AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 16, 2007, Vol.318


ゴキブリ弾圧政治(Cockroach Coercion)

ロボット工学は動物の行動の研究と、その行動の変容に関する新しい可能性を提供している。Halloy たち (p.1155; Pennisi による解説記事を参照のこと) は、ゴキブリと自律的なミニロボットゴキブリの混在したグループにおける集団的な意思決定過程を観察した。そのロボットは、ゴキブリの大きさに似ており(形は似てはいないが)、自然界のゴキブリの角質に似せた角質の炭化水素の混合物でコートされている。ロボットとゴキブリは、住まいの選択に関して分かち合う決定を行った。ロボットは集団的な意思決定過程に変容を与え、ゴキブリだけのグループでは観察されない行動パターン--不適当な住まいを選択する--を生み出していた。このように、少数のロボットは、その系の個体間のフィードバックを変容することにより、全体的なパターンを変える可能性がある。(Wt)
Social Integration of Robots into Groups of Cockroaches to Control Self-Organized Choices
p. 1155-1158.

界面での軌道の再構成(Reconstructing Interface Orbitals)

遷移金属酸化物の相図と近年の界面制御技術が量子ホール効果や超伝導に代表される酸化物エレクトロニクスの発展の観点から注目されている。Chakhalianたち(p.1114、10月11日のオンライン出版;Dagottoの展望記事参照)は、高温超伝導体(Y,Ca)Ba2Cu3O77と金属La0.66Ca0.33MnO3からなるマルチレイヤー(多層膜)の各層をX線分光を用いて調べた。MnからCuへの界面を跨いだ電子移動は、銅原子のdz2-x2軌道に直接移動するのではなく、軌道の再構成を伴って、d3z2-r2軌道を部分的に占有する形で生じていることを突き止めた。この軌道再構成モデルは、界面を跨いでMn原子とCu原子が共有結合をしているというモデルと良い一致を示すことが、数値計算により明らかになった。(NK)
Orbital Reconstruction and Covalent Bonding at an Oxide Interface
p. 1114-1117.

エントロピーによって駆動されるDNAネットワーク(Entropy-Driven DNA Networks)

電子回路の重要な側面としては、増幅とか利得(ゲイン)であり、これによって微弱な信号が定常的な背景から識別できるようになる。Zhang たち(p. 1121; およびBar-Zivによる展望記事参照) は、生化学においては利得が何によって得られるかを示した。彼らはDNAに基づく複雑な触媒作用ネットワークを設計し、DNAにおいて出力される遊離オリゴヌクレオチドは他の反応のための触媒として働き続ける。このプロセスはエントロピーによって駆動されるよう設計されているが、その結果、反応経路はうまく制御され、望み通りに修飾される。この応用としては、触媒やセンサーの分野の開発があり、また、PCR(polymerase chain reaction)法のための酵素を使わない代替法の開発、さらにナノマシンの構築が考えられる。(Ej,hE)
Engineering Entropy-Driven Reactions and Networks Catalyzed by DNA
p. 1121-1125.

高水準の注釈ができるまでのフォトニックの道筋(Photonic Route to the High Notes)

微細構造光ファイバーの強いフェムト秒のレーザパルス励起によって、広帯域の白色光を発生させることができ、計測への応用から選択された波長での超高速パルス生成への応用というように応用範囲を広げることができる。白色光生成と光誘導(ガイド)のベースとなる原理はまだ良く理解されていなかった。また、生成光の位置とスペクトル領域の制御には限界があった。Counyたち(p. 1118)は、微細構造ファイバ中の光誘導と高次モードの生成に関する理論的洞察を行ない、これにより適度な入力パワーで極端に広いスペクトル領域にまたがる周波数スペクトル成分の生成が可能となるものである。著者らは、このアプローチによりフェムト秒とアト秒のパルス生成および任意の波形生成への簡単な道筋への方法に関して議論している。(hk,KU)
Generation and Photonic Guidance of Multi-Octave Optical-Frequency Combs
p. 1118-1121.

火星の赤道に水がある?(Equatorial Water on Mars?)

火星の水は本来、極の氷堆積物として閉じ込められている。Watters たち(p. 1125, Schultzによる展望記事参照) は、これに匹敵する量の水がMedusae Fossae 地層丘陵の赤道部分に隠されている可能性があることを示した。この地域は火山灰と風成堆積物によって形成されたと信じられている。マースエクスプレス探査機に搭載されたMars Advanced RadarによるSubsurface and Ionospheric Sounding (表面下と電離層の測深)装置による観測で、堆積層の下に存在する地質単ハから、水の氷と同じ誘電体特長を示す反射信号を得た。もしこれらの丘陵に氷が豊富であれば、極の層状堆積物よりも多くの塵や砂を含んでいるに違いないが、南極の層状堆積物と似た水の量を保っている可能性がある。(Ej,hE,tk)
Radar Sounding of the Medusae Fossae Formation Mars: Equatorial Ice or Dry, Low-Density Deposits?
p. 1125-1128.

メガスプレイ断層群と津波の発生(Megasplay Faults and Tsunami Production)

海底が急激に持ち上がることで、津波が発生することがあるが、その大きさは局地的な断層の形状に依存する。長い逆断層であるmegasplay 断層群は、プレート境界のmegathrustから生じ、そして海底を横断しているが、表面へと移動する際に特に影響が強いと考えられている。日本沖の南海トラフ中のmegasplay断層帯の3次元の地震図解を製作することによって、Moore たち(p. 1128)はこのような断層の作用を示し、これが滑ることによって、例えば1944年の東南海津波のような歴史的災害となった大津波を起こしたのではないかと推測している。同様に、沈み込み帯でのmegasplay形状は津波発生と関連が高いのではないか。(Ej,hE,KU)
Three-Dimensional Splay Fault Geometry and Implications for Tsunami Generation
p. 1128-1131.
   

沈黙の拡大(Spreading the Silence)

ほとんどの遺伝子の母系コピーと父系コピーは、ほぼ同等のレベルで発現すると一般に考えられているが、これが当てはまらないケースがいくつか知られている。インプリントされた遺伝子は、父系か母系かいずれかの対立遺伝子を閉じてしまい、X遺伝子不活性化において、2つのX染色体の内の1つが沈黙させられる。これまでに、免疫グロブリン、T細胞受容体や、インターロイキンを含むごく少数の遺伝子で、一方のコピーが不活性化されていることを見いだした。Gimelbrant たち(p. 1136; Ohlssonによる展望記事参照) は、ヒトゲノム全体を見渡して、解析された遺伝子の5%において、父性か母性の対立遺伝子のいずれかがランダムにかつ安定に不活性化されていた。この割合は予測されていたよりもずっと大きい。(Ej,hE)
Widespread Monoallelic Expression on Human Autosomes
p. 1136-1140.

ガン変異性に関する展望(Cancers Mutational Landscape)

ヒト腫瘍のゲノムは多くの配列変化を含んでおり、そのサブセットが腫瘍増殖を促進する。Woodたち(p.1108,10月11日のオンライン出版;TrentとTouchmanによる展望記事参照)は、ヒトの乳房と大腸の腫瘍における18,000を越える遺伝子の系統的な配列解析を行った。組織分布的なマップ上での変異データの描画により、これら腫瘍タイプの各々は高頻度で変異したごく少数の遺伝子の「山」と、低頻度で変異している遥かに数多い遺伝子の「丘」を含んでいる。重要なことは、腫瘍増殖を促進する変異のかなりの割合が山ではなく、遺伝子の丘にあるということ--ヒトガンの不均一性を強調する発見--であるが、変異した遺伝子の多くは、既によく知られているシグナル伝達経路を通して機能しているらしい。(KU)
The Genomic Landscapes of Human Breast and Colorectal Cancers
p. 1108-1113.

炎症反応の陰と陽(The Yin-Yang of Inflammatory Responses)

神経系における炎症反応はしっかりと制御されている。特に、Tヘルパー1型のT細胞応答が抑えられ、そしてこれらの細胞に関する強力な負の制御因子は、T細胞免疫グロブリンやムチンのファミリーのメンバーである表面受容体TIM3である。しかしながら、Andersonたち(p.1141)は、TIM3が又、生得の免疫系の細胞、即ち樹状細胞や脳のミクログリアの細胞での発現により炎症を促進していることを報告している。同じ免疫タンパク質が様々な免疫細胞の集団で発現したさいのこれらの相反する役割は、組織の炎症に関する促進と抑制という二つの間でのバランスに関して興味ある問題を提起するものである。(KU)
Promotion of Tissue Inflammation by the Immune Receptor Tim-3 Expressed on Innate Immune Cells
p. 1141-1143.

睡眠中の再生(Playback During Sleep)

睡眠中に、海馬は入り組んだ課題を思い浮かばせながら前もって記録された活性化の順序を再生している。Eustonたち(p.1147)は、海馬ではなく中央前頭前野(mPFC)において、似てはいるがより圧縮された形での活性化の再生に関して報告している。mPFCは記憶の保存や検索に関与しており、そして海馬から入力を直接受け取っている。(KU)
Fast-Forward Playback of Recent Memory Sequences in Prefrontal Cortex During Sleep
p. 1147-1150.

脊髄損傷と皮質による補償(Spinal Cord Injury and Cortical Compensation)

神経-リハビリテーションというのは、訓練によって無傷の神経細胞系を補充することで脳障害を補償できる、という考え方に基づいたものである。しかしながら、この根底にある仕組みの神経細胞学的基礎については、不十分にしかわかっていなかった。Nishimuraたちは、脊髄の頸部中央(mid-cervical)にある直接的な皮質-運動神経性結合に関するよくわかっている病変を利用して、マカクザルでの長期にわたる研究を実行した(p. 1150)。その皮質脊髄路の病変後の機能回復には、種々の広範に分布した皮質ネットワークが関わっていた。異なった各皮質領の寄与は、手術後の回復段階に依存して変化していたのである。(KF)
Time-Dependent Central Compensatory Mechanisms of Finger Dexterity After Spinal Cord Injury
p. 1150-1155.

化石記録によって種の成功を追跡する(Tracking Species Success in the Fossil Record)

化石に記録された地球上の過去の生命の多様性および分布の研究は、通常、属あるいは科を分析してきた。化石記録は、ある地域のある期間については十分に豊富にあるので、そこでは種のレベルでのパターンの解決や、そこでの変化がより粗い分類学的レベルで見られる変化とどう比較できるかなどの評価も可能になっている。Footeたちは、ニュージーランドの海洋軟体動物の6千5百万年前からの化石記録について、特にさまざまな環境条件に渡ってのその分布範囲や占有を検討した(p. 1131)。多くの種についての全体のパターンは、海洋性無脊椎動物属のそれと驚くほど類似していた。まず占有が徐々に増加し、その後に、環境における制限が増加することになる。そして、時間的あるいは地理的な分布の中間点に達する直前あるいは少し後に、多くの種が生態学的範囲の最高点に達することになる。多くの種では、絶滅というのは、すでに衰退期に入っていた種に作用するもののようだ。(KF)
Rise and Fall of Species Occupancy in Cenozoic Fossil Mollusks
p. 1131-1134.

母がいちばんよく知っている(Mother Knows Best)

環境の母性効果(母方がどういう環境にあったかの子孫への影響)は、環境への順応において役割を果たしていると推測されてきた。GallowayとEttersonは、環境の母性効果がハーブ植物Campanulastrum americanumにおいて、実際に順応性であることを報告している(p. 1134)。母系の光条件--光の中にあるか、陰にあるか--が、子孫が局所的な条件における適応度を高めるために特異な生活史スケジュール(一年生になるか多年生になるか)を発現するきっかけとなっていたのである。順応のこうした仕組みは、特に発育環境を選択できない定住性の生物体にとって、固定した遺伝による特殊分化よりメリットが大きい可能性があるし、また支配的環境条件に応じて変わりうる柔軟な応答を可能にするのである。(KF)
Transgenerational Plasticity Is Adaptive in the Wild
p. 1134-1136.

メラトニンと記憶(Melatonin and Memory)

長期記憶の形成は概日性のリズムに依存していることが知られているが、それに関与している機構は解明されていない。Rawashdehたちは、概日性システムが昼行性の脊椎動物における記憶形成において、調節的な役割を果たしているかどうかという問いを立てた(p. 1144)。ゼブラフィッシュにおける単純な能動的回避条件づけ課題の学習は、夜間よりも昼間のほうが成績がかなり良かった。この違いは松果体のメラトニン仲介による記憶形成の影響であり、大部分は概日時計の効果のもたらす結果なのである。(KF)
Melatonin Suppresses Nighttime Memory Formation in Zebrafish
p. 1144-1146.

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