AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 3, 2007, Vol.317


ひずみとしわ(Stress and Wrinkles)

ほとんどの場合、薄膜が圧縮か引っ張りの応力を受けると、この薄膜は曲がるかシワが生じ、伸びたり縮んだりはしない。Huang たち(p. 650;および、Millerによる展望記事参照)は、自由に浮遊しているポリマーのフィルム上に一滴の水を載せ、フィルムと液滴の間の表面張力によって引き起こされた応力は、フィルムにしわを発生させることを示した。この周期的なしわのパターンによって最近の理論が実証され、薄膜の弾性と厚さの関係と、しわ特性が関連していることを著者たちは確認した。この実験台でできる単純な系によって、薄膜の粘弾性に関する研究が可能となる。(Ej,hE)
Capillary Wrinkling of Floating Thin Polymer Films
p. 650-653.
MATERIALS SCIENCE: Exploiting Wrinkle Formation
p. 605-606.

グラフェンシートの量子化された輸送(Quantized Transport in Graphene Sheets)

全体のグラフェンシート(一層のグラファイトシート)上のキャリア密度とキャリア符号の操作が、静電的ゲート制御によって可能なことが実証されていた。現在、研究は局所的ゲート制御に向けられている。即ち、デバイス様の構造により進化した機能を持たせるために、異なった領域の輸送特性を同時に操作することである。Williamsたち(p. 638、6月28日のオンライン出版)は、パターン化されたトップゲートと球状のボトムゲートとを結合することで、グラフェン層ににおいて制御可能な形態のバイポーラなp-n接合が得られることを実験的に示している(ユニポーラなp-p接合とn-n接合と同様に)。その後の磁気輸送測定から、量子ホール効果の振舞いを明らかになり、その詳細は接合部がバイポーラかユニポーラかどうかに依存している。Abanin とLevitov (p. 641,6月28日のオンライン出版)は、境界領域で混りあう量子ホール・エッジ状態の観点から理論的にこれらの結果を説明している。(hk,KU)
Quantum Hall Effect in a Gate-Controlled p-n Junction of Graphene
p. 638-641.
Quantized Transport in Graphene p-n Junctions in a Magnetic Field
p. 641-643.

土星のG環を繋留する弧(An Arc Anchoring Saturn's G Ring)

土星のG環は、主要な一連の環の外側に存在する微かで狭い環である。明確に定義されているにもかかわらず、なぜこの正確な位置に存在するのか、その理由は明らかではなかった。特に、G環には環を導き、形状をつくり込み、あるいは、その環を蒸気で満たすような衛星がその側にあるわけではない。Hedman たち (p.653) はCassini 宇宙船に搭載した Imaging ScienceSubsystem を用いて、G環はセンチメートルからメートルの大きさの氷からなる天体からできている明るい弧状の物質を含んでおり、これが主たる土星の衛星である Mimas との 7:6 の共回転共鳴(corotation resonance) に保持されていることを示している。この粒子の集まりからのダストは、尾を引いてG環に形を与えている。(Wt,KU)
The Source of Saturn's G Ring
p. 653-656.

ミセル形成を操作する(Manipulating Micelle Formation)

溶液中ではブロック共重合体は熱力学的に制御される様々な構造を取る。これらの中にはミセル(Hillmyerによる展望記事も参照)も含まれる。Polyferrocenylsilaneに基づくブロック共重合体は変わった性向をもっており、円柱状のミセルを形成するが、これは広範囲な重合体濃度に渡って安定である。Wang たち(p. 644) は、ミセルの形状と組成がリビング重合と類似したプロセスによって、合成が更に制御し得ることを示した。更に溶液中に重合体を加えると、方位が揃って結合し、より狭いサイズ分布をもつミセルに成長する。これに異なるブロック共重合体を加えると、2つの異なるブロック共重合体からなる共ミセルが形成される。Cui たち(p. 647)は、ブロック共重合体による複雑な1次元ナノ構造を作るための一般的な戦略について述べている。従来の、2つの重合体の長さの組によってその構造が決まる古典的ブロック共重合体による自己整列化と異なり、集積化は静電相互作用と溶媒和によって制御される。このプロセスは水中での重合体ミセル構造の形成が含まれ、これにテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)が急速に付加されて平坦化される。その結果、平坦化されたミセルは異方性を保って成長し、特異な形状となる。ジアミンの付加物がアミンに被覆された金粒子に置換された場合は、もっと複雑な構造が得られる。(Ej,hE)
MATERIALS SCIENCE: Micelles Made to Order
p. 604-605.
Cylindrical Block Copolymer Micelles and Co-Micelles of Controlled Length and Architecture
p. 644-647.
Block Copolymer Assembly via Kinetic Control
p. 647-650.

ゲノムの移植(Genome Transplant)

1970年代、DNAの小片を切ったり貼ったりする技術が革命的な進歩を遂げ、個別の遺伝子を細胞内に意図通りに導入することができるようになった。Lartigue たち(p. 632, および、6月28日オンライン出版)は細菌ゲノム(Mycoplazma capricolum)全体を、別の細菌ゲノム(Mycoplasma mycoides)に置換することについて述べており、これによってドナーゲノムでコードされるタンパク質産物を生産する細胞のコロニーが形成された。(Ej,hE)
Genome Transplantation in Bacteria: Changing One Species to Another
p. 632-638.

植物の受粉(Match-Making in Plants)

動物と同じように、植物においても、受粉には選択的な雄花と雌花の配偶子と、それぞれの他を押しのけての出会いと、接合が必要である。動物と異なり、植物において、このようなダンスに関与するのは実際の配偶子ではなく、配偶子を輸送する配偶体である。Escobar-Restrepoたち(p.655;McCormickによる展望記事参照)は、雌花の配偶体(胚嚢)がその雄花の配偶体(花粉)を認識する分子の一つを同定した。受容体キナーゼ、FERが雌花の配偶体内部の細胞表面に存在している。花粉管が接近すると、シグナル伝達カスケードが胚嚢で始まり、遅れて到着する花粉管へのドアを閉め、受粉した花粉管の更なる成長を止め、その後に雄花の配偶子が遊離する。FERと花粉管からの推定リガンド間のよき結びつきが生殖適合性の基礎を形成しているらしい。(KU)
The FERONIA Receptor-like Kinase Mediates Male-Female Interactions During Pollen Tube Reception
p. 656-660.
PLANT SCIENCE: Reproductive Dialog
p. 606-607.

インスリンシグナル伝達のクローズアップと個性(Insulin Signaling Up-Close and Personal)

細胞は機械的な力に抗して応答するが、そうしたシグナルがいかにして伝達されているかを解き明かすことは難問であった。ストレスが与えられたり緩和されたりしている細胞中のシステインについて差次標識を測定することで、Johnsonたちは、ストレスに応答してその構造を変えているタンパク質を同定した(p. 663)。質量分析を用いて、彼らは構造変化を行う特異的システイン残基を決定した。赤血球細胞中では、細胞がストレスを受けるにつれてスペクトリンがほどけていき、間葉幹細胞では、ミオシンIIAとビメンチンの二つが、ストレスを与えられた細胞と緩和された細胞において差次標識値を示した。(KF)
Quantitative Mass Spectrometry Identifies Insulin Signaling Targets in C. elegans
p. 660-663.
CELL BIOLOGY: Proteins That Promote Long Life
p. 603-604.

細胞への機械的ストレスをモニターする(Monitoring Cellular Mechanical Stress)

細胞は機械的な力に抗して応答するが、そうしたシグナルがいかにして伝達されているかを解き明かすことは難問であった。ストレスが与えられたり緩和されたりしている細胞中のシステインについて差次標識を測定することで、Johnsonたちは、ストレスに応答してその構造を変えているタンパク質を同定した(p. 663)。質量分析を用いて、彼らは構造変化を行う特異的システイン残基を決定した。赤血球細胞中では、細胞がストレスを受けるにつれてスペクトリンがほどけていき、間葉幹細胞では、ミオシンIIAとビメンチンの二つが、ストレスを与えられた細胞と緩和された細胞において差次標識値を示した。(KF)
Forced Unfolding of Proteins Within Cells
p. 663-666.

国境警備する白血球(Leukocytes on Border Patrol)

免疫細胞は、感染への応答に際して、循環系と組織の間を行ったり来たりする。炎症を検出した際、白血球は高度に組み立てられた一連の事態を惹き起こすが、その際白血球は、その奥にある組織へと押し入っていく前に、内皮の表面に付着し、それに沿って動いていく。Auffrayたちは、炎症が存在していない状況で、内皮に付着したまま動かずにいるという、単球(monocytes;アメーバ様の食作用白血球)の集団が示す全く別の行動パターンを明らかにしている(p. 666)。この居座り続ける細胞は、特異的ケモカインやインテグリンのシグナルに依存して、後毛細管の細静脈や静脈、また動脈の表面を調べているらしい。炎症の手がかりを検出すると、この細胞は感染部位へと移動し、そこでマクロファージへと分化する。Muellerたちは、リンパ節におけるケモカインの下方制御が、免疫応答の進行中にTリンパ球が入りこむのをいかにして防いでいるかを明らかにしている(p.670)。この遅延が、もっとも効率的な免疫応答実現のためのリンパ節の環境最適化を助けている可能性がある。(KF)
Monitoring of Blood Vessels and Tissues by a Population of Monocytes with Patrolling Behavior
p. 666-670.
Regulation of Homeostatic Chemokine Expression and Cell Trafficking During Immune Responses
p. 670-674.

TRL応答についての監視(Keeping Tabs on a TLR Response)

Toll様受容体(TLRs)は、病原性微生物に対して強力な炎症誘発性応答を行うが、このTLR応答は微生物産物の細胞への暴露がずっと続くと、最終的には低応答の状態になっていくよう、感染の間中、厳密に制御されている。Carmodyたちは、こうした状況においてのTLRシグナル伝達のネガティブ制御における、癌原遺伝子タンパク質B細胞白血病(Bcl)-3の重要な役割を同定している(p. 675)。Bcl-3は核内因子κBサブユニットp50のユビキチン結合をブロックするが、これはその分解を防ぎ、それがTLRシグナルへの応答における遺伝子転写の抑制を維持する。この経路は、免疫応答の過剰な強まりから、微生物のシグナルが守られるようにする手段を提供するのである。(KF)
Negative Regulation of Toll-Like Receptor Signaling by NF-κB p50 Ubiquitination Blockade
p. 675-678.

粘菌共同体にはハウスキーパーが必要(Slimy Cooperative Requires Housekeeper)

貪食細胞とは、動物に見つかった生得的な免疫細胞で、細菌や他の外来物質を除去するのに特化したものである。Chenたちは、同様の廃棄物処分システムが変形菌(社会性のあるアメーバ状の細胞性粘菌によって形成された凝集体(aggregates))においてきれいな環境の維持を助けていることを明らかにしている(p. 678;またLeslieによるニュース記事参照のこと)。特化した歩哨細胞が細菌を貪食し、毒素を除去したが、それ自身は遊走している間にコロニーから排出される。動物の生得的免疫系において発見されたこれらに関連するあるタンパク質が、コロニーの一部ではない場合に個々のアメーバが細菌を摂食するのを許すだけでなく、この機能にとっても必要であった。(KF)
Immune-like Phagocyte Activity in the Social Amoeba
p. 678-681.
IMMUNOLOGY: A Slimy Start for Immunity?
p. 584.

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