AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 20, 2007, Vol.317


嗅覚のニューロン前駆体の多様性(Olfactory Neuron Precursor Diversity)

成体マウスにおいて、脳は新たに産生した嗅神経細胞を定常的に供給する。このような細胞は脳室下帯で作られ、嗅球へと移動する。Merkleたち(p. 381,7月5日のオンライン出版)は、脳室下帯の様々な領域が異なる嗅神経細胞を作ることを示している。このように、脳室下帯の幹細胞はそれほど個々に万能ではなく、すでにある多様な集団の親元としてより特徴づけられる。(KU,hE)
Mosaic Organization of Neural Stem Cells in the Adult Brain
p. 381-384.

生物からの力を拝借する(Borrowing Power from Nature)

細胞において、機械的な仕事は分子マシーンのアレーによって行われており、人工的なナノスケールの構造体中でこのような分子機構を活用することに関心が高まっている。Van den HeuvelとDekker(p. 333)は、輸送を促進し、或いはデバイスを動かすといった機械的な仕事にたいして回転や線形のモータタンパク質を用いた最近の進展をレビューしている。幾つかの賢明なる応用が開発されてはいるが、著者たちは、それら多くの利用がいまだ原理確認の段階であると記述している。(KU)
Motor Proteins at Work for Nanotechnology
p. 333-336.

分化の年代決定(Dating Differentiation)

ユークライトは分化した隕石の一グループで、小惑星4Vestaのような小天体における太陽系形成初期の最初の火成活動の痕跡をとどめている。したがって、ユークライトの年代学的研究は、このような小さな天体が、いつごろ金属コアとケイ酸塩マントルの分離やその後の火成活動などの地球物理的時期を特定できるかもしれない。しかしながら、多くのユークライトが受けた熱変成作用や衝撃変成作用などによる攪乱のため、これまで使われてきた同位体系は結晶化年代を決定するには不適当であった。ユークライト中のジルコンのHf-W年代から、Srinivasanたち(p. 345)は、ジルコンの結晶化年代をコア・マントル分離から6.8百万年内と推定した。彼らは、長寿命核種をつかうU-Pb年代法よりも短寿命核種をつかったHf-W年代法を適用することで、その時間をより正確に限定することが出来た。後期熱変成作用は、少なくともジルコン結晶化の9百万年後に起こっており、地下深部を掘り起こした衝突現象に関係しているらしい。(KU,tk)
The Crystallization Age of Eucrite Zircon
p. 345-347.

スピン回転中(In a Spin)

太陽以外の星の表面のイメ−ジングにより、天文学者たちはその表面における物理的なプロセスを描くことが可能になる。高度な光学的干渉測定技術を用いて、Monnierたち (p.342、5月31日のオンライン出版、Quirrenbach による展望記事を参照) は、夜空に最も明るく輝く星の一つ、主系列星であるアルタイルの表面を1ミリ角度秒以下の解像度で解明した。アルタイルは極めて高速に、遠心力により伸びるぐらい速く回転しているという点で異常な星である。歪みの量とそれに伴う表面温度の変化は、この星の内部での角運動量の輸送を特徴付けるものであり、それは、標準モデルの予測とは、特に赤道の周りにおいて、乖離している。このように、微分回転や、あるいは、代わりの重力減光則(gravity darkening laws)のような特別なプロセスが、回転する星の観測的特徴を説明するのに必要である。(KU,Wt,nk)
Imaging the Surface of Altair
p. 342-345.
ASTRONOMY: Seeing the Surfaces of Stars
p. 325-326.

ゆがんだ関係(Strained Relations)

フィルムが表面上への気相成長によって成長するとき、複雑なヘテロ構造が形成されるが、その理由は表面の両側の格子のミスマッチに起因する歪によって起きる。Robinson たち(p. 355)は、溶液環境で銀の陽イオンを制御しながら注入すると、複雑な超格子が硫化カドミウムのナノロッド中に自発的に生成されることを示した。硫化カドミウムと硫化銀の互層がロッドの軸方向に形成されるのは、銀の注入時に蓄積される格子のミスマッチ歪が、硫化銀の領域(太さ)を規定するからである。溶液のパラメータを変化させて成長を制御し、ナノワイヤの寸法を制御する方法で、これらナノロッドからの近赤外放出の調整に利用できる。(Ej,hE)
Spontaneous Superlattice Formation in Nanorods Through Partial Cation Exchange
p. 355-358.

南極におけるハロゲン(Halogens in Antarctica)

対流圏でのハロゲンはオゾン濃度や大気の酸化能力、それにエアロゾル形成に影響を及ぼし、これら全てが気候に関連している。凍結した高緯度のハロゲン化学は大変興味深いことが解ってきた。それは特にこの地域が地球全体の気候変動の前触れを告げるという働きをしているからである。しかし、この地域のデータの欠如はハロゲン化学のをさらに深く理解する際の大きな障害となっている。Saiz-Lopez たち(p. 348)は、BrO とIOの南極境界層での測定値を2004年1月から2,005年2月にかけて示した。彼らは、これらハロゲンが太陽光の当たっている間は高濃度で持続していることを明らかにしたが、これはIOが検出されていない北極における様子と反対である。彼らの見つけた春季のIO濃度は大気中の最高値を示しており、IOとBrOの相乗効果から未知のハロゲン-活性化メカニズムが働いている可能性を示唆している。この高濃度ハロゲンのレベルによって南極境界層におけるジメチルサルファイドと水銀の急速な酸化が起こっている。(Ej,hE,nk)
Boundary Layer Halogens in Coastal Antarctica
p. 348-351.

徐々に支配者となる(Gradually Becoming Dominant)

恐竜はジュラ紀までに地上を支配する動物となった。彼らの初期の祖先が地位を占め始めたのは、アルケオザウルス(Archeosaurs)や羊膜動物(amniotes)を含む彼らの先駆者(precursors)が選択的に被った絶滅を経たからなのか、あるいはこれらの他グループからもっと徐々に置き換わっていったのか良く判っていない。しかし、これらの疑問に答えるために必要な三畳紀の化石は、比較的少ない状態であった。Irmisたち(p.358;カバー記事参照)は、ニューメキシコで得られた恐竜や彼らの先駆者である爬虫類動物を含んだ三畳紀後期の豊富な化石群集について記述している。先駆者の一部は、これまで考えられてきたよりも長く存続し、そして数百万年間恐竜と一緒に存在していた。これらの化石は、三畳紀後期に恐竜が徐々に台頭し、ジュラ紀初めごろの恐竜の支配に先行していたというモデルを証拠付けている。(TO)
A Late Triassic Dinosauromorph Assemblage from New Mexico and the Rise of Dinosaurs
p. 358-361.

同じように差が大きい(The Same Difference)

最近の配列決定技術によって、単一生物体中の変動を研究することが可能になった。Clark たち(p. 338) はシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の20系統について、高濃度オリゴヌクレオチドアレイ手法をもちいて、高速なスループットの配列決定(resequencing array法)を行ない、広範な変動が存在することを見つけた。シロイヌナズナにおけるゲノム全体のDNA多形性の包括的なデータから、天然の遺伝的変動の範囲が解り、その中には、異なる野生株中に多くの無能化された遺伝子が含まれるだけでなく、耐病性種を含む遺伝子ファミリー構成員中には高レベルの多形性が存在する。(Ej,hE,KU)
Common Sequence Polymorphisms Shaping Genetic Diversity in Arabidopsis thaliana
p. 338-342.

何だ、この騒音は?(What's the Buzz?)

ミツバチの共同生活集団は互いに親戚関係にあることがよく知られているが、ミツバチ集団は、密接な協力関係にある個体が得る利益に基づく理論から予測されるより、もっと遺伝的多様性が大きい。Mattila と Seeley (p.362)は、これに対する1つの理由を示し、1つのメスと複数のオスから産まれた集団の方が遺伝的多様性を持ち、巣の建設率、群れの形成率、蜜製造において、単一メスと単一オスからの集団よりも優れていることを示した。集団の中で女王バチの存在を目立たせ、構成員に影響力を及ぼすために、彼女は女王下顎フォロモンと呼ばれる複雑なブレンド物質を作る。Vergoz たち(p. 384、 およびGaliziaによる展望記事参照) は、女王バチのフェロモンに接した若いハチは有害な学習(例え軽い電気ショック)を避けるが、本能的な欲望の学習には影響を及ぼさないことを見つけた。女王バチの物質はミツバチのドーパミン作動系も調節し、その結果若い働きバチの有害記憶の容量を減少させる。(Ej,hE)
Genetic Diversity in Honey Bee Colonies Enhances Productivity and Fitness
p. 362-364.
Queen Pheromone Blocks Aversive Learning in Young Worker Bees
p. 384-386.
NEUROSCIENCE: Brainwashing, Honeybee Style
p. 326-327.

場所、場所、場所(Location, Location, Location)

相当な努力がなされてきたにも関わらず、Hedgehog(ヘッジホッグ、ハリネズミ、略してHh)として知られるタンパク質が、いかにして幹細胞機能や発生、癌などの多様な生物学的プロセスを制御しているかは、いまだ謎のままになっている。Rohatgiたちは、哺乳類細がその一次繊毛を、Hhの存在を求めて周囲の環境を探る触角として利用していることを明らかにした(p. 372; またChristensenとOttによる展望記事参照のこと)。Hhがその受容体であるPatched 1 (Ptc1)に結合すると、受容体は繊毛を離れる(残す)ことになり、そこで(刺激のない条件下で)それは、シグナル伝達タンパク質Smoothened (Smo)の蓄積を妨げることによって、Hhシグナル伝達を制限するよう作用する。刺激された細胞の繊毛におけるSmoの蓄積は、Hhシグナル伝達の活性化に対応している。さらに、Ptc1とSmoの細胞分布に影響する分子機構をさらに深く理解することは、シグナル伝達経路についての理解を深め、新しい治療標的へと導いてくれる可能性がある。(KF)
Patched1 Regulates Hedgehog Signaling at the Primary Cilium
p. 372-376.
CELL SIGNALING: A Ciliary Signaling Switch
p. 330-331.

脳における長寿( Longevity on the Brain)

いくつかの研究が、インスリン様シグナルカスケードにおける機能欠失型変異は虫の類やハエなどの寿命を伸ばすということを示している。しかし、それと等価の変異が、マウスにおいては、代謝疾患や致死的糖尿病に関係している。これとは対照的に、マウスにおけるインスリン感受性を強めることになるカロリー制限や遺伝的戦略は、年齢に関連した病気のリスクを低め、寿命を伸ばすことになる。Taguchiたちは、インスリン様シグナル伝達の減少がマウスの寿命を伸ばすことになる部位としての脳の存在を指摘することで、食い違うように見えた結果の矛盾を解決している(p. 369)。(KF)
Brain IRS2 Signaling Coordinates Life Span and Nutrient Homeostasis
p. 369-372.

小さな発覚(Minimal Exposure)

ある種のウイルスがマイクロRNA(miRNA)を発現するという最近の発見は、それら病原体が宿主を惑わせるためにmiRNAを使っているかもしれないという疑問を提起することになる。Stern-Ginossarたちは、ヒトサイトメガロウイルスにとって、まさにその通りであるようだということを明らかにしている(p. 376; またCullenによる展望記事参照のこと)。ウイルスのmiRNAの1つは2つの免疫関連遺伝子の3'非翻訳領域を標的にしていると予想されており、この遺伝子はウイルス感染に応答して活性化される。そうしたタンパク質の1つの発現が実際に、ウイルス性のmiRNAによって抑えられ、抗ウイルス性ナチュラルキラー細胞による認識を減少させる。miRNAが宿主の免疫を逃れるためにウイルスによって広く利用されているかどうかについては、今後を俟たないといけない。(KF)
Host Immune System Gene Targeting by a Viral miRNA
p. 376-381.
IMMUNOLOGY: Outwitted by Viral RNAs
p. 329-330.

整列された有機分子のバンド構造(Bands of Ordered Organic Molecules)

多くの無機物質の電子構造は角度解像光電子分光法(ARPES)のような手法で決定されるが、その理由の一つは、これらの物質が規則正しい結晶やフィルムを形成することを利用しているからである。電子工学で利用されている有機物質は十分大きな結晶に成長させることは難しいし、フィルムも整列度や配列度が高くて、スペクトルが理論的なバンド構造モデルと比較可能なものを得ることは難しい。Koller たち(p. 351) は、銅表面を酸素で覆った、整列度の高いsexipheneフィルムを成長させた。密度関数理論を使ってARPESの結果を考察し、彼らは、分子の長軸方向の個々の分子軌道から、準1次元バンド構造(quasi-one-dimensionalband structure)を導き出した。しかし、この直交方向には電子的構造として、格子の周期性が反映され、連続的バンドが見られる。(Ej,hE)
Intra- and Intermolecular Band Dispersion in an Organic Crystal
p. 351-355.

クラスターになるか、ならないか(To Cluster or Not to Cluster)

PDZドメインは、真核生物のタンパク質における非常にしばしば相互作用が行われる領域で、標的タンパク質のC末端に結合するところである。PDZドメインは、それぞれ異なった配列結合優先度をもつ機能的クラスへとクラスター化されうるものだと考えられてきた。実験データとモデリングを用いて、Stifflerたちは、PDZドメイン-ペプチドがマウスのプロテオーム全体にわたって相互作用すると予想した(p.364)。クラスター形成を観察する代わりに、彼らは、PDZドメインが選択性スペース全体を通じて均等に分布していて、交差反応性(cross-reactivity)が最小になるようにできていることを発見した。この研究は、タンパク質機能への洞察を得るための生産的アプローチとして、相互作用領域のファミリーに焦点を合わせることにハイライトを当てるものである。(KF)
PDZ Domain Binding Selectivity Is Optimized Across the Mouse Proteome
p. 364-369.

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