AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 15, 2008, Vol.319


分子回転モーター(Molecular Rotary Motor)

F1-アデノシン・トリホスファターゼ(アデノシン三リン酸加水分解酵素)は、中央のサブユニットが固定された軸受けの中で回転するATP駆動の分子モーターである。固定子はベアリングの様に働く回転子の底部に対する疎水性のスリーブを提供しており、そこでは、ATP加水分解による力がトルクへ変換される。Furuikeたち(p.955)は、シャフトを切り離し回転ヘッドのみが凹んだ軸受け口に残るようにした。平均回転速度は通常に比べて遅く、動きも時々不規則ではあるが、驚くべきことにそのヘッドは通常の方向に回転するという。固定された軸受けと、頑丈な車軸を与えることで回転効率を高めることはできるが、両者は回転のための必須要素ではない。(NK,KU)
Axle-Less F1-ATPase Rotates in the Correct Direction
p. 955-958.

太陽系より小質量の惑星系の検出(Detecting Less Massive Extrasolar Planets)

天文学者は、われわれの太陽系からずっと遠くにある星の周りを回っている、多数の、そして、さまざまの惑星を発見した。これらの大部分の検出結果は、太陽系内で最も重い天体よりはるかに大質量の天体に関するものである。その主な理由は、それらの検出方法が、軌道をまわる大質量天体にのみ感度があるためである。Gaudi たち (p.927; Kerr によるニュース解説を参照のこと) は、われわれの太陽の半分の質量の星の周りを回る、木星よりも小質量の二つの惑星を観測したことを報告している。その発見は、重力レンズの改良形によって可能となった。この重力レンズとは、遠く離れた星からの光が地球までの道筋における惑星系によって曲げられるという現象である。(Wt)
Discovery of a Jupiter/Saturn Analog with Gravitational Microlensing
p. 927-930.
ASTRONOMY: Alien Planetary System Looks a Lot Like Home
p. 885.

WIMP の観測可能性をはっきりさせる(Pinning Down WIMP Detectibility)

宇宙の大部分は、ダークマターからなっていると考えられており、それを検出し、特徴を明確にするための新規な方法が捜し求められている。ダークマターの強力な候補の一つは、いわゆる、弱相互作用大質量粒子(Weakly InteractingMassive Particles WIMPs) である。これらは弱い力と重力によって相互作用するが、電磁放射とは相互作用しない。Behnke たち (p.933) は、泡箱--この箱は過熱液体で構成され、粒子がそれを通過するときに生成される熱により泡の列を生み出す--を調整して、WIMPs の存在比に上限を一つの挑戦は、長期的な測定に対して泡箱を安定化させることである(多くの素粒子物理の検出は、ミリ秒の間、継続するだけである)。スピン依存性の WIMPカップリング に対し測定された断面積は、ダークマター検出に関する最近の主張を支持していない。(Wt,KU,nk)
Spin-Dependent WIMP Limits from a Bubble Chamber
p. 933-936.

水素の移動にはまず荷電が先行(Proton Transfer Charged Ahead)

塩化水素からアンモニアへの水素の移動は基本的な酸塩基反応であり、反応は溶液中反応だけでなく、高密度の混合気体でも進行する。しかし、真空中でHClとNH3の分子対を孤立させておくと、水素結合の複合体を形成し、溶液や濃厚ガス状態と比べると共有水素は塩素のより近傍に保持されるEustis たち(p. 936; および、表紙参照)は、光電子分光法と理論的シミュレーションを応用して、水素を完全に移動させるには系にどのくらいの変化を加える必要があるかを探索し、その結果、過剰な電子を一個付加すると水素移動を引き起こし得ることが分かった。出来た複合体は、隣接するCl陰イオンによって分極した中性のNH4のRydberg ラジカル種と見なされる。(Ej,hE,nk)
Electron-Driven Acid-Base Chemistry: Proton Transfer from Hydrogen Chloride to Ammonia
p. 936-939.

有機物のゼオライト類似体によるCO2の捕獲(Capturing CO2 with Organic Zeolite Analogs)

多孔性の金属-有機物からなる枠状構造化合物はガス吸着に有効であり、様々な組み合わせの化合物が可能である。特に、金属原子間の異なるリンカー(結合剤)が同一物質内に取り込まれている場合には。しかしながら、金属−二つの混合したリンカー系において、2つの物質--各々が一つのリンカーのみの相で作られる--が優先的に作られるとことが予期されるであろう。このような潜在的弱点があるにもかかわらず、Banerjee たち(p. 939; および、Serviceによるニュース記事参照) は、Zn(II) 或いは Co(II) 中心とimidazolateや関連したリンカーを用いたコンビナトリアル・マイクロ合成法を使って、4面体の枠構造やゼオライトの形状を持つ多数の結晶性の産物を生成した。25種類の構造のうち、10種類はヘテロリンカーを持ち、5つは、以前に知られてない構造である。また、3つは例外的な熱安定性を持ち(390℃まで)、同時に、通常の条件下でCO/CO2混合物中からCO2を選択的に、かつ高度に取り込む。(Ej,hE,KU,nk)
High-Throughput Synthesis of Zeolitic Imidazolate Frameworks and Application to CO2 Capture
p. 939-943.
CHEMISTRY: Framework Materials Grab CO2 and Researchers' Attention
p. 893.

フォールディングにこだわる(Staying in the Fold)

細胞のタンパク質は、主要タンパク質がミスフォールディングされたり凝集する危険性を常に持っている。さらに、多くの病気が、主要タンパク質のミスフォールディングや凝集によって引き起こされている。Balch たち(p. 916) は、proteostasis(タンパク質の恒常性)機構と呼ばれる、これらの問題と対抗する細胞の機能をレビューした。著者たちは、このproteostasis機構によって将来ミスフォールディングによる病気を治療できる可能性を取り上げた。(Ej,hE)
Adapting Proteostasis for Disease Intervention
p. 916-919.
   

HIVの宿主因子のヒントを得る(Getting a Handle on HIV Host Factors)

HIV-1ウイルスは、それ自身僅かな数のタンパク質しかコードしていないため、宿主の複数の細胞プロセスを利用してウイルスのライフサイクルを全うする。このように、多くの潜在的な宿主の因子がHIV感染に影響しているはずであるが、そのほとんどは未知のままである。Brassたち(p.921,1月10日のオンライン出版;Cohenによる1月11日のニュース解説参照)はゲノム−ワイド低分子干渉性RNAの機能スクリーン法を用いて、数多くのHIV-依存性因子を同定したが、そのうちの幾つかは既知のものであったが、多くは未知のものである。遺伝子の幾つかは更に研究され、そして感染のその後のステージにおいてと同じく、ウイルスの侵入、組み込み、生合成、および組立てに役割を果たしていた。(KU)
Identification of Host Proteins Required for HIV Infection Through a Functional Genomic Screen
p. 921-926.

脅威のもとにある海洋(Oceans Under Threat)

地球規模での海洋の資源管理に関する地域的な優先度を決めるには、世界中の海洋の人間による影響のタイプや程度を評価する必要がある。総ての海洋生態系への最も急を要する陸上と海洋に基づく17種の脅威に関する累積された影響の定量的、大規模の、かつ高分解能での分析により、Halpernたち(p.948)は、海洋のいずれも人間活動の影響を受けていないところは無いということを示している。海洋の1/3は大きく影響を受けており、その影響の空間的な分布は高度に不均一である。最も重度に影響を受けている生態系は、大陸棚、岩礁、サンゴ礁、海草床、および海山である。(KU)
A Global Map of Human Impact on Marine Ecosystems
p. 948-952.

多細胞への途上にあるカドヘリン(Cadherins on the Road to Multicellularity)

初期の生物が、単細胞性のものから多細胞性のものにいかにして移行したかは知られていないが、この過程においては、ある種の遺伝子が重要な役割を担うものとして関わっていたとされている。そうしたグループの1つが、細胞接着や細胞-細胞シグナル伝達において機能するカドヘリン・ファミリーの遺伝子である。単細胞性のchoanoflagellida(エリヒゲムシ目(襟鞭毛虫類))Monosiga brevicollisのゲノムを検討して、AbedinとKingは、M.brevicollisのゲノムが、いくつかの多細胞生物と同じだけの23個もの発現したカドヘリン遺伝子を含んでいることを示している(p. 946)。少なくともカドヘリンのうちの2つは、原虫摂食襟(collar)のアクチンに満ちた微絨毛に局在しており、そこは、細菌性の餌食を認識し捕獲する際に関与している可能性がある。(KF,os)
The Premetazoan Ancestry of Cadherins
p. 946-948.

クモとバッタ(The Spider and the Grasshopper)

捕食者は生態系のダイナミクスをいかにして制御しているのだろう? Schmitzは、牧草地の生態系で、クモとその餌食であるバッタとについて調べ、捕食者の狩のやり方のモードと餌食となる側の反応とを生態系機能の決定要因として同定した(p. 952; またNaeemによる展望記事参照のこと)。活動的に狩をするクモ種(これらをバッタはおおむね無視する)は、植物の種の多様性を減少させる一方、地上の純一次生産性や葉積層の質、窒素のミネラル化比率などを増加させるが、じっとして獲物を待つ待ち伏せ型のクモ種(バッタはそれを回避する)は、逆の効果をもたらすのである。海洋および陸生の生態系における頂点に立つ捕食者は、生物の多様性の構成要素中もっとも早く消えていくものであり、それらが局所的生態系において果たしている役割を理解することは、それらがいなくなることの影響を予想する助けになりうるのである。(KF)
Effects of Predator Hunting Mode on Grassland Ecosystem Function
p. 952-954.
ECOLOGY: Green with Complexity
p. 913-914.

ワルをちょいワルからふるい落とす(Filtering Out the Bad from the Less Bad)

母系から受け継がれたミトコンドリアDNA(mtDNA)変異は、心筋症や神経変性疾患などのさまざまなヒト疾患に関わっている。mtDNA変異は雌性生殖系列内の遺伝的浮動によってランダムに分離されていると想定されてきた。Fanたちは、さまざまな重大さをもつmtDNA変異の表現型の影響をモニターできるよう工夫した、洗練されたマウスモデルを作り出した(p. 958; またShoubridgeとWaiによる展望記事参照のこと)。驚いたことに、もっとも病原性の強いmtDNA変異が雌性生殖系列から速やかに除去される一方、中程度に有害なmtDNA変異は、何世代にもわたって継承されたのである。つまり、雌性の生殖系列はもっとも有害なmtDNA変異を受胎前にふるい落とし、それによって集団の適応度へのその影響を最小化しているのである。(KF)
A Mouse Model of Mitochondrial Disease Reveals Germline Selection Against Severe mtDNA Mutations
p. 958-962.
MEDICINE: Sidestepping Mutational Meltdown
p. 914-915.

練習、練習、また練習! (Practice, Practice, Practice!)

マンハッタンにあるカーネギー・ホールで演奏できるようになるまで、どうやってきたかを尋ねられたときのアルチュール・ルビンシュタインの回答は、実際、他の型の勉強にも応用できるものだ。KarpickeとRoedigerは、スワヒリ語の40単語の意味を学習するタスクを与えられた学部生について調べた(p. 966)。1週間後に行った長期記憶想起の評価によると、すでに学んだ単語を繰り返しテストしていると記憶が増強されていたが、繰り返し勉強するだけでは有益な効果は得られなかった。テストは、英語-スワヒリ語という単語の連想を思い出すことを学生に要求するわけで、このことは、コード化は記憶の形成にとって決定的に重要ではあるが、それだけではその保持ないし強化には十分ではないということを示唆するものである。(KF,nk)
The Critical Importance of Retrieval for Learning
p. 966-968.

表面フォノンのマッピング(Mapping Surface Phonons)

結晶の振動モードであるフォノン(音子、音響量子、音量子とも言う)は、通常バルクなサンプルで分光学的に計測される。Gawronskiたち(p. 930)は走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、極低温条件(5ケルビン)下での金と銅の最密充填(111)面でフォノンモードがマップ化出来ることを示している。非弾性トンネル電子スペクトルは、トンネル電流を電圧で2次微分して測定することによって得られた。著者たちは、二つの金属間で14ミリ電子ボルトという予期したフォノンピークのシフトが起きているのを観測した。原子分解能レベルで観測されたフォノンマップにおける変化は、フォノンモードの励起確率における局所的な振動の結果として起きていた。(hk)
Imaging Phonon Excitation with Atomic Resolution
p. 930-933.

マントルのヘリウムの再評価(Retracing Mantle Helium)

ヘリウムの同位元素はマントルプロセスのトレーサである。地球にある豊富な4Heは放射性物質の自然崩壊により作られる。一方、少量の3Heは地球の形成期間中に捕捉された物質に由来する。加えて、ヘリウムは地球の歴史全体を通して脱気されていた。このように、低い4He/3Heの比を有する火山はより脱気の少ない、そしてより始原的な地球のマントル層につながっているだろうと考えられていた。しかしながら、最近のデータは、このような火山が再循環する海洋地殻を含むマントルにもつながっていることを示しており、この単純な模式図を複雑なものとしている。Albarede(p.943、1月17日のオンライン出版)は、ヘリウムが低融点の始原的物質から高い融点を持つマントルのある種の層や部分に--例え、これらが十分によく混ざり合っていたとしても--拡散したという一つの解決法を提案した。火山放出ガス中の同位体比が様々な値をとるのは、個々の火山が色々な拡散度のマントルの区画と異なる強さでつながっているからと説明できる。(KU,nk)
Rogue Mantle Helium and Neon
p. 943-945.

金属による腫瘍(Full Metal Abscess)

細菌が免疫系の細胞、中でも好中球に出会うと、組織腫瘍が形成される。Corbinたちはこのたび、豊富な好中球タンパク質、calprotectinが細菌によって栄養として利用されている金属イオンをキレート化することによって、細菌の増殖から宿主を保護していることを発見した(p. 962; またNovickによる展望記事参照のこと)。細菌感染の際のマウスにおいて、calprotectinは組織腫瘍に局在化し、そこでマンガンおよび亜鉛イオンをキレート化した。calprotectin を欠く感染マウスは、金属のレベルを上昇させることで、組織腫瘍における細菌の増殖を増やすことになったのである。(KF)
Metal Chelation and Inhibition of Bacterial Growth in Tissue Abscesses
p. 962-965.
MEDICINE: Combating Impervious Bugs
p. 910-911.

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