AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 17, 2006, Vol.314


傷つき抑えられても引き止められない(Damaged, Detained, But Undeterred)

ロボットは、管理された環境の中では自律的に作動するが、未知のあるいは危険な領域(terrain)では、立ち往生したり損傷を受けたりする。ロボットは、一般にあらかじめプログラムされていることにより、特定の状況に対処するが、この予防措置は予期せぬ出来事には通用しない。Bongardたち(p.1118; Adamiによる展望記事参照)は、事前のプログラムなしで、自身の構造の損傷を知覚して回復することができるロボットシステムを構築した。このロボットは、変化に対応して常に更新される構造の内部モデルを作る。(TO)
Resilient Machines Through Continuous Self-Modeling p. 1118-1121.
COMPUTER SCIENCE: What Do Robots Dream Of? p. 1093-1094.

線形物質、非線形熱流(Linear Materials, Nonlinear Heat Flow)

ダイオードのような電気的な整流器は電流を一方向に流せるが、熱エネルギーを整流して、熱の流れを一方向に流すデバイスはフーリェの法則にそむく。しかしながら、Peierlsは50年以上も前に、一次元における熱の流れは異常であることを示し、最近の理論的な研究では、たとえ実験的には証明するのは困難であっても整流が可能であることを示唆していた。カーボンナノチューブあるいはボロンナノチューブに一方の端に高質量の有機白金分子の勾配を作ることで軸非対称性を付与すると、数%オーダの整流効果をChangたち(p.1121; Serviceによるニュースを参照)は報告している。著者らは整流効果をソリトンによって運ばれる熱のためだと考えている。(hk,KU)
Solid-State Thermal Rectifier p. 1121-1124.

リンとホウ素と水素(P,B, and H2)

多くの遷移金属化合物は可逆的に水素を付加したり除去するが、より軽い元素の化合物は、結合に関する好ましからざる熱力学的面と効率的な反応を行うための電子の軌道整列が弱い結果、このような一連の反応をうまく行う事ができない。Welchたち(p. 1124;Kubasによる展望記事参照)は、P-HやB-H結合をもつ大気中で安定なホウ酸塩化合物が100℃以上でH2をきれいに遊離し、室温下で溶液中に水素を導入する事で水素を効率的に付加することを見出した。この反応は、ホウ素センターへのより一般的な結合とは異なり、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランのフェニル環のパラ位の炭素にジメシチルホスフィンが付加するという点で通常とは異なるものである。この反応は、水素の貯蔵と遊離に関して比較的軽い素材の開発と言う点で意味あるものである。(KU,nk)
Reversible, Metal-Free Hydrogen Activation p. 1124-1126.
CHEMISTRY: Breaking the H2 Marriage and Reuniting the Couple p. 1096-1097.

寒波による岩石破砕(Cold Snap)

氷結による岩石の崩壊は、岩石内部に広がった水が凍る際の体積膨張により引き起こされると昔から考えられていた。しかしながら、Murtonたち(p. 1127;Halletによる展望記事参照)は、温度勾配があるときに作用する水の偏析と呼ばれる別のもう一つのメカニズムを実験的に実証している。氷結境界面が岩石内を移動するときに、岩石内の細孔から空隙部へと水が絞り出されて、氷のレンズが形成され、岩石にひび割れを起こす。低温室での実験により、二つの異なる温度領域において岩石表面のずれ、温度、湿度、及び吸収孔の圧力をモニターする事でこのプロセスが定量化された。この結果は数値モデルで証明され、フィールド観測と一致する。気候温暖化において、この種の破壊が極地方における永久凍結層を更に不安定にする可能性がある。(KU,nk)
Bedrock Fracture by Ice Segregation in Cold Regions p. 1127-1129.
GEOLOGY: Why Do Freezing Rocks Break? p. 1092-1093.

ネオンの謎の解明(Neon Puzzles Solved)

月の土壌の希ガス同位体の比は太陽風の比と異なっており、この説明として、月の土壌は、過去においてかなり強い、しかしながら今日では確認できない高エネルギーの太陽風第2成分中の希ガス粒子を記録していると考えられてきた。Grimbergたち(p. 1133)は、宇宙船Genesisに搭載されたガラス検知管に捕獲された際に、太陽風のネオンがどのように分離するかを測定した。分別効果の結果、ネオンはガラス検出器内の到達深さと共に同位体比を変化させていくことを彼らは発見した。このプロセスは、他のメカニズムを必要とせずに月の表面で見られた変化を説明するものである。(KU,nk)
Solar Wind Neon from Genesis: Implications for the Lunar Noble Gas Record p. 1133-1135.

ネアンデルタール人のメタゲノム科学(Neanderthal Metagenomics)

ネアンデルタール人の生態や文化について我々の理解は限られている。この絶滅した原人は、人類の系統と発生的に異なると考えられていた。Noonanたち(p.1113;Pennisi と Balterによるニュース記事参照)は、ネアンデルタール人の十分な量のゲノム配列を入手し、3万8000年前の標本から得た核DNA(nuclear DNA)の配列に基づき、メタゲノムライブラリを作った。彼らは、人類とネアンデルタール人は70万6000年前まで共通の祖先を持っていたこと、そして37万年前に分岐したことを見出した。(TO)
Sequencing and Analysis of Neanderthal Genomic DNA p. 1113-1118.
PALEOGENETICS: The Dawn of Stone Age Genomics p. 1068-1071.
PALEOGENETICS: A Neandertal Legacy? p. 1071.

一度に一個のRNA分子を作る(Making RNA, One Molecule at a Time)

転写の初期段階ではRNAポリメラーゼ(RNAP)がプロモーターDNAに結合し、そしてRNAPがプロモータから離脱して一連のRNA合成を開始するまで、短いRNA生成物の合成と遊離と言う不稔サイクル(abortive cycle)に入る。初期転写複合体中でDNAに対してRNAがどのように移動しているかは良くわかってなかったが、3つのモデルが提案されていた(Robertsによる展望記事参照)。ここに来て、蛍光エネルギー移動を利用したKapanidis たち(p. 1144)の研究と、DNAの微細操作を利用した Revyakin たち(p. 1139)の研究の2つが報告され、初期転写には「噛み砕き(scrunching)」機構が関与することを示している。この機構では、RNAPがプロモーターと下流のDNAを自身の中に固定したたままである。DNAの「噛み砕き」応力からの応力が蓄積されることで、不稔開始と、プロモーター脱出および合成開始の両方のドライビングフォースを与えているようだ。(Ej,hE,KU)
【不稔サイクル(abortive cycle)】RNA合成に必要なヌクレオチドが欠けていると数個の短いRNA生成物で終結し合成開始過程が繰り返される。
BIOCHEMISTRY: RNA Polymerase, a Scrunching Machine p. 1097-1098.
Initial Transcription by RNA Polymerase Proceeds Through a DNA-Scrunching Mechanism p. 1144-1147.
Abortive Initiation and Productive Initiation by RNA Polymerase Involve DNA Scrunching p. 1139-1143.

タンパク質の折りたたみの後に、糖を取り込む(Incorporating Sugars After Protein Folding)

タンパク質のN(窒素)結合型糖鎖付加は、真核細胞中で最も頻繁に生じるタンパク質の翻訳後修飾であり、これと機能的に相同なプロセスが細菌でも生じている。この細菌での中心的成分がPglBであり、これはタンパク質中の選択されたアスパラギン残基へのオリゴ糖の転移を触媒するオリゴ糖転移酵素(oligosaccharylotransferase)である。Kowarik たち(p. 1148) は、真核生物系と異なり、細菌のオリゴ糖転移酵素はタンパク質転位機構と独立に作用し、試験管内では完全に折りたたまれたタンパク質をグリコシル化することができる。(Ej,hE,so)
N-Linked Glycosylation of Folded Proteins by the Bacterial Oligosaccharyltransferase p. 1148-1150.

ポリオワクチンの有効性を改善する(Improving Polio Vaccine Efficacy)

現在のポリオウイルス根絶計画は、本当に根絶が可能であるかどうか批判がある。ポリオが存在する残る4カ国の代表であるインドは世界的根絶への最大の困難な国と思われるが、その理由は大規模なワクチン投与にも関わらず伝染が今でも続いているからである。Grassly たち(p. 1150) は、1997年以来集められた病気の調査データを使って、高密度の人口にも関わらず貧弱な公衆衛生によってポリオウイルスの伝染が継続しており、これによって弱毒生ワクチン(三価のワクチン)の有効性を大きく損なっていることを示した。このワクチンを一価のワクチン(特定の菌種に有効に作用する)に転換することで有効性を増加させ、最終的には根絶できるであろう。(Ej,hE)
New Strategies for the Elimination of Polio from India p. 1150-1153.

並べ替え、シグナル伝達、そしてSara(Sorting, Signaling, and Sara)

形態形成に関するシグナル分子の勾配は、発生過程におけるパターン形成にとってキーとなる。エンドサイトーシスの区画が、そうした勾配を生み出し維持するのに役割を果たしていることが示されている。Boekelたちはこのたび、タンパク質Sara(Smad anchor for receptor activation--受容体活性化のためのSmadアンカー)の存在によって特徴付けられる尖端のシグナル伝達エンドソームが、紡錘体を用いて、発生上重要なシグナル分子を分裂を越えて分布させている証拠を提示している(p. 1135; またKnoblichによる展望記事参照のこと)。このプロセスは、形態形成の勾配中に含まれる情報を2つの娘細胞が保持することを保証しているのである。(KF)
Sara Endosomes and the Maintenance of Dpp Signaling Levels Across Mitosis p. 1135-1139.
CELL BIOLOGY: Sara Splits the Signal p. 1094-1096.

お金の価値の心理学(The Psychology Value of Money)

お金というものは、我々の生理的または心理的な幸福にとって必要となる物品と交換可能であるが、我々の心理的状態や行動に、お金は直接的な効果を及ぼしているのだろうか? Vohsたちは、被験者にお金をもっていると考えるよう刺激を与え、かれら被験者が刺激を受けなかった人たちに比べてより自足した風に行動することを発見した(p. 1154; またBurgoyneとLeaによる展望記事参照のこと)。お金を所有することによって、被験者は問題解決に当たって助けを求めることがより少なくなるし、他人に助けを与えることも、寄付することもしなくなる。さらに加えて、お金をもった被験者は、他者に対して、文字通りにまた比喩的にも距離を置くようになる。(KF)
The Psychological Consequences of Money p. 1154-1156.
PSYCHOLOGY: Money Is Material p. 1091-1092.

粘膜の免疫応答を指示する(Directing the Muscosal Immune Response)

腸管の粘膜層には、抗体を分泌するB細胞が詰まっているが、これは莫大な量の免疫グロブリンA(IgA)を産生する;IgAは、腸壁を横断して分泌のために特異的に備わった特殊形態の抗体であり、腸内の病原体から保護してくれる。粘膜のB細胞に、他の抗体の形態ではなくIgAを産生させるきっかけとなるものが何かは、はっきりしていない。Moraたちはこのたび、もう1つの免疫細胞である樹状細胞が、この情報を腸に付随したリンパ組織内に分け与えていることを示している(p. 1157)。ひとたび、腸の樹状細胞によって活性化されると、B細胞は「刷り込まれて」循環の中に入り込み、それから粘膜の内層に戻り、IgAの産生を始める。この誘導はビタミンA代謝産物レチノイン酸に依存しており、このことは何故にビタミンA欠乏症が発展途上国における幼児期の下痢性の病気の悪化をもたらすかを説明できる可能性がある。(KF,so)
The Psychological Consequences of Money p. 1154-1156.
PSYCHOLOGY: Money Is Material p. 1091-1092.

森林火災と地球温暖化(Forest Fires and Global Warming)

気候の温暖化は北方森林の山火事の増加をもたらしうるが、そうした火災が温暖化を強化しているかどうかははっきりしていない。すす(煤)の増加によって(氷や雪の上に沈着した場合に表面反射率を減少させることになる)、また二酸化炭素放出の増大によって、温暖化は増幅される。Randersonたちは、アラスカにおける1999年の北方森林の火災と、古い火災の後の景観変化とについての測定と分析を報告し、それから気候に関連する効果のすべてを統合した(p. 1130)。最近の火事後の最初の1年、影響は差し引きで温暖化を増加させるものであったが、それは主に大気の二酸化炭素の即時的な増加と、オゾンや黒い炭素及び他のエアロゾルによる影響のためであった。しかしながら、彼らは、これからの80年間では、森林の再成長に伴う表面反射率の持続的増加と、継続的な二酸化炭素の取り込みにより、統合された差し引きでの影響は温暖化にマイナスに働くと予想している。 (KF,nk)
The Impact of Boreal Forest Fire on Climate Warming p. 1130-1132.

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