AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 16, 2007, Vol.315


チリ唐辛子栽培のルーツ(Routes of Chili Pepper Domestication)

多種多様なチリ唐辛子が新世界中で栽培され、料理に用いられている。Perryたち(p.986;Knappによる展望記事参照)は、大昔の土器や石器に付着したチリ唐辛子からこの唐辛子に特徴的な澱粉を同定した。この澱粉は6500年ほど前のエクアドルの遺跡を含めた様々な遺跡で見出された。このことは、4000年ほど前に複数のチリ唐辛子が栽培されていた事を示唆している。(KU)
Starch Fossils and the Domestication and Dispersal of Chili Peppers (Capsicum spp. L.) in the Americas
p. 986-988.

量子力学に関する遅延選択(Delayed Choice for Quantum Mechanics)

波動−粒子の二重性は、量子力学の核心である。粒子と光子は両方の特性を示し、どちらの特性が測定されるかは、なされる測定のタイプに依存する。もし、実験的構成が、光子や粒子が「飛行中」の時と、すでに実験装置に入った時とで異なっている場合はどうであろうか?Jacques たち (p.966)は、Wheeler によって定式化されたような「選択遅延」実験をほとんど理想的に実現したことを報告している。トリガーとなりうる単一光子源を用いることで、実験室環境の中で実験の精密なタイミングを計るひとつの機構を与えることができる。干渉計中の光子の挙動は、たとえ測定される観測可能量(オブルザーバブル;observable)の選択が、すでにその光子が系の中に存在するときになされたものであっても、その選択に依存している。(Wt)
Experimental Realization of Wheeler's Delayed-Choice Gedanken Experiment
p. 966-968.

火星での水の痕跡(Water Marks)

火星が温暖で湿潤だった頃、火星表面には水が流れていた可能性がある。しかしながら、今日表面に残っているものは硫酸塩や粘土といった鉱物の堆積物である。OkuboとMcEwen(p.983;表紙参照)は、火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターからの非常に詳細な画像においてカンドール・シャスマ西部で層状の堆積地帯を横切る谷に沿って、かってそこに水が流れていた事を示している。地球化学的な漂白とセメント化がその谷{に沿って}地帯で見出され、このことは地球上での水に関連したプロセスと類似している。(KU,tk) ※火星の峡谷はもっと大きな谷に使われている。
Fracture-Controlled Paleo-Fluid Flow in Candor Chasma, Mars
p. 983-985.

よき事例を見つけること(Finding a Good Example)

もし代表的な事例が発見できれば、複雑なデータセットももっと容易に解析することが出来る。このような「見本点」は、一連の実際の写真の中の原型の顔や遺伝子配列中の可能なエクソンのようにデータ空間の中で個々のデータが集積する点である。不幸な事に、見本点の抽出はコンピュータ処理でも時間がかかり、通常の方法はデータ間の類似性を距離として数値測定するもので、最初の推測点が最終解に近かった時にのみうまく作動する。FreyとDueck(p.972、1月11日のオンライン出版;Mezardによる展望記事参照)は、見本点の検出を遥かに速く出来る方法を報告している。そのアルゴリズムは、あるデータ点が見本点となり得るかどうかの「メッセージ」をデータ点同士で交換させる。;メッセージ交換プロセスの反復により劇的に処理速度が速くなり、いくつかのデータポイントが真の代表的事例として浮上する。(KU,nk)
Clustering by Passing Messages Between Data Points
p. 972-976.
COMPUTER SCIENCE: Where Are the Exemplars?
p. 949-951.

温めるとゲストが入る(Guests Move in When It’s Hot)

ミクロポーラスな金属-有機物の伸びたアレーは、特異的な部位でゲスト分子を取り込む。Brahawたち(p.977)は、Co-有機物の伸びたアレー[Co2 (bipy)3(SO4)2 (H2O2)]中の水分子が、乾燥した不活性雰囲気下での加熱により吸着したメタノールとビピリジン分子と置換反応を行う事を示している。水素結合を通しての相互作用により、2個のビピリジンと2個のメタノールが固体内の直鎖に沿って別のCo原子の近傍に配置される。これらの分子が水リガンドと置換すると、直鎖はジグザグ形状となる。他のCoの部位は傍観者的な存在で、この反応が進行する間骨格の維持に役立つ。室温下でこの結晶を再水和するとこの反応は元に戻る。(KU)
Reversible Concerted Ligand Substitution at Alternating Metal Sites in an Extended Solid
p. 977-980.

花崗岩の皮を剥がさないで歴史をさかのぼる(Unpeeling Granite's History)

巨大な花崗岩体は地殻内で新しいマグマが貫入したり、地殻岩石の様々な火成岩種の再溶融によって出来たものと思われる。花崗岩の進化の歴史は、それを構成する大きな結晶、特に、ジルコン結晶の累帯層の化学成分を調べることで明らかにすることができる。Kemp たち(p. 980); Eilerによる展望記事参照) は、東部オーストラリアの古代花崗岩中の累帯状に結晶化したジルコンの酸素同位体とハフニウム同位体を測定した。彼らは、これら花崗岩はマントルのマグマが内部を上昇した際に、地殻深部の岩石がリサイクルされて形成されたものであり、広く信じられているように古代の浅い地殻が再溶融したものではないことを見つけた。(Ej,tk)
Magmatic and Crustal Differentiation History of Granitic Rocks from Hf-O Isotopes in Zircon
p. 980-983.

海馬における並行処理(Hippocampal Dualism)

記憶において表現が離散的に感じられるのは、海馬体における初期段階でニューロンのパターン分離が行われているためであるとの仮説がある。しかし、この処理過程の場所やメカニズムは不明なままであった。Leutgeb たち(p. 961; Fentonによる展望記事参照) は、海馬においては少なくとも海馬回路の異なる部位に存在する2種類のメカニズムによってパターンが分離されていることを示した。歯状回(dentate gyrus)において、活性化した細胞のサブセットの内部で信号は高忠実度の強調活性パターン(coactivity pattern)の無相関化によって分離される。CA3内部では、オーバーラップしてないニューロンの部分集団によって、更なる分離が達成される。回路網の異なる部分に付随して、2つのパターン分離機構が、海馬内の別個の形式のアンサンブル表現を受け持っている。(Ej,hE)
Pattern Separation in the Dentate Gyrus and CA3 of the Hippocampus
p. 961-966.

その後3つの運命に分かれる(And Then There Were Three)

発生の間、幹細胞は他の幹細胞と同様に通常二つの娘細胞を作り、分化していく。OhlsteinとSpradling(p.988)は、ショウジョウバエの腸中で幹細胞に関するある一つのタイプに関して記述している。この幹細胞は3つの子孫の運命--一つは幹細胞として、一つは腸細胞として、もう一つは腸管内分泌細胞として--を作り出す。これらの運命の選択は、細胞分裂の時点でその幹細胞に発現するタンパク質δ(シグナル伝達受容体ノッチを活性化する膜結合型のリガンド)の量に依存しているらしい。シグナル伝達性のδ-ノッチの量が多いと娘細胞は腸細胞となり、それより低い量だと腸管内分泌細胞になり、最も少ない量だと幹細胞のままとなる。(KU)
Multipotent Drosophila Intestinal Stem Cells Specify Daughter Cell Fates by Differential Notch Signaling
p. 988-992.

粘っこい指(Sticky Fingers)

動物の細胞が表面を移動するとき、基層を探索するための糸状仮足(filopodia)を繰り出す。Galbraith たち(p. 992)は、細胞外基質分子と相互作用するよう仕向けられた表面接着性分子のクラスターを先端に含み、局所的突出部に方向性を有する細胞内アクチンネットワークを見つけた。このような運動性細胞の誘導端における「粘着性の指」は接着部位を探索し、この部位が細胞の残りの部分の運動を助けているように見える。(Ej,hE)
Polymerizing Actin Fibers Position Integrins Primed to Probe for Adhesion Sites
p. 992-995.

イナゴの進路決定(Locust Navigation)

太陽光の偏向面は太陽の位置に依存しており、さまざまな昆虫がその偏光パターンを利用して、空間的定位を行なっている。HeinzeとHombergは、動物の上方から提示される、直線偏光の電場ベクトルの方向(E-ベクトル)が、ワタリバッタ(イナゴ)類の脳中の中心複合体(central complex)のコラムにおいて、トポロジー的地図として表されていることを示している(p. 995)。中心複合体は、青空の偏向パターンを用いて動物の向きに関わる空間的方向をコードする、内部コンパスとして作用しているのである。(KF)
Maplike Representation of Celestial E-Vector Orientations in the Brain of an Insect
p. 995-997.

致命的な注入(Lethal Injection)

病原菌は、いわゆるIII型機構を介して病原性因子を宿主細胞に注入することがある。Liたちは、従来知られていないホスホスレオニン脱離酵素活性を有する細菌性の病原性因子のファミリーについて記述している(p. 1000)。この酵素活性は、自然免疫に関与するシグナル伝達性のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)・ファミリーのメンバーからリン酸を取り除くことができる。このエフェクター・ファミリーは、赤痢菌やサルモネラ菌、シュードモナスシリンゲなど、種々の動物ないし植物の細菌性病原体の病原性において重要なものである。(KF,so)
The Phosphothreonine Lyase Activity of a Bacterial Type III Effector Family
p. 1000-1003.

CO2への味覚がない、ある種のRuBisCo(A RuBisCo with No Taste for CO)

光合成生物において、RuBisCo(リブロース-1,5-二リン酸カルボキシラーゼ-オキシゲナーゼ)は、"暗反応"を介してCO2を固定し、ショ糖などの有機化合物を作るが、非光合成性の嫌気性古細菌で見つかったある型のRuBisCoはそうではない。Satoたちは、カルボキシラーゼとしてだけ作用するIII型のRuBisCoが、新たに明らかになった古細菌のヌクレオシド・ホスホリラーゼおよびリボース-1,5-二リン酸異性化酵素の機能と一緒になって、CO2と水とアデノシン5'一リン酸を3-ホスホグリセリン酸に変換することを発見した(p. 1003)。このグリセリン酸は炭素代謝経路でリボースを取り込み、アデニンをサルベージ経路で合成し、そしてATPを産生する。(KF,so)
Archaeal Type III RuBisCOs Function in a Pathway for AMP Metabolism
p. 1003-1006.

関節的努力(Joint Effort)

関節リウマチ(RA)は、関節の炎症を導く自己免疫性の病状である。Leeたちは、炎症性関節炎の潜在的治療標的を提供する可能性もある、滑膜細胞組織化の新たな調節因子を同定した(p. 1006、1月25日オンライン出版, またFiresteinによる展望記事参照のこと)。この細胞接着分子カドヘリン-11を欠くマウスは、滑膜の増殖を有意に減少させ、実験的に誘発されたRA様の病状発生に対して抵抗性があった。マウスにおける関節炎症は、カドヘリン-11へのモノクローナル抗体によって抑制できた。(KF,so)
Cadherin-11 in Synovial Lining Formation and Pathology in Arthritis
p. 1006-1010.

量子臨界性の多重尺度(Multiple Scales of Quantum Criticality)

零度の極限温度において、外部パラメータによって生じる量子相転移は、非フェルミ液体の挙動と非通常超伝導性のような、ホストの量子物質中に見られる多様な物理現象を記述するためのメカニズムを提供する可能性がある。しかし、量子臨界性を適切に記述する方法は、未だに得られていない---秩序性の空間的時間的ゆらぎは集団的であるとともに、量子力学的でもあるからである。Gegenwart たち(p. 969;Schofieldによる展望記事も参照) は、量子臨界的領域において多様な秩序性を表現する多様なエネルギー尺度を表す証拠となる実験的測定結果を示した。著者たちは、この結果から量子臨界性の根底にある状態に関する、より深遠な記述が可能になるであろうと議論している。(Ej)
Multiple Energy Scales at a Quantum Critical Point
p. 969-971.

イオウで順調に育つ(Living Large on Sulfur)

深海の熱水噴出口の動物相は、その栄養の大部分を、エネルギーとしてイオウを使ってCO2を固定する、細菌性の化学合成独立栄養性の共生生物から受け取っている。Newtonたちは、化学合成独立栄養性内部共生体のゲノムが、内部共生体として知られる他のものと違って、複雑な代謝性レパートリを有していることを発見した(p. 998)。このゲノムは、イオウの酸化と炭素の固定、さらには20種のアミノ酸すべてと1種を除くすべてのビタミン/補助因子の合成に必要となる遺伝子を保持しており、そのことで、宿主にその栄養のニーズを満たすほとんどを提供している。そうした代謝能力によって、これら見た目には生存しにくそうな環境において、コロニー形成が可能となっている。(KF)
The Calyptogena magnifica Chemoautotrophic Symbiont Genome
p. 998-1000.

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