AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 23, 2007, Vol.318


短いDNAの積層と順序(Short DNAs Stack and Order)

液晶相を形成することができる材料は、一般的に、その構成分子の形状は強い異方性(棒状とかディスク状のような)を有し、かなり強固であると信じられている。長いDNA断片が中間相を作ることは知られているが、短いDNA断片もそうなるかどうかは良く判っていない。6〜20塩基対と短く形状異方性を持たないDNA切片に対しても、Nakata たち(p. 1276)はランダムなDNA断片の溶液を冷却した時に、広い範囲にわたる整列した中間相を持つことを明らかにした。分子の疎水性力によって塩基対の一端と一端同士が連結し、長い棒状の凝集物が形成される。このような経路によって、相補的な断片同士が会合して局所的に整列した液滴が凝集するにつれて、多様な断片の混合物に相分離が起こるのである。(Ej,hE,nk)
End-to-End Stacking and Liquid Crystal Condensation of 6– to 20–Base Pair DNA Duplexes
p. 1276-1279.

絶縁するクーパー対(Insulating Cooper Pairs)

超伝導体のモデル(BCS理論)は、電子が如何にして電子対(クーパー対)を形成し、電気抵抗がゼロの状態になるかを説明している。近年、絶縁−超伝導転移研究において、クーパー対は絶縁相あるいは超伝導相どちらで発生するのか?相転移は量子相転移なのか熱相転移なのか?が活発に議論されている。Stewartたち(p.1273)は, ハニカム状に並んだナノメーターサイズのホールアレイを有するビスマス極薄膜を用いて、磁気抵抗測定を行った。超伝導状態の源であるクーパー対は、電気絶縁現象においても重要な役割を果たしていることが明らかとなった(NK)
Superconducting Pair Correlations in an Amorphous Insulating Nanohoneycomb Film
p. 1273-1275.

巨大大陸の動きを再考する( Reconsidering Supercontinent Movement)

ペルム紀からジュラ紀まで1億年の間、陸地のほとんどを含んで存在した巨大大陸パンゲアの緯度に関して古磁気の復元からは、最初は中心部が大体赤道付近に存在し、初期ジュラ紀までに約20度北方へに移動したと考えられてきた。Roweたち(p. 1284)は、アメリカの南西部の風積土に残る風のパターンを再現し、コロラド台地に残る風の方向からは、全期間を通じて同一方向であったことを解明した。このことは、パンゲア大陸は赤道付近にとどまっていたことを意味する。この結論に矛盾する以下のような説もある:古地磁気データによるパンゲアの緯度方向への移動の推定は解釈を間違えた;風によって出来た砂丘の形状の解釈を間違えた;従来の古地形の再構築法では砂丘形成の原因である風を再現できない;風を制御するジュラ紀の気候は今日とは異なるものであった。(Ej,hE,nk)
Inconsistencies Between Pangean Reconstructions and Basic Climate Controls
p. 1284-1286.

絶えず動く電子の探知(Tracking Electrons on the Go )

金属中における電流の流れのダイナミクスをより深く研究することが果敢に挑まれている。なぜならば、電子を前方に動かす電位勾配の開始時間が、興味深い衝突と散乱という出来事にかかる時間よりも長いからである。Guddeたち(p.1287)は、レーザ励起による1光子と2光子のコヒーレント干渉効果によって銅表面に過渡電流を誘起してこの問題を解決した。この現象は、既に半導体では実証されている。超短時間スケールで発生する過渡電流のフェムト秒のダイナミクスは、第3のレーザパルスにより放射される光電子の運動量をイメージ化することによって調べられた。この技術は、導電性基板と半導体基板の範囲まで拡大して一般化すべきである。(hk)
Time-Resolved Investigation of Coherently Controlled Electric Currents at a Metal Surface
p. 1287-1291.

超伝導性のテラヘルツ発生装置(Superconducting Terahertz Generators)

0.5〜2 THz の間の実用的な電磁放射源は存在していない。しかしながら、この周波数帯は、潜在的には、分子認識や分光、可視化応用に活用することができる。Josephson 接合は、二つの超伝導層が絶縁層を挟んだ構造であるが、超伝導ギャップと印加バイアスに依存した周波数で自然に発振する。しかし、この潜在的な THz 電磁波源は、応用に用いられるほどの十分な出力を生み出すことができない。Ozyuzer たち (p.1291; Kleiner による展望記事を参照のこと)は、レーザーキャビティ構造に類似した放射体の構造を上手にデザインすることにより、Bi2212 からなる高温超電導体中に弱く結合した CuO2 層によって作られたJosephson 接合を積み重ねたスタックから、強力な THz 放射が発生することを報告している。(Wt)
APPLIED PHYSICS: Filling the Terahertz Gap
p. 1254-1255.

ポリマーによる形状記憶物質にエネルギー注入(Energizing Polymer Shape-Memory Materials)

形状記憶物質では変形過程で捕まえられた内部応力が、転移温度以上に加熱されたときには、形状を復元するために利用される。ポリマーの形状記憶物質では大きな歪みの変化が可能であるが、この変化は小さな復元応力しか持たない。この組合せではエネルギー密度が低く、アクチュエータの候補としては、ポリマーによる形状記憶物質は望ましくない。Miaudet たち(p. 1294)は、ポリビニールアルコールと20w%のカーボンナノチューブによる複合材料を作ったが、この材料は合金の形状記憶物質に迫る歪み回復性能を有し、かつ大きな応力を示した。(Ej,hE)
Shape and Temperature Memory of Nanocomposites with Broadened Glass Transition
p. 1294-1296.
   

β2-アドレナリン受容体の構造(β2-Adrenergic Receptor Structures)

Gタンパク質-結合受容体(GPCR)は膜貫通タンパク質で、多様な細胞外刺激に応答して多くの様々な細胞応答のトリガーとなっている。この受容体は薬理学面での重要なターゲットであるが、構造面での情報が乏しく薬剤設計が阻害されている。その理由は、構造に関する情報がこのファミリーのかなり特有のメンバーであるロドプシンに対してのみ得られているだけである(Ranganathanによる展望記事参照)。2件の研究は他のGPCR、即ちヒト2-アドレナリン受容体に関する構造面の洞察を提供している。Rosenbaumたち(p.1266,10月25日のオンライン出版)は、結晶化においてタンパク質操作によりこのタンパク質を安定化し、そして構造の前後関係における変異原性データを解析して、リガンド結合がどのように共役しているかの洞察を与えている。Cherezovたち(p.1258,10月25日のオンライン出版;及び表紙参照)は、融合タンパク質の2.4オングストロームでの構造と、更にロドプシンの構造との比較を詳細に記述している。保存されたらせん体はクラスAのGPCRにおける共通のコアであり、一方可変性のらせん体は結合-部位可塑性を与えているらしい。(KU)
GPCR Engineering Yields High-Resolution Structural Insights into β2-Adrenergic Receptor Function
p. 1266-1273.
High-Resolution Crystal Structure of an Engineered Human β2-Adrenergic G Protein–Coupled Receptor
p. 1258-1265.

幹細胞ニッチを調べる(Nudging-In on Stem Cell Niches)

骨髄における造血幹細胞(HSC: hematopoietic stem cell)が移植できれば、広範囲にわたる臨床処置に極めて重要である。しかしながら、移植HSCはホストのHSCで既に占有されているニッチに容易に打ち克つことが出来ない。Czechowiczたち(p.1296)はマウスの移植モデルを用いて、内在性のHSCが実際に固有のニッチを占有してドナーHSCの移植を妨げていることを示している。しかしながら、内在性のHSCを一時的に枯渇させる抗体を用いることで、移植を受けた動物はプレ条件付けされ、キメラ現象レベルが90%と大きく上昇した。同じような条件付けにより、ヒトでのHSC移植が改善できるかはどうかを決めるには、更なる研究が必要であろう。(KU)
Efficient Transplantation via Antibody-Based Clearance of Hematopoietic Stem Cell Niches
p. 1296-1299.

公明正大に(Fair’s Fair)

従業員は自分たちがどのぐらい賃金をもらい、そして同僚がどのぐらい受け取っているかの双方に基づいて反応することはごく当たり前である。純粋に合理的な人間であれば幸せなのか不幸なのかを決める際に、収支のバランスを計算するであろうが、しかしながら、多くの経験から我々は相対的な報酬と言うものを気にしていることを示している。Fliessbachたち((p.1305)は、隣接した2台の機能的磁気共鳴イメージングスキャナーと、及び同じ成果を上げても報酬は不公平な行動的課題を用いた。報酬への応答と予想における中心的な役割で注目されている脳領域である腹側線条体での神経活動は、実際に支払われるお金の相対的な額に鋭敏であった。更に、この応答は、決定がまだ成されていないときでも生じており、このことは社会的立場の推測が--支払額を指標として--自動的なものであることを示唆している。(KU)
Social Comparison Affects Reward-Related Brain Activity in the Human Ventral Striatum
p. 1305-1308.

意思決定と衝動(Decisions and Impulsivity)

視床下核の脳深部刺激療法とドーパミン系薬物療法の双方は、パーキンソン病の治療の成功例を代表するものである。しかしながら、双方とも、葛藤のある状況における意思決定のような正常な認知戦略に干渉するものである。Frankたちは、意思決定においてそれら治療が果たしている2つの違った計算的役割についての証拠を提示した(p.1309、10月25日にオンライン出版; またMillerによる10月26日のニュース記事参照のこと)。ドーパミン系薬物療法では、患者は葛藤による意思決定スピードに影響することなく、否定的結果に対するよりも肯定的結果から学習するという相対的傾向を示した。これとは対照的に、脳深部刺激療法は学習のバイアスに影響されずに、高度の葛藤状況のもとでの意思決定の速度を速める。これら知見の双方は、学習および意思決定における基底核のコンピュータモデルで予測されていた。(KF,KU)
Hold Your Horses: Impulsivity, Deep Brain Stimulation, and Medication in Parkinsonism
p. 1309-1312.

断裂の実際(Rupture in Action)

カリフォルニア州パークフィールド(Parkfield, California)は、サン・アンドレアス(San Andreas)断層上にあって、マグニチュード6クラスの地震をいくつも経験してきた土地であり、いちばん最近のものは2004年にあった。この地域にある地震および測地学に関するセンサー・ネットワークによって、地震によって生み出される断裂の詳細なビューが可能になっている。パークフィールドのデータに全波形のバック・プロジェクション法を適用することによって、AllmannとShearerは、2004年の地震を空間および時間に対してマップ化した(p. 1279)。主たる断裂だけでなく、彼らは地震が始まって5秒後におきた、断裂の開始点から12.5キロメートル北方での高周波エネルギーの第2の突発も検出した。つまり、パークフィールドでの出来事は、2つの異なったサブイベントからなっていたのである。高周波の事象は高い滑動領域の南端で生じていて、これは、この滑り(ずれ)がこの地点で急速に成長していたこと、それもおそらく凹凸面の断裂によるものであることを示唆するものである。(KF)
A High-Frequency Secondary Event During the 2004 Parkfield Earthquake
p. 1279-1283.

光への応答を調節する、取り込まれた移動性要素(Domesticated Mobile Elements Modulate Light Responses)

植物は常に自身の置かれている環境を測定し、生き延びるためにその成長と発達を調節している。植物は光受容体の一式を用いて、周囲の色や、光の強度、方向、持続時間を決定することで、自分の置かれている環境を「見る」ことができる。フィトクロムA(phyA)は、シグナル伝達現象のカスケードを介して、さまざまな遠赤光によって引き起こされた応答を仲介している。Linたちは、先祖となる変異誘発物(mutator)様の転位因子(transposable element)から取り込んだ2つのタンパク質が、phyAによって制御される遺伝子発現にとって必須の転写制御因子として作用している、と報告している(p. 1302)。こうした結果は、より高等な植物におけるフィトクロム・シグナル伝達の仕組みと進化の歴史についての洞察を提供し、また宿主進化の駆動力としての移動性要素の役割を支持するものである。(KF)
Transposase-Derived Transcription Factors Regulate Light Signaling in Arabidopsis
p. 1302-1305.

InsP7とインシュリンの放出(InsP7 and Insulin Release)

イノシトール1,4,5-三リン酸は、細胞のシグナル伝達における良く知られた二次メッセンジャーである。この分子の更に高度にリン酸化された形態であるイノシトール・ピロリン酸もまた、細胞調節に機能している。Illiesたちはこのたび、マウスの膵臓細胞からのインシュリンの完全な開口分泌放出にとって、InsP7(二リン酸イノシトール 五リン酸;diphosphoinositol pentakisphosphate) が必要であるということを示している(p. 1299; またNagamatsuとOhara-Imaizumiによる展望記事参照のこと)。InsP7を産生するキナーゼが欠乏すると開口分泌が抑制され、一方このキナーゼが過剰発現するとインシュリンの開口分泌が刺激される。膵臓細胞は代謝の要求に応答してのインシュリン放出を確実なものにするために、多くのInsP7を維持している可能性がある。(KF)
Requirement of Inositol Pyrophosphates for Full Exocytotic Capacity in Pancreatic β Cells
p. 1299-1302.

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