AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 13, 2007, Vol.316


二重に繋ぎとめられた飛び出しナイフ(A Double-Tethered Switchblade)

脂肪酸は、主に炭化水素の長い鎖によって構成されていて、細胞において必須な構造上およびエネルギー性の機能を果たしているものだが、最初にある単位に対して、2炭素ずつの構成要素を付け加えていくことによって合成される。追加のそれぞれの際には、一連の4つの反応が関わっている。たとえば、パルミチン酸の鎖の合成には、それら4つの接触部位からなるセットを7回繰り返すことが必要である。Jenniたち(p. 254)とLeibundgutたち(p. 288)は、真菌Thermomyces lanuginosusおよび出芽酵母から得られた脂肪酸合成酵素複合体の結晶構造について記述している。真菌の酵素については、2室になったheterododecameric(ab)複合体内の触媒ドメインについての完全なマッピングが提供されている。酵母のデータの方は、新生脂肪酸が付着するアシルキャリアータンパク質(ACP)領域がとる周期性のパスを明らかにしている。このACP部分は、室の壁と床に繋ぎとめられていて、それが近くの4つの接触部位を訪れる際の移動を束縛している。それらに辿り着くと、それは、飛び出しナイフのように成長するアシル鎖をほどくのである。(KF)
Structure of Fungal Fatty Acid Synthase and Implications for Iterative Substrate Shuttling
p. 254-261.
Structural Basis for Substrate Delivery by Acyl Carrier Protein in the Yeast Fatty Acid Synthase
p. 288-290.

プロトンをめぐる綱引き(Proton Tug-of-War)

酸性水溶液において、プロトンは溶媒分子や溶解した塩基によって囲まれ、行ったり来たり揺り動かされるが、これは自由水素イオンH+のように自由に動き回るわけではない。しかし、このような構造を証明することは極めて困難である。通常の環境温度において、多くのエネルギー的構造が可能であるため、非常に広いスペクトルを生じるからである。Roscioli たち (p. 249) は、ガス状態のアルゴンクラスターを使って、水分子とアンモニアから、アルコールやエーテルや貴ガスに至るまでの広い幅のある塩基度を有する2つの分子をプロトンが架橋する形の複合体の振動を分離・検出した。これら低温複合体の赤外線スペクトルは鋭い吸収バンドを示し、これはプロトンの親和力と傍にある塩基の骨格振動が、その間に挟まれたH+イオンの動きにどのような影響を与えているかを明らかにするものである。(Ej,hE)
Quantum Structure of the Intermolecular Proton Bond
p. 249-254.

有機物のみによる3次元の骨格(All-Organic Frameworks in Three Dimensions)

金属中心が連結する有機基を組立てることによって高い表面積を達成している金属-有機物による骨格化合物については沢山の報告がある。El-Kaderi たち(p. 268;および、Buddによる展望記事参照) はこのたび、高い表面積率を有する共有結合性有機分子による骨格の合成と構造の特徴について報告している。この骨格は、4結合による4面体の部分ユニットと、別の3結合の3角形の部分ユニットとの縮合によるものである。標的ネットワークを選択した後、分子設計プログラムを利用して部分ユニットを最適に選択した。この骨格中の強い共有結合 (C-C, C-O, C-B,およびB--O) において、熱的安定性の高い(400℃から500℃)構造が得られたが、軽原子だけを使った場合は、低密度(0.17グラム/立方センチメートル)の構造が得られた。(Ej,hE)
Designed Synthesis of 3D Covalent Organic Frameworks
p. 268-272.
CHEMISTRY: Putting Order into Polymer Networks
p. 210-211.

ナノ粒子が形をなす (Nanoparticles Take Shape)

セラミックはしばしばグリーンウエアから作られるが、そこでは、熱反応によって溶媒が取り除かれ、粒子同士が結合する前に、小さなコロイド粒子の集合が成型、形成されるのである。Klajnたちは(p. 261)、金属ナノ粒子(NPs)も同様の方法で成型して巨視的な物体へと作り上げることが可能なことを示している。金属NPsは紫外線誘発異性化によりトランス型からCIS型に界面活性剤を塗布される。CISの高次双極子はNPsを直径50から300nmの超球体に凝集する。これらの超球体は相互に接着し、形状を形成したり、物体を被覆するものになりうるのである(たとえば装飾用小立像など)。引き続くアニーリングにより、単体または混合する金属NPsから硬化した多結晶多孔性物質を作ることが出来る。(Na)
Plastic and Moldable Metals by Self-Assembly of Sticky Nanoparticle Aggregates
p. 261-264.

ラマンプローブが波形を良くしている(Raman Probes Shape Up)

ラマン分光法は、分子振動についての豊富な情報を提供し、また個人認証(ID)のための指紋によるサインに適用できる。しかし、レーザパルスによるコヒーレントな振動誘起によって信号強度を強めた場合でも、変動するバックグランド信号が多くの実用的なセンシングへの適用の障害となっている。“プローブパルスを遅延させて、しかも非共振バックグラウンドの寄与率を最小化するようにそのパルス波形を最適化させる”方法についてPestovたち(p. 265; Luchtによる展望参照)は述べている。著者らは炭疽菌のような特徴ある構成要素をもつ細菌胞子であるピコリネイト(picolinates)の検出にこの方法を適用している。(hk)
Optimizing the Laser-Pulse Configuration for Coherent Raman Spectroscopy
p. 265-268.
CHEMISTRY: Femtosecond Lasers for Molecular Measurements
p. 207-208.

回転のための光のひと触れ(A Light Touch for Spin)

小惑星の軌道運動の間に、その表面からの暖かな太陽光の反射あるいは再放射により太陽光による圧力に差異が生ずることによって、回転の様子が変化する可能性がある。この過程は、Yarkovsky-O'Keefe-Radzievskii-Paddack (YORP) 効果と呼ばれている。この効果は、予測されていはいたが、これまで直接的には見出されていない。二つの報告が、近地球小惑星(その軌道が地球軌道付近まで来ている小惑星)54509 (2000 PH5) に作用する YORP 効果の検出について述べている。Rubincam と Paddack による展望記事を参照のこと。Lowry たち (p.272, 3月8日のオンラインで公表された) は、その小惑星からの反射された可視光を監視して、その小惑星の回転率がどのように減少するのかを示している。Taylor たち (p.274, 3月8日のオンラインで公表された) は、レーダー観測を用いてその小惑星の形の地図を作成し、この減速は、YORP で予測されるものと厳密に一致していることを示している。(Wt,tk,nk)
PLANETARY SCIENCE: As Tiny Worlds Turn
p. 211-212.
Direct Detection of the Asteroidal YORP Effect
p. 272-274.
Spin Rate of Asteroid (54509) 2000 PH5 Increasing Due to the YORP Effect
p. 274-277.

古代のコラーゲンの痕跡(Ancient Collagen Signatures)

軟部組織(soft tissue)は、琥珀の中や2-300万年間氷の中に閉じ込められた標本を除いては、めったに化石記録に保存されていることはないと考えられていた。最近、骨の中の血管も含め、内部軟部組織を保存していると見られる約6700万年前のティラノサウルス・レックスの大腿骨が再現された。Schweitzerたち(p. 277)とAsaraたち(p.280)は、マストドンから得た標本も合わせて、これら軟部組織についてさらに分析を進め、元のコラーゲン蛋白質が保存されていることを示した。質量分析法を用いて、少なくとも元のコラーゲン配列の一部が再現されたのである。つまり、数1000万年間保存された絶滅種の精選標本(select samples)からも、遺伝情報のアスペクトを獲得することができるのである。(TO)
Analyses of Soft Tissue from Tyrannosaurus rex Suggest the Presence of Protein
p. 277-280.
Protein Sequences from Mastodon and Tyrannosaurus Rex Revealed by Mass Spectrometry
p. 280-285.

Pre-B細胞受容体に焦点を与える(Spotlight on the Pre--B Cell Receptor)

Pre-B細胞受容体(pre-BCR)は、重鎖とヘテロ二量体の代理軽鎖(SLC)とから構成され、B細胞成長のチェックポイントとして働いているシグナル伝達複合体である。Bankovichたち(p. 291)は、pre-BCRのFab類似断片の構造を2.7オングストローム解像度で報告している。この構造からは、SLCとの対形成という条件がどのように成熟抗体における重鎖レパートリを制限するか、が示されている。この結晶構造は、電子顕微鏡法データと生化学的解析と共に、抗原非依存かつSLC仲介によるpre-BCRの二量体形成がpre-B細胞の活性化と拡大を推進するとするモデルを支持するものである。(PA)
Structural Insight into Pre-B Cell Receptor Function
p. 291-294.

脂質の代謝を明らかにする(Making LIGHT of Lipid Metabolism)

粥状動脈硬化は、脂質の調節不全と、炎症によって仲介された脈管構造の病理との組み合わせによって生じる。Loたちは、炎症性サイトカインの腫瘍壊死因子ファミリーの関連するメンバーであるLIGHTおよびリンホトキシン(LT)がT細胞上において発現増加すると、循環する血液中のコレステロールとトリグリセリドが上昇しうる、ということをマウスにおいて示している(p. 285; またHanssonによる展望記事参照のこと)。この効果は、肝細胞においてシグナル伝達を行なうリンホトキシンβ受容体(LT beta R)を介して仲介されているらしく、脂質代謝に関わる酵素の中心である肝臓のリパーゼの活性の低下を導くらしい。低密度リポタンパク質受容体遺伝子を欠くマウスにおいて見られる通常は高い脂質レベルは、LT β Rシグナル伝達が抑制されると減少する。こうした結果は、免疫系がいかにして異脂肪血症を検出し、引き続いてそれに敵対していくか、またこのプロセスがヒトの粥状動脈硬化に直接何らかの寄与をするものかどうかについて、疑問を引き起こすものである。(KF)
Lymphotoxin ß Receptor–Dependent Control of Lipid Homeostasis
p. 285-288.
MEDICINE: LIGHT Hits the Liver
p. 206-207.

S1Pの二重の源(Double Source for S1P)

スフィンゴシン一リン酸(S1P)とは、リンパ様器官からのリンパ球放出を誘発する、循環する脂質メディエータである。S1Pの免疫調節性効果は、その産生を支持できないマウスにおいては循環するリンパ球が非存在であることと、この経路をターゲットにして行なわれた、移植片に対する拒絶反応および自己免疫を抑制することを狙った臨床試験が、期待を抱かせるような結果をもたらしたことによって、明らかになっている。Pappuたちは、条件的遺伝子欠失と骨髄キメラ現象の組み合わせを用いて、血液中およびリンパ性循環中のS1Pの2つのソースを解き明かそうとした(3月15日オンライン発行されたp. 295; また、Chunによる展望記事参照のこと)。 リンパ様器官の外側のS1Pレベルを保つことで、これら供給源は、S1Pが分解されて低レベルになるリンパ組織と、2つの循環器の間の勾配に従って、リンパ球を供給しているのである。この知見は、S1P経路を介しての免疫の抑制と活性化のアプローチをさらに洗練させていくことを助ける可能性がある。(KF)
Promotion of Lymphocyte Egress into Blood and Lymph by Distinct Sources of Sphingosine-1-Phosphate
p. 295-298.
IMMUNOLOGY: The Sources of a Lipid Conundrum
p. 208-210.

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