AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 2, 2007, Vol.315


壊れた対称性(Broken Symmetry)

近年、超短パルスレーザーのパルスの能動的位相操作を用いることにより、研究者が量子力学的干渉を利用して、光励起による分子解離からの生成物を制御することが可能となってきた。Martin たち (p.629; Sanov による展望記事を参照のこと)は、H2分子の単純な励起においてさえも、直線偏光した高エネルギー光を用いて、陽子、電子、H 原子の形成につながる分子軌道に非対称性を誘起できることを示した。高レベルの量子力学計算と、精密な実験的可視化技術を用いて、著者たちは、反対のパリティを有する二つの解離経路のもつれにより、陽子、電子、H 原子の放出方向の間に相関が生ずることを示している。(Wt,nk)
Single Photon-Induced Symmetry Breaking of H2 Dissociation
p. 629-633.
CHEMISTRY: Coherence and Symmetry Breaking at the Molecular Level
p. 610-611.

海洋の生産性を評価する(Assessing Ocean Productivity)

海洋の約1/3は豊富な多栄養素(Macronutrient)に満ちているが鉄の濃度は低く、このことが生産性に限界を与えていると考えられてきた。試験のため、1993年から2005年の間に12の実験では、広範囲な海表面(数10から数100平方キロメートル)に鉄が加えられた。Boydたち(p.612)は、これらの研究結果をまとめ、鉄が炭素、窒素、珪素、硫黄の循環をどのように調節しているのか、そして鉄がプランクトン大発生の機構や生態系のプロセスにどのような影響を与えているかを議論している。生産性が最も高い場所のいくつかは沿岸の湧昇流地帯にあり、そこでは世界の漁獲水揚げ量の20%を供給している。地球温暖化では、陸地が海洋よりも速く温まり、海岸風の傾向(coastal windregimes)やそれによる湧昇流に対して影響を与える。McGregorたち(p. 637)は、大きな沿岸湧昇流地域である、北西アフリカの沿岸水域における過去2500年間の海表面の温度記録を作成した。そこでは表面海水は20世紀において温度が下がり、著者らは、そのことを強まった海岸風によって深海の冷たい水がより活発に湧昇した証であると解釈した。他の沿岸地域での湧昇流の増加は、漁業や炭素循環に影響を与えるであろう。(TO,nk)
Mesoscale Iron Enrichment Experiments 1993-2005: Synthesis and Future Directions
p. 612-617.
Rapid 20th-Century Increase in Coastal Upwelling off Northwest Africa
p. 637-639.

堅くなっていくこと(Getting Stiffed)

本来ダイアモンドに備わっている美と価値とは別に、ダイアモンドはしばしば硬さと剛性と熱伝導度のような特性の基準として使われている。バリウム・チタン酸塩の含有物を錫へ加えると、ダイアモンドより高い粘弾性的堅さ(ヤング率)のある物質を創り出せることをJaglinski たち(p. 620)は示している。バリウム・チタン酸塩は結晶の形と体積を変化させる二つの相転移をする。これにより、バリウム・チタン酸塩が負の体積弾性係数をもつような複合材料を形成する。即ち、力が含有物に作用すると、逆方向への変位を引き起こす。この複合材料を曲げると、その含有物がさらに複合材料の剛性を高める。(hk)
Composite Materials with Viscoelastic Stiffness Greater Than Diamond
p. 620-622.

エッジにおける電子のトンネル効果(Electron Tunneling on Edge)

生物学的な電子移動現象においては、ドナーとアクセプター部位の間のタンパク質の構造が、全体的な移動速度に影響を及ぼすに違いないが、多くの場合のデータは、この速度が距離に依存するという単純なモデルに当てはめられてきた。Prytkova たち(p. 622)は、チトクロムb562中での表面に拘束されたルテニウムセンターへの電子移動速度を計算した。この測定結果はトンネル効果を表すことが知られている。この速度が距離だけに依存するように見える7つのケースについて、ヘムエッジを通じた多重トンネル経路が動的に平均化されていることが明らかになった。また、距離に依存したモデルが予言するよりずっと遅い速度の2つのケースについては、軸リガンドを通じた単一経路によるトンネル効果が生じていた。著者たちは、マルチ-に対してシングル(単一)-経路の区別があるのは、トンネル効果の割合として説明できるであろうとし、同じ現象は光合成を含む他のいくつかのタンパク質でも知られている。(Ej,hE)
Coupling Coherence Distinguishes Structure Sensitivity in Protein Electron Transfer
p. 622-625.

閃光でペアを作る(Paired in a Flash)

DNAに対する紫外線(UV)光損傷の最も共通的な形態は隣接するチミン塩基を二量体化することだ。しかし、このプロセスの動力学は計測が極めて困難である。Schreierたち(p. 625) は、紫外線と赤外線を用いて、一本鎖で18個のチミンからなるオリゴヌクレオチドの二量体形成速度の時間計測を行った結果、結合の形成には1ピコ秒以下の紫外光吸収で完了していることが分かった。これらの結果と二重鎖や混合配列DNAの量子収量測定とを比べ、著者たちは、DNAの光損傷速度はコンフォメーションが変化するには速すぎると推測した。従って、損傷はUV吸収が生じた瞬間のコンフォメーションに純粋に依存していると思われる。この考察から、他の部位の損傷の受け易さのモデル化を促進するであろう。(Ej,hE,so)
Thymine Dimerization in DNA Is an Ultrafast Photoreaction
p. 625-629.

動いている金属元素(Metal in Motion)

固体中での電気的励起の結果生じる構造上の変化は、時間的には極めて短時間に、大きさ的には微小な範囲に生じる。Fritz たち(p.633;Brockによる展望記事も参照)は、 短時間X線バースト生成技術の成果を利用して、近赤外レーザーパルスによって励起されたビスマス格子の変形を実時間回折法によって測定した。レーザー強度が変化するに伴って励起される電子の割合が増加した。ビスマス中心は、定常的に減少しつつあるフォノンの周波数で振動するが、これは格子がソフトになっていることを反映している。これは理論的シミュレーションとも一致し、このソフト化(軟化)の結果は、電子的カップリングによるものであり、固有のフォノンモードポテンシャルの非調和性によるものではないことを示す。(Ej,hE)
Ultrafast Bond Softening in Bismuth: Mapping a Solid's Interatomic Potential with X-rays
p. 633-636.
CHEMISTRY: Watching Atoms Move
p. 609-610.

気候変動に関する集団への影響(Community Effects of Climate Change)

気候変動に対する生態系の反応の予測は大抵、反応度は湿度や温度の変化に対する個々の種の許容度に依存すると仮定している。Suttleたち(p.640;Waltherによる展望記事参照)はこの仮定の是非を検討した。5年間継続した実験において、彼らはカリフォルニアの草原生態系における二つの異なる気候変動シナリオの結果を精査した。実験に用いた直径10mの18個の小区画における降雨量の操作により、種の間のより高次の相互作用が、集団全体の環境変化に対する反応を定めている事が示された。植物や節足動物の生存量と多様性への影響は、個々の種毎に独立に影響が及ぶという仮定に基づいての予測とは逆の結果になった。(KU,nk)
Species Interactions Reverse Grassland Responses to Changing Climate
p. 640-642.
ECOLOGY: Tackling Ecological Complexity in Climate Impact Research
p. 606-607.

腫瘍抑制にX染色体も関与(X-ing Out Tumor Suppression)

ウィルムス腫瘍は小児の腎臓癌であり、遺伝性であったり突発的に生じたりする。突発性の腎臓癌の5〜10%は第11番染色体上にあるWT1遺伝子の変異によって起こり、この遺伝子は腎臓の発生を制御する転写制御因子をコードしている。Riveraたち(p.642;1月4日のオンライン出版)は、突発型のウイルムス腫瘍がX染色体上の遺伝子、WTXの変異によっても起こることを示している。WTXタンパク質の機能はまだ知られていないが、X染色体上というこの遺伝子の場所が特に興味深い。殆どの腫瘍抑制遺伝子の不活性化には二つの別々の事象(ヒット)を必要としている。ヒトでは全てのX染色体遺伝子に関し単に一個の機能的な対立遺伝子のみを持っており(女性においては、二つのX染色体遺伝子の一方の対立遺伝子が抑制されている)、WTX遺伝子は多分一つのヒットで不活性化される。WTXの発見は、X染色体がヒトの癌においていまだ未知の役割を果たしているらしいことを示している。(KU,hE,so)
An X Chromosome Gene, WTX, Is Commonly Inactivated in Wilms Tumor
p. 642-645.

ウイルスの感染を抑える(Limits on Viral Transmission)

宿主間の感染がウイルスの進化にとって極めて重要である--ウイルス適応性の尺度は感染性である。Tumpeyたち(p.655;Enserinkによるニュース記事参照)は、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(ウイルスの表面にあり、宿主細胞に結合する糖タンパク質)における一個か二個のアミノ酸の置換により、哺乳類から鳥へのシアル酸結合の特異性を変え、ケナガイタチにおいて組み換え型の1918年のA型インフルエンザウイルス(1918年のスペイン風邪のウイルス)の感染力を大きく減少させたことを示している。このことは、この世界的に大流行した系統において、ヘマグルチニン受容体の特異性がインフルエンザウイルスの感染に決定的な役割を果たしている事を暗示している。(KU,hE)
A Two-Amino Acid Change in the Hemagglutinin of the 1918 Influenza Virus Abolishes Transmission
p. 655-659.
VIROLOGY: From Two Mutations, an Important Clue About the Spanish Flu
p. 582.

翻訳を止める(Stopping Translation)

メッセンジャー(m)RNAからのタンパク質の翻訳は複雑な、かつ高度に制御されたプロセスである。翻訳開始には、数多くの因子と単なる3個の塩基配列であるAUGの"スタート”コドンをはるかに越える配列情報を必要とする。翻訳終結に関与する因子はそれほど明瞭ではない。Grossたち(p.646)は、酵母RNAへリカーゼDbb5--これはmRNAの核外輸送と細胞質中でのmRNP(m-ribonucleoprotein;リボ核タンパク質でタンパク質と結合しているがリボソームとは会合しないmRNA)の再構築において重要な働きをしていることが知られている--が、翻訳終結に決定的な働きを果たしている事を示している。(KU)
The DEAD-Box RNA Helicase Dbp5 Functions in Translation Termination
p. 646-649.

DNA合成における品質管理(Quality Control in DNA Synthesis)

真核生物染色質のタンパク質成分、ヒストンの共有結合性修飾の大きな多様性は、転写の制御およびDNA複製と修復において重要な役割を果たしている。Hanたち(p.653)とDriscollたち(p. 649)は、Ty1遺伝子転位遺伝子産物109(Rtt109)の制御が、細胞周期中のDNA合成相におけるDNA損傷応答の一部である、ということを確認した。それは、リジン56上のヒストンH3をアセチル化するように作用する。Rtt109はヒストン・シャペロンAsf1と同じ経路で機能し、おそらくはDNA合成をヌクレオソーム組立に結びつけることによって、複製点におけるタンパク質の安定化に関わっている。(KF)
Rtt109 Acetylates Histone H3 Lysine 56 and Functions in DNA Replication
p. 653-655.
Yeast Rtt109 Promotes Genome Stability by Acetylating Histone H3 on Lysine 56
p. 649-652.

ミトコンドリアの転換と加齢(Mitochondrial Diversion and Aging)

タンパク質p66Shcは、成長因子のシグナル伝達経路におけるタンパク質間相互作用を促進している。しかし、Shcにおける変異は哺乳類における寿命を増加させる。この効果は、ミトコンドリアにおける酸化還元酵素の活性化に作用し、細胞死を導く活性酸素を産生することになる、Shcの別の機能に依存しているらしい。Pintonたちはこのたび、ミトコンドリアにおけるShcの活性が、プロテインキナーゼCβによるShcリン 酸化とその結果生じるprolylisomerase Pin1の結合に依存していることを明らかにした(p. 659; またHajnoczkyとHoekによる展望記事参照のこと)。これが、そのタンパク質の高次構造上の変化とミトコンドリア内へのその蓄積をもたらすのである。このシグナル伝達経路が、加齢の遅延を助けるための標的を提供してくれるのかもしれない。(KF)
Protein Kinase C ß and Prolyl Isomerase 1 Regulate Mitochondrial Effects of the Life-Span Determinant p66Shc
p. 659-663.
CELL SIGNALING: Mitochondrial Longevity Pathways
p. 607-609.

βアレスチンの役割の多様化(Diversifying Role for b-Arrestin)

Gタンパク質(ヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド-結合タンパク質)結合受容体(GPCR)を介してのシグナル伝達を制御する機構の理解に焦点を当てて激烈な研究が行われている。その理由は、それらが、有望な治療薬のターゲットとして知られているからである。Nelsonたちは、G[s]クラスのGタンパク質と結合したGPCRによるシグナル伝達を制限するβアレスチンが、M1ムスカリン受容体によるシグナル伝達の制御においても同様の機能を果たしていることを示している(p. 663; またGradyによる展望記事参照のこと)。このムスカリン受容体は、違う種類のシグナル伝達機構に連結する別のクラスのGタンパク質を利用しているのである。(KF,hE)
Targeting of Diacylglycerol Degradation to M1 Muscarinic Receptors by ß-Arrestins
p. 663-666.
CELL SIGNALING: β-Arrestin, a Two-fisted Terminator
p. 605-606.

気候冷却へのレシピ(Recipe for Climate Cooling?)

気候冷却ガスである硫化ジメチル(DMS)は、多くの生物体において、前駆体分子であるDMSP(dimethyl sulfoniopropionate, ジメチルスルフォニオプロピオネート)のプロセシングによって作られる。Toddたちは細菌の遺伝子dddDのクローニングに関して記述し、それがDMSP依存のDMS形成に関与していることを実証している(p. 666)。この酵素はまた、根粒菌のような植物に付随する細菌においても発見されている。(KF,so)
Structural and Regulatory Genes Required to Make the Gas Dimethyl Sulfide in Bacteria
p. 666-669.

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