AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 30, 2007, Vol.315


肝臓が再生するための条件(Key to Liver Regeneration)

肝臓は哺乳類の組織の中で再生可能な組織の1つである。Passino たち(p. 1853)は、肝細胞の増殖はニューロトロフィン受容体 p75NTRによって制御されていることを見つけた。この受容体は、当初ニューロンにおいて生存、アポトーシス、ニューロン再生を制御するものとして知られていたものだ。p75NTRを欠くマウスは肝細胞の増殖が阻害される。p75NTRは肝臓の星状細胞に作用するように見えるが、この星状細胞は p75NTRに応答して分化し、それから肝細胞の増殖を支える成長因子や細胞外マトリックスを作る。星状細胞上のp75NTRの効果を調節することによって肝臓病の管理をするための治療標的になるかもしれない。(Ej,hE)
Regulation of Hepatic Stellate Cell Differentiation by the Neurotrophin Receptor p75NTR
p. 1853-1856.

より賢明に建築する(Building Smarter)

建物の建築は,いまだに伝統的な材質の利用することが支配的である。建物を20年から150年もの寿命まで機能を長持ちさせられる材質を選ぶことの難しさを考えると、建築家や建築業者の保守的な体質もうなずける。しかし、室内空間の機能性や品質を向上させたいという欲求の他に、建造環境(built environment)のエネルギー効率や自己診断能力を向上させるというニーズが、新たな材質の採用を促してきた。Fernandez(p.1807)は、建物設計や建築における進化をレビューし、材料科学コミュニティとの協力によって新規な材料の設計や適用をどのように加速することができるかについて議論している。(TO)
Materials for Aesthetic, Energy-Efficient, and Self-Diagnostic Buildings
p. 1807-1810.

最初は偏光していなかった(Not Polarized Initially)

数秒からそれ以上に持続するγ線バースト(Gamma-ray bursts; GRBs) は、大質量星の死から生ずるものと考えられている。もし、陥没する星の周りか、あるいは、それが発生する磁化したジェットの中に整列した磁場が存在していると、GRB からの光は偏光している可能性がある。ある観測では、バーストが始まってから数時間たった後にGRB からの偏光した信号が検出されている。Mundell たち(p.1822; Covino による展望記事を参照のこと; 3月15日にオンラインで出版) は、Canary 諸島の La Palma 上にある ロボット Liverpool 望遠鏡 を用いて、GRB 060418 のバーストが爆発して後、ちょうど2分半後における偏光した可視光を探索した。この望遠鏡はX線衛星からのバースト発見通報に応答して自動的に光学観測を行なう。このような初期段階においては、放射された光は最初の爆発の火球から到着する。偏光の検知限界は 8% であるが、なんら偏光を見出すことはできなかった。これは、大規模に整列した磁場のモデルを排除するものである。(Wt,nk)
Early Optical Polarization of a Gamma-Ray Burst Afterglow
p. 1822-1824.
ASTRONOMY: A Closer Look at a Gamma-Ray Burst
p. 1798-1799.

下からの熱流(Heat Flow Below)

外核の液体金属の乱流と、高粘性でゆっくり対流しているマントル底部のケイ酸塩マグマの間の熱の流れを決定するには、マントルに普遍的に存在するperovskiteの高密度多形であるpostperovskiteの深部での構造を同定すればよい。多形が形成される深さは地震波によって測定可能であり、実験室での圧力-温度実験や理論による予想から、界面深さでの熱流量が推定できる。Van der Hilst たち(p. 1813; およびBuffettによる展望記事参照) は、油田探索に利用される地震波測定から中央アメリカの深部での核とマントルの境界を描き出した。彼らによると、postperovskiteの相転移が起きている場所としていくつかの領域が観察できた。その中には境界の多重交差領域や、熱流量を推定した場所もあった。(Ej,hE,nk)
Seismostratigraphy and Thermal Structure of Earth's Core-Mantle Boundary Region
p. 1813-1817.
GEOPHYSICS: Taking Earth's Temperature
p. 1801-1802.

塑性変形の回復(Recovering Plastic Strain)

ナノ構造を持つ金属の変形の様子は、典型的なもっと粗い粒子の金属とは異なるが、変形した後、回復する様子も異なっている。Rajagopalan たち(p. 1831) は、マイクロ電子-機械装置を作り、65ナノメートルの粒子から成るアルミニウム薄膜片の応力-変形の振る舞いについて測定した。試料の負荷が取り除かれたときの残留塑性変形量は、これを7分間加熱した場合、大きく減少した。負荷ゼロ状態での塑性変形の復元がこれほど大きい例は、200ナノメートルサイズの柱状粒子では観察されたことが無い。著者たちは、ピン止めされた転位が応力が除かれたとき、熱エネルギーによって逆方向に向かったのだろうと説明している。この現象は金でも観察され、もっと信頼性の高いナノ構造を開発したり、ナノ構造物質での新たな変形メカニズムを研究するのに重要であろう。(Ej,hE)
Plastic Deformation Recovery in Freestanding Nanocrystalline Aluminum and Gold Thin Films
p. 1831-1834.

氷床安定化のくさび(Wedges of Stability)

氷床の不安定さと海面はポジティブフィードバックで結ばれており、以前予期された以上に海面上昇を促進している可能性がある。二つの報告が、氷の流れの地表ライン(grounding line)、即ち氷が地面にとどまっている最も遠い位置で、それを越えると海に氷が浮遊する、における堆積物が、氷床の安定化にどのように影響しているかを調べている(Andersonによる展望記事参照)。Anandakrishnanたち(p.1835,3月1日のオンライン出版)はレーダー測定を用いて、南極の氷の流れで運ばれた氷河砂の急激な堆積が今も起こっていること、更に地表ラインで形成された堆積物のくさびが、多くの場所での海床に生じている構造に似ており、このくさびが最終氷期極大期以来の氷棚の後退期に形成されたことを示している。Alleyたち(p.1838,3月1日のオンライン出版)は、このプロセスが氷床の安定化にどのように影響しているかを報告している。海面の小さな変化では急激な氷棚の後退が起きるとは予想されない。最近、南極やグリーンランド氷床の海岸縁で報告された氷の消滅に関する急激な増加は、地球温暖化へのダイナミックな応答によって生じていることを示唆している。しかしながら、数十メートルと言う巨大な海面上昇があれば、堆積物による安定化の効果は圧倒されるかもしれない。(KU)
CLIMATE CHANGE: Ice Sheet Stability and Sea-Level Rise
p. 1803-1804.
Discovery of Till Deposition at the Grounding Line of Whillans Ice Stream
p. 1835-1838.
Effect of Sedimentation on Ice-Sheet Grounding-Line Stability
p. 1838-1841.

膜貫通領域をターゲティングする(Targeting Transmembrane Domains)

特異的なタンパク質を標的とする抗体のような試薬は、研究面や医学面で有用である。タンパク質の可溶領域を標的とする抗体様の分子を設計する方法はあるが、膜貫通領域をターゲティングすることは困難である。Yinたち(p.1817)は、特異的な膜貫通らせん体を標的とするペプチドを設計する計算的手法を述べている。ペプチドは、細胞接着に関与する二つの密に関連したインテグリンの各々に対して特異的であるように設計された。(KU)
Computational Design of Peptides That Target Transmembrane Helices
p. 1817-1822.

昆虫の体節を作る二つの道(Two Ways to Segment an Insect)

ショウジョウバエの胚において、bicoidモルフォゲンは前後軸発生の期間に母系性の前側決定要因として作用する;しかしながら、この転写制御因子は総ての昆虫で見出されているわけではない。Brentたち(p.1841)は、ショウジョウバエDrosophilaとスズメバチNasoniaの発生に関する分子的メカニズムを比較した。Drosophilaのbicoidは、前側のパターン形成期での指令的な機能と前側領域におけるtrunk遺伝子の抑制に関する許容的機能の双方に作用している。しかしながら、スズメバチの場合、これらの二つの機能は別々である;Nasoniaの orthodennticle(otd)が前側発生に対してbicoidの機能を受け持っており、一方、母系性のgiantがtrunk遺伝子の運命を抑制している。このように、スズメバチにおいては、otdとgiantが一緒になってDrosophilaにおけるbicoidの役割を果たしている。(KU)
Permissive and Instructive Anterior Patterning Rely on mRNA Localization in the Wasp Embryo
p. 1841-1843.

大きな魚、小さな魚、貝・甲殻類 (Big Fish, Little Fish, Shellfish)

生態系から大型捕食者が失われることは、往々にして人間の活動が原因で生じるのだが、このことは食物連鎖の残りの部分を介しての段階的な波及を生じさせる影響をもつことがある。Myersたちは、北西大西洋の海洋環境から連鎖のトップにある捕食者たちが機能的に失われたことの生態系に及ぼした結果を定量的に評価している(p. 1846)。11種の大型のサメが数的に減少し、35年間に99%も減ったことによって、もっぱら大型のサメによって独占的に食べられていたより小型のサメやエイ、ガンギエイ等13種中12種が数を増していた。それらの中の1種、ウシバナトビエイ(cownose ray)は1970年以降20倍にも増加している。彼らの餌食であるホタテ貝等の二枚貝は、商用の甲殻類業者貝・甲殻類業者が脅かされるほどに減少し、またこれら二枚貝による海水浄化作用も損なわれている。(KF,KU,Ej,tk)
Cascading Effects of the Loss of Apex Predatory Sharks from a Coastal Ocean
p. 1846-1850.

PolyQ病のハエ・モデル(A Fly Model of PolyQ Disease)

40種以上ものヒトの病気は、単純な反復配列の拡張によって引き起こされることが知られており、その配列の大部分はCAGまたはCGGなどのトリヌクレオチドのリピートである。しかしながら、反復の不安定性についてのモデルの中には、ヒトの患者に見られる著しい特徴を再現できるモデルが殆んどないし、反復不安定性を押さえ込む薬物療法も殆んど、或いは全く無い。Jungたちは、ショウジョウバエのモデルにおいて、ヒトの病気のいくつかのキーとなる特色を再現できる著しいCAGの反復不安定性を観察したが、このなかにはヒトの患者に見られるものと類似した反復サイズの変化と共に、巨大な反復拡張を含んでいる(p. 1857,3月1日にオンライン出版された; またFortiniによる展望記事参照のこと)。この拡張されたCAG反復によってコードされた異常なCAG/ポリグルタミン(polyQ)タンパク質は、DNA修復と複製に関わる調節タンパク質への抑制効果を介して反復不安定性を増強した。(KF)
CREB-Binding Protein Modulates Repeat Instability in a Drosophila Model for PolyQ Disease
p. 1857-1859.
MEDICINE: Anticipating Trouble from Gene Transcription
p. 1800-1801.

注意とその情報の流れ(Attention and Information Flow)

皮質性ニューロンは、注意(attention)の移り変わりにともなってその活性を調節しているが、注意の信号源とその流れは不明である。Buschmanたちは50個の電極を使い、注意にとって重要と考えられている3つの皮質領からの活性を同時に記録した(p. 1860)。注意のボトムアップの移り変わりは、まず頭頂の皮質に反映されるが、トップダウンの移り変わりは、まず前頭の皮質に反映される。つまり、視覚的注意の外部制御は頭頂皮質に始まるが、視覚的注意の内部制御は前頭皮質によって方向付けられるのである。(KF)
Top-Down Versus Bottom-Up Control of Attention in the Prefrontal and Posterior Parietal Cortices
p. 1860-1862.

非散乱の電子のイメージング(Imaging with Unscattered Electrons)

表面にある有機分子を観察する走査トンネル効果顕微鏡(STM)において、有機分子が障壁の高さと幅を変化させ、その障壁を通してチップからの低エネルギー電子がトンネル効果で流れるために、コントラストが得られる。Bannaniたち(p. 1824)は、別のアプローチであるバリスティック電子放射顕微鏡を発表しているが、そこでは“半導体基板上に成長させた金属膜に分子を吸着する”。この方法はSTMに対して補完的に使うことができ、基板から集められたバリスティック電流は散乱せずに分子を通過する電子である。著者たちは、C60と平面的な共役有機分子に関してのイメージを示しており、また電子エネルギーを変化させることで非占有の分子軌道についての情報が得られることを示している。(hk,KU)
Ballistic Electron Microscopy of Individual Molecules
p. 1824-1828.

結晶の溶媒吸収に関する構造的基礎(Structural Basis for Crystal Sorption)

幾つかのミクロポーラスな金属-有機物のネットワークに関する興味ある性質は、これらのネットワークが大量の溶媒分子を吸収して体積増加を示す事である。Serreたち(p. 1828)は、ジカルボン酸塩の有機物リンカー(フマル酸、テレフタール酸、2,6-ナフタレン、及び4,4’-ビフェニル)で結合したコバルトや鉄のセンターが、170%もの非常に大きな体積変化を示す一連の化合物を調べた。X-線粉末回折データのモデリングにより、彼らはゲスト分子とネットワーク骨格間の相互作用によって生じる構造体内部の動きを記述している;リンカーの回転により構造体が開放されて体積増加が可能となる。(KU)
Role of Solvent-Host Interactions That Lead to Very Large Swelling of Hybrid Frameworks
p. 1828-1831.

地球規模の植物プランクトンモデル(Global Phytoplankton Model)

複雑な生態系モデルは、必要なパラメータの見積もりが難しいという理由から、変数の数を最少にしたところから始められる傾向がある。Followsたちはそうではなく、地球規模の植物プランクトンモデルを作り出したが、そこでは実験室とフィールド研究に由来するランダムに変化する生態生理学的パラメータを有する多数の潜在的植物プランクトン型から始めている(p. 1843)。このモデルでは、資源を求めての競合と環境的制約の空間的変動により、少数の植物プランクトン型によって支配される地域的な生態系の確立が導びかれる。この生物地理学は、大西洋を北から南にかけて横断して得られた実際的な世界のデータと比較しても、現実的なものであった。(KF,Ej)
Emergent Biogeography of Microbial Communities in a Model Ocean
p. 1843-1846.

テロメラーゼが決定的に明らかにされた(Definitive Telomerase Revealed)

テロメアとは、線状の真核生物染色体のまさしく端にある特化した反復構造であり、二本鎖DNAの末端がそのゲノムの他の領域とカタストロフィー的な再結合を起こすことから保護する。この保護的なテロメア反復は、タンパク質とRNA要素の双方をもつ酵素テロメラーゼによって、染色体の端に加えられる。テロメラーゼの正確な組成は、その存在が少ないこともあって不明なままである。Cohenたちはこのたび、その酵素の触媒作用の性質を用いて、精製の効果を上げ、不死化した細胞からテロメラーゼを単離した(p. 1850)。活性のあるテロメラーゼは3つの成分からなっている。それらは、逆転写酵素とRNA、それに、推定上のプソイドウリジン合成酵素であるdyskerinである。実際、dyskerinの変異はテロメラーゼ欠乏に起因された先天性角化異常症に関連している。(KF,hE)
Protein Composition of Catalytically Active Human Telomerase from Immortal Cells
p. 1850-1853.

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