであり、より小さな単位から構成され、そしていくつかの化石は枝分かれ(branching)をしており、成長への多様なモード(multiple modes)が表れている。その化石は、堆積層(sediment substrate)への連結構造(attachment structures)を表しており、おそらく刺胞動物(Cnidarian)あるいは海綿動物(Poriferan)の幹-グループ(stem-group)であることを示している。(TO)
Synchronous Aggregate Growth in an Abundant New Ediacaran Tubular Organism
p. 1660-1662.
PALEONTOLOGY: Rise and Demise of Ghostly Animals
p. 1618-1619.

人間の海馬における機能的分化(Functional Differentiation Within the Human Hippocampus)

人間の脳の側頭葉における構造は陳述的記憶(事実とイベント)を支持する。この構造がどのように相互に動作しているのかは不明である。ネズミを対象した最近の研究により、CA3領域と歯状回におけるパターン分化プロセスが観察された。高分解能の脳イメージングを用いて、Bakkerたち(p. 1640; Leutgebによる展望参照のこと)は、人間の脳においてこの動作を分析し、パターン分化とパターン完成プロセスに対して、中央側頭葉のニューロン間の活性パターンの変化を推測する手法を開発した。ネズミのデータと顕著な類似点として、CA3と歯状回における強いパターン分離が観察された。一方、海馬のCA1領域、海馬台、嗅内、及び海馬傍回の皮質において、パターン完成プロセスを観察した。(An)
Pattern Separation in the Human Hippocampal CA3 and Dentate Gyrus
p. 1640-1642.

黄色ブドウ球菌のラジカル回避戦略(Radical Avoidance Strategy)

黄色ブドウ球菌は、耐抗性物質の結果として感染が増加する重症感染症の原因である。非常に密に関係する共生種と異なり、黄色ブドウ球菌は宿主防御応答の間に遊離されるNOによるダメージの影響を抑制し、そして回避する。Richardsonたち(p.1672,表紙参照)は、フリーラジカル除去機構に加えて、黄色ブドウ球菌が誘導性のL-乳酸脱水素酵素を持っており、これにより他のより感受性の酵素がさえぎられてもNO被曝の間グルコース代謝をもっぱらL-乳酸へと転換していることを示している。この戦略により、宿主の攻撃にもかかわらず、黄色ブドウ球菌はレドックスのバランスを維持し、病原性を保持し、成長し、そして複製可能となる。(KU)
A Nitric Oxide–Inducible Lactate Dehydrogenase Enables Staphylococcus aureus to Resist Innate Immunity
p. 1672-1676.

欠陥性の足場材料と癌(Faulty Scaffolding and Cancer)

B細胞の分化や生存、及び増殖には、CARD11--シグナル伝達分子に対する結合部位として作用する細胞質の足場タンパク質--を含めた核内因子κB(NF-κB)のシグナル伝達経路の正常なる機能が必要となる。Lenzたち(p.1676, 3月6日のオンライン出版参照)は、拡散性の大きなB細胞リンパ腫のある種のサブタイプ--ヒトにおける最もありふれたタイプの非ホジキンリンパ腫--が、CARD11遺伝子の変異によって生じることを発見した。細胞培養の実験において、このようなCARD11変異形はNF-κB経路の不適切な活性化を引き起こしていた。(KU)
Oncogenic CARD11 Mutations in Human Diffuse Large B Cell Lymphoma
p. 1676-1679.

個々の卵に、場合に応じた注意を(Individual Egg, Individual Attention)

メスのハエは、おそらくは自分たちの子孫の生存を促進するために卵を産み付けるのに適した場所を選んでいる。しかしながら、Yangたちは、卵を産み付けるのに適した場所においてさえ、置かれるべき一個一個の卵に対して、キイロショウジョウバエはステレオタイプの行動の流れに従っているということを発見した(p. 1679)。そうした行動の流れとは、場所を探すかのようなプログラムされた行動、産卵、産卵管の洗浄、等々である。メスは、選択が可能な限りにおいて、ショ糖を含む培地よりは、味のないあるいは苦味のある培地を選択した。しかし、ショ糖だけが唯一利用可能だった場合には、ハエはその上に、しかも他の場合とほぼ同じ数だけ産卵したが、これは、ショ糖が彼らの好みではないにしても、絶対的な拒絶の対象になるわけではないことを示唆するものである。(KF)
Drosophila Egg-Laying Site Selection as a System to Study Simple Decision-Making Processes
p. 1679-1683.

与えるほうがよいのだ('Tis Better to Give)

もはやクリスマスのショッピング・シーズンが終わったので、多くの人は、諺にあるように、もらうより与えるほうが本当に良かったのかを自問自答することができる。Dunnたちはアメリカ人対象の調査の結果を用いて、またボストン地域の企業で支給されたボーナスの実際の使い方のパターンを分析し、さらにお定まりの被験者集団、つまり心理学の学部生、について実験的な操作を行うことで、この疑問に取り組んだ(p. 1687)。これら3つの研究は、学部生の期待に反して、他人のためにお金を使うことは自分のために使うよりもより大きな幸福を生み出すことを示唆するものであった。(KF,nk)
Spending Money on Others Promotes Happiness
p. 1687-1688.

火星での塩化物(Martian Chlorides)

塩化物鉱物は、通常は水や地下水の澱んだ場所での蒸発や、或いは火山性の内部ガス放出によって形成される。このようなプロセスは火星の歴史の初期に起こっていたであろうが、しかしながら認知可能な堆積物が無く問題となっていた。Osterlooたち(p.1651)は、Mars Odysseyに搭載された分光計により、火星の南部高地地域--この地域は火星におけるより古い(37,8億年前)岩石の幾つかが見つかった所--において幾つかの小さな、しかし広範囲な堆積物中に明白なる塩化物堆積物の検知を報告している。それが具体的に何という鉱物かまでは不確かではあるが、その分布や見かけの形状は、蒸発で塩化鉱物が形成された場合に期待されるものとほぼ一致している。(KU,tk,nk)
Chloride-Bearing Materials in the Southern Highlands of Mars
p. 1651-1654.

OHラジカルの第二のソース(Second-Sourcing OH Radicals)

ハイドロキシルラジカルの主要な生成ルートはオゾンの光分解であると考えられているが、ただそれにはいくつかの制限が付き、例えば太陽天頂値が非常に高い極地方では測定値と計算値のOHラジカル濃度に大きな不一致が存在している。Liたち(p.1657;WennbergとDabdupによる展望記事参照)は、電子的に励起したNOと水の反応が対流圏(地表から10km〜20km)のOHラジカルの重要なるソースであり、幾つかの条件下でOHラジカルの50%程度の量を供給していることを示している。この反応は、又、大都市での高濃度の大気中NOxを有する地域での豊富なOHラジカルを理解する重要なる手がかりとなるであろう。(KU,nk)
Atmospheric Hydroxyl Radical Production from Electronically Excited NO2 and H2O
p. 1657-1660.
ATMOSPHERIC CHEMISTRY: Rethinking Ozone Production
p. 1624-1625.

逆説的なシグナル伝達(Paradoxical Signaling)

DNA合成と細胞分裂を刺激するその役割とは対照的に、サイクリン依存性キナーゼCDK1は、非増殖性ニューロンの細胞死を導くシグナル伝達にも関与しているとされてきた。Yuanたちは、CDK1タンパク質キナーゼがFOXO1転写制御因子をリン酸化しており、それによって核内でのFOXO1の蓄積と、FOXO1-依存的レポーター遺伝子の活性化がもたらされる、ということの証拠を提示している(p. 1665)。この結論は、CDK2によるFOXO1のリン酸化がFOXO1の核からの移動を引き起こし、FOXO1-依存的転写を減少させると報じた以前の研究とは対照的である。増殖中の細胞においては、CDK1によって誘発されたFOXO1の活性化が、有糸分裂を制御するのに寄与する別のキナーゼ、polo様キナーゼ(Plk)をコードする遺伝子の発現増加をもたらしていた。こうした結果は、神経細胞変性のよりよい理解をもたらす可能性がある。(KF)
Activation of FOXO1 by Cdk1 in Cycling Cells and Postmitotic Neurons
p. 1665-1668.

筋萎縮性側索硬化症の犯人(ALS Culprit)

筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリッグ病としても知られる)は、事例の5〜10%が常染色体優性で遺伝する、成人発症の致死的な運動ニューロン障害である。ALSの事例の95%の原因ははっきりしていない。TAR DNA結合タンパク質(TDP-43)は、ALSの病理学的特徴であるユビキチン化包含の主要成分である。TDP-43は、大部分、メッセンジャーRNA転写とスプライシングの制御に関与している核タンパク質である。Sreedharanたちはこのたび、イギリスの大きなALS家系におけるTARDBPのエクソン6のミスセンス変異を記述している(p. 1668、2月28日オンライン出版)。この変異は、タンパク質-タンパク質結合とそのスプライソソームの成分との相互作用を仲介する、TDP-43の高度に保存されたC末端領域内に生じている。形質移入された哺乳類細胞系統では、その変異タンパク質は断片化の増加を示し、胚性ニワトリ脊髄に発現するとアポトーシス性の神経系細胞死および胚の発生抑止を引き起こした。TDP-43とALSの間のこうした病態生理学的関連によって、主に孤発性な或る条件での病変形成が解き明かされる可能性がある。(KF)
TDP-43 Mutations in Familial and Sporadic Amyotrophic Lateral Sclerosis
p. 1668-1672.

BDNF+タンパク質合成=シナプス可塑性(BDNF + Protein Synthesis = Synaptic Plasticity)

タンパク質合成は記憶の強化にとって必要とされ、記憶システムを特徴付けるものとして用いられてきた。しかし、タンパク質合成が単一シナプスのレベルでシナプス可塑性を制御できるか、またタンパク質合成が樹状突起棘などのシナプスの構造にどのように影響しているかは、はっきりしていない。Tanaka たちは、シナプス後スパイクと同調した反復性のシナプス刺激が、単一の棘のレベルでの急速かつ長期にわたっての棘の拡大を誘発し、グルタミン感受性を増加させることを発見した(p. 1683、2月28日オンライン出版; またKorteによる展望記事参照のこと)。こうした連合性の概念図式が長期のタンパク質合成依存の変化を生み出している。脳由来の神経栄養因子(BDNF)はシナプス後スパイク発火の効果を模倣し、連合性の刺激の効果をさえぎっているの。つまり、タンパク質合成とBDNFは、シナプス可塑性に伴う棘の形態の変化にとって必要なのである。(KF)
Protein Synthesis and Neurotrophin-Dependent Structural Plasticity of Single Dendritic Spines
p. 1683-1687.
NEUROSCIENCE: A Protoplasmic Kiss to Remember
p. 1627-1628.

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