AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 24, 2007, Vol.317


さあ、集まりましょう(Let's Get Together)

真核生物の細胞膜中のタンパク質は多くの異なる機能を仲介し、多くはクラスターに分割されている。 例としてSNAREタンパク質 シンタキシン 1を利用して、Sieber たち(p. 1072; およびWhiteによる展望記事を参照)は、高解像の光学的撮像装置、定量的生化学、分子動力学的シミュレーションを利用してクラスタリングのメカニズムを調査した。タンパク質-タンパク質の弱い相互作用と立体的反発力(交換斥力に分類される弱い反発力)が平衡し、その結果75個ものシンタキシンを含んでいる稠密なクラスターが生じていることが分かった。クラスター内部のタンパク質は動くことが出来ないが、自由に漂う分子とは交換可能である。このような概念上の枠組みは他の多くの膜タンパク質にも当てはまると思われる。(Ej,hE)
Anatomy and Dynamics of a Supramolecular Membrane Protein Cluster
p. 1072-1076.
BIOCHEMISTRY: Crowds of Syntaxins
p. 1045-1046.

タンタル上で鮮やかに分解(A Clean Break at Tantalum)

バクテリアは非常に高い効率で窒素をアンモニアに変換するニトロゲナーゼ酵素を獲得した。一方、化学肥料産業は、高温条件下で不均一系鉄触媒を用いることで同様の反応を制御してきた。いずれの反応においても複数の金属中心の存在が、強力な窒素三重結合を切断するためには不可欠である。Avenierたち(p.1056)は、水素存在下でシリカ表面に結合したタンタルヒドリド錯体を用いて窒素を解離し、タンタルアミドイミド物を合成できることを見出した。上述の酵素反応および鉄触媒反応、また均一系有機金属系反応とは異なる反応であることを赤外線分光により明らかにした。(NK)
Dinitrogen Dissociation on an Isolated Surface Tantalum Atom
p. 1056-1060.

塵も積もれば山となる(A Lot from a Little)

地球上のほとんどの氷をグリーンランドや南極大陸の氷床が占めているため、将来それらが融解することによる海面レベル上昇が大きく注目されてきた。しかし、現在急速に融解が進んでいる他の氷河や氷冠もまた、特に次世紀にかけては海面上昇の一因となるであろう。Meierたち(p. 1064;7月19日オンライン出版、カバー記事参照)は、これらの氷河や氷冠を調査し、その結果今後100年間で10から25センチメートルの海面上昇を引き起こす可能性があること、それはおそらく推定される上昇値全体の60%に達することを示した。(TO)
Glaciers Dominate Eustatic Sea-Level Rise in the 21st Century
p. 1064-1067.

表面交差を捉える(Capturing a Surface Crossing)

化学反応速度論のコンピュータシミュレーションは単純化したボルン-オッペンハイマー近似に依存しがちで、この近似は核が動き回る前に電子の再配列が完成していることを前提としている。しかしながら、ある種の3原子反応ではこの近似に従わないという実験データが示された。例えば、D2から1個の重水素原子の引き抜き反応において、電子励起されたフッ素原子は基底状態のDF化合物を形成する。Cheたち(p.1061)は、複数の電子のポテンシャルエネルギー表面を包含する、この反応のより正確な理論的な取り組みを行ない、又、様々な衝突エネルギーでの生成物の分布を実験的に測定した。彼らは、化学反応の根底にある正確な量子力学的な因子を捉えることで、理論と実験の間に強い一致を見出した。(KU)
Breakdown of the Born-Oppenheimer Approximation in the F+ o-D2 -> DF + D Reaction
p. 1061-1064.

南大洋を実り豊に(Fertilizing the Southern Ocean)

世界の大洋のいくつかにおいて、鉄分を海洋表面に追加することで生物学的生産量を増加出来ることが実験的に示されてきた。今までまとめられたデータにいくつかの実験を追加し、Cassarたち(p.1067)は、南大洋(Southern Ocean)の広い領域における一次産生の総量とコミュニティの正味の産生が、エアロゾルからの可溶性の鉄の投入量に比例することを明らかにした。結論として、鉄の注入は産生量を増加させ、これは南大洋全体に渡って風で運ばれる粉塵が一次産生の総量を増加させると結論している。(Ej,hE)
The Southern Ocean Biological Response to Aeolian Iron Deposition
p. 1067-1070.

青色光を見つめている細菌(Bacteria Seeing Blue)

植物における青色光受容体であるフォトトロピンは、光感受性のモジュールとしてフラボタンパク質LOVドメインを持つ光活性化のセリン/スレオニンキナーゼである。真核生物で見出されたフォトトロピンに加えて、LOVドメインが原核生物と古細菌にも存在しているはずであるということが、遺伝子の配列解析から予測されている。Swartzたち(p.1090;KennisとCrossonによる展望記事参照)は、原核生物の遺伝子サブセットが光活性化のLOV-ヒスチジンキナーゼとして機能するタンパク質をコードしていることを示している。LOVドメインの光活性化により、フラビン−システイニル付加物が形成され、これがそのキナーゼドメインを活性化する光受容体−シグナル伝達状態である。光活性化LOV−ヒスチジンキナーゼは二つの重要な植物や動物の病原体中に、更に海洋の光合成細菌中で見出された。このことは、LOV-ヒスチジンキナーゼが細菌の光感受性の受容体の重要なファミリーの一つであることを暗示している。(KU)
Blue-Light-Activated Histidine Kinases: Two-Component Sensors in Bacteria
p. 1090-1093.
MICROBIOLOGY: A Bacterial Pathogen Sees the Light
p. 1041-1042.

乱れても、しかし、可干渉(Disordered but Coherent)

磁石が古典的な振舞をするときは、隣接する原子のスピンは固定され、秩序付けられている。そして、典型的には約3nm の距離に渡る相関を有している。一次元鎖にスピンを閉じ込めると、量子的な揺らぎが影響力を持つようになってスピンは秩序を失い、流体のようになる。Xu たち (p.1049, 7月26日にオンライン出版) は、スピン鎖を有する材料 YBaNiO の非弾性中性子散乱による計測結果を与えている。彼らのデータは、スピン間のコヒーレンスは、量子的な効果にもかかわらず、20nm 以上に伸びていることを明らかにしている。この長さは、古典的なコヒーレンス長よりほぼ一桁長い。(Wt)
Mesoscopic Phase Coherence in a Quantum Spin Fluid
p. 1049-1052.

脅威と距離,そして不安(Threat, Distance, and Dread)

げつ歯動物において、或る脅威からの距離が恐れの状態に影響することが実験的に示唆されている。MobbsたちP.1079;Marenによる展望記事参照)は、ヒト被験者が仮想的な捕食者に襲われ、実際的な苦痛を与えるようなコンピュータプログラムを開発した。仮想的な捕食者が近づくにつれ、脳の活性は前頭前夜から中脳の中脳水道周囲灰白質の所へと切り替わった。高次の皮質系は、脅威の程度が低いと認知されたさいの行動を制御しており、一方極度の脅威レベルでは迅速なる反射的な行動を制御している系統発生的により古い領域を刺激する。(KU)
When Fear Is Near: Threat Imminence Elicits Prefrontal-Periaqueductal Gray Shifts in Humans
p. 1079-1083.
NEUROSCIENCE: The Threatened Brain
p. 1043-1044.

単一シナプスでのアストロサイト(Astrocytes at Single Synapses)

アストロサイト(星状神経膠細胞)はシナプス活動に応答して、様々なグリオ伝達物質を遊離し、この物質が神経活動や神経伝達を調整する。PereaとAraque(p.1083)は、単一の海馬の興奮性シナプスでのシナプス伝達におけるアストロサイトの役割を調べた。アストロサイトにおけるCa2+の上昇により、アストロサイトからの神経伝達物質であるグルタミン酸の一過性の遊離が起こり、この現象は代謝性のグルタミン酸受容体によって仲介されている。グリア細胞の活性化がシナプス後の脱分極と一緒になると、増強が持続性となった。(KU)
Astrocytes Potentiate Transmitter Release at Single Hippocampal Synapses
p. 1083-1086.

つきとめられた代謝性酵素(Metabolic Enzyme Nailed)

カルボキシラーゼは、いくつかの必須代謝性応答においてカルボキシル基を伝達している。この酵素は、全体的反応における別々の段階を触媒するために、それぞれ別の活性部位を備えていて、共有結合的に結合されるビオチン補助因子が、活性化されたカルボキシル中間物を部位間で伝達するのに利用されているのだが、この伝達がいかになされているのかははっきりしていない。このたび、St. Mauriceたちは、ピルビン酸カルボキシラーゼの完全な構造を報告した(p. 1076)。ピルビン酸カルボキシラーゼは四量体として活性であり、活性化されたカルボキシル基の伝達は、分離されたポリペプチド鎖上の活性部位間で生じている。(KF)
Domain Architecture of Pyruvate Carboxylase, a Biotin-Dependent Multifunctional Enzyme
p. 1076-1079.

運動性染色質の組み立て(Motoring Chromatin Assembly)

分子モータータンパク質、たとえばchromo領域を含む因子CHD1などは、ヌクレオソーム再構築に際して機能している。試験管内の解析からは、CHD1はアデノシン三リン酸利用のクロマチン構築因子として作用していると示唆される。Konevたちはこのたび、キイロショウジョウバエの生体内でのCHD1の役割を検討している(p.1087)。この因子を除去すると、変異胚は、精子からのプロタミン除去後にヒストン変異体を父系性ゲノムに取り込むことができなくなるので、不妊のメスが生じることになる。このCHD1のない卵は精子の染色質の凝縮を解くことができず、結果として接合体から父系性の染色質を排除することになり、生育不能な一倍体の胚を産生することになる。(KF)
CHD1 Motor Protein Is Required for Deposition of Histone Variant H3.3 into Chromatin in Vivo
p. 1087-1090.

クローンから種へ(From Clone to Species)

遺伝子の交換が広範に行われるせいで、細菌は、通常の種の概念図式に容易にはあてはまらないものになっている。RetchlessとLawrenceは、いろいろな細菌の種における別々の遺伝子の分岐の時期を抽出する方法を編み出した(p. 1093)。そうしたデータを用いて、彼らは、系列特異的な形質をコードする遺伝子が、他の座位での組換えが止まるずっと以前に遺伝的に単離されていたことを示している。つまり、細菌の系列が分離し始めるときには、それらは、ある遺伝子においては別の種と考えられるが、それ以外の遺伝子でみると同じ種と考えられるのである。これは、真核生物を記述するいかなる種分化のプロセスともまったく異なっている。つまり、生態学的には別の種が伝統的に名づけられた細菌の種の中に存在しているわけであって、それが、医学的診断や疫学、バイオテロなどの人間による判断に資する微生物分類学の利用のし方に大きな影響を与えている可能性があるわけである。(KF)
Temporal Fragmentation of Speciation in Bacteria
p. 1093-1096.

いっときに2つの場所に(In Two Places at Once)

物理的な身体の外にいる感覚(体外離脱体験)は、有機物ないし薬を使った場合であっても、パラノーマルな(超常)現象の場合であっても、一般に神経学的機能障害に分類されるものであった。バーチャル・リアリティーの出現によって、Ehrsson(p. 1048)あるいはLenggenhagerたち(p. 1096; またMillerによるニュース記事参照のこと)が示すように、正常な主体における体外離脱体験を誘発する非侵襲性かつ再現性のあるアプローチが提供されるようになってきた。頭にかぶるディスプレイが用いられ、その眺望のきく視点から自分自身を見ることができるので、主体が仮想の身体に自分が入り込んでいる感覚を確かに報告することが実証できるのである。さらに、彼らは自分の仮想の身体に加えられようとする害に応答して自動的に反応し、物理的身体から自分のドッペルゲンガーの方に、自分の身体性自己感覚を置き換えるようになるのである。(KF)
The Experimental Induction of Out-of-Body Experiences
p. 1048.
Video Ergo Sum: Manipulating Bodily Self-Consciousness
p. 1096-1099.

進化するシステム(An Evolving System)

自家受粉や外交配などの植物交配系の進化は何回も起こったが、そうした交配系は、非常に密接な近縁種の間でもしばしば切り替わってきた。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は、父系性と母系性の遺伝子材料のどちらもが同じ個体からくる植物である。これとは対照的に、シロイヌナズナに非常に近いArabidopsis lyrataでは、自家不和合性システムが自家受精を妨げるようになっている。Arabidopsis lyrataへ自家不和合性遺伝子を導入するだけで、それが外交配するようになるのに十分であった。Tangたちは、自家受粉は複数の機構を介して進化してきたもので、その進化にはおよそ百万年かかったかもしれないということを示している(p.1070、2007年7月26日にオンライン出版)。(KF)
The Evolution of Selfing in Arabidopsis thaliana
p. 1070-1072.

他の原子の離脱に伴なって(Hanging On After Others Leave)

減圧下で、連続電子放射によって陽イオンが形成され、これはプラスに荷電された表面部位から跳ね返される--この古典的な例はTiO2のような遷移金属酸化物からのO+の電子誘発離脱(ESD)であろう。Dulub たち(p. 1052)は、O原子がジグザグに配列されたTiO2表面においてこのESDプロセスについて調べた。初期段階ではO+脱離の確率は1であり(その脱離の断面積は9(±6) x 10-17平方センチメートル)、ほとんど一定である。しかし、表面の空部位の形成により、下地のTi原子をむき出しにするが、空位置に隣接するO原子の離脱確率は1/10に落ち、この反対側のO原子の離脱確率は1/100となる。この結果、1次元の空位の列ができる。(Ej,hE,KU)
Electron-Induced Oxygen Desorption from the TiO2(011)-2x1 Surface Leads to Self-Organized Vacancies
p. 1052-1056.

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