AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 8, 2007, Vol.316


電子はたやすく放出される(Electron Emits with Ease)

マイナスの電子親和力を持つ物質は容易に電子を放出する。これらの物質は電界放出ディスプレイ(FED)や電子顕微鏡に応用できるポテンシャルを持っている。バルクなダイアモンドはこのような物質の1つであることは知られていたが、放出の均一性と電子輸送に関する課題があったので、他の候補を探すよう研究の方向は動いていた。ダイアモンドイド(ダイヤモンド状の骨格構造を持つ物質:C22と高次のポリマンタン(polymantanes))は石油から抽出されていた分子である。これは水素原子によって終端された4から11個のダイアモンド状の構造を持つ籠を含んでいる。Yangたち(p.1460)による、ダイアモンドイドの機能化された自己組織化単層膜についての光電子放出の研究から、それらがまたマイナスの電子親和力をもつ物質であり、光放出電子において殆んど単色光に近いソースとなりうることを示している。(hk,KU)
Monochromatic Electron Photoemission from Diamondoid Monolayers
p. 1460-1462.

エックス線ビジョン(X-ray Visions)

原子構造を確定できるエックス線回折の成功は、ほとんど結晶性がない物質へその適用を拡大しようとする努力や、電子構造と結合の対時間特性変化に伴う構造変化を確定しようとする努力を刺激することとなった。GaffneyとChapman (p. 1444)は、入射ビームが直線加速器から電子線として出力され、コヒーレントなエックス線のパルスへと変換される、新世代のエックス線施設について議論している。パルス化されたエックス線ビームの性質は、超高速なダイナミックスの特徴を記述できるほどであり、またこのビームのコヒーレンス性によって、非晶質物質を原子分解能レベルでイメージ化することができるようになるであろう。(hk)
Imaging Atomic Structure and Dynamics with Ultrafast X-ray Scattering
p. 1444-1448.

光をコヒーレントに刈り集めて(Harvesting Light Coherently)

太陽光を吸収し、そのエネルギーを化学反応にふり向ける複雑なタンパク質領域の中の、驚くほど効率の良いエネルギー移動に頼ることで、光合成はなされている。Lee たち(p. 1462; Parsonによる展望記事参照) は、2色フォトンエコー分光学技術を利用して、紅色細菌の光合成反応中心にある2つの成分間のエネルギー移動の初期ダイナミクスを調べた。bacteriophytinとアクセサリ微生物葉緑素は、光励起によって、各タンパク質内に位相を同期した状態で、アンサンブルを介して個々の成分の状態でいるよりは有意に長い時間、存在し続ける。このデータのモデル化によって、タンパク質構造を通じて振動共役関係が保持され、それゆえ効率的エネルギー移動が可能であることが、示されるのである。(Ej,hE)
Coherence Dynamics in Photosynthesis: Protein Protection of Excitonic Coherence
p. 1462-1465.
BIOPHYSICS: Long Live Electronic Coherence!
p. 1438-1439.

段階的消光(Stepwise Quenching)

可視光により励起されると、半導体的な単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotubes SWNTs)は、非常に可動性の高い励起子を生成する。そして、これらの励起子を消滅させる過程が、近赤外領域に特徴的な蛍光の発光をもたらす。プロトン化(protonation)などのナノチューブ側壁における化学反応は、この光ルミネセンスを消光させる。Cognetたち(p.1465)は、SWNTs をアガロースゲルの中に配置し、また、可逆的反応物質(酸や塩基)あるいは非可逆的反応物質(ジアゾニウム塩)中に拡散させることによって、この消光過程を用いて側壁反応を追跡した。ルミネセンスの段階的な変化は、側壁の局所化された部位における励起子の消光に対応している。これらの段階的な変化を解析することにより、この励起子は拡散的な挙動で移動し、それらの寿命期間中に およそ10,000 の部位を探し回ることが明らかになった。(Wt)
Stepwise Quenching of Exciton Fluorescence in Carbon Nanotubes by Single-Molecule Reactions
p. 1465-1468.

並行して並ぶ地震帯(Earthquakes Zones in Parallel)

Benioff帯は沈み込み帯中にある下行性プレートの短冊状の断片が並んだ領域であり、これが地震の巣になっている。その内のいくつかは二重Banioff帯(地震の発生する短冊状の領域が並列に並んでいるところ)として知られているが、そのほとんどでは、一重になっていると考えられてきた。Brudzinskiたち(p.1472; および、Rietbrockによる展望記事参照)は、地震のデータベースを解析し、岩石圏内の下降している岩盤中で地震の位置を同定した。一つの幅広い領域が地震領域になっているのではなく、二つ並行して並んだ短冊状の地震領域がほとんどであった。二重Benioff帯が広く分布していることは、地震発生メカニズムの形式化において制約を課すものである。(Ej,hE)
Global Prevalence of Double Benioff Zones
p. 1472-1474.
GEOPHYSICS: Listening to the Crackle of Subducting Oceanic Plates
p. 1439-1440.

多様性から変動へ(From Variety to Variation)

花と花序(花の配列形態)とは、形状と大きさの驚くほどの多様性を示す。しかし、進化の理論的な可能性から言えば、もっと多くの可能性があってもおかしくない。我々が観察する自然界の生物的形態は、なぜ理論的な可能性のごくわずかな部分しか占めてないのか、Prusinkiewicz たち(p. 1452, オンライン出版、2007年5月24日、および表紙を参照)は、遺伝的な研究と理論的なそれを組み合わせて研究花序の構造を調べた。高次の適応空間内での発生と選択がいかに相互作用したかを明らかにした結果、著者たちは、生物の形態進化に関する可能性の高い経路と制約条件を明らかにした。さらにこの研究は、モデル植物のシロイヌナズナの構造に影響を与える2つの遺伝子の発現について調べることで、得られたモデルを検証している。(Ej,hE,nk)
Evolution and Development of Inflorescence Architectures
p. 1452-1456.

組織の転写性プロファイリング(Transcriptional Profiling of Tissue)

顕花植物が、その一生のうちに、生殖中に利用される短期一倍体配偶体相と、植物の物理的な植物体を構成する二倍体胞子体相の2つの顕著な相を持つのにくらべ、蘚類は一倍体配偶体の相しか持たない比較的原始的な生活様式を示す。Menand たち(p.1477) は、被子植物の根毛と、これに対応する蘚類の仮根を比較解析した。二倍体被子植物の根毛は土壌中に埋もれて養分を吸収する。一倍体蘚類の仮根、つまり、caulonemaは、根毛と類似の、養分吸収および生体繋留の機能をもつが、細胞レベルでは根毛とは関連がない。しかし、関連した転写制御因子が両方の細胞型の発生を導くように見えることから、従来考えられていた以上に近い関係にあるのかも知れない。(Ej,hE)
Polony Multiplex Analysis of Gene Expression (PMAGE) in Mouse Hypertrophic Cardiomyopathy
p. 1481-1484.

問題の根(The Root of the Problem)

顕花植物が、その一生のうちに、生殖中に利用される短期一倍体配偶体相と、植物の物理的な植物体を構成する二倍体胞子体相の2つの顕著な相を持つのにくらべ、蘚類は一倍体配偶体の相しか持たない比較的原始的な生活様式を示す。Menand たち(p.1477) は、被子植物の根毛と、これに対応する蘚類の仮根を比較解析した。二倍体被子植物の根毛は土壌中に埋もれて養分を吸収する。一倍体蘚類の仮根、つまり、caulonemaは、根毛と類似の、養分吸収および生体繋留の機能をもつが、細胞レベルでは根毛とは関連がない。しかし、関連した転写制御因子が両方の細胞型の発生を導くように見えることから、従来考えられていた以上に近い関係にあるのかも知れない。(Ej,hE)
An Ancient Mechanism Controls the Development of Cells with a Rooting Function in Land Plants
p. 1477-1480.

非遺伝子の転写の重要性(Importance of Non-Gene Transcription)

多くの真核生物ゲノムにおいて、タンパク質をコードしていると説明できる以上の部分がRNAに転写されている。この「非遺伝子」転写の機能はわかっていない。Kapranovたち(p. 1484、5月17日号オンライン発表)は、ヒト細胞における、いまだ注釈付けられていない長いRNAおよび短いRNAを分析した結果、長い転写物の大部分がもっと短いRNAの前駆物質として機能することを見出した。短いRNAは、遺伝子の5'末端と3'末端に集まる傾向があって、その数は、しばしば元の遺伝子の発現に相関していた。5'RNAの多くは、保存されてきた領域に存在しているので、遺伝子あるいはゲノムの関連機能において重要な役割を果たしていると思われる。(An)
RNA Maps Reveal New RNA Classes and a Possible Function for Pervasive Transcription
p. 1484-1488.

心臓病遺伝学の探索(Probing the Genetics of Heart Disease )

ある種の生活習慣因子、たとえば喫煙は、心疾患発生のリスクを増加させるが、遺伝的要因もまたそのリスクに寄与している。それぞれ独立した研究で、McPhersonたち(5月3日オンライン発行のp. 1488)とHelgadottirたち(5月3日オンライン発行のp. 1491)はゲノム全体にわたっての関連を調べるスキャニングを行ない、コーカサス人種集団において心疾患リスクを増大させる、DNA配列の変異体を染色体9p21中に同定した。いわゆる「リスク対立遺伝子」の2つのコピーをもつ20ないし25%のコーカサス人種は、その対立遺伝子を一つももたない個人に比べて30ないし40%も高い心疾患リスクをもっていた。この問題のゲノム領域は、注釈付けの済んだタンパク質-翻訳領域の境界の外側にあるため、それが心疾患に影響を与える機構は謎のままである。興味深いことに、染色体9p21の同じ一般的領域内にあるDNA配列変異体は最近、2型糖尿病のリスクを増加させることも明らかにされてきている。(KF)
A Common Allele on Chromosome 9 Associated with Coronary Heart Disease
p. 1488-1491.
A Common Variant on Chromosome 9p21 Affects the Risk of Myocardial Infarction
p. 1491-1493.

アレルギーをブロックする伝達物質(Allergy-Blocking Transmitters)

内在性カンナビノイドシステムは、さまざまな調節性機能を果たしており、中枢および末梢神経系においても、また末梢性器官においても、ますます多くの生理的役割に関与しているとされてきている。Karsakたちはこのたび、この影響がアレルギー応答の制御にまで及んでいることを発見した(p. 1494)。既知の2つのカンナビノイド受容体を欠くマウスは、いろいろのアレルゲンに応答して、皮膚の接触感受性を発生させる強い傾向を示した。この受容体を拮抗物質でブロックすると同様の効果があったが、一方カンナビノイドを壊す原因となる酵素をコードする遺伝子が非存在だと、マウスは接触感受性に対する抵抗性を増したのである。内在性カンナビノイドあるいはその受容体の制御は、アレルギー治療において有用であるかもしれない。なお、ヒトとアレルギーについての広い文脈におけるそれらの役割は今後探索されないといけないが。(KF)
Attenuation of Allergic Contact Dermatitis Through the Endocannabinoid System
p. 1494-1497.

深海から大気へ(From Deep Ocean to Atmosphere)

最終退氷期における大気中の二酸化炭素濃度や放射性炭素の放射能の記録は、放射性同位体14Cの多くの崩壊が進んだ炭素(old carbon)が、海洋から大気に大量に移動したことを示している。海洋における崩壊が進んだ炭素は、南氷洋あるいは太平洋の深海水に蓄積されていたのではないかと想定されてきた。Marchittoたち(p.1456. Keelingによる展望記事参照、5月10日公開)は、北太平洋東部の中深度にある海水における、過去3万8千年間の放射性炭素の放射能の記録を示している。その放射性炭素のシグニチャは、大気のシグニチャとおおむね一致しているが、崩壊がかなり進んだ炭素(very old carbon)を含有する海水が大規模に流入した、退氷期の中の2つの期間ではシグニチャが一致していない。なお、崩壊が進んだ炭素は、南極大陸周辺の氷の融解に伴って循環が変化する期間に、海底から上昇してきたもののようである。(TO)
Marine Radiocarbon Evidence for the Mechanism of Deglacial Atmospheric CO2 Rise
p. 1456-1459.
ATMOSPHERE: Deglaciation Mysteries
p. 1440-1441.

マントルに入る水を見る( Watching Water Enter the Mantle)

海水は、一つは、表面プレートがマントル下に引き下げられる沈み込み帯を通る経路で、マントルの中に入り込むと長く推測されていた。KawakatsuとWatada(p.1468)は、アレイ地震観測器(seismic array) を用いて、日本北東部の沈み込みプレート上部のマントル深部に下りていく海水の道筋を追跡する画像を作成した。海水は、100Km地下の浅い深度において、水を含んだ海洋地殻から放出されており、そしてさらに下降する高密度スラブ上のマントル中へとさらに流れ下っていく。(TO)
Seismic Evidence for Deep-Water Transportation in the Mantle
p. 1468-1471.

遺伝子工学による害虫への抵抗力の利点と落とし穴(Benefits and Pitfalls of Engineered Pest Resistance)

殺虫性毒物バチルス・チューリンゲンシス(Bt)を発現するよう遺伝子工学的に作られた作物は、標的となった有害生物による攻撃に抵抗性がある。しかし、そうした作物がその他の昆虫に与える意図していなかった影響については、激しい議論が起きている。Marvierたちは、Bt-遺伝子工学によって作られたトウモロコシと綿に対して、さまざまな増殖環境下で行なわれた個別研究の結果を多数まとめたメタ分析を行ない、さまざまな昆虫種に対する影響をカタログ化した(p. 1475)。この結果は、Bt殺虫技術と昆虫の間の相互作用のデータベースを提供してくれるもので、潜在的な利点と問題とを明るみにだすものとなっている。(KF)
A Meta-Analysis of Effects of Bt Cotton and Maize on Nontarget Invertebrates
p. 1475-1477.

標的同定の手段(Target Identification Tool)

ゲノム機能解析にとっての困難な課題は、転写制御因子(および補助因子)とDNAとの相互作用についての有意味な全体的な測定を行なうということであった。とくに、巨大なゲノムにおいて、個々の結合部位と個々の因子-標的遺伝子相互作用とを明示的にマップ化することは、困難であった。Johnsonたちは、クロマチン免疫沈降と超高スループットの配列決定法の組み合わせ法を開発して、高い特異性を50-塩基対レベルの分解能を達成した(p. 1497; またFieldsによる展望記事参照のこと)。このアプローチは、神経細胞の拘束性サイレンシング因子(NRSF; REST(repressor element-1 silencing transcription)すなわち、抑制エレメント-1サイレンシング転写制御因子としても知られる)による制御の研究に用いられて、膵臓の神経内分泌の発生においてキーとなる積極的制御因子を同定することとなった。(KF)
Genome-Wide Mapping of in Vivo Protein-DNA Interactions
p. 1497-1502.
MOLECULAR BIOLOGY: Site-Seeing by Sequencing
p. 1441-1442.

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