AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 31, 2007, Vol.317


水素原子ホッピングによる分子スイッチング(Molecular Switching via Hydrogen Hopping)

コンフォメーション(立体配座)を劇的に変化させることで、分子の電気伝導率が制御可能である。しかし、デバイス応用のためには、構造変化が小さいことが望ましい。分子−接点の接合、あるいは他のスイッチング分子との相互作用を安定化できるからである。Liljeroth たち(p.1203)は走査型トンネル顕微鏡(STM)探針を用いて、極低温下で、ナフタロシアニンの二つの水素原子の位置をスイッチングできることを報告している。この互変異性化により分子の電気伝導率が変化する。また、STM探針先端からナフタロシアニンに電荷化注入することで、隣接するナフタロシアニンのスイッチングも可能であることを報告している。(NK)
Current-Induced Hydrogen Tautomerization and Conductance Switching of Naphthalocyanine Molecules
p. 1203-1206.

水溶液中でのカスケード反応(Aqueous cascade)

生合成反応経路を実験室モデルで再現することが困難な場合、この不一致は往々にして酵素の構造的複雑性によるとされている。赤潮と関係する海洋毒素の一種、はしご形のポリエーテルも上記のケースである。架橋しているテトラヒドロピラン(THP)環の骨格は、複数のエポキシド前駆体がカスケード的な連続した開環反応を行った結果から生じているらしいが、しかしながら20年以上にわたるこの物質の再現実験において、この連続反応に要求される選択性を実験室内で実現するには、反応を望ましい方向に向けるために人工的な置換基を多数付加する必要があった。VilotjevicとJamison(p.1189;Serviceによるニュース記事参照;表紙も参照)は、酵素の機能がそれを溶かしている有機溶媒の媒質により大きく影響されることに問題の根があることを示している。中性の水を用いると、反応が最適に促進され、そして単一の鋳型となるTHPに固定されたエポキシド鎖の前駆体から高収率、かつ選択的に多環式の骨格が生じた。(KU,nk)
Epoxide-Opening Cascades Promoted by Water
p. 1189-1192.

持続可能な熱帯林の管理?(Sustainable Tropical Forest Management?)

熱帯林の保存戦略を進めるには、最近実行しているその結果の評価が欠かせない。森林破壊の衛星解析システムを用いて、Oliveiraたち(p.1233,および、2007-8-9オンライン出版参照)は1999年から2005年の間のペルーアマゾンにおいて自然あるいは人工的な森林破壊を、数本の樹木の倒壊に至るまで、検出した。森林の乱れや伐採は最近増加しているが、森林保護のためには3つの因子が結びついている。すなわち、密猟と焼き払い取り締まり、原住民居住地域確保によって森林伐採や森林破壊から守ること、木材伐採地域の伐採許可制度が森林伐採を減少させていること。このように、土地利用政策の適切な組み合わせにより、現地住民の生活と収入を確保しながら、広範な森林保護が可能になるのである。(Ej,hE,nk)
Land-Use Allocation Protects the Peruvian Amazon
p. 1233-1236.

太陽熱の波(Solar Heat Waves)

太陽コロナは超高温の気体で、太陽表面から上空数百万キロメーターの高さまで広がっている。電磁場線(electromagnetic field lines)に沿って伝播される非圧縮性のAlfven波を含むプラズマ波は、このガスの温度を百万ケルビン以上に上げるために重要な働きをしていると思われてきたが、このような波はいままで検出されたことがなかった。Tomczyk たち(p.1192)は太陽を画像化し、Alfven波が太陽表面を5分の周期で進行していることを検出した。しかし、この波は予想されていたよりも弱く、コロナの温度を上げるためには他のメカニズムが必要となる。(Ej,hE,nk)
Alfvén Waves in the Solar Corona
p. 1192-1196.

火星の第二酸化鉄(Martian Ferric Oxides)

火星の地質的歴史は、火星表面の岩石や土壌中の多様な鉱物中に部分的に記録されている。Mars Express衛星の軌道上からの赤外分光分析を利用して、Bibringたち(p. 1206,および、2007年8月2日、オンライン出版)は、酸化した鉄から形成された赤鉄鉱(hematite)が、火星上のいくつかの古い地質単位(terrane)に渡って層状に堆積している硫酸塩層と密接に関連していることを示した。酸化物は硫酸塩と同時か、これに引き続いて生成されている。異なる地域でもこの関連性が成り立つことから、酸性の地下水の上昇が、当時広範囲にこれらの鉱物を生成させたことが伺える。(Ej,hE,tk)
Coupled Ferric Oxides and Sulfates on the Martian Surface
p. 1206-1210.

埋め込まれた原子の磁気的異方性(Magnetic Anisotropy of Embedded Atoms)

それぞれの原子の段階では、表面にある小さな分子磁石と孤立原子が、極低温では印加された磁場の方向に対してその磁気的な応答に大きな異方性を示すことがある。Hirjibehedin たち (p.1199) は走査型トンネル顕微鏡を用いて、窒化銅の薄層中に鉄とマンガン原子を置いて、0.5K におけるそれらの磁気的特性を測定した。観測された大きな異方性は、密度汎関数計算によって説明できるものであり、その計算によると、これらの原子は、CuN 層に共有結合しており、周囲のネットワークに電荷とスピン分極とを移動させていることを示している。(Wt)
Large Magnetic Anisotropy of a Single Atomic Spin Embedded in a Surface Molecular Network
p. 1199-1203.

挟まれた面の超伝導特性(Superconducting in the Middle)

最近の研究では、LaAlO3とSrTiO3からなる二つの酸化物絶縁体間の界面が金属的特性を持つことを明らかにしている。加えて、界面の導電性は被覆層の厚みに依存していることもわかっている。Reyrenたち(p.1196,2007年8月2日にオンラインで出版)は又、この界面が低温(200ミリケルビン)においてではあるが超伝導性となり、その特性が2次元超伝導体において期待される転移の証であることを明らかにした。(hk)
Superconducting Interfaces Between Insulating Oxides
p. 1196-1199.

マイクロRNAとパーキンソン病(MicroRNA and Parkinson’ Disease)

様々なタンパク質非コーディングRNA転写物は発生においての役割を果たしている。Kimたち(p.1220;HebertとDe Strooperによる展望記事参照)は、パーキンソン病で失われている中脳のドーパミン作動性ニューロン細胞の成熟、機能、および生存におけるマイクロRNAの役割を実証している。有糸分裂後の中脳のドーパミンニューロン中のマイクロRNAの欠損により、パーキンソン病患者に似た表現型が生じる。マイクロRNAmiR-133bは、特異的にヒト中脳のドーパミン作動性ニューロン中で発現し、パーキンソン病患者では失われている。miR-133bは、中脳のドーパミン作動性ニューロンの重要な転写制御因子であるPitx3とフィードバックループの中で機能している。(KU)
A MicroRNA Feedback Circuit in Midbrain Dopamine Neurons
p. 1220-1224.
MOLECULAR BIOLOGY: miRNAs in Neurodegeneration
p. 1179-1180.

AIDの非対称性(AID Asymmetry)

体細胞突然変異(SHM)の間、体細胞の再編成により既に多様性を産生している抗体遺伝子が、更に多様性となる。SHMの原因である活性-誘発シチジン脱アミノ酵素(AID)はシトシンを脱アミノ化して、DNA鎖中にウラシルを作る。この反応は次に、DNA修復プロセスにより隣接する残基の変異を誘発する。UnniramanとSchatz(p.1227)は、SHMが非対称性のプロセスであり、非鋳型鎖上のシトシン残基とのみ上流と下流に変異を誘発することを示している。AIDは双方の鎖をターゲットにしており、それ故にこの非対称性の原因ではない。代わりに、DNA塩基-修復系が原因である。(KU)
Strand-Biased Spreading of Mutations During Somatic Hypermutation
p. 1227-1230.

開始点とそれを認識をする複合体(Origins and ORCs)

DNA複製を正確に開始することは、生命にとって必須である。真核生物や古細菌では、複製開始は複製開始点に結合し、レプリソームの組み立てのためにDNAの準備をする複製開始点認識複合体(origin recognition complex, ORC)スーパーファミリのATP分解酵素によって制御されている。2つの研究がこのたび、古細菌の開始因子Orc1による開始点認識の構造的な基盤について記述している(GeorgescuとO'Donnellによる展望記事参照のこと)。Gaudierたち(p.1213)は、標的である開始点結合部位との複合体中での単一のOrc1サブユニットの構造を記述しており、Dueberたち(p.1210)は、開始配列の第2のクラスに結合した1対のOrc1パラログの構造を記述している。これらの構造は一緒になって、イニシエータの組立てと活性化の段階的プロセスについての洞察を提供するものである。(KF)
STRUCTURAL BIOLOGY: Getting DNA to Unwind
p. 1181-1182.
Structural Basis of DNA Replication Origin Recognition by an ORC Protein
p. 1213-1216.
Replication Origin Recognition and Deformation by a Heterodimeric Archaeal Orc1 Complex
p. 1210-1213.

学習と想起(Learning and Recall)

記憶のコード化に際しては、細胞の集団が活性化され、シナプス可塑性によってそれらが一緒にリンク(連結)されると考えられてきた。それに引き続いての検索において、その集団が、部分的な活性化とパターン補完によって再活性化されると考えられている。Reijmersたちは、文脈的恐怖条件付けによって、活動的ニューロンに対して記憶獲得時と検索時とで違うタグ付けができるようにした変異マウスを開発した(p.1230)。扁桃体の基底外側部の組織学的セクションでは、コード化の際と検索の際の双方で活動的なニューロンの数を数えることができた。それによると、成功した記憶検索には、学習時に発火したニューロンの再活性化が付随していたのである。(KF)
Localization of a Stable Neural Correlate of Associative Memory
p. 1230-1233.

細胞接触の複雑さ(Intricacies of Cell Contacts)

多細胞生物における細胞間接着は複雑に制御されており、その安定性は部分的には、チロシンリン酸化のレベルを調整するタンパク質リン酸化酵素および脱リン酸化酵素によって制御されている。IIB型の受容体タンパク質チロシンホスファターゼ(receptor protein tyrosine phosphatases, RPTPs)は、接着性と触媒性の双方の性質を備えている。Aricescuたちは、あるRPTPの細胞外領域全長の結晶構造を決定したが、このものは同種親和性のトランス二量体を形成しており、この2量体は強固で、しかもcadherinで仲介された接合部における細胞間距離にマッチしている(p.1217)。このトランス相互作用が隙間を締めて、ホスファターゼ活性を標的の基質の近傍に局在化させるよう作用している可能性がある。(KF)
Structure of a Tyrosine Phosphatase Adhesive Interaction Reveals a Spacer-Clamp Mechanism
p. 1217-1220.

翻訳で失われない(Not Lost In Translation)

リボソームによるタンパク質合成は通常、メッセンジャーRNAの鋳型がその5'末端において修飾されたヌクレオチドでキャップされることを必要とする。飢餓状態にある酵母は、その間にほとんどのmRNAがキャップをはずされる浸潤性の表現型に発生過程で切り換わることがあるが、これはリボソームによるそれらの翻訳を妨げることになる。切り換えの原因となる遺伝子は、それゆえ、キャップに依存しない様式で翻訳される必要がある。Gilbertたちはこのたび、浸潤性の増殖特異的遺伝子が、翻訳を可能にするmRNAの異常に長い5'非翻訳領域に、配列内リボソーム進入部位(internal ribosome entry sites, IRESs)をもっていることを示している(p.1224)。ウイルス性のIRESとは違って、この細胞のIRESはアデノシンの非構造化配列から構成されているらしく、これが5'キャップを置換する構造体であるポリアデニン結合タンパク質を補充する。(KF,KU)
Cap-Independent Translation Is Required for Starvation-Induced Differentiation in Yeast
p. 1224-1227.

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