AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 16, 2007, Vol.315


生態系の観察から進化が見える(From Ecology to Evolution)

生態系と進化のプロセスの時間尺度は大きく異なるが、両者の相互作用の可能性はますます明瞭になってきている。Pelletier たち(p. 1571)は、個々の個体が集団の増加に寄与する様子から、生態系の変動と進化による変化の両者間のフィードバックの様子が推測可能であることを示した。 スコットランドの孤島であるSt. Kilda島に住むSoay羊の個体数の長期間の詳細な研究から、動物個体のサイズに関連した形質が集団の成長に影響を与え、環境によってゆらぐことが分かった。遺伝的変動が加わった場合の集団の成長推定も可能であり、これから、進化のプロセスが生態系の変化に影響する度合いを測る尺度を得ることも可能である。最終的には、生態系の変動が生物の淘汰圧力に及ぼす影響を評価することも可能となるであろう。(Ej,hE)
The Evolutionary Demography of Ecological Change: Linking Trait Variation and Population Growth
p. 1571-1574.

氷の放流に関する考察(Insights into Ice Stream Discharge)

気温が上昇した結果、どのくらい急速に海面が上昇するかという問題は、主として海面の広がる割合や、極地方の氷床の溶ける速度、氷床が氷を海に放出する速度に依存している。この3つ目のプロセスはほとんど分かってないが,最近いくつかの海に注ぐ氷河において氷の放出速度が急速に増加している---1年以内に2倍以上に増えている(Vaughan and Arthern, およびTruffer and Fahnestockによる展望記事参照)。Frickerたち(p. 1544, および、2月15日オンライン出版参照)は、南極近傍の重要な2つの氷河について、人工衛星からのレーザ高度測定法で得られた氷床表面高度を解析した結果、年単位で氷の局所的高度が急速に変化していることを見つけた。この結果から、彼らは、氷床下に存在する湖の間の水の移動を反映しているものと解釈した。Howatたち(p. 1559, および2月8日オンライン出版参照)は、グリーンランドにおける氷河からの氷の放出が突然増加した後すぐに減少したことを示した。彼らの発見は、短期間の現象から長期的傾向を予想することの難しさを物語っている。(Ej,hE)
CLIMATE CHANGE: Why Is It Hard to Predict the Future of Ice Sheets?
p. 1503-1504.
CLIMATE CHANGE: Rethinking Ice Sheet Time Scales
p. 1508-1510.
An Active Subglacial Water System in West Antarctica Mapped from Space
p. 1544-1548.
Rapid Changes in Ice Discharge from Greenland Outlet Glaciers
p. 1559-1561.

共鳴的に磁壁のピン止めをはずす(Resonantly Depinning Domain Walls)

通常の磁気記録媒体中では、局所領域の磁化変化は磁気ヘッドを用いて発生させる。ビットの大きさを小さくし、電力消費を減少させ、活発で新しい磁気エレクトロニクス技術を発展させるために、直接的に磁化を操作できる電気パルスを用いる可能性が探査されてきている。磁壁(それは、異なる極性の領域を区分けするものである)を通して十分大きな電流パルスを注入することで、磁壁を移動させることは既に知られている。Thomas たち (p.1553) は、タイミング良く発生させた電流パルス列もまた、磁壁のピン止めを遥かに小さい振幅パルスではずすことができることを示している。この閾値以下でピン止めをはずれることは、磁壁の閉じ込めポテンシャル中での磁壁の運動が共鳴的に増大するという観点で説明されるが、このことは磁気エレクトロニクスデバイスを扱う上での示唆を与えるであろう。(Wt,Ej)
Resonant Amplification of Magnetic Domain-Wall Motion by a Train of Current Pulses
p. 1553-1556.

エネルギーの管理(Energy Management)

化学反応はしばしばエネルギーの地形として表わされるが、この中に活性化のための障壁や、ポテンシャルエネルギーの井戸が描かれ、加えられた余分のエネルギーはこの地形全般に均一に広がる溢れ出る流れとして表される。Kim たち(p. 1561) は、このような説明に対する驚くべき例外を見つけた。理論と実験の組合せから,プロパナール(プロピオンアルデヒド)カチオンの2種の高次構造は、モル当たり1キロカロリーだけ離れているが、光エネルギーを吸収して解離し非常に異なる2種の産物が生まれる。この光エネルギーはその2種の相互変換に必要なエネルギーの約100倍に相当する。計算からは、励起電子状態での分子再編成には、互いに大きく異なる構造が基底状態のエネルギー地形の遠くはなれた場所に対応し、そのため、解離の方が構造上の平衡状態よりも優先するためと思われる。(Ej,hE)
Conformationally Controlled Chemistry: Excited-State Dynamics Dictate Ground-State Reaction
p. 1561-1565.

ゆらぎを追跡する(Following Fluctuations)

2次相転移とか連続相転移(磁化や超流動のような)において、オーダーパラメータのゆらぎは系の全スケールにおいて支配的となり、臨界指数で特徴付けられる普遍的なスケールでの振る舞いを見せる。しかし、臨界領域での実際の相転移を探索したり、これら臨界指数を抽出することは、極めて実験的に難しいことが分かっている。Donner たち(p. 1556; および、Altmanによる展望記事参照)は、ボーズ-アインシュタイン凝縮の開始する近傍で冷たい原子(ボゾン)の雲を観察し、原子と温度の相関関係は、臨界点の周囲で異なっていることを検出した。これらの結果は他の多くの系に利用できるので、2次相転移の理論に関する重要な検証基盤となるであろう。(Ej)
Critical Behavior of a Trapped Interacting Bose Gas
p. 1556-1558.
PHYSICS: Critical Insights
p. 1504-1505.

暖かい電流(Warm Currents)

分子による電子輸送についての大方の研究は、印加電圧によって発生する電流に注力していた。しかしながら、分子接合部の電子構造についての多くの詳しいことは、二つの電極間に温度差があるときの電圧変化を計測することによって得られる。例えば、対応するゼーベック係数Sの符号は、分子のホモ(HOMO、最高被占軌道)とルモ(LUMO、最低空軌道)に対するフェルミ準位の位置を反映している。Reddyたち(p.1568,2月15日オンラインで出版)は、金表面上にあるいくつかの共役有機ジチオールのS値を計測した。分子は一定の温度に維持されている金の走査トンネル顕微鏡チップと接触している;その後基板は熱せられる。Sの正の符号は、これらの分子が正孔伝導体であることを示している。(hk)
Thermoelectricity in Molecular Junctions
p. 1568-1571.

古い問題を新たに調べる(New Look at Old Probrem)

RNAの組み立てを触媒するRNA酵素(リボザイム)は、RNA・ワールド仮説の中心となるものである。既存のリボザイムの中で組み立てに必要とされる鋳型-依存性の5’-3’リン酸ジエステル結合(2つのRNA断片の5’-トリフォスフェートと3’-ハイドキシル基の間の結合)の連結を触媒するものは知られていない。基本的な証明は、ラボで合成されたヌクレオチド三リン酸のリボザイムによって与えられていた。RobertsonとScott(p.1549;Joyceによる展望記事参照)は、このようなリガーゼ(連結酵素)リボザイムの構造を2.6オングストロームの分解能で決定した。活性部位の構造は、リガーゼリボザイムが天然のリボザイムやタンパク質酵素でよく知られている遷移状態での安定性と酸-塩基触媒に関する戦略を用いている事を示唆している。(KU)
The Structural Basis of Ribozyme-Catalyzed RNA Assembly
p. 1549-1553.
STRUCTURAL BIOLOGY: A Glimpse of Biology's First Enzyme
p. 1507-1508.

ショウジョウバエにおける注意(Attention in Fruit Flies)

昆虫の脳はその複雑さのレベルで脊椎動物の脳とよく比較される。しかしながら、ショウジョウバエのような昆虫が選択的な注意を示すことが出来るのだろうか?視覚固定の間に局所的な場の電位記録を用いて、van Swinderen(p.1590)は、ショウジョウバエの脳の活性化において注意に似た処理を実証した。著者は、新規性-誘発応答に関して短期の学習遺伝子の変異、ダンス(dunce)とルタバガ(rutabaga)の影響を調べ、これらの変異により選択的な注意が希薄になり、その開始も遅れることを見出した。(KU,hE)
Attention-Like Processes in Drosophila Require Short-Term Memory Genes
p. 1590-1593.

それほど激しくも無い熱帯地方の多様化(Not-So-Hot Tropical Diversification)

熱帯地方でのより大きな種の豊富さと共に、種の多様性における緯度勾配は何で生じるのだろう?WeirとSchluter(p.1574)は、高い種分化の速度が、従来推定されていたような熱帯地方よりも中緯度地帯で大きく、かつ熱帯地方では種の絶滅速度が低いという二つを示すデータとシミュレーションを報告している。この発見は、以前示唆されていたような熱帯地方が温暖地帯に比べて種分化の速度が高いという仮説に矛盾するものである。(KU)
The Latitudinal Gradient in Recent Speciation and Extinction Rates of Birds and Mammals
p. 1574-1576.

マイクロRNAから発癌へ(From MicroRNA to Carcinogenesis)

マイクロRNA(miRNA)機能の誤った調節は癌に関わっているとされてきた。しかしながら、腫瘍形成におけるmiRNAの正確な役割は不明なままであった。High Mobility Group A2タンパク質(Hmga2)は、幾つかの良性腫瘍および悪性腫瘍で見つかる小さな、非ヒストンの、染色質に付随したタンパク質であり、そこでは、遺伝子がしばしば3′末端で切り詰められる。Mayrたちはこのたび、Hmga2メッセンジャーRNAの非翻訳3′領域の欠如、特にlet-7 miRNAの調節部位がHmga2の過剰発現の原因となっていること、また、この過剰発現が組織培養アッセイおよびヌードマウス双方における発癌の進行に寄与していることを明らかにしている(p.1576、2月22日オンライン出版)。(KF)
Disrupting the Pairing Between let-7 and Hmga2 Enhances Oncogenic Transformation
p. 1576-1579.

HIVの進化:宿主のせいか、ウイルスのせいか?(HIV Evolution: Host or Virus?)

感染の間、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は免疫によって検出されることを回避するために変異しようとする圧力の下にある。集団レベルでの研究は、ウイルス抗原を細胞障害性T細胞に提示する主要組織適合複合体(MHC)タンパク質をコードする遺伝子における多形性が、ウイルスがいかに進化するかについて強い影響をもつことを示唆している。しかしながら、Bhattacharyaたちはこのたび、ウイルスの系統発生学に対する他の困惑させる影響をも勘定に入れた分析を提示し、そうした関連の大部分が免疫の回避というよりはウイルス系列の影響によるものであることを明らかにした(p. 1583; またKlenermanとMcMichaelによる展望記事参照のこと)。MHC多形性は未だにウイルスの進化にいくらかの影響は及ぼしているが、この影響は従来示唆されていたよりはかなり小さい可能性がある。(KF)
Founder Effects in the Assessment of HIV Polymorphisms and HLA Allele Associations
p. 1583-1586.
AIDS/HIV: Finding Footprints Among the Trees
p. 1505-1507.

測定可能なモデル(Measurable Models)

チトクロムcオキシダーゼ(CcO)は、O2を水に還元してプロトンポンプにエネルギを与え、過酸化物やスーパーオキシドといった有害な部分酸化物を殆んど作ることなく反応を行う。この選択性はヘムFeやCuセンター、及びチロシン残基による疎水性部位でのO2への極めて速い4電子輸送の結果であるらしい。反応後のこれらの部位を還元する電子輸送は極めて遅いが、これらの反応ステップが完了するまで新鮮なO2の再結合は生じない。しかしながら、CcOにおけるこのようなシナリオを証明する事は困難で、直接電極表面に形成したモデル化合物では余りにも速く電子を受け取り、個々のレドックスセンターの影響を区別する事ができない。Collmanたち(p.1565)は長いアルキル鎖によって電極上にモデル化合物を付着させる事で、電子移動を律速ステップとし、Cuやチロシンの配位環境や相対的な位置関係を模倣した活性部位を含むとき、有害な部分酸化物の生成の減少が観測された。(KU)
A Cytochrome c Oxidase Model Catalyzes Oxygen to Water Reduction Under Rate-Limiting Electron Flux
p. 1565-1568.

静かなままにしておく(Keeping Things Quiet)

その多くの機能の中で、RNAサイレンシングは、多くの植物および動物種におけるウイルスに対する広範な細胞防御を提供している。防御機能を遂行するために、マイクロRNA(miRNA)はRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を装備しているが、このものはメッセンジャーRNAを分解したり、その翻訳を抑制したりする。Tribouletたちは、miRNAを産生する原因となるタンパク質には、自然感染した細胞中のヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)を強力に抑制する潜在能力があること、またHIV-1はこれに対抗して選択された細胞のmiRNAの発現を下方調整して複製を進めていること、を明らかにしている(p. 1579、2月22日オンライン出版)。miRNAプロセシング経路を標的にすることは、潜伏性のウイルス貯蔵所を活性化する戦略を提供していて、これこそが慢性のHIV-1感染を除去する障害である。(KF)
Suppression of MicroRNA-Silencing Pathway by HIV-1 During Virus Replication
p. 1579-1582.

ゲノムの監視員(Genome Ranger)

生殖系列のゲノムをトランスポゾンや他の寄生DNAまたは反復DNAによる破壊から保護することは、すべての多細胞生物の継続的な幸福にとっては、死活に関わることである。ショウジョウバエにおいては反復配列関連干渉性低分子RNA(rasiRNA)と呼ばれ、哺乳類においてはPiwi(pi)RNAと呼ばれる、小さなRNAのクラスが生殖系列DNAの防御に関わっているとされてきた。それらは、Argonaute(Ago)タンパク質のPiwiクラスに付随して発見されている。Gunawardaneたちは、ショウジョウバエPiwiタンパク質AGO3に結合したrasi/piRNAを調べたが、彼らの発見によれば、それらは"slicer"活性を持つものである(p.1587、2月22日にオンライン出版)。AGO3 rasiRNAは、もう1つのPiwiタンパク質Aubergineに結合したrasiRNAの最初の10個のヌクレオチドに相補的なものであった。つまり、Piwiタンパク質のslicer活性はpiRNA産生に関与している可能性がある。(KF,hE)
A Slicer-Mediated Mechanism for Repeat-Associated siRNA 5' End Formation in Drosophila
p. 1587-1590.

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