AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 11, 2007, Vol.316


磁気の並びのずれ(Magnetic Misalignment)

ボイジャー探査機一号と二号は、丁度ヘリオポーズを越えたところに存在する一連のラジオソース(電波源)を検出した。ヘリオポーズとは、太陽風によって太陽系を包み込んで広がった大きな泡の外部境界面のことである。これらのラジオソースはヘリオポーズと惑星間空間衝撃波との衝突箇所から発生している可能性がある。しかしながら、モデル研究ではこの領域における星間磁場方向についての仮定を必要としていた。ヘリオポーズ付近での星間磁場の方向により空間に非対称性が生じ、それが電波源の位置と太陽風の末端衝撃波面からのイオン流の方向に影響する。一方の説としては、天の川で大規模に見られるように、磁場は銀河面に沿って配列していることを想定しているものがあった。しかしながら、ヘリオスフィアの磁気流体モデルとボイジャーの観測を比較することによって、Opherたち(p.875; Jokipiiによる展望記事参照)は、局所的に星間磁場は銀河面を基準として60degから90degずれていることを示している。(hk,KU,nk)
The Orientation of the Local Interstellar Magnetic Field
p. 875-878.
PLANETARY SCIENCE: A Local Wiggle in the Turbulent Interstellar Magnetic Field
p. 839-840.

対になっても凝縮しない(Pairing Up But Not Condensing)

反対のスピン状態を持つ等しい個数のフェルミオンが一緒になると、それらは対を形成して、超流体のような巨視的にコヒーレントな状態に凝縮すると予測されている。最初の個数が等しくない場合は、何が起こるのだろうか? Schunck たち(p.867; Cho によるニュース解説を参照のこと) はフェルミオン気体の固まりを用いて、強い分布不均衡の状態を調べた。原子の対形成は発生するが、その不均衡のため、最低の温度に下げても、超流体状態へのスピン対の凝縮は抑制された。(Wt)
Pairing Without Superfluidity: The Ground State of an Imbalanced Fermi Mixture
p. 867-870.

砂漠化と闘う(Fighting Desertification)

乾燥地帯には世界の3分の1以上の人が住んでおり、その中には発展途上国の最も貧しい人たちが多く含まれている。これらの土地は地球温暖化の影響を、より大きく受け易いが、乾燥地の生態系と人間の社会活動との関連が十分理解されてないため、砂漠化防止の努力は遅れ勝ちである。Reynolds たち(p. 847)は、乾燥地の開発と、砂漠化との戦いに取り組むための統合的枠組みを提供したが、これは科学的な管理と政策に基づく解決法を構築するものである。(Ej,hE,nk)
Global Desertification: Building a Science for Dryland Development
p. 847-851.

降下する霞の元(Foggy Fallout)

タイタンのオレンジ色の霞は大気中で生成される有機分子のスモッグによるものであることが分かった。ソリン(tholin)と呼ばれる赤茶色の重い有機分子はタイタン表面に降り積もると見られる。このソリンはタイタンの低層大気の成層圏を構成すると考えられていたが、Waiteたち(p. 870; および Atreyaによる展望記事参照)は、1000キロメートルの高層大気にも及んでいることを示した。Cassini宇宙探査機によって得られたデータによれば、一連の化学反応によって、メタンや窒素分子のような単純な有機分子を、80から350ダルトンの大きな分子に変化させうることが示された。そしてついには、これらの分子から負電荷の8000ダルトンに及ぶ重い有機分子が形成されるのである。(Ej,hE,nk)
The Process of Tholin Formation in Titan's Upper Atmosphere
p. 870-875.
PLANETARY SCIENCE: Titan's Organic Factory
p. 843-845.

炭酸塩岩を粉々にする(Crumbing Carbonates)

地震が伝播するとき、それまで安定であった断層を、地震波による高速な岩石中の変化によって弱める可能性がある。Han たち(p. 878; および Madariagaによる展望記事も参照)は、イタリアのカララ(Carrara)大理石に対し、摩擦熱が断層を著しく弱めることを実験的に示した。滑り断層界面では、発熱により大理石が数十ナノメートルの微細粒子に分解され、その結果より滑りやすくなる。この効果によって、炭酸塩岩中では容易に地震破壊が進行する可能性がある。(Ej,hE,nk)
Ultralow Friction of Carbonate Faults Caused by Thermal Decomposition
p. 878-881.
GEOPHYSICS: Slippery When Hot
p. 842-843.

氷とマントルとカナダの低重力地域の関係(Ice, the Mantle, and Canadian Gravity Lows)

陸上の重力は、その下に存在する物質の量つまり密度の変化に依存して変動する。カナダ北部では、安定大陸地塊(クラトン)が広い範囲で沈降して異常な低重力地帯を形成している。この地理的な低地は、過去のLaurentide氷床が最終氷期後に融けて、氷河の重みで押し下げられていた地殻が元に戻る際の再上昇(GIA)が不完全だったケースか、あるいは現在その下でマントルが下降している結果かもしれない。Tamisiea たち(p. 881)は、観測衛星(GravityRecovery and Climate Experiment; GRACE)による4年間の記録を調べ、GIAの寄与分が40-50%に達すると結論を下した。彼らはまた、最終氷期においてLaurentide氷床は、以前1つのドームがあったとの推測を覆し、2つの大きなドームを持っていたと推測している。(Ej,hE,nk)
GRACE Gravity Data Constrain Ancient Ice Geometries and Continental Dynamics over Laurentia
p. 881-883.

主要なる決定(Masterful Decisions)

免疫系において、Bリンパ球とTリンパ球は共通の骨髄前駆体から異なる経路によって発生し、シグナル伝達タンパク質であるNotchがT細胞の運命決定に重要な役割を果たしている。Maedaたち(p.860;MaillardとPearによる展望記事参照)は、LRFと呼ばれる癌原遺伝子がこのNotchの信号を抑制し、これによって骨髄前駆体にB細胞発生のプログラムを作動するよう促す。このように、LRFはリンパ球細胞の運命決定の主要な制御因子として作用し、順応性免疫系の二つの主な系統を産生する。(KU)
Regulation of B Versus T Lymphoid Lineage Fate Decision by the Proto-Oncogene LRF
p. 860-866.
IMMUNOLOGY: Keeping a Tight Leash on Notch
p. 840-842.

IP4によるシグナル伝達タンパク質の補充(IP Recruits Signaling Proteins)

イノシトールリン酸は、真核細胞における重要なる二次メッセンジャーである。特に、高次のイノシトールポリリン酸は、クロマチンモデリングからカルシウムシグナリングに到る一連の生物学的プロセスを制御している。Huangたち(p.886,4月5日のオンライン出版;Irvineによる展望記事参照)は、イノシトール1,3,4,5-四リン酸(IP4)が確立されたタンパク質補充経路を変えることで、T細胞において予想外の役割を果たしていることを報告している。T細胞中で可溶性のIP4はプレクストリン相同性領域上に固着し、T細胞発生の間、活性化のためその細胞へシグナル伝達タンパク質補充を制御している。(KU)
Positive Regulation of Itk PH Domain Function by Soluble IP4
p. 886-889.
CELL SIGNALING: The Art of the Soluble
p. 845-846.

肥満に関する遺伝的因子(Genetic Factor in Obesity)

ロバストな、遺伝的関連の研究で考慮すべきは、一つの独立した対象群を越えて確認する必要がある。Fraylingたち(p.889,4月12日のオンライン出版;Kaiserによる4月13日のニュース記事参照)は、に2型糖尿病に関する大規模な症例対照法によるDNAのゲノム-スキャンに関して報告し、肥満と過体重になるリスクと関連した共通の遺伝子変異体を同定した。これらの知見から、全体で38,759人の内から12の付随的なコホート(年齢や性別等で共通性を有する群)が確認された。平均すると、ハイリスクの対立遺伝子に対するホモ接合性の人は、ローリスクの対立遺伝子に対するホモ接合性の人より3kg近く体重が重かった。この影響は、被験者や年齢(7歳以上の)、更に性別や糖尿病の有無に無関係に一貫していた。(KU)
A Common Variant in the FTO Gene Is Associated with Body Mass Index and Predisposes to Childhood and Adult Obesity
p. 889-894.

芒による種子の散らばり(Awns and Seed Dispersal)

芒(のぎ awn)は、コムギや他のイネ科植物の種子にある尖った突起で、空中および地上に種子が散らばる際に役に立っている。Elbaumたちは、湿度の変化により、芒のセルロース原繊維の配置が水分によって誘発される変化を起こすことで、芒の屈曲が生じる様子を示している(p.884)。続いて、芒の屈曲は地面に沿って種子を押すだけでなく、積極的に種子を地面に埋めることもあり、これがおそらく、発芽のチャンスを増しているのである。(KF)
The Role of Wheat Awns in the Seed Dispersal Unit
p. 884-886.

コウモリの飛行制御(Bat Flight Control)

動物が飛ぶときには、その羽は、それが生み出す空気力学的力の手がかりとなる渦状の空気の流れを生み出す。Hedenstroemたちは、飛行動物の作り出す空気の流れに巻き込まれる霧粒子の運動を捉えるデジタル粒子画像速度計測装置を用いて、小さなコウモリの種Glossophaga soricinaの作る空気の流れの軌跡に見られる、異常な空気力学的特徴を記述している(p. 894; また表紙を参照のこと)。2つの羽は、別々の渦を生み出していて、それらは胴体から生じる渦構造によって結ばれている。上方向のストロークの際には、羽の外側(手のひらに相当)には下向きの力(負の揚力)が生じるが、羽の内側(腕に相当)は上向きの力(正の揚力)を生じさせている。羽の別々の部分は流れの中に余分な渦を生み出していて、それらは鳥によって生み出される流れとは明らかに異なるものになっている。(KF)
Bat Flight Generates Complex Aerodynamic Tracks
p. 894-897.

閾値下の動機づけ(Subliminal Motivation)

ヒトは通常、スポーツの訓練時や試験勉強などの際には、自分のモチベーションに気づいている。では、モチベーションが意識されない場合もあるだろうか? たとえば、特定の行動を駆り立てる目標や報酬について報告できない、などのような。Pessiglioneたちは報酬として1ペニー硬貨または1ポンド硬貨を用いて、インセンティブの力を計る課題を開発した(p. 904,4月12日のオンライン出版)。それぞれの硬貨はそれぞれ違う時間だけ提示されることで、意識的にあるいは閾値下で認知することができるようになっている。機能的磁気共鳴画像法を用い、また一連の他の生理学的パラメータを測定することによって、著者たちは、被験者が報酬の大きさに意識の上で気づいていない場合でも、より高いハードルに見合った力を発揮していることを発見した。(KF)
How the Brain Translates Money into Force: A Neuroimaging Study of Subliminal Motivation
p. 904-906.

反射をじっくりと考察する(On Reflection)

多くの地質学的プロセスは沈み込みゾーンで作用しており、そこでは表面プレートが別プレートの下にもぐりこんで、その下のマントル中へと沈んでいく。Zhengたち(p.855,4月12日のオンライン出版)によるトンガ沈み込みゾーンにおける詳細な地震波イメージングにより、沈み込んだスラブと地殻に挟まれたマントルウエッジ内に多数の音響インピーダンス層の存在が明らかになった。マントルウエッジの大きな領域がその下のスラブで発生した地震によるP波とS波を浴びて照らし出され、水平方向に伸びる9つの反射層が同定された。この層は、上昇する流体に応答して生じるウエッジ内の広範囲な鉱物転移の結果であろう。(KU,nk)
Pervasive Seismic Wave Reflectivity and Metasomatism of the Tonga Mantle Wedge
p. 855-859.

時計を分解する(Taking Apart a Piece of the Clock)

ほとんどの細胞では、RNA転写とタンパク質翻訳の連動フィードバックループによって、生物学的プロセスを制御する24時間時計が形成されている。相互作用タンパク質であるClockやBmal、さらには正の制御因子であるCry(クリプトクロム)やPer(ピリオド)なども含めて、哺乳類におけるこの時計の分子性構成要素の多くが知られている。異常な概日性制御を求めて変異誘発したマウスをスクリーニングすることで、Godinhoたちは、従来知られていなかった時計の構成要素における変異を同定した(p. 897、4月26日のオンライン出版)。その変異はより長い概日性期間を引き起こすものである。その遺伝子は、ロイシンに富む反復配列のあるFボックスタンパク質、Fbxl3をコードするもので、タンパク分解に関与すると予想されていたものである。Fbxl3に結合するタンパク質を求めて行なった、これとは別の独立したスクリーニングで、Businoたちは、必須の概日性要素であるクリプトクロムがFbxl3の主要な標的であり、細胞において適切な分解にはFbxl3が必要であることを明らかにしている(p. 900,4月26日のオンライン出版)。つまり、Fボックスタンパク質であるFbxl3は、正常に概日時計が機能するのに必要であり、かつ概日性期間の長さを決定するステップである、時計構成要素クリプトクロムの周期的分解を行っている。(KF,KU)
The After-Hours Mutant Reveals a Role for Fbxl3 in Determining Mammalian Circadian Period
p. 897-900.
SCFFbxl3 Controls the Oscillation of the Circadian Clock by Directing the Degradation of Cryptochrome Proteins
p. 900-904.

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