AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 25, 2007, Vol.316


コヒレーントな単一電子ソース(Coherent Single-Electron Source)

単一光子を作り出せたことが量子暗号による安全な通信を発達させたように、電子の場合には単一電子が作り出せると、電子回路内において同様な量子コヒーレント操作ができると期待されている。Feve たち(p.1169; Giblinの展望記事参照)はコヒーレントな単一の電子ソースを開発し、そこでは量子ドットから量子コヒーレントな2次元導体の中へ電子が放出される。量子ドットに段状のポテンシャルを加えることが単一電子が放出される引き金となる。この単一電子放出源はまた、将来、計測学への応用として交流標準としても使えるだろう。(hk,nk)
An On-Demand Coherent Single-Electron Source
p. 1169-1172.
APPLIED PHYSICS: One Electron Makes Current Flow
p. 1130-1131.

暗くて重い矮小銀河(Dark Heavy Dwarfs)

大質量の銀河が他の銀河と衝突すると、ガスを放出し、その後、それらは集まってその銀河を取り巻く多数の矮小銀河を形成する。理論モデルによれば、そのような潮汐作用によって生成された矮小銀河は、ダークマターを含んではおらず、その重力はその内部の星とガスとに一致するであろうと予測されている。Bournaud たち (p.1166, 5月10日にオンラインで出版、Elmegreen による展望記事を参照のこと) は、ガスの運動を用いて、最近に衝突を経験した大質量銀河のまわりにリング状にある一連の矮小銀河の質量を測定した。彼らは、その矮小銀河内部にダークマターの証拠を見出した---星だけから予想される質量の2倍存在する。もし、この余分の物質が、大質量銀河に端を発する見えない冷たい分子ガスの形を取っているならば、それは、現在考えられているよりもより一般的なものにちがいない。そして、宇宙のミッシング(行方不明の)バリオンのある部分は説明できる可能性がある。(Wt)
Missing Mass in Collisional Debris from Galaxies
p. 1166-1169.
ASTRONOMY: Dark Matter in Galactic Collisional Debris
p. 1132-1133.

アメリカ南西部の乾燥化(Drying the American Southwest)

米国南西部やメキシコ北部の数多くの人口と大きく拡がっている工業経済や農業経済は、安価で容易に入手できる水に依存しており、その水は、気候温暖化と共に降雨量や蒸発、地下に蓄えられる水、川の流れの変化によって影響を受ける。Seagerたち(p.1181;4月5日のオンライン出版)によると、この地域は21世紀の間にかなり乾燥化し、そしてダスト・ボウル(1931年から1939年に発生した大砂塵現象)と同程度の乾燥化が常態となるであろうということを、多くの気候モデル群が一致して予想している。これらの変化は、極地方向に向けた亜熱帯乾燥帯の拡大を形成する大気循環パターンによって引き起こされるであろう。この乾燥化(aridification) は、観測機器の記録に存在するいかなる気候状態とも異なるにちがいない。(TO,nk)
Model Projections of an Imminent Transition to a More Arid Climate in Southwestern North America
p. 1181-1184.

直接的な芳香族のカップリング反応(Direct Aromatic Coupling)

二つの芳香環の結合は有機合成におけるキーとなる反応の一つで、通常カップリングパートナーにハロゲン化物とか、或いはホウ素やスズといった陽性の基を付加した化合物で修飾する必要がある。StuartとFagnou(p.1172;Ellmanによる展望記事参照)は、活性な基を何ら付加することなくベンゼンのインドールへの直接的なカップリング反応を促進するパラジウム触媒に関して記述している。その反応はC-H結合の活性化によって進行し、交差カップリング反応生成物に関して極めて選択性である;ベンゼンやインドールの二量体は見出されていない。広範囲の置換インドール化合物の3位の炭素位置へ結合する高度の位置選択性が見出された。(KU)
The Catalytic Cross-Coupling of Unactivated Arenes
p. 1172-1175.
CHEMISTRY: The Direct Approach
p. 1131-1132.

太陽系初期には鉄が不足していた(Early Iron Deficit)

太陽系の形成時期とプロセスは隕石中の長寿命同位体元素の測定で描き出すことが可能である。そのような同位体の一つに60Fe-60Niがあり、この半減期は150万年であるし、60Feは恒星の中でしか生成されない。Bizzarro たち(p. 1178; および、Kerrによるニュース記事参照)は、地球、火星、やコンドライト隕石と比較して、母天体での分化を経験した隕石では60Feの欠乏度が非常に僅かであることを示した。著者たちは、最古の太陽系物質は 60Feが存在しない状態で出来上がり、 60Feは、太陽系が出来上がった約100万年後、初期惑星ディスク中に 60Feが注入されたのではないかと推測している。この物質は、近くの鉄に富む超新星からやってきたのかも知れない。(Ej,hE,tk,nk)
Evidence for a Late Supernova Injection of 60Fe into the Protoplanetary Disk
p. 1178-1181.

除草剤への耐性を持たせた作物(Engineering Herbicide Resistance)

穀物作物に対し除草剤に耐性を持たせることは農業戦略上土地に対するいたわりであり、土地の耕作の必要性を減少させる。しかし、現在広く使用されている除草剤は、耐性の増加した雑草が増えているため、その有効性が失われ始めている。Behrens たち(p. 1185; および、Serviceによるニュース記事参照)は、穀物植物が、環境に優しい有名な除草剤である dicambaに対して耐性を持たせられるかについて述べている。細菌遺伝子を作物植物に転移させることによって、著者たちは除草剤耐性を作物植物に作り出した。しかし少なくとも当面の間、雑草は耐性をもたず、枯れてしまう。(Ej,hE)
Dicamba Resistance: Enlarging and Preserving Biotechnology-Based Weed Management Strategies
p. 1185-1188.
AGBIOTECH: A Growing Threat Down on the Farm
p. 1114-1117.

DNA損傷-応答チーム(DNA Damage-Response Teams)

DNA損傷は、しばしば悪性腫瘍を引き起こす重要な事象の一つである(Petriniによる展望記事参照)。DNA損傷への細胞応答のほとんどは、二つのタンパク質キナーゼ、ATM(ataxia telangiectasia mutated)とATR(ATMとRad3-関連)によって仲介される。Matsuokaたち(p.1160)は、電離放射線によるDNA損傷への細胞応答において700を越えるタンパク質を含むプロテオミクス・スクリーンに関して報告している。ATM、或いはATRによって認識されるコンセンサスリン酸化部位を含むリン酸化型のペプチドを認識する抗体が、今まで無認識の基質を探すのに用いられた。これらの結果は、哺乳動物の細胞内でDNA損傷の制御に機能している以前無認識のタンパク質同定のためのリソースを与えるものである。3つの報告、Wangたち(p.1194)、Sobkianたち(p.1198)、Kimたち(p.1202)は、乳癌に関係した腫瘍抑制遺伝子産物BRCA1と相互作用し、かつDNA損傷への細胞応答におけるBRCA1とそのパートナーの機能制御におけるユビキチン結合によるタンパク質の共有結合的修飾に関係するタンパク質複合体に関して記述している。タンパク質Bard1とBRCA1の複合体は、ユビキチンリガーゼ活性を持つことが知られている。現在の研究で、BRCA1は、ユビキチン-相互作用モチーフ領域を持つタンパク質、RAP80とDNA損傷部位で複合体を形成し、RAP80はDNA損傷部位へのBRCA1の局在化に寄与している。第三のタンパク質、AbraxasはBRCA1とRAP80の相互作用を仲介しているらしい。BRCA1の複合体は又、脱ユビキチン化酵素であるBRCC36を含んでいる。損傷したDNAを有する細胞の分裂を停止するDNA損傷チエックポイントが、RAP80を欠く細胞では欠如していた。このように、BRCA1-Abraxas-RAP80複合体はBRCA1をDNA損傷部位へターゲットしているらしい。(KU)
CELL SIGNALING: A Touching Response to Damage
p. 1138-1139.
ATM and ATR Substrate Analysis Reveals Extensive Protein Networks Responsive to DNA Damage
p. 1160-1166.
Abraxas and RAP80 Form a BRCA1 Protein Complex Required for the DNA Damage Response
p. 1194-1198.
Ubiquitin-Binding Protein RAP80 Mediates BRCA1-Dependent DNA Damage Response
p. 1202-1205.

マリファナと発生上のダメージ(Marijuana and Developmental Damage)

マリファナの影響は脳のニューロンにおけるカンナビノイド受容体によって仲介され、妊娠中のマリファナ使用と産まれる子供の永久的な認知障害との間の因果関係が確認されている。Berghuisたち(p.1212)は、単一のニューロン内でマリファナの作用を調節している分子ヒエラルキーを明らかにし、天然のリガンドによるカンナビノイド受容体の活性化が脳におけるニューロン間の機能的な結合の確立を制御している事を示している。これらの知見により、出生前のマリファナの使用が脳の正常な発生を阻害しているという細胞の前後関係が明らかになった、。(KU)
Hardwiring the Brain: Endocannabinoids Shape Neuronal Connectivity
p. 1212-1216.

現実の生命における転写制御因子の動力学(Real-Life Transcription Factor Dynamics)

転写制御因子は染色体DNA上の特定の部位と結合して、遺伝子発現を制御する。転写制御因子がその標的DNAを見つける方法は、一般に、細胞質を介しての拡散とDNAセグメントに沿った拡散の組み合わせによると考えられている。Elfたちは単一分子技法を用いて、生きている大腸菌におけるモデル転写制御因子、lacリプレッサーの特異的および非特異的結合を調べた(p. 1191)。オペレータを求めてのlacリプレッサーによる検索は、その時間の90%をDNAに沿った拡散に費やしていた。そのリプレッサーは、5ミリ秒以内にオペレータを見つけられないとそのDNAをあきらめ、細胞質を介して拡散し、別のDNAセグメントに結合しようとする。そうした単一分子を使ったアプローチは、生細胞中で起こっている生化学的プロセスの定量的理解に、われわれを導いてくれることになろう。(KF)
Probing Transcription Factor Dynamics at the Single-Molecule Level in a Living Cell
p. 1191-1194.

膜の湾曲から融合へ(From Membrane Curvature to Fusion)

可溶性Nエチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(SNARE)依存の、標的膜への小胞の繋ぎ止め(tethering)および引き離し(zippering)によって、標的膜との小胞の融合は促進される。シナプスにおいては、それに関連するSNAREは、synaptobrevin2やsyntaxin1、SNAP25などであるが、シナプス小胞融合にはまた他のタンパク質も必要になる。Martensたちは、SNARE依存の繋ぎ止め(tethering)および引き離し(zippering)が、シナプトタグミンをも必要とする二重層融合機構のほんの一部に過ぎないということを示している(p. 1205,5月3日のオンライン出版)。無細胞実験において、シナプトタグミン-1は、カルシウム依存のやり方で、プラスの膜湾曲を誘発したが、それは膜をより膜融合的にし、膜が互いに接触しやすくするよう助けるものであった。(KF)
How Synaptotagmin Promotes Membrane Fusion
p. 1205-1208.

捉えられたモーターの動き(Motor Motion Captured)

ミオシンVは双頭の分子モーターであって、先頭と後の頭を交互に動かして、アクチン線維に沿って「綱たぐりの」機構で一方向性の移動をする。ShiroguchiとKinositaはこのたび、この歩行運動を直接的に可視化した(p.1208)。 頭部はそれぞれ長く頑丈な首にくっついている。アデノシン三リン酸依存の力のストロークによって、先頭の頭につながる首は、アクチンの軌道に結合していて、前かがみになる。後の頭はアクチン軌道から持ち上がり、首と首の接合部における自由回転の結合によって、その持ち上げられた首は、次の結合部位を求めて拡散性の探索をするために広範囲のブラウン回転を行なうことが可能になる。先頭の首の前進運動によって、回転軸となる点は前に進み、非結合性の頭部は前方の部位に着地する。(KF,KU)
Myosin V Walks by Lever Action and Brownian Motion
p. 1208-1212.

総てが混ざり合って(All Mixed Up)

原始隕石において測定された様々な同位体比は、太陽系を形成したその星雲で起こったプロセスを反映している。多くの同位元素系で見出された異常な値は、原始太陽星雲における分画化(patchiness)によって説明されているが、このことがらから地球がどのようにして分化して金属に富む核を形成し内部に重い同位元素を閉じ込めたのかという疑問をもたらした。Carlsonたち(p.1175)は、様々なコンドライト隕石におけるBa、Nd、Smの同位元素組成を解析し、遅い中性子とプロトン-捕獲の核プロセスの欠如を見出した。隕石におけるSmとNdの存在量は陸上の岩石と比べて低く、以前の示唆と一致するが、しかしながらBaに関しては異なり、以前の研究と矛盾する。SmとNdの差異は地球の初期の惑星の分化と一致する。(KU)
Chondrite Barium, Neodymium, and Samarium Isotopic Heterogeneity and Early Earth Differentiation
p. 1175-1178.

病原体の生化学(Pathogen Biochemistry)

リボヌクレオチド還元酵素(RNR)は、リボヌクレオチド基質中の炭素-酸素結合を切断するという化学的に困難な課題をこなすことで、DNA合成に必要な前駆物質を提供している。異なった生物のRNRは、それぞれ違った戦略を用いて、触媒サブユニットR1中にシステイン・ラジカルを産生している。Jiangたちは、ヒトのトラコーマ病原体中のRNRが、高価数のマンガンと鉄の補助因子を用いてシステイン・ラジカルを産生しており、これが酵素の酸化還元化学において前例のない機構であることを示している(p. 1188)。この戦略は病原体に、宿主の免疫応答の一部であるオキシダント存在下においても活動的であり続けることを許すものである。(KF)
A Manganese(IV)/Iron(III) Cofactor in Chlamydia trachomatis Ribonucleotide Reductase
p. 1188-1191.

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