AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 1, 2007, Vol.316


量子的な記録と複写(Quantum Storage and Repetition)

量子レジスターは、情報の基本ユニットであるキュビット(qubit)が、チャネルに沿って移送され、局所的に処理されることを可能とするものである。Dutt たち (p.1312) は、ダイアモンド中の単一の窒素空乏(nitrogen vacancy NV) 中心に記憶された電子的なキュビットと原子核的なキュビットのコヒーレントな制御と結合とを実際に示している。NV中心のスピン自由度は、振動自由度(そして、その他の運動学的自由度な)と大きく分離しているため、これらの二つのキュビットは、室温の量子レジスターを形成することができる。この場では、電子的なキュビットは、状態依存的な蛍光を通して他の抵抗と光学的な情報伝達ができる一方、核的なキュビットは、情報を記憶することに用いることができる。これらレジスターは、スケールアップ可能で光学的に結合した量子情報システムの基礎として用いることができる。暗号化のような応用に量子情報処理を利用するには、ネットワークをまたがって、もつれた量子状態を分布させることが必要である。これらの状態は、寿命は有限であり、おそらくは、ネットワークは量子的な複写を用いることが必要になるであろう。この複写は、情報を破壊することなく、情報を高い信頼性で伝達するようなものであろう。Chou たち (p.1316, 4月5日にオンラインで公表された) は、二つの冷たい原子ガス雲のペアを用いて3mの距離に渡り、もつれた状態を分布させ、それにより、長距離に渡っての量子通信の可能性を示している。(Wt)
Quantum Register Based on Individual Electronic and Nuclear Spin Qubits in Diamond
p. 1312-1316.
Functional Quantum Nodes for Entanglement Distribution over Scalable Quantum Networks
p. 1316-1320.

西アフリカモンスーンの古水文学(West African Monsoon Paleohydrology)

モンスーンは、低緯度地域における降雨の主たる原因であり、大気に含まれる湿気と熱量の収支に大いに関係している。西アフリカモンスーンは、アフリカ大陸の広大な地域に影響を与えているが、エルニーニョ-南方振動(Southern Oscillation)あるいは海面水温 (SST:sea surface temperatures)変化などの他の大規模な気候プロセスとどのように関係しているのか、よく判っていない。Weldeabたち(p.1308; Barkerによる展望記事参照)は、ギニア湾から取り出した海洋の堆積コア中の浮遊性有孔虫(planktonic foraminifera)の酸素同位体組成と共にMg-Ca比率とBa-Ca比率を分析することで、過去15万5千年間における海面水温やそこの河川流出(river runoff)の変化を詳細に再現した。多くの記録において、流入する淡水の変化(variability) は、局所的海面水温(local SSTs) よりも北高緯度での水温の変化によく類似していた。このことは、北高緯度の気候が降水量に対して主要な制御要因の役目を果たしていることを示している。局所的海面水温は、低緯度における日照に、より緊密な関係があった。(TO)
155,000 Years of West African Monsoon and Ocean Thermal Evolution
p. 1303-1307.
ATMOSPHERIC SCIENCE: The Monsoon's Past
p. 1295-1296.

輸送則に反して(Disobeying Transport Rules)

金属の熱伝導度と電子導電度の比が温度に比例しているという、実験的に得られたiedemann-Franz 則は、物性物理学においてもっとも古くから知られた関係の1つである。それはまた、金属のロバストな特性であると考えられていた。それは、量子力学と金属の標準モデルであるフェルミ液体論によって理論的に裏打ちされていたからである。Tanatarたち(p. 1320; Colemanによる展望参照)は、CeCoInにおける熱と電荷輸送の計測結果を示し、結晶格子の一つの方向についてはこの法則に従っているが、結晶格子の他の方向ではこの法則が成り立っていないことを報告している。彼らは、この等方性の破れという結果について、フェルミ液体論がいかに修正されるべきか、修正しうるか、という観点で議論し、このような強い相関性をもつシステムの振舞いを記述している。(hk,Ej)
Anisotropic Violation of the Wiedemann-Franz Law at a Quantum Critical Point
p. 1320-1322.
PHYSICS: Watching Electrons Break Up
p. 1290-1291.

やわらかい鉄の中心(Soft Iron Center)

火星のコア(核)は一般には地球のコアと類似して、ほとんどが鉄で、少量の軽元素が含まれていると思われている。火星のコアの条件に似せた高圧実験において Stewart たち(p. 1323)は、火星のコアは現在は完全に液体であるが、将来結晶化する際には地球の場合とは異なるものになることを示している。火星では、地球のような外側に向かって結晶化した鉄に富む内核は形成されないであろう。むしろ、惑星の冷却によって“降雪コア”モデル、つまり鉄に富む固体粒子がコアの表面に沿って核結晶を作り、中心に向かって沈降していくか、あるいは、“硫化物の内核”モデル、つまり鉄-硫化物相が結晶化して固体の内核を形成する、のいずれかであろう。(Ej,hE)
Mars: A New Core-Crystallization Regime
p. 1323-1325.

保存と崩壊(Preservation and Decay)

海中や海底における、有機物質の分解と保存のせめぎあいは、大気中に酸素がどれだけ含まれるか、また、炭素、窒素、リン、その他の元素が生物地球環境を通じてどれだけ循環するか、を制御する上で大きな役割を果たす。海洋堆積物中の炭素の量は大量にあるため、これらプロセスの間のバランスの小さな差が大きな影響をもたらしうるので、問題のモデル化は極めて困難である。Rothman と Forney (p. 1325; およびMiddelburg と Meysmanによる展望記事参照)は、有機物の内因性反応性が一定で、分解速度が細菌の量に依存する整合性のあるモデルを提案している。この説明は、有機物の分解速度が内因性反応性に依存するとする化学的モデルとは基本的に異なるものである。(Ej, hE)
Physical Model for the Decay and Preservation of Marine Organic Carbon
p. 1325-1328.
OCEAN SCIENCE: Burial at Sea
p. 1294-1295.

さやの中のエンドウマメとは異なる(Not Like Peas in a Pod)

エンドウマメやダイズといったマメ科植物は、大気中の窒素を固定する共生菌を根粒に宿している。この共生の根粒菌はマメ科植物によって認識されるシグナル伝達分子、いわゆるNod因子を作る。Giraudたち(p.1307;Downieによる展望記事参照)は、二つの光合成ブラジリゾビウム属系統の完全なゲノム配列に関して報告している。この系統は宿主植物の根に根粒を作るが、しかしながらnodABC遺伝子とNod因子をもたない。その代わり、この普通と異なる共生関係の際には、プリン誘導体がシグナル分子として働き、根粒器官を作るきっかけを与えているのである。(KU,hE)
Legumes Symbioses: Absence of Nod Genes in Photosynthetic Bradyrhizobia
p. 1307-1312.
PLANT SCIENCE: Infectious Heresy
p. 1296-1297.

手で支えながら二足歩行(Walking Tall with Hand Holds)

人と類人猿における顕著な差異である二足歩行の歩きは、ヒトとチンパンジーの共通の最後の祖先以降、あるいはその時点で生じたと一般に考えられてきた。Torpeたち(p.1328,表紙およびO’HigginsとEltonによる展望記事参照)は、チンパンジーより遠い関係にあるオランウータンが、走る人によく似た二足歩行のやり方でまばらな枝の間を動いている事を示している。この観察は、大型類人猿においてのこの二足歩行はもっと古くからあった能力であり、樹上を降りたヒトの祖先によって更に進化し、一方チンパンジーやゴリラは本質的にこの能力を失った、ということを示すものである。(KU)
Origin of Human Bipedalism As an Adaptation for Locomotion on Flexible Branches
p. 1328-1331.
ANTHROPOLOGY: Walking on Trees
p. 1292-1294.

隙間を空ける(Spaced Out)

感染症の地球空間モデルについての多くの方法論的アプローチは、区画(patches)や、距離を介した感染、多グループ(multigroups)、さらにはネットワークなどの影響の解析を包含するものとなっている。そうした枠組みの中で、Rileyは、それらモデルによって生み出された疫学的洞察の意義を例示しながら、麻疹や手足口病、インフルエンザ、天然痘などの感染症についてのキーとなる結果をいくつかをレビューしている(p. 1298)。(KF)
Large-Scale Spatial-Transmission Models of Infectious Disease
p. 1298-1301.

糖尿病遺伝子の長くなっていくリスト(A Growing List of Diabetes Genes)

糖尿病のもっとも普通の型である2型糖尿病は、世界で1億7千万人以上もの人たちに影響を与えており、しかもその広がりは急速に増加している。その病気を発生させる個々人の傾向は、生活習慣と遺伝性因子の組み合わせによって決定される。それぞれ独立の3つの国際的コンソーシアム―Scottたち(4月26日オンライン発行されたp. 1341)とZegginiたち(4月26日オンライン発行されたp.1336)、さらには糖尿病遺伝学イニシアティヴ(Diabetes Genetics Initiative)(4月26日オンライン発行されたp. 1331)―が、2型糖尿病のリスクに影響する遺伝的変異体を同定するためにヒトゲノムの包括的調査を実施し、続いて自分たちの解析結果の統計的な力を増すため、自分たちのデータを互いに共有している。従来この病気に関与しているとされてきたいくつかの配列変異体を確認できたのに加えて、著者たちは、これまで未知の疑わしき変異体を同定した。少なくとも10個の、リスクに一定の影響を与えている遺伝的座位が、このたび2型糖尿病に確かに結び付けられたのである。(KF)
A Genome-Wide Association Study of Type 2 Diabetes in Finns Detects Multiple Susceptibility Variants
p. 1341-1345.
Replication of Genome-Wide Association Signals in UK Samples Reveals Risk Loci for Type 2 Diabetes
p. 1336-1341.
Genome-Wide Association Analysis Identifies Loci for Type 2 Diabetes and Triglyceride Levels
p. 1331-1336.

RNAに自分の仕事をやらせる(Let the RNA Do Its Business)

ウイルスは、感染細胞が、子孫の産生を許すのにじゅうぶんなくらい長く生存してくれることを確実にしておく必要がある。Reevesたちはこのたび、ヒト・サイトメガロウイルスがこの目的のためにある異常な戦略を用いていることを明らかにしている(p. 1345)。それは、大量の非翻訳RNAが特異的に、ミトコンドリア中のあるアポトーシス性トリガーの邪魔をするというものである。アポトーシスが開始された細胞中では、このRNAがミトコンドリア中のある酵素と結合して、機能的ミトコンドリアを維持するように助け、それによって感染細胞の寿命を延ばすことになっている。この機構によって、ウイルスがタンパク質産物を翻訳してこの機能を実行させようとすることが不要になり、つまりは、感染細胞の資源をより効率的に活用できるようになっているのである。(KF)
Complex I Binding by a Virally Encoded RNA Regulates Mitochondria-Induced Cell Death
p. 1345-1348.

特製のプロテアソーム(Designer Proteasome)

免疫系では、主要組織適合抗原の遺伝子によってコードされた分子によって細胞表面に提示された抗原性タンパク質の断片に、T細胞が応答している。このプロセスは、病原体や腫瘍によって運ばれた抗原の認識にとってきわめて重要なだけでなく、胸腺において発生するT細胞の選択においても同様に重要である。それらペプチド類は、プロテアソームと呼ばれる大きな多サブユニット複合体によって産生されるが、プロテアソームはさまざまな触媒サブユニットを含む種々の型に存在している。Murataたちはこのたび、β5tというプロテアソームサブユニットを同定したが、それは胸腺上皮細胞にだけ見出され、T細胞のポジティブ選択を指示するものである(p. 1349; またBevanによる展望記事参照のこと)。実際、β5tを欠くマウスでは、T細胞発生が有意に破壊されたさまを示したのである。(KF)
Regulation of CD8+ T Cell Development by Thymus-Specific Proteasomes
p. 1349-1353.
IMMUNOLOGY: The Cutting Edge of T Cell Selection
p. 1291-1292.

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